ひぐらしのなく頃に 決 【訳探し編】   作:二流侍

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■訳探し編【Ⅶ-Ⅸ】

 今日の収穫は無かった。あの後、入江診療所を出て行った僕は古手さんの親御さんがいたとする古手神社に訪れてみた。オヤシロ様を崇拝しているというこの場所。一応、祭りのときに使われていた場所であるため、見覚えはあったが、あれ以上の活気は存在しない。むしろ神社としての大きさはあったにも関わらず、ひと気のないこの場所に違和感があったぐらいだ。

 古手さんがいるかなと考えたが、ここにはいない様子。やはり家でゆっくり身体を休めているのだろうか。鳥居や参道もそこまで手入れをしている様子はない。社も所々埃っぽい気がするし、少し寂れた様子がこの虚無な感じを醸し出しているのだろうと考えていた。

一応、神社の境内を確かめたり、裏にある小さな倉庫の周りなどを確認したのだけれど、そこに人影は存在せず無駄足となっていた。

 他にも数人の人が参拝に来たのを聞き込みをしていった。しかしいずれも「オヤシロ様にこの事態の収束を願う」といったものばかりで、今回の件については諦観を決めているものばかり。己の身が大切であると言っていたのを何度感じていたことか。それが正しい反応だとは思いつつも、心の底から湧き上がる悲痛さに、何も言えずにいた。

 

 そして過ぎた時間にして夕暮れとなって、今日の活動終了を伝えてくれた。

 

 悲しきかな、何も得られるものがないという想いと、当たり前、どうして村人が総動員して情報をかき集めても何も得られないのに自分たちは上手くいくのかという傲慢な自分を笑う想い。その2つの争いは、家に帰るときも、晩御飯を1人で食べてる時も、そして自室にいる中でも続いていた。いい加減、終わらせたい。そんな少し憂鬱な気分になってしまいそうになるのを、ベッドに横になって蹲ることで解消していた。

 今日から始まったのだと仕方ないと思いたいのだが、やはり何もなさすぎるのは悲しい。明日の朝はみんなと結果報告会、何か進展があればいいと願いつつ、ゆっくりと目を閉じる。明日の授業も午前中に終わったりするのだろうか。それならまた長い間みんなで捜索することが可能なのだが……。

 ……まるで台風で学校が休校になるのを待ち望んでいる状況だ。気分は台風の時と違って、最悪なものではあるが。

 その時、電話が鳴る。無機質に鳴り響く電話に誰か出てよと階下に向けて言おうとしたところで、誰もいないことを思い出した。父さんも今は村の集会とやらに出向いていて、母さんは入江診療所にいる。この家には1人しかいない。だからこそ、こうやって静かに物事を考えられていたのだけれど。

 じゃあ出なくていいかなとなるが、それもダメだろう。親からの連絡なのかもしれないし、学校からの連絡網かもしれない。そもそも居留守を使うこと自体があまりよろしくないことである。

 

「とにかく出るか……面倒だけど……」

 

 その声をきっかけに起き上がる。無性に背中を伸ばしたくなる気持ちを抑え、急かし続ける電話を止めに行こうと階段を下りていく。

 さぁて一体誰だろうか。まさか園崎さんとか、前原君とかじゃないと思うのだろうけど。

 玄関先に置いてある受話器を手にして、とりあえず定型文句を言う事にした。

 

「もしもし、篠原です」

「すみません、遅くに。私、竜宮という者ですが……」

 

 竜宮さんがどうしたというのだろうか。

 少し慌てたのだけれど、竜宮さんはこんな言い方しないし、そもそも返ってきた声は低い、男性の声だった。

 

「竜宮さんのお父さん……ですか?」

「あぁはい。礼奈の父です」

「…………はい。れいな?」

 

 一瞬だけぽかんとなってしまう。れいなという言葉に覚えが無かったからである。ただ忘れていたということにも気づかずに。

 数秒間の後、「あ」と声を出してしまった。

 

「もしかしてレナさんのお父さんですか?」

 

 竜宮さんはお父さんである人にも伝えていなかったのだろうか。確かにお父さんに名前を変えようと言っても戸籍上の問題とかあるのはあるが……。

 

