災厄の悪魔は正義を嗤う   作:ひよこ饅頭

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遅くなりましたが、漸く続きをUP!
今回は予想以上に長くなってしまいました……(汗)


第20話 魔の共演

 デミウルゴスは下げていた頭をゆっくりと上げると、視線の先にいる悪魔の支配者(オルクス)の姿に思わず胸を震わせた。

 探知阻害の指輪をはめているため偉大なる至高の気配は感じ取ることができないが、それでもヒシヒシと感じられる強者としての存在感。身が震え、気を抜けばすぐさま傅き頭を垂れたくなるほどの威風堂々とした偉容。

 創造主が目の前にいると言うだけでなく、共に何かを行うことのできる大いなる栄誉に、デミウルゴスは高鳴る鼓動をそのままに仮面の奥で嬉々とした笑みを浮かべていた。

 これからのことを考えるだけで期待と歓喜に胸が躍り、背後の尾の動きを制することもできない。加えて、先ほどウルベルトが発してきた言葉が胸をつき、どうしようもなく大きな興奮が湧き上がっていた。

 やはり御方は全て気付いていらっしゃるのだ……。

 気付いていないだろうとは思ってもいなかったけれど、しかしこうもありありと突きつけられてはその至高の叡智への感嘆と自身の未熟さに対するため息を抑えることができない。どこまでが彼の御方の掌の上なのだろう……と思案し、思わず今の状況も忘れて身震いしてしまうそうになった。

 一見人数的にはこちらの方が有利に見えるが、しかしそれは相手がウルベルトである以上成立し得ない。例え“あれ”がうまくいったとしても、ウルベルトであれば簡単に戦況を覆すことができるだろう。

 こちらには一欠けらの勝機もありはしない。言うなれば、正真正銘の出来レース。単なるお遊びに過ぎなかった。

 しかしだからこそ、自分たちのちょっとした“勝負”という名の遊戯になり得るのだとも言えた。

 ふとナザリックの第七階層で行われた晩餐会での会話を思い出し、デミウルゴスは無意識にゆら…と大きく銀の尾を揺らめかせた。

 当初、この戦いではウルベルトの言う通りデミウルゴス自身も最初から憤怒の魔将(イビルロード・ラース)を出そうと考えていた。しかしそれを止めて自分が出たのは、偏に晩餐会の折にウルベルトが口にした言葉が要因だった。

 自分のことを息子だと言い、親子喧嘩をしてみたいのだとどこか照れ臭そうな笑みを浮かべていた創造主。

 彼の御方が望まれている以上、それを叶えずして何がシモベだと言うのか。本当に親子喧嘩などしては恐れ多すぎて自害したくなるものの、しかしこれくらいであれば許容範囲内だ。少しでも親子喧嘩気分を味わってもらうために、デミウルゴスは内心で自身に活を入れた。

 

「さて……、まずはどうするか……。エントマ、お前は私の指示に従え。決して無茶はしないように」

「はっ、畏まりました」

「お前たちもくれぐれも無茶はしないように。もし少しでも無理だと感じたら、いつでも“人形”と入れ替わりたまえ」

「畏まりました。お気遣い、感謝いたします」

 

 ウルベルトの指示に、エントマだけでなく他のプレアデスたちも一様に頭を下げる。

 創造主が彼女たちの身を案じている以上こちらも気を配っておこう、とデミウルゴスは改めて気を引き締めさせた。

 

「よし、では始めるとしよう。どこからでもかかってきたまえ」

「……畏まりました。それでは…、参りますっ!」

 

 両手を軽く広げる創造主にデミウルゴスは一度深々と頭を下げると、次には頭を上げると同時に強く地を蹴った。ウルベルトへと突撃するデミウルゴスに従い、プレアデスの三人もエントマへと突撃する。エントマも迎え撃つために何枚もの符を取り出すが、しかし人数的にもレベル的にもエントマ一人でプレアデス三人を相手にするのは少々荷が勝ちすぎていた。

