当小説は気を付けて頂きたい点がございますので、読まれていない方は是非ともそちらを先に読んでから本編を読んで頂きますよう宜しくお願い致します。
当小説での守護者の認識は『創造主>(越えられない壁)>アインズ(モモンガ)、ウルベルト>至高の41人>(越えられない壁)>ナザリックの仲間たち>(越えられない壁)>ナザリック外』となっております。
夜の闇に染まった世界、人間が統べる王国、強固な城壁に護られた街、木々が切り倒された平原。
細く弧を描く月の光のみが地上を照らす中、多くの者を眠りの底へと誘うはずの闇の中に大小様々な影が怪しげに蠢いていた。
大きな一つの塊となって闇に染まって平原を進むのは亜人の群れ。
いや、群れなどという言葉は生易しく、それは軍勢と言っても差し支えないものだろう。一つの種族だけではなく、
彼らの向かう先には強固な城壁に護られている人間の街が悠然と佇んでいた。
街の中では多くの人間たちが闇の中を駆けずり回っており、ある者は整列に加わり、ある者は城壁の上に駆け上がり、ある者は夜の闇に紛れて必死に息を押し殺している。
やがて街を護る人間の軍勢と平原を進む亜人の軍勢が城壁を隔てて対峙した。
先ほどまでの指示を飛ばす声も、草花を踏みしめる音ももはや聞こえることはない。この場には100を……いや、1000を超える生物がいるというのに、痛いほどの静寂が夜の闇に漂っていた。まるで小さな音をたてることさえ万死に値するとばかりに静寂が空気を張り詰めさせ、身を切るほどの緊迫感が平原を、街を覆い尽くす。
しかし何事にも終わりはやってくる。
まるで静寂のベールを振り払うように、亜人の軍勢の中から一つの影がポツリと進み出てきた。
目が覚めるような朱色の衣装を身に纏った仮面の男。見た目は細身の人間の男であるのに、しかしその腰からは異形の銀色の尻尾が揺らめいていた。
仮面の奥から発せられる声は聞く者を虜にさせるほどに甘く、柔らかく、優しい。恐らく美声と言われる声は本来こういった音なのだろうと思わせるほどの声。
男はその美声でもって自らの名を名乗り、目的を語り、この国に訪れるであろう絶望の未来を謳った。
人間側からの返答は大きな濁声と咆哮にも似た鬨の声。そして仮面の男に向けて放たれた五十を超える多くの矢だった。
白の赤の青の緑の……、多くの光の軌跡を残しながら一直線に飛んでいく矢の嵐。
その多くが男の痩躯に突き刺さり、しかし男は少しも揺らぐことはなかった。まるで何事も起こっていないかのように男が動き出し、刺さっていた矢も全てが灰のようにボロボロと崩れ落ちていく。
男は頭上に向けて優雅に手を挙げると、瞬間、燃え立つ巨大な岩の塊が空の彼方より人間の街へと飛来した。
炎の赤々とした軌跡を残し、世界を揺るがすほどの破壊音と振動と共に城壁が押し潰されて爆発する。
夜の闇を裂くように広がる様は、まるで絶望を孕んで咲き誇る巨大な紅蓮の華のよう。
一撃で無残な姿となった城壁を多くの炎が舐める中、遥か上空から一つの視線が地獄と化した街へと注がれていた。
「………美しいものだな…」
何処からともなく一つの声がポツリと夜の闇に零れ落ちる。
しかしそこには誰もいない。いや、誰の姿も
地上では平原で待機していた亜人の軍勢が動き出し、更には多くの悪魔たちが空へと舞い上がった。
一気に響き渡り始める多くの怒号と悲鳴。
亜人や悪魔たちはまるで羊に食らいつく狼のように城壁を越えて街の中へと雪崩れ込み、人間たちはまるで哀れな子羊のように逃げ惑い、向かっていった者たちは無残に斬り殺され、あるいは喰い殺されていった。
もしこの場に人間の詩人でもいたならば、正に地上の地獄だとでも表現したのだろうか……。
しかしここにそんな人物がいる筈もなく、地上では一方的な殺戮が繰り広げられ、やがて遥か上空の何もないはずの空間に一つの小さな風が流れて消えていった。
◇◆◇◆◇◆
人間が統治する国の中で、リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国と呼ばれる三つの国があった。
そしてつい最近、その三つの国に接するように存在するカッツェ平野を中心に、リ・エスティーゼ王国の辺境の街であったエ・ランテルを呑み込んで一つの国が誕生した。
名をアインズ・ウール・ゴウン魔導国。
人間だけでなく、アンデッドや亜人など、多種多様な種族が生きる国である。
統治体制は王政。
しかし魔導国の王は現在二人存在した。
一人は、名をアインズ・ウール・ゴウン魔導王。
偉大なる力を持った
そしてもう一人は、名をウルベルト・アレイン・オードル
積極的に民たちにも姿を見せるアインズ・ウール・ゴウン魔導王に対し、こちらは一度も姿を現したことがない謎多き存在。
魔導国の民でさえその姿を見たことのある者はおらず、その名前だけがもう一人の統治者として国や世界に知れ渡っていた。
本当はそんな人物などいないのではないか…と噂が囁かれることもあるが、しかし魔導国に住む者たちはその人物が実在していることを知っていた。
何故なら絶対者である魔導王や側近である異形たちが事ある毎にその人物について笑顔と共に語り合い、魔導王が現れる場においては、いつももう一人分の空席が必ず用意されるのだ。
まるでそこに見えない存在がもう一人いるかのように……。
魔導国に住む者たちは皆囁き合う。災華皇なる魔導王の友にしてもう一人の我々の支配者は一体どんな人物であろうか、と。
他国の者たちは皆不安を語る。災華皇なる人物は魔導王に次ぐ強大にして邪悪な存在ではないのか、と。
魔導王のシモベたちは皆喜色を浮かべて微笑みながら謳う。災華皇なる御方はまさに名にある通りの素晴らしい至高の御方である、と。
そして魔導国を統べるアンデッドたる王は……――
「―――……よっしゃー、やっと堂々と外に出られる! 張り切っちゃうぞーっ!!」
「ちょっ、張り切らないで下さい、ウルベルトさんっ!!」
地下深くにある墳墓の玉座に、嬉々とした歓声と慌てたような悲鳴が響いていた。