「レナ……ですか? …………あぁ、そういえば礼奈はそういう風に言っているようなことを……」

 

 一人でぶつぶつ呟いている内容がこちらの耳にも入っている。とりあえず竜宮さんのお父さんも聞いていた内容ではあったので安心した。

 だからこそという訳でもないが、さっさと用件だけを進めようとした。

 もし本当に自分のことについて聞きたいなら、竜宮さんが実際に出てくるだろうし、他の用事であるはずなら父さんを呼んでほしいという話に持ち込むはずだ。

 そのどちらかだろう。そう思っていた。

 

「すいません。何か話の腰を折ってしまったようで……。用件は何ですか?」

「あぁ。実は礼奈……レナが今日帰ってきてなくて、それでどこか覚えがないか聞きたかったんです」

「え? 竜宮さんが……いない?」

 

 そんな重要な話を彼は冷静に言ってのけた。親として心配していないのだろうかと叱りたくなるほど。

 壁に掛けられている時計を確認する。午後9時を回ってすぐといったところだ。

 そんな時間まで圭一君たちを探すとは思えない。それは自分たちの身を案じてもあったし、そもそも暗くなれば捜索が困難であるということがあったからだ。

 ……となると、もしかして他の用事があったとか。

 そう思って思考をめぐらす。

 

「誰かの友達の家に行っているというのは?」

「心当たりあるクラスメイト全員に電話を掛けたのですが、いませんでした。あなたが最後です」

「となるとどこかに泊まっている可能性が低い……因みに竜宮さんはよくこうやって抜け出すのですか?」

「そうですね。頻繁にはありませんが、全くないということもないですね……」

 

 当たり障りのない答え。まるで竜宮さんのことを知っていないような言い回しに、首を傾げたくなる。とにかく他のところにもいない、という事実だけがこの場での結論になっていた。オヤシロ様の祟り。その言葉が頭によぎる。

 どういうことだ。だって、1人消えて、1人死んでしまうのが通年の流てはいけないのだ。でも、今その事について喚いても仕方がない。とにかく、相手に自分の知っていることについて伝えておくべきだろう。

 

「竜宮さんは今日興宮の町に行っているはずです。そこかもしれないですね……希望的な部分が大きいですが」

 

 どう考えても、こんな時間に隣町で遊んでいるとは考えにくい。嫌な意味でしか捉えられない。変な人に絡まれたとか……まだその方がいいとさえ感じてしまう自分が嫌だった。

 

「なるほど……。今からそこに行こうと思います。ありがとう」

 

 本当に今から、あれだけの情報で行くと言うのだろうか。無謀にしか感じない。

 しかしすぐ通話終了を告げるツーツーという切られた音が空しく流れだす。それは自分の血流となり、身体に沁み込んでいくようだ。それと共に不安が徐々に強くなる。

 ちょうど今風呂に入る前だったから、昼からの服と変わってない。すぐに出ていける格好だ。でも、ここからだと興宮だと遠い。今から行っても意味がないだろう。不可能である。

 

「……北条さん達の家か」

 

 この緊急事態を報告しておかないといけない。多分竜宮さんの状況は把握しているはずだし。いや、そもそも北条さんたちも動き出しているかもしれない。

 行動するなら一緒に行動するべきだろう。

 こんな時に連絡網を使うべきだ。そう思って、連絡網の紙に記載された番号に電話をする。二回のコール音と同時ぐらいに、北条さんは出てくれた。

 

「もしもし?」

「あ、北条さん? 孝介だけど……」

「孝介さん! 良かった! こちらも電話しようと思っていたところでしたの!」

「……となると、やっぱり竜宮さんの件だね……」

「やっぱり孝介さんのところにも……!」

 

 北条さん達も今後どうするか、竜宮さんが行方不明と知ってとりあえず僕のところに連絡をしておこうかと考えあぐねいたようだ。

 

「孝介さん。一体どうしたらいいですの!?」

「落ち着いて、北条さん……」

「魅音さんも、圭一さんも、レナさんもいなくなって。もう訳が分からないですわ!」

「分かるよ……僕も正直同じ気持ちだよ」

「何で、何でこんなことに……!」

 

