ひぐらしのなく頃に 決 【訳探し編】   作:二流侍

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■訳探し編【Ⅶ-Ⅶ】

「一体何のようですか?」

 

 不機嫌気味にそう伝える。タバコを蒸す大石さんはこちらをチラとみると、小さな瞳を大きく見開いた。

 

「おやぁ? ご機嫌斜めですねぇ。それとも私の事が嫌いなのでしょうか?」

 

 当然ながら後者だ。前原君を今のような状況においたのは他でもない彼である。

 僕が原因ってのも少なからずあるだろうが、それでもこの人が悪くなかったとは言えない。用件が済めば、さっさと帰ってしまいたい。

 

「すみませんが僕は忙しいんです。前みたいな話なら帰りますので」

「まあまあ。ここでも構わない話ではありますので。ちょうど人がいませんし」

「……だったら手短にお願いします」

「はいはい、分かりましたぁ」

 

 せっかちですねぇとのんびりとした口調で笑いながら、大石さんは話を進める。

 

「えーっとですね。富竹さんと鷹野さんが亡くなりました」

「…………は?」

 

 一体何を言っているのかわからなかった。

 そんなポカンと口を開けている僕を見て、大石さんは意外そうな表情をする。まるで今までその情報をしいれていないのかと馬鹿にされているようだ。

 タバコを地面に踏み消しながら、彼は興味深げに空を仰ぐ。

 

「だからですねぇ。鷹野さんと富竹さんが昨日の深夜、遺体となって発見されていたのですよ」

「そんな! 何で!?」

「それがわかればこっちも楽なのですがねぇ……」

 

 彼は前回見せてくれたしわくちゃの日記、そしてペンを取り出す。その後、白髪の髪をペンでいじりながら大石さんは困り果てていた。どうやら情報の少なさが今の問題になっているようである。

 

「篠原さん。昨日鷹野さん達に会いましたか?」

「えぇ……。昨日は鷹野さんと富竹さんの二人と軽く話をしたりしました」

 

 ここで嘘を付く必要はないだろう。ここで嘘をつく方が、後で情報の齟齬を生んでしまい、ややこしくなるからである。

 だが大石さんは苦い顔を解くどころか、さらに複雑そうな表情になっていた。

 

「それ、確かな情報ですかねぇ?」

 

 確かも何も、僕は2人に会っているし、何なら証人として竜宮さんたちを呼んできたっていい。しかし、一体何を根拠にそんな事を言うのだろうかが分からない。

 疑問というより不愉快に近い感情になっている中、大石さんがため息を付きつつ教えてくれた。

 

「実は鑑識の段階で、鷹野さんの死亡推定時刻が昨日より前なんですよぉ」

「へ? それって――――」

「そう、昨日祭りに行っているという情報はあり得ない事なんです」

 

 あり得ない。僕たちが会っていた富竹さん達はすでに死んでいた、ということになるということなのだろうか。その言葉はまず否定から感じてしまった。

 鑑識の間違いではないのだろうか。そう大石さんに問い詰めるも、彼の表情は納得といった明るいものではない。

 

「まぁ一応もう一度鑑識に問いただしてみますが、返答は同じでしょうなぁ……」

「……そうですか」

 

 大石さんが悔しそうに呻いたかと思うと、日記のどこかに丸を付ける。

 

「またオヤシロ様のたたりなんでしょうねぇ……。しかも今回は1人じゃなくて2人ずつ。おかしなことが起こっていますよ、全く」

「……そうですね」

 

 口だけの返答になってしまっていたが、それを大石さんは気づいていない。

 

「犯人はいったい何者なんだ!? くそ! 今回ばかりは注意をしていたというのに!」

「……」

「篠原さん。私は刑事です。必ず星を掴みます……しかし、そのためには些細な情報でもいいんです。何か、犯人と思わしき人物を見かけた事はありませんでしたか?」

 

 僕の肩を掴んで情報を聞き出そうとする大石さんを見た。真剣に、そして諦めきれないような強い意志を見せて。そして……その姿は馬鹿らしく見えた。

 面白くて仕方がない。不覚にも笑い、肩を揺らす。

 その目も笑っていない態度に、戸惑いまでは出ずとも、不気味さを醸し出すためには十分だった。

 

「犯人ですか……。大石さん、前原君はどうするんですか? 園崎さんはいなくていいのですか?」

「そんな事は言ってない。犯人を捕まえたらきっと!」

「犯人の次ですか……!」

 

 この人のせいで、前原君はみんなを信用できなくなったのに。

 この人が僕を惑わせていたのに。

 この人は……責任を感じることもなく、前原君たちを諦めているんだ。助けるべき人よりも、この人は捕まえるべき人が大切なのだ。

 その情報は僕の色んな気持ち一つにまとめてくれていた。怒り、悲しみ、辛さ。

 今まで、自分を押し殺しても、耐えてきた感情。それをせき止めるダムが決壊してしまった。

 

「前原君たちの事より犯人が大切ですか。散々前原君を混乱させたあなたにとってはそうでしょうね。心配しないですよね」

 

 僕からそんな非難を受けるとは思わなかったのだろう。大石さんは口を開いたまま、何も言えず、固まっていた。

 

「でも僕は違うんです。確かにあなたの言葉でみんなを失いそうになった……!」

「な、何の話ですか?」

 

 戸惑い、とりあえず抑えるようにと僕の肩を掴んでくる。その手を振り払って、僕は想いを吐露する。その言葉は叫びとなり、大石さんの口を固まらせることが出来る。

 

「仲間だと信じ、強くいてくれた人に僕は救われた。仲間の大切さ、友達としていてくれる喜びを」

「それが、前原さんとの関係と言いたいのですか?」

「でも助けてくれたのに、僕はみんなを助けることが出来ずにこうなっている! 仕方ないなんてで済まされるようなことじゃない。罪は償うべきなんです」

「だったら、私と協力するのはどうでしょう? そうすることで、より早期解決が出来る。強固な関係だって築くことが出来るんですよ?」

「貴方と関わったせいで、みんなを疑うきっかけになったのをお忘れですか? 自分のせいもあるとはいえ、もう信用出来ない自分がいます」

「そ、それは……」

「だから、これから僕には関わらないでください。お願いします」

 

 大石さんは何も言わなかった。いや、言えなかったといえるだろう。彼にはここで関係を良くしようと考えていただけに、そのショックが大きかったようだ。

 思わずふらつきそうになる大石さんの弱々しい姿を見て、少しだけ無責任に責めすぎたと後悔する。

 これ以上の気持ちはいけない。そう自分に言い聞かせ、次に出てくる言葉を嚥下した僕は、この言葉だけを残した。

 

「……以上です」

 

 言う事は言った。そろそろ戻らないと竜宮さん達が心配してしまうだろう。

 自分にそんな理由を付けて、愕然としている大石さんをよそに僕は教室に戻っていった。

 彼がそこで何かを言っていたのかもしれなかったけど、それをスルーする事に後悔はなかった。

 

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