 潰す順番は、まずは弱者から――

 戦略的には非常にセオリーな行動であるため、ウルベルトがそれに気が付かないはずがない。

 どういった対応をされても良いように頭の中で幾つものシミュレーションを行いながら、デミウルゴスは駆け足はそのままに、自身の特殊技術(スキル)〈悪魔の諸相:鋭利な断爪〉を発動させた。一気に伸びた両手の爪が鋭く光り、目の前まで近づいたウルベルトへと襲いかかる。しかしウルベルトが身を反らして繰り出された攻撃をひらりと躱したため、爪は何も捉えることなく空を切った。

 

「〈転移門(ゲート)〉」

 

 追撃するデミウルゴスの攻撃を尚もひらりひらりと躱しながら、ウルベルトがポツリと魔法を唱える。

 まさか場所を移動するつもりなのかと咄嗟に警戒するも、しかし発動して現れる筈の楕円の闇が一向に現れず、デミウルゴスは内心で疑問符を浮かべた。

 しかしあることに気が付き、ハッとプレアデスたちの元へと視線を走らせる。その目にエントマの背後に現れた楕円の闇を見出し、デミウルゴスは思わず目を見開かせて宝石の眼球を露わにした。

 エントマは事前に〈伝言(メッセージ)〉で指示を出されていたのか、後ろに飛んでユリの拳を避けながら一切迷うことなく背中から転移門(ゲート)の中へと退避する。転移門(ゲート)はエントマを呑み込んだとほぼ同時に口を閉ざすと、次にはウルベルトとデミウルゴスの間に割って入るようにして現れた。

 

「爆散符!」

 

 転移門(ゲート)から現れたエントマが、容赦なく持っていた符をデミウルゴスへと投げつけてくる。

 瞬間、激しい爆発が目前で起こり、大きな衝撃波と爆風がデミウルゴスを襲った。

 100レベルのデミウルゴスがエントマの攻撃を受けて吹き飛ばされることはないが、しかし小さなタイムラグは生まれてしまう。加えて、すぐさまこちらのフォローに回ろうと駆け寄ってきたプレアデスたちの行動も悪手となった。

 

「〈核爆発(ニュークリアブラスト)〉」

 

 どこまでも静かな声と共に笑みに歪んだ金色の瞳と目が合う。しかしその目は一瞬で闇に覆われ掻き消えると、次の瞬間には先ほどのエントマの攻撃とは比べものにならないほどの大きな衝撃波がデミウルゴスたちを襲った。効果範囲が大きな攻撃魔法ということもあり、デミウルゴスやプレアデスたちだけでなく、周りの建物なども容赦なく破壊され粉々に吹き飛ばされていく。デミウルゴスもまた抗うことなく爆風に身を委ねて吹き飛ばされながら、内心では創造主の手際の良さに心から感服し感嘆していた。

 デミウルゴスの記憶が正しければ、この魔法は第九位階魔法であり、同位階の中では弱い方ではあるものの強いノックバック効果や毒、盲目、聴覚消失などの複数のバッドステータスを与える範囲攻撃魔法であったはずだ。これによりデミウルゴスとプレアデスたちは散り散りになり、合流するにはそれなりの時間を有することになるだろう。またバッドステータスに関しては、あらゆるバッドステータスに対しての完全耐性を持っているデミウルゴスは何一つ問題はないが、プレアデスの三人は恐らく何らかのバッドステータスを被ったはずだ。いくらルプスレギナがおりバッドステータスを取り除くことができるとはいえ、そのためには取り除くための行動を起こさねばならず、必然的に攻撃の手は緩むことになる。

 また、この攻撃は術者が効果範囲内にいた場合でも同様に効果を発揮するのだが、ウルベルトはエントマを連れて攻撃が自分たちに及ぶ前に転移して難を逃れている。言葉にすれば簡単に思えるその行動は、しかし自分以外の者も同様に逃がすというのは想像以上に難しいことだとデミウルゴスは理解していた。恐らく、なるべくスムーズにエントマと退避できるように敢えて彼女を自分とウルベルトの間に転移させたのだろう。そして次の一手を悟らせないために、あたかもこれが狙いであるかのように、ワザとエントマにデミウルゴスを攻撃させた。

