「魅ぃちゃんが……?」
ショックを隠しきれずにそう呟く竜宮さん。
知恵先生も手を震わせている。先生にとっても2人の生徒が失踪してしまうという現実を受け止められ切れずにいるのだろう。それを気丈に振る舞うのはどれだけ大変なことか……。気持ちが伝播して思わず、眉を寄せてしまう。同時に竜宮さんと同じくびっくりしている自分は口を閉じるのを忘れてしまっていた。
北条さんも隣で拳を固め、どこに向けていいのか分からない戸惑いを表していた。
そう、みんながその事実を受け止めきれない。困惑し、そしてショックを受けていたのだった。
「……魅ぃは病院にいたはずなのです。入江達は目撃してないのですか?」
そんな中、古手さんは知恵先生に質問していた。
言い方はいつもの古手さんと変わらない。淡白な物言いに、思わず知恵先生も先生としての振る舞いを思い出す。
「……いえ、入江先生は祭りの時、医療班として行動していたので病院にはいなかったようです」
「……一応聞きますが鷹野は?」
「鷹野さんの話は聞いていませんが……何かあったのですか?」
「…………何もないのです。ただ、興味があったのですよ」
それっきり古手さんは口を閉ざしてしまった。それの質問に意味があったのか。その意味を問うべきだったのかもしれないのだが、今の自分には園崎さんへの不安で頭がいっぱいだった。
「誰か園崎さんを見かけたという人がいれば、教えてください。どんなささいなことでも構いません」
一応とばかりの質問。知恵先生の言葉は切望に近い気持ちが含まれていた。
だけどその思いは誰も癒してあげることが出来ずにいる。手を上げることも、ちょっとしたヒントも提示することも出来ない。歯がゆい思いは自分たちも同じだった。
僕は2つの空いた席を見つめる。
1つは丁寧に置かれた机。横に掛けられた巾着袋には、また今度始めようといっていた新しい戦略ゲームの駒が入っていることだろう。それが行われるのはいつのことにのか、もう分からない。
もう1つは少し机の傷が目立つような机。いつも北条さんと争い、その時に傷つけた机が、彼の勲章とばかりに残っている。もう、傷つくことはないのかもしれない。
前原くんと園崎さん、クラスの……いや、村のムードメーカーがいなくなった。
僕にとっては大切な仲間だった2人、手がかりも、希望も何もない。
どうすれば彼らに再び出会うことが出来るのか。そんな些細なことさえ、自分の中では大きな壁となっている。
それどころか、自分の中では更に不安が膨らみ続ける。このまま1人1人消えて行ってしまうのではないかと。1つの席が消え、また1つ、1つと。
「……そうですよね。一応、何か分かったときは報告をお願いします」
結局話の進展がないまま、知恵先生は諦めるという形で幕を閉じてしまった。
知恵先生はそのあと、少し学校の方で話し合いがあるので、これで失礼しまうといって、落ちた肩をそのままに教室から出て行ってしまった。
「知恵先生、辛そうでしたわね」
出ていったあとに残った悲壮感、それを打ち破ろうと北条さんが声を出してくれたのだが、気休めにもならず話は先ほどの話に戻ってしまう。
「何か情報があればよろしいんですけれど……」
「圭一君の情報もないし。村の人たちも探しているんだろうな」
「このままだと寂しくなるばかりですわね……」
「「……」」
やはり僕には無理なのか。古手さんが言っていたように、全て終わりなのか。
このまま1人ずつ消えていって、僕たちみんないなくなってしまうのか。
諦めるしか…………ないのだろうか。
「……みんなで探そう」
「え?」
竜宮さんは鞄を背負いながら僕たちに、そう提案してきた。
「圭一君も魅ぃちゃんも私たちの仲間だよ? 警察や村の人たちに頼るだけじゃなくて私たちも探すべきなのじゃないかな、かな?」
「で、でも。僕たちができる事なんてたかが知れてると思うけど――――」
「何もしないでただ報告を待つより、自分の出来る事をしたい。だから、レナは探すよ」
そこに見えた彼女の瞳には、信念が見えたような気がした。まだ彼女は諦めていない。こんなに絶望的状況でも、まだメンバーが見つけられると信じている。
その想いの強さは、小さな希望となって僕らに示してくれる。それは暖かな優しさと、決して消えない仲間への信頼。
「…………そうですわね。部活メンバーがこうも抜けられては、やる気もガタ落ちになってしまいましてよ。連れ戻してキツイお仕置きをしなくてはいけませんわ」
「そうだね。まだ圭一君にはおはぎの正答を聞いてないもん」
「そうですわ。その時には魅音さんにも立ち会ってもらわないといけませんわ」
部活という単語がこれほど強い意味を成すとは誰が思おうか。そうだ、まだ出来ることは沢山あるのだ。立ち止まることを恐れ、常に前を向くことを強さとするべきなんだ。
北条さんが赤いランドセルをしょい込むとこちらに笑いかけてくる。
「孝介さんも、そう思いますわね?」
「……うん、そうだね。僕もできる限りの事をしてみようと思う」
決まりだ。足掻くなら最後まで足掻いてみせないと。3人の想いは1つになった。
……残りは1人。その人はこちらに背を向けて帰り支度をしていた。
「梨花。あなたも手伝いますわよね?」
親しい北条さんが古手さんにそう尋ねる。きっと手伝ってくれるのだろう。そう思っての強気の聞き方をしていた。しかし、僕は不安に駆られる。それは病院の件がそうだが、その他にも彼女自身の顔色がよろしくないのが見えたからだ。
そして、結果は僕の予想でしていた内容となる。
「……ごめんなさいなのです。ボクはとっても疲れていて、少し休みたい気分なのですよ」
「そうなんですの、梨花。確かに顔色があまりよろしくありませんわね。大丈夫ですの?」
彼女はその言葉に答えない。親友の言葉に耳を貸さない時点で、彼女にとって何か大きなことがあったのだろう。少しおぼつか無い足取りの彼女は、何も言う事はなく、静かに廊下に出てしまった。
茫然とする僕たちに、古手さんが出て行った所とは別のドアが開く。
「……孝介さん。お尋ねしたいことがあるといって、警察の方が来ています」
知恵先生にそう言われて嫌な予感しかしなかった。
「警察……それって誰か分かりますか?」
「大石さんですけど。何かありましたか?」
予想とは悪い事しか当たらないものである。
嫌々ながらも、情報が手に入るかもしれないと思った僕は、首を縦に振って見せた。