ひぐらしのなく頃に 決 【訳探し編】   作:二流侍

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■訳探し編【Ⅱ-Ⅱ】

「――――という事です。分かりましたか?」

「分かりました」

 

 場所は移り変わって学校の中。細かく言えば職員室にいる。

 目の前には昨日出会った知恵先生。手には僕に渡すであろう資料がある。

 にこやかに笑う彼女は簡潔に用件を伝えてくれた。

 どうやら大まかな学校の授業の進行の仕方、特に体育などについて説明をしたかったようで。

 他にも学校行くための手続きを話したいから、親との連絡先を教えたり。

 話はとんとん拍子で進んだし、内容も別にむずかしいものではなかった。

 授業の内容については……まぁ、慣れるしかないか。

 

「また分からない事があったら色々と聞いて下さいね」

「はい、えぇと。よろしくお願いします」

 

 その時カラン、カランとベルが鳴る音が聞こえた。先ほどの先生の話を加味して考えると、今のが授業開始の合図だという事だ。知恵先生は「時間ですね」と資料を僕に託すと、椅子から立ち上がった。

 

「では教室に移動しましょうか?」

 

 とはいえ移動という距離もない。隣に位置する教室の中では少し騒がしく、先生が来るまでは休憩時間となっているのだろう。声がやむことはない。

 楽しそうではあるが少し五月蝿いかも……。

 いつもの事なのだろうか。先生は騒音の中でも顔色変える事なくこちらを窺ってきた。

 

「大丈夫ですか?」

「ま、まぁ……」

「じゃあ私が先に入ります。紹介の後に来てください」

「は……はい」

 

 とにかく雰囲気に呑みこまれないようにしないとなぁ……。

 不安に感じる僕に対し、先生は嬉しそうに微笑んでいた。

 

『はい、皆さん静かにしてください。突然ですが今日から転校生がこの学校に来ることになりました』

 

 転校生という言葉から更にざわめきだすこれからのクラスメートたち。

 やはり田舎というべきなのだろうか。転校生なんて滅多に来ないだろうし、珍しいものなのかも。

 

『やっば! 転校生だって!』

『うひょおおおぉおおお!』

『わーい。男の子なのかな? 女の子なのかなー?』

 

 ……だが、ここまで騒がしくなるとは……ってか一部発狂してたような……。

 寒村だから、やっぱり人が増えることに対して嬉しいのかも。

 未だ騒がしいBGMの中に、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

『やっぱり今日の人だよ! ……だよ!』

『まさか転校生だったとはなあ』

『をーっほっほっほ! 誰が来ようと私のトラップを避けれる人はいません事よ!!』

『…………沙都子の罠は巧妙なのです』

 

 やっぱり先ほど朝出会った人もここの学校の生徒か。

 同い年ぐらいに見えたし、出来れば友達になれればいいなぁ、なんて希望的願望を考えてみる。

 最初の第一印象から決めていかないと、そう思っていた時、ようやく気づいた。

 自己紹介の時なんて言うか考えていない。

 まずい、これはまずい。

 今からでも考えないといけない。

 

『はいはい静かに。じゃあ来てください』

 

 ……考えられた時間、およそ2秒。

 当然のことながら何も思いつけなかった。

 仕方ない。ここで焦っても意味がないのだし、出たとこ勝負。簡潔に紹介するしかない……。

 出来そうもない可能性に賭けて、僕は覗き込むかのように、ゆっくりと扉に手を掛けた。

 ガヤガヤとした教室は静まり返る。

 僕に興味があるようで、みんなの視線が体中に突き刺さる。

 慣れないことはしたくないものだ。人前に出ることは苦手な自分にとってこの視線は辛いものだった。

 教卓まで前を見続け、左向け左の要領で振り向くと、ようやくみんなと対面する形になった。

 

 う、みんな見てくる……。

 