 あまりに鮮やかな手腕に、デミウルゴスは無意識に仮面の奥で恍惚とした笑みを浮かべていた。流石は至高の主であり、我が創造主だと、誇らしさと崇拝の感情が湧き上がってくる。

 しかし、このまま感心している場合ではないことも事実。

 少しでも御方に楽しんで頂かねばならないのだと気を引き締めさせると、デミウルゴスは大分弱くなってきた勢いに従って空中で体勢を立て直した。地面に足をつき、靴の摩擦によって更に勢いを殺す。

 デミウルゴスは周囲に視線を走らせながら、まずは一つ手を打つべく仮面の奥で口を開いた。

 

「〈次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)〉」

 

 自身を中心に、転移阻害の空間を作り出す。

 ウルベルトの数多ある戦法の内の一つに、距離を自在に操り攻撃するものがあることをデミウルゴスは知っていた。魔法のような遠距離系の攻撃手段が少ないデミウルゴスにとって、相手に距離(間合い)を支配されることは非常にマズいと言える。ならば先手を打ってこちらが支配権を握る。これでこちらに有利に働かなくとも、不利になる要素は削れたはずだ。

 とはいえ油断などできようはずもなく、デミウルゴスは神経を研ぎ澄ませながらゆっくりと周囲へと視線を巡らせた。

 大分遠くまで飛ばされたと思っていたが、しかし周りを見回してみるに、どうやら最初の噴水の広場から北に500メートルほど離れた地点にいるようだった。

 あまり飛ばされなかったな……と思わず小首を傾げる。

 最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)であるウルベルトの力を持ってすれば、位階の低い一つの魔法でも相当な力を発揮する。にも拘らずこの程度の被害で済んだということは、恐らく相当力を抑えて発動されたのだろう。心優しい創造主のことだ、万が一にも自身やプレアデスたちに重傷を負わせてはならないと気遣ってくれたのかもしれない。

 創造主からの慈悲に感極まる思いを湧き上がらせながら、しかし一方で手心を加えさせてしまう自分たちの不甲斐なさに落胆をも感じた。

 至高の主と渡り合えるなどとは微塵も思ってはいないけれど、しかし創造主に作り出された身である以上、事実にかまけて甘え続けるわけにはいかない。もっと精進せねばと気持ちを新たにし、今は目の前のことに集中するべく意識を切り替えた。まずはプレアデスたちと合流した方が良いだろうと周りに視線を走らせる。

 瞬間、大きな破壊音と共に少し離れた場所に建つ建物が崩れ、デミウルゴスは弾かれたように勢いよくそちらを振り返った。

 ガラガラ……と瓦礫と化した壁の一部を落下させながら地面に沈んでいく多くの建造物たち。続いて瓦礫や建造物の隙間から時折覗く光と聞こえてくる破裂音に、デミウルゴスはすぐさま〈悪魔の諸相:触腕の翼〉を発動させた。朱色のスーツに覆われている背に、幾つもの触手で形作られた大きな両翼が姿を現す。

 デミウルゴスは強く地を蹴ると、そのまま翼を羽ばたかせて宙へと舞い上がった。

 恐らくあの場でウルベルトとプレアデスたちが戦っているのだろう。早く向かわなければプレアデスたちは尽く全滅してしまうかもしれない。あまりに呆気なさ過ぎてはウルベルトに退屈だと思われてしまう可能性があり、デミウルゴスは急いで未だ破裂音が聞こえてくる場所へと翼を羽ばたかせた。

 崩れ落ちていく瓦礫や建造物の隙間を掻い潜り、ウルベルトたちの位置を把握するべく視線を走らせる。

 瞬間、今まさに突撃しようとしているユリと、それを迎え撃とうとしているウルベルトの姿が目に映り、デミウルゴスは咄嗟に宙に制止してウルベルトへ向けて大きく翼を羽ばたかせた。翼を形作っている幾つもの触手が逆立ち、まるで大きく細く長い棘の様になって我先にとウルベルトへと発射される。