 彼女の息の荒さは電話越しからでも十分に感じられた。

 ……確かに、彼女にとっては荷が重い内容であることには違いない。最近まで大人と同じように考えていても、まだ小学生だ。どう考えても耐えきれる強さはない。

 しかも彼女は親を失い、その理由もまたオヤシロ様によるもの。辛さは村の誰よりも感じていることだろう。

 

「孝介さん、孝介さんもいなくなったりはしないですわよね!?」

「そりゃあもちろん!」

「そういっても、いなくなってる……いなくなってるんですわ!」

 

 もはや自分の恐怖に抑えが利かないようだ。今彼女の表情はどうなっているのだろう。

 ただ、受話器を強く握りしめることだけしか出来ない。

 その時、擦れきれたような音……電話が移動したような音が耳に入る。そして、冷静な声を耳にした。

 

「……沙都子にはこれ以上伝えないで欲しいのです」

「そうだね、ごめん。古手さん」

「……レナはきっといなくなったりはしないのです。大丈夫なのですよ」

 

 その声もあまり真実味がない。彼女自身がそう思えていないことから、そう思ってしまうのだろう。

 ここで話し合っているのは、強く、行動力のあった3人を除いた3人でしかないのだ。

 どうするべきか……、それはここで話すべきではないと思えた。古手さんたちにアドバイスを貰って、意見を聞いて、それから行動しても遅くはない。

 

「古手さん。ここで話し合うよりも直接会って話したいんだ」

「……でも、沙都子は今話せる状況ではないのですよ」

「そうだね……じゃあ古手さんだけでも話したいんだけど」

「……それは……」

「駄目かな?」

「……分かったのです。ならボクの神社にて待っていますです」

「いや、外は危険だし僕がそっちまで行くよ。その後に話し合う場所まで行こう」

「……はいなのです」

 

 そうと決まれば早めに行動するべきだろう。とにかくじゃあ後でと言葉だけ残して先に切った。外は涼しいよりも蒸し暑いような気がするのだけれど気にしてはいけない。

 母さんはいないし、父さんもいつ帰ってくるか分からない。とりあえず鍵を入れておく必要があるだろう。ポストにでも入れておくか。

 外は闇のように暗く、満足に設置されていない街灯が1つあるだけ、十分な明かりは存在しない。

 それでももう来てから1か月ほどになるし、道は感覚で覚えた。

 歩くよりもジョギングで行こうかなんて考える。早く行かないと、北条さんも不安であるから。しかし体力がない。それにこの後のこともあるし……。

 そんな悩みを5分ぐらいまで続けていた時、Tに分かれた道までたどり着く。

 左に曲がれば、そこから先は北条さんまでの道へ続くのだけれど、僕はある物を見つけて立ち止まってしまう。

 

「あれって……」

 

 北条さん達の家とは真逆の方向に向かう道、そこに何かが落ちているのが分かった。

 道の真ん中に置いてあるからその違和感が大きい。夜の背景でも一際黒いシルエット。それだけでも、僕には見た事がある形。焦燥とともに僕は急いで向かい、手にする。軽く、首に負担ないもの、そして色は白い、そんな帽子……。そこに落ちていたのは見覚えがありまくるものだった。

 

「竜宮さんのものだ……」

 

 落ちたとみるべきなのか。それとも、何かしらの意図があるものか。答えは分からないけど、この先に竜宮さんがいるとみるべきなのだろうか。

 しかしこの先にいるという事なのだろうか……。山が連なり、村とは離れていく方向にある。そこに一体何が。

 そう思って道順を考え始めてすぐに、思い返される。運命といっても良い場所。

 

「あ……」

 

 僕が知りえる場所が1つだけあった。竜宮さんも僕も知っている秘密の場所。

 僕は振り返る。古手さんたちは待っているであろう。そんな後悔が自分の中で決断を鈍らせる。

 でも、彼女たちを連れて冒険しに行くわけにはいかない。それに……ここに置いたか捨てたのには何か理由があるはずだ。

 もう少し待っていて、そう遠くから、心の中で謝りながら、僕は――――ダム建設跡地の道を進むことにした。

 

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