 頭が真っ白になりそうだ。何をしゃべればいいのか、言葉が一瞬で蒸発して消えてしまった。

 どうしよう、どうすれば……。

 そんな僕を見て、戸惑っていると理解してくれたのだろう。

 ポンと肩を叩かれる感覚が、

 

「ち、知恵先生……」

 

 自分でも分かる緊張した声。最初なんて裏声っていたし……。

 

「大丈夫ですよ? 簡単な自己紹介で十分です」

 

 優しい声掛けだった。そして、クラスメートからも「ガンバレー」と励ましの声が上がる。

 おかげで少し冷静さを取り戻したような気がした。

 みんなが待ってくれている。昔と違って優しい目で見てくれる。

 ありがたい。

 カラカラに渇いた喉に唾を送って、頭に浮かんだ言葉を紡いで紹介した。

 

「は、初めまして……。篠原孝介っていいます。前までは〇〇県にいたんですど、親の転勤でここに来ました。まだ来たばかりで右も左も分からない状態ですけど、早く雛見沢に溶け込めるように頑張りますので、どうかよろしくお願いします」

 

 最後の方が早口になっていたけど、終わらせたい一心から頭を下げる。

 あちこちでパチパチと拍手が上がったのを見て、解放感からのほっと一息をついていた。

 

「皆さんも仲良くしてあげて下さいね。それじゃあ篠原さんはあそこにある、奥の席に座って下さい」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 確かに1つだけ空席がある。隣の席には朝いた活発な少年が座ってこちらに手を振ってきた。みんなの視線がまだ集まる中、なるべく堂々と意識させながら席に座る。

 今日一番の大仕事を終えたと思っていたけど、仕事はまだ続いていた。

 お隣さんだ。お隣さんが肩をとんとんと叩いてきた。

 

「孝介って言うのかぁ。俺は前原圭一っていうんだ! よろしく頼むぜ!」

「あ……うん。よろしく、前原君」

「へへ。君付けなんてしなくても、圭一でいいさ」

 

 眩しい笑顔を振りまいてくれるのは嬉しいけど、正直引いてしまいたくなるのが本音である。

 友達というのは、少しずつ歩み寄っていくものであって、急なフレンドリーさを見せられても困ってしまう。

 流石に一蹴するわけにもいかないので、僕は苦笑いで対応するしかできなかった。

 

「いきなりそういうのはちょっと…………ごめん」

「あ、悪い……気を使わしちまったか?」

「くっくっく! 圭ちゃん。転校してきた人にそれは駄目だね」

 

 声がしたのは前原君から1つ後ろの席にいた女の子だった。

 緑色の髪を後ろに束ねていて、そして何より印象的なのは意思が強そうな目。

 言ってはいけないような気がするのだけど、男っぽい感じがする女の子だ。

 そんな子が前原君に意地悪く笑いながら話しかけていた。

 対して前原君は口を尖らせ、駄々をこねるような子供のように文句を述べた。

 

「うるせぇなぁ、魅音。俺はこういうやり方がいいんだよ」

「はははは! 孝ちゃんだっけ? 私の名前は園崎魅音。おじさんの事は好きに呼んでくれたらいいよ」

 

 あ、孝ちゃんで良かった? と後で慌てて付け加えてくれた。

 

「別に構わないよ。気を使ってくれてありがとう。園崎さん」

「はいはい、そこ静かにしてくださいね」

 

 どうやら授業はすでに始まっているようだ。

 手をパンパン叩いて知恵先生も休憩中ではないことを示唆する。

 自分の行いに苦笑いしつつ、急いで前を向くと一瞬だけ目が合った人物がいた。

 

「あ……古手さん」

 

 昨日会った可愛らしい女の子。そんな子がこちらをじっと見てきていた。

 今も転校生として注目を浴びているのだし、見られるのは当然なのかもしれない。

 ……それなのに、古手さんは何か違うような気がした。正しいのかは表現なのかは分からないえけど、何かを確かめるような目。

 だが気づいたらそんな目なんて無く、代わりに明るい笑みで隣の女の子と話し合っていた。

 




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