 

「――……式蜘蛛符っ!!」

 

 しかしデミウルゴスの放った多くの触手がウルベルトの元へ届く前に、その進行方向に幾つもの大きな蜘蛛がどこからともなく現れた。キシャァァっと耳障りな奇声を上げながら、蜘蛛たちは次々と幾つもの触手をその身に受ける。

 それは正しく幾つもの従順な肉壁。

 術者に命じられるがままに幾つもの触手に身を晒して命を落としていく蜘蛛たちに、しかしそれに構うモノは誰一人としていなかった。

 エントマは聖印を象ったような巨大な聖杖で襲いかかるルプスレギナの攻撃を避け、ウルベルトはいつの間に持っていたのか巨大な青白い杖を振るって攻撃を繰り出そうとしていたユリを逆に吹き飛ばし、すぐさまデミウルゴスの方へと向き直ってきた。杖を持っていない方の手の人差し指を突き付け、瞬間、指先に巨大な青白い光が宿った。

 

「〈万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)〉」

 

 デミウルゴスに向け、巨大な豪雷が空を切り裂いて一直線に襲いかかってくる。

 回避は不可能。魔法や特殊技術(スキル)での迎撃も難しいと判断すると、デミウルゴスは咄嗟に翼を身に纏わせて防御の体勢をとった。

 次の瞬間、全身を襲う大きな衝撃と強烈なダメージ。

 たった一撃の攻撃がこんなにも凄まじいとは……と内心で舌を巻きながら、次の一手を打つべくすぐさま頭を切り替えた。

 ここで大切なのは、いかに早く次の一手を繰り出すかだ。こちらが不利である以上、少しでも手数を増やして相手側の隙を生み出す必要がある。

 デミウルゴスは全身に未だ走る衝撃と痺れを半ば振り払うように翼を羽ばたかせると、更なる特殊技術(スキル)を自身の肉体に施した。

 

「〈悪魔の諸相:豪魔の巨腕〉!」

 

 瞬間、デミウルゴスの右腕が一気に肥大化し、まるで迫りくる巨大な壁の様に勢いよくウルベルトへと襲い掛かった。

 その動きは肥大化した大きさに反してとてつもなく速い。

 通常大きな物体が動く場合、その肉体が大きければ大きいほど動きは大振りで緩慢なものとなる。しかし100レベルであるデミウルゴスの肉体は、そんな常識を軽く無視して凌駕する。繰り出された拳の速さは緩慢と言うにはほど遠く、まるで弾丸のように鋭く突き進んでいった。

 しかし、拳が向かう先にいるのもまた100レベルの存在。

 異形の不気味な金色の瞳はどこまでも静かに向かってくる拳を見据えており、漆黒の身体は次にはふわっと軽く舞い上がって容易く拳を避けてみせた。加えてそのまま突き伸ばされた拳の上に舞い降りると、次の瞬間、まるで弾かれたように勢いよく巨大な腕の上を疾走し始めた。

 自身の腕の上を走りながら突撃してくる創造主に、デミウルゴスは驚愕と共に大きく目を見開かせる。咄嗟に特殊技術(スキル)を解除して腕を通常のサイズに戻すも、ウルベルトは既に目と鼻の先にまで迫っていた。こちらに振り下ろされる青白い杖に、反射的に爪を振るって応戦する。

 瞬間、ガキンッという鋭い音が響き渡る。

 思わず弾かれた衝撃に身を仰け反りそうになるも何とか堪え、デミウルゴスは全身に力を込めて無理矢理体勢を立て直した。

 純粋な魔法詠唱者(マジックキャスター)であるウルベルトと違い、どちらかというと肉弾戦に秀でているデミウルゴスの方が身体能力は上。体勢を整える速度も次の一手を繰り出すのもデミウルゴスの方が早く、未だ体勢が整わぬウルベルトへと素早く爪を繰り出した。

 尤も、デミウルゴスにウルベルトを傷つける意思は微塵もない。実際に攻撃が及びそうになった場合は既のところで動きを止めるか、ほんの少し御身に触れる程度にするつもりだった。今回のこの攻撃も、爪が御身を傷つけないように直前で止める予定だった。

