勉強会なんてボッチの俺には無縁の単語だった……あれ? 何か悲しい……
「ねぇ圭ちゃん。ここ教えてぇ!」
「魅音……お前受験生なんだからこれぐらい知ってろよ……」
「はいはい。どうせあたしは圭ちゃんみたいに頭よくないよーだ!」
「魅ぃちゃんそんな事言わないで頑張ろうよ、はぅ……」
「レナの言うとおりだぞー」
「ぶぅ」
「よしいいかぁ、ここは――――」
3人のやり取りが聞こえてくる。自分は関わっていないかと言うと、みんなが固まる場所から少し離れてるために会話に参加していない。どこぞの諜報員みたいに、こっそり会話の内容を聞くだけの存在になっていた。
「とりあえず、このページを終わらせないと……」
自ら課題を決めて、目の前に置かれたドリルにXを代入した数値を書き込む。
とりあえず、終わったら先生に見てもらおう。
顔を上げて先生を見る。小学生相手に国語の主語述語について黒板で丁寧に解説する知恵先生の姿が。そして周りは真剣に黒板の内容をノートに書き込む小学生たち。
……あまり聞けるような雰囲気じゃないか。後でも聞くべきかも。
先生が言っていた通りだ。基本的に自分達高学年は自習。
自主性を重きに置く塾のような感覚、とでもいえばいいのだろうか。それとも家庭教師か。
授業は基本的に存在しない。この時間はひたすら自分で勉強するというもの。
生徒のように”従う”のではなく、学生といった”学ぶ”という意欲を見せないといけないのだ。
自分からドリルをしていき、分からない箇所があれば先生に聞く。
中、小学生が入り混じっているこの学校の教育方針上、仕方ないのかもしれないけど、毎日これが続くとなると、正直不安しかない。
高校受験を考えた場合、やはり解説の授業もしてほしい。
理由が分かっても、理屈が分からないと次に生かせないことが多いし……。
そもそも先生が1人だけというのに問題があるのではないのだろうか。
もう少し、先生を増やせばいいのに……。はぁ……。
その時力の配分を間違えたのか、鉛筆の先端が折れてしまった。
鉛筆削りは確か買っておいたはず。
筆箱の中を漁っていると肩を叩かれたような気がした。
「なぁ孝介」
僕を呼んだのは先ほどまで園崎さんの先生役になっていた前原君だった。
「一緒に自習しないか? せっかくだしみんなでやろうぜ!」
「え、い、いいの?」
「もちろんだぜ! みんなでやった方が楽しいもんな!」
「う、うん」
断る理由なんてない。やはり自習というのはみんなでやれば効率も上がるだろうし、友達として歩み寄ってくれる気持ちが伝わってくる。少しずつ仲良くなるきっかけにはもってこいだろう。
さっそく机を持って、前原君たちの集まる場所まで運ぶ。
「ほら! 孝ちゃんはこっち、こっち!!」
園崎さんと朝いた少女がこちらに手招きをしていた。
指差された場所に机を置いて椅子に腰掛けると、隣から鉛筆でとんとんとまた肩を叩かれた。
「はぅ~! 竜宮レナって言うんだよ。よろしくね! 孝介君!」
「あ、こちらこそよろしくね。竜宮さん」
「レナはレナって呼んで欲しいかな! ……かな!」
まただ。どうやらここの人たちはこのように積極的な部分があるようだ。
やはり初対面に名前で呼ぶのは気が引けるのが正直な気持ち。
申し訳なさそうに眉を下げて、
「え、えっと……。最初っからそんなに馴れ馴れしくなれないんだ…………ごめん」
「2人ともぉ、そんなに積極的だと孝ちゃんが萎縮しちゃうよぉ~」
「はぅ……。気にしてるかな? ……かな?」
「そ、そんな事ないよ! 全然気にしてないから!」
「……というか魅音。その問題から一向に進んでねぇじゃねぇか」
「え? えっとぉ……。あはは! 何の事かおじさんには分からないなぁ!」
「人にどうこう言う前に魅音は別の事で積極的になるべきじゃねぇかあ? このままだと、頭が残念なことになっちまうぜ」
前原君は自分の頭を指して、園崎さんの無知さをバカにしていた。
明らかに挑発したのが分かる。逆を言えば、それぐらいの関係といえると言う事かもしれない。
そして、園崎さんは悔しそうに軽く歯噛みをしていた。
「ぐっ……。言うようになったね圭ちゃん…………」
「そりゃあそうだ。俺だって日々成長しているんだよ!」
「なら……特別に今日は『部活』に参加させてあげようか! どっちが真に賢いか。それで勝負といこうじゃないか!」
「部活?」
参加させるとはどういう事だ? まさかの認証制の部活とでもいうのだろうか。
よく分からずに疑問符を浮かべていると、隣から答えが飛んできた。
「部活って言うのは放課後みんなで遊ぶ事かな!」
うーん。よくわかんない。
「あはは……部活の意味は分かってるんだけど……何部なの?」
「我が部だよ!」
うん。よくわかんない。
「我が部って……、それって何をする部活なの?」
「放課後みんなで仲良くやる部活かな!」
「へ、へぇ……」
残念ながら自分の見聞では知りえていない部活である。
さて、どう聞いたらいいのだろうかを悩んでいると、この会話に入り込んで来た人物がいた。
「何? 孝ちゃんも部活に入りたいのかい?」
園崎さんは僕が部活に興味を示したと勘違いしたらしい。
「あ、いや僕はただ何をする部活なのかなぁ、気になっただけで――――」
「ほうほう……気になるということは、つまり部活をしてみたいと!」
あれ? 何かおかしな方向に捻じ曲げられた気がする。
「いや~。おじさんは嬉しいねえ! まさか志願者が出てくるなんて」
「え、あの……あれ?」
「おい魅音。孝介もその部活ってヤツに入れる事は出来るのか?」
「う~ん。圭ちゃんはともかく、孝ちゃんになるとみんなに聞いてみないとなあ」
園崎さんは嬉しい誤算とばかりに表情をにやけさせている。
部活……どうやら既存の部員に認められないと新規部員になることさえ叶わないようだ。
我が部、中々に鬼門の部活のようである。
まぁ、その実態は新規部員の本心を確認せずに勝手に部員と認めてしまうような部活なんだけど。
「レナは別に構わないかな! ……かな!」
「…………よし、分かった! とりあえず今回は特別に入部試験を受けれる権利を与えようじゃないか!!」
「あ、だから僕は別に――――え、入部試験?」
「おい魅音。入部試験って何だよ?」
向かい合う前原君も知らなかった様で、同じように聞いていた。
だがそれが園崎さんにとって狙っていた展開のようだ。
パッと顔を輝かせて、自分の武勇伝でも語るかのような、明るい笑顔と共に意気揚々と語り始める。
「あたし達の部活には生半可な部員は不必要! なんせこの部活には私たちの力、経験、知識、精神力をぶつけ合うようなところだからね。簡単な気持ちで入られちゃうと大けがする人が後を絶たないだろうからねぇ。そこで! 試験で部員として相応しいか判断するんだよ!」
「でも圭一君と孝介君ならきっと大丈夫だよ!」
何が大丈夫なのだろうか。大けがなんてするとは考えにくいけど、それほどのものをしているという事を声高らかに言われても怖いだけだ。
……そして、目線の先にあるモノを見て、さらなる恐怖を感じた。
「2人とも我が部に相応しい人物かねぇ? 今日の部活は本当に楽しみだよ!」
「相応しいかどうかなんて聞くなんて愚の骨頂だぞ、魅音! この俺、前原圭一を部活に誘った事を後悔させてやるぜ!」
「くっくっく! 圭ちゃんのそんな強がりがいつまで持つか楽しみだねぇ!」
3人が色々と盛り上がっている中、我関せずといった雰囲気を出しながら自分だけドリルに集中しているフリをした。
なぜなら――――
「……皆さん。そんなにお話しがしたいのなら、昼休み私とカレーの歴史について話しましょうか。ふふふ……」
知恵先生がにっこりとした顔でこちらに来ていたからだ。
優しそうな柔らかい声、嬉しそうな頬のえくぼ、阿修羅のような冷たい目。
……何も問題ないという方が難しいだろう。
先ほどの注意で聞き分け出来ていないことにひどくごご立腹のようだ。
「げ! 知恵先生!?」
そこでようやく先生の存在に気づいたようだ。
知恵先生から見えるオーラで震えあがる3人。
ですよね。視線で殺されそうな威圧感を放っているもん、この人。
特に竜宮さんと園崎さんの動揺が異常だった。
「そ、それはちょっと困るかな!? ……かな!?」
「あ、あはは! むしろ、普通の説教の方がいいなあ? なんて!」
「おい、どうしてだ2人とも!? 説教される位ならカレーの話の方がいいじゃねぇか――――」
「け、圭ちゃん!! それ禁句――――!!」
「そうですかあ! じゃあ今から職員室に来てもらいましょうか!」
「ぐっ……孝ちゃん何とか先生を説得してくれない!?」
「えーと……」
先生はすでに自分の妄想に入っていた。
その表情は恍惚としており、とても楽しそう。
口を閉じているのにも関わらず、ふふふと声が漏れていた。
……ふむ、なるほど。
僕は園崎さんに合掌だけしておいた。
「こ、孝ちゃんの裏切り者ぉ~……!」
裏切り者ではない……と信じたい。
まぁ連れて行かれたとしてもたかがカレーの話だし、大丈夫なはずだ。
語ることなんてたかが知れてそうだし。
すぐに解放されると信じた上で僕は静かにドリルの続きを始めた。
PS4が出るけど、経済的な余裕を感じない。
しかし、出てるソフトが面白そうに見えて買いたい欲求だけが募るばかり……
くそぅ……。
どっかに十万円をくれるとかいう優しいおじさんがいないものか(チラッ)