「……ごめん、園崎さん。まさかカレーの話をされて頭から煙出すとは思わなかった」
10分程度で帰ってくるという予想は大きく外れた。
午前中ずっと帰ってこないし、まさか今日一日なんて……という不安さえ頭を過(よぎ)った。
昼休みになってようやくボロボロになった3人が帰ってきた。
ボロボロと言っても肉体的ではない。精神的に体力を使ったようだった。
「ははは…………。相変わらず知恵先生の話は頭にくる……」
「はぅ……。カレーが夢の中に出てきそうだよお……」
2人が机に突っ伏しながらぐったりとしている。
午前中に見せた活気はどこへやら。
しおれた花のように元気がなく、そこへ差し込む太陽の光が哀愁を作り出していた。
しかしまだこの2人はまだ耐性が存在していたためか、幾分かマシに見える。
だって、
「カ~レ~、カレー☆ 今日もカレー、明日もカレ~~カレカレカレー」
前原君と違って正気を保っているんだから。
「えっと……。前原君は大丈夫なの? さっきからカレーという単語連発しか言えてないんだけど」
「あぁ……。圭ちゃんは見事にやられたねぇ……」
園崎さんの話によると、知恵先生はカレーに関してだけはかなり……いや異常レベルのこだわりがあって、カレーをけなそうものならたとえ武装している兵士相手でも殴り込みに行くという。
カレーの話をされれば、耐性ないものは洗脳されてしまうらしい。何その催眠術、宗教でも開きたいのだろうか。
だから知恵先生にカレーの悪口などはタブーだし、話題として挙げるのも禁忌だと言う。
あんな温厚そうな人がそんなこだわりというか、特質というか、異質があるとは思えなかった。
これからはもう少し知恵先生への対応に気を付けていくべきだろう。
「圭一君大丈夫ー?」
竜宮さんが前原君を呼んで現実に戻そうと試みている。
しかし返ってくるのはカレーという単語。もう今の医学では解決出来ないのかもしれない。
園崎さんが肩を掴んで揺らしても「ルーがかき混ぜられたぁー」と呟いた絶望感は半端じゃなかった。
「こりゃあちょっと荒っぽい方法でいかないと治らないねぇ。沙都子!!」
「をーっほっほっほ! 準備はすでに出来ていましてよ!」
まだ手は残されているらしい。
呼ばれてきたのは黄色いショートカットヘアにカチューシャを着けた女の子だ。八重歯を覗かせた笑顔が特徴的で、見た目からして活発そうな少女に見える。
どうしてかは分からないけど、前原君を正気に戻すためにはこの人が必要のようだ。
少女の隣にはニコニコした古手さんが追従しているし、2人で行うものなのだろうか。
何をするのか、少女の行動に興味を示していると、
「孝ちゃん! 圭ちゃんから離れて! 被害を受けるかもしれないから!」
「へっ? あ、うん」
被害ということはまさか暴力的な治療が行われるのか。
素早く2,3歩離れ、園崎さんの近くまで避難しておいた。
「じゃあ、いかせてもらいますわ!」
先程の女の子が勝ち誇った笑みを浮かべ、指をパチンと鳴らす。
それをして何の意味がと思った僕が馬鹿だった。
いつの間に仕掛けられたのか、天井から前原君の頭に向かって落ちていくモノがあった。
それは寸分のズレもなく前原君の頭に向かって――――
『バッシャーーーン!!!』
「うがーーー!! 冷てぇえぇ! ……て、あれ?」
「前原君……! 現実に還ってこれたんだね……!」
「俺は一体何を…………確か、知恵先生のカレー談義を聞いてたら、頭がぼんやりしてきて……」
どうやら前原君は今までの事を記憶していないようだ。話を聞くだけでは、先生が黒魔法でも行ったものではないかと勘繰ってしまいそうだ。
とにかく覚えていなくて良かった。多分覚えていたら自分の発言に対して、発狂してしまうかもしれないし。
まだ状況を把握出来ていない前原君はゆっくりとみんなの顔を見ていた。
そして1人の人物を見て、目を細める。
「……沙都子。この状況を作ってくれたのはお前か?」
どうやら前にもこのようないたずらを受けたようだ。でないとすぐに犯人を特定できる訳がない。
女の子は何も答えない。代わりに口に手を当てて高笑いをしていた。
前原君はそれが何を意味しているのか納得して「……そうか……」と呟きながら顔を俯かせた。
「をーっほっほっほ! まぁ、圭一さんもこれに懲りて――――」
「沙都子ぉーーー!!」
地面が揺れる程の怒号が響いた。
そして次の瞬間には女の子の耳を引っ張る前原君の姿が。
「い、い、痛いですわ圭一さん!? 暴力は反対でしてよ!」
「うるせぇ!! どの口叩いてそんな事言えるんだ!!」
「わ、私はただ圭一さんを助けようとしていただけですわー!!」
「もっと穏便なやり方ってのがあっただろ! 一体これは何だ!!」
前原君は自分の頭を指差す。
そこには掃除などで使われるバケツが圭一の頭を守るかのようにすっぽりとはまっていた。
「と、とてもお似合いですわ」
「そんな評価いらねえ! おまけに水入りバケツと来ちゃあ、覚悟してるって事だよなぁ……!」
前原君はかなりお怒りの様だ。今度は耳ではなく、服の後ろ襟を猫でも掴むような持ち方で少女をぶら下げる。
空いた手は何をしているのかと言うと、デコピンの態勢に入っていた。指を震わせているあたり、かなり力を込めているのが分かる。
流石に低学年相手にそこまでするのはいかがなモノかと思い、前原君を鎮めようとした。
「ま、前原君。別にそこまでしなくても……」
「嫌ぁ駄目だ! ここは1つ、俺のマグナムデコピンを喰らわせないと気が済まん!」
一向にデコピン態勢を解こうとしない前原君。
園崎さん達の助けを求めようとしたのだが3人とも笑うだけで、むしろこの状況を楽しんでいるようだった。
「ちょっと!? 笑ってないで前原君を止めてよ!」
「あはは。沙都子ちゃんなら大丈夫だよ」
「へっ……?」
「まぁとりあえず黙ってみてたらいいから」
「で、でも……」
その時前原君に動きがあった。
「沙都子。今、謝れば許してやってもいいんだぜ!」
「とりあえずその帽子を外した方がいいですわよ? 圭一さんの間抜けっぷりがより強調されていますわ」
「……ッ!? い、今そうするつもりだったんだよ!」
慌ててバケツを外そうとしている時点で嘘が見え見えである。
その時、僕は外そうとしてる前原君を見て女の子の目が光っていたのを見逃さなかった。
気づいていない前原君はというと、威力を溜めに溜めたデコピンの射程距離までおでこに近付けた。
「さあ罰の時間だ! 歯を食いしばれ沙都子ぉおぉお!!」
「……本当に圭一さんは間抜けですわ(パチン)」
「何を言ってやがる――――」
『バァーーーーーン!!』
気持ちいい位の快音は空から降ってきたたらいが前原君の頭を打ち付けた音。
その後に響いたのは前原君の情けない断末魔だけだった。
最近の出来事は秋が近くなってきた、ということでしょうか。
夜も冷えてきたし、昼は温いで済ませるような日々が続いてきました。
でも、どうせすぐに冬へと移行するんだろうなぁ……
実は私は秋が大好きなのです。
食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、紅葉の秋……。
色んな事が出来る秋は本当にありがたいものです。
ただ最近は秋の期間が短くなった気がする、凄い悲しい。
皆さんはどの季節が好きですか?