 しかし、そんなある意味甘い考えは崇拝する創造主自身によって容赦なく吹き飛ばされた。

 デミウルゴスが直前で攻撃の動きを止めようとしたその時、青白い杖が光り輝いたと同時にウルベルトの身体が不自然な動きと共に勢いよく応戦の構えをとった。

 瞬間、再び振るわれた杖と弾かれた己の右手。

 一体何が起こったのか分からず、デミウルゴスは咄嗟に翼を羽ばたかせて一気に後ろへと退いた。ウルベルトと距離を取り、少し離れた地面へと舞い降りる。

 

「どりゃあぁっ!!」

「…ふっ…!!」

「……っ!!」

「〈重力の鎖(グラビティ・チェイン)〉」

 

 デミウルゴスが距離を取ったことで攻撃の手を止めたウルベルトに、すぐさま背後からルプスレギナとユリとソリュシャンがどこからともなく現れて襲いかかる。

 しかしウルベルトが振り返ることもなく肩越しに指先だけを三人に向け、詠唱を唱えたことで魔法が発動。何倍にも強力となった重力が効果範囲内にいる全てのものを容赦なく地面へと引き寄せた。効果範囲内にいたルプスレギナとユリとソリュシャンは勿論のこと、瓦礫や未だ無事な建造物までもが地面へとひれ伏し、脆いものは呆気なく崩れて地面にその身を這わせる。

 全く動けなくなった三人には目もくれず、ウルベルトはじっとデミウルゴスを見つめ続ける。

 どこか様子を窺うような創造主の姿に、デミウルゴスは緊張の糸は緩めないまでも少し情報を整理しようと徐に口を開いた。

 

「流石はウルベルト様、見事な御手前でございます」

「…ふむ、お前に褒められるとは嬉しいな。お前も、その身のこなしや攻撃手段の選び方は見事だと思うぞ」

「おおっ、ウルベルト様にお褒め頂けるとは! 恐悦至極にございます」

 

 溢れ出る歓喜そのままに胸に手を当て、深々と頭を垂れる。

 創造主に褒められるというのは、被造物にとって何よりの栄誉だ。

 湧き上がってくる歓喜を噛みしめながら、デミウルゴスはゆっくりと頭を上げ、そこで改めてウルベルトの手にある見慣れぬ杖へと視線を向けた。

 

「……ウルベルト様、一つお伺いしてもよろしいでしょうか? その杖は見覚えのないものですが、ウルベルト様御自らが魔法でお創りになったのでしょうか?」

「ああ、これか。……ふむ、本来は対戦相手に情報を渡すのはご法度なんだが、……まぁ、今回は別に良いか。この杖は私が魔法で創ったものではない。以前……、ユグドラシルにいた頃に武人さんにもらった物だよ」

「っ!! なんと、武人建御雷様から……!!」

 

 まさかそんな至宝だとは思い至らず、思わず驚愕の声を上げて少し身を乗り出す。いつにないデミウルゴスの様子を面白いとでも思ったのか、ウルベルトはクスッと小さな笑い声を零してきた。向けられる金色の瞳は柔らかく細められ、まるで子供を見守る親のような慈しみがこもった眼差しで見つめられる。それに羞恥心が湧き上がってくるものの、しかしそれでもデミウルゴスは創造主の持つ杖への好奇心が押さえられなかった。

 ナザリックのシモベにとって、至高の四十一人に関する全てはあらゆる感情を湧き上がらせる。

 恐らくウルベルトもそれを理解してくれているのだろう、未だ柔らかな眼差しはそのままに、自身が持っている杖を軽く振るって見せた。

 ウルベルトの持つ杖は約二メートルにも及ぶ長大な代物。青白く輝くクリスタルで出来ているのか、透明度が高くキラキラと光を反射する様は非常に美しい。繊細で華奢でありながら豪奢な気品をも併せ持ったそれは、正に悪魔の支配者(オルクス)であり自身の創造主であるウルベルトが持つに相応しい代物であると言えた。

