「終わりよ。何もかも、全て」
「そ、そんな事は……!」
「あなたは圭一を突き放した。仲間であるはずなのに。いいえ。仲間で”あったはずなのに”。あなたが最後に圭一に言った言葉。それが今回の終わりを告げる一言だったのよ」
「そんな……僕はただ!」
前原君を救いたかっただけ。だからあの計画を立てて、そして……失敗したんだ。だけど、その記憶が自分にはない。前原君に対し、僕は一体何をしたというのか。それが心の重圧となり、息苦しささえ感じてしまう。
結局古手さんに言われるまま、言葉は出ることができない。
「滑稽よね。救うつもりが、逆に追い詰める形となり、それを自覚して、尚も助かる見込みがあると思っているんだって。ははは! 記憶を失うって……本当に楽よね」
「そんな……」
「ま、あなたに期待した私も十分滑稽だったという事かしら」
「な、何を言っているの?」
僕にはよくわからない。古手さんの言葉は今まで聞いていたどんな言葉よりも、辛辣で冷酷さを秘めているものだった。何もかも見透かされたような、彼女にみられるとそんな気分にさえさせられてしまう。
彼女に何を知っているんだ。そんな疑念が自分の中で巡っているのを感じていた。
……出会ったときの古手さんだった。
子供とは思えない口調に、威圧感。僕がいかに子供かを思い知らされそうになる瞬間。彼女の気持ち、彼女の本当の部分が見えたような気がするこの時、僕は何を言えばよかったのだろう。
頼りない思いは、口を閉ざす重石となっていた。
「ねぇ、前にも聞いたけど。あなたは何故ここにいるの?」
「……え……?」
僕のいる…………訳?
それは前に菜園の場所で聞かれた内容に酷似はしている。
しかし、今聞かされると驚くほど意味が変わって聞こえた。
「あなたがいなければ、私たちは少なくても綿流しまでは楽しめたはずだった。今も圭一がいて、魅音もいた。楽しい毎日の一日のはずだった。だけどあなたがいたおかげで、このザマよ」
何を言っているのか理解できない。どうして自分がいなければなんていうんだろう。僕は今ここにいる。ここにいるのが真実で、現実だ。それ以上もそれ以外もない。だから古手さんの言葉はまるで根拠となる要素が存在しない。
それなのに……なんで彼女はここまで自信を持って言えるのだろう。
彼女はその様子が当たり前だという感じで、フッと笑った。
「結局、あなたもただの人だったのね。何かの前兆か、もしくはこの出口なき迷宮を助ける人物と思ったけど。あなたも、たまたま来た、哀れな住人の一人」
彼女は花瓶に生けた花びらを撫でながら、僕を軽蔑する目で見てくる。
「何故あなたがここに来たのかは理由がわからないけど、滅茶苦茶にしただけなんてはた迷惑な存在よね」
「な、何言って――――」
「結局のところ、運命なんて変わることはなかったのよ。ただのイレギュラー」
「イレギュラー……」
「……ま、こういう事もあったという事で、少しは楽しめたかしら」
僕の反応なんて気にかけない。言うだけ言った後は廊下に出ていこうとした。
何か言わないといけない。そんな焦燥が言葉になって、彼女を止めようとしていた。
「ま、待ってよ!」
「……」
古手さんはドアに手をかけて動きを止める。こちらに背を向けたまま、固まる。
「本当に、本当に終わったっていうの?」
「……」
「まだ分からないじゃないか! だって、これじゃあ……前原君は一体どうなっちゃうんだよ……!」
前原君の安否が心配だった。このままでは彼はきっと警察に捕まってしまう。そうなれば本当にみんなとはお別れだ。そうなっても、古手さんはいいのだろうか。
怒るべきなのかもしれない。それは仲間を見捨てようとする古手さんにも、仲間を信じきれなかった前原君にも。彼らは結局、仲間をなんだと思っているのか、と。
そう言いたかった、そういうべきだった。
「大丈夫よ、そんなこと」
「何が……何が分かるっていうんだよ」
「どうせ、またみんな会えるし」
「え……?」
「まぁ、あなたはどうなのか知らないけど」
彼女は面白おかしそうに笑いながら、こちらに向き直ってきた。
その姿はもう、いつも見せてくれる蜃気楼の中の彼女だった。
「……みぃ、安心するのですよ、にぱ~☆」
「そ、そんなの……どうして……」
「……これからはウキウキのわくわくな祭りなのですよ」
「祭りなんて言ってる場合じゃ」
「……みぃ? 篠原が好きな浴衣姿も見れますよ?」
「そうじゃなくて」
「…………篠原。なら何を言えば信じてもらえるのですか?」
「だ、だからそれは」
「……仲間。仲間ならなんでも信じてほしいのですよ」
違う、仲間はそんなときに使う言葉じゃない。仲間っていうのは……もっと。
仲間は何か。そんなこと……。
「……そうなのです。篠原にあげた花はムスカリって言うのですよ」
「ムスカリ…………」
花に目をやると、花は光を受けてほのかに青色を誇張していた。
1本しかない花だった。バラといったものなら、想いを込めた1本のように見えるのに、このムスカリという花は物悲しく見える。僕のはかなさを表すためなのだろうか。
その間に彼女は勢いよくドアを開け放ち、廊下へと一歩踏み出す。
「……篠原は花言葉を知っていますか?」
「花……言葉……?」
「……そうなのです。想いを込めた花に言葉を乗せるというやつなのです」
「そ、それが何を……」
「…………その花にも花言葉があるのですよ?」
言葉の意味を聞くのは扉が閉まる、彼女が完全に僕の視界から消える瞬間だった。
「失望」
静かな中に、音を立てる扉はすべてを閉ざしたようにも見えた。