 

「この杖の名前は“守護三連魔神器”。打撃攻撃が出来ることに加え、物理攻撃と魔法攻撃に対する防御力の上昇、神聖属性に対する完全耐性を使用者に与える。そして何より、第三位階魔法と同程度の魔力消費と引き換えに物理攻撃に対してパリィが出来るっていう優れ物だ。中々に良い品だろう?」

 

 小首を傾げて同意を求めてくるウルベルトに、しかしデミウルゴスにとっては『良い品』という言葉で片付けられるようなものではなかった。

 それは正に至宝。至高の存在である武人建御雷にしか作り出すことのできない神杖であると言えた。

 

「そのような至宝であったとは……。ウルベルト様に相応しい代物だと存じます」

「ふふっ、ありがとう、デミウルゴス」

「……では、先ほどのウルベルト様の動きはパリィを使用してのものということでしょうか」

「そうだな。その考えで合っているよ」

 

 一つ頷き、次には杖を一度大きく振るう。瞬間、氷の様に輝く先端の内部に炎が燃え上がるように怪しい赤い光が現れ揺らめいた。同時に杖全体からも赤黒いオーラが溢れ出だし、ウルベルトの全身へと纏わりつき包み込む。

 恐らく杖の能力を発動させたのだろう。神聖属性の攻撃は悪魔であるデミウルゴスは使用できないため、神聖属性に対する完全耐性の能力を発動させる必要はない。であれば、恐らく発動させたのは物理攻撃と魔法攻撃に対する防御力の上昇の方だろう。

 

「……さて、種明かしはしたし、そろそろ続きを始めようか。ルプスレギナ、ユリ、ソリュシャン、お前たちはここで終了だ。“人形”と交代したまえ」

「……か、…かしこまり、ました……」

 

 ウルベルトの行動の意味を予想する中、ウルベルトが未だ地に伏しているプレアデスたちに声をかける。

 魔法が解かれて重力から解放された彼女たちは、しかし返事はしたものの身動き一つせず立ち上がろうともしなかった。

 いや、立ち上がることができないのだろう。

 それほど受けたダメージが強かったのか、それともこれまで蓄積されたダメージにより限界を迎えたのか……。非礼にならないよう何とか起き上がろうと足掻いてはいるものの、しかし地面に触れる肢体は小刻みに震えていた。

 ナザリックのシモベたちの感覚からすれば、その姿は無様でしかなく、どんな理由があるにせよ至高の存在に礼の姿勢を取らぬことは無礼であるとみなされる。しかし残虐で冷酷な悪魔たれと望まれた一方、仲間に対しては寛容で慈悲深くあれとも創造されたデミウルゴスは、彼女たちへの哀れみの感情を湧き上がらせずにはいられなかった。

 彼女たちも自身のこの状態を決して受け入れてはいないだろう。自分自身の不甲斐なさと至高の御方への無礼の罪深さに、今も自害してしまいたい衝動にかられているに違いない。

 せめて彼女たちの気持ちが少しでも軽くなるように手を貸そうと一歩足を踏み出し、しかしそれよりも創造主が動く方が早かった。

 ウルベルトは徐にアイテムボックスを出現させて手を突っ込むと、中から赤い液体瓶と黒い液体瓶を取り出した。

 それは今ではとても貴重な品となっている、ユグドラシル産の赤いポーションとダーク・ポーション。

 しかしウルベルトは一欠けらの躊躇いもなく、未だ地に伏しているルプスレギナとソリュシャンには赤いポーションを、そしてユリにはダーク・ポーションを一滴残らず振りかけた。

 瞬間、ポーションが削られた体力を回復させ、三人はなんとかその場に立ち上がる。

 彼女たちはすぐさま深く頭を垂れて何かを言おうと口を開きかけ、しかしその前にウルベルトが無造作に空瓶をアイテムボックスに戻しながら口を開いた。

 

「ほら、そんなに畏まる必要はないのだよ。これは私が好きでやっていることであるし、お前たちは私の我儘に付き合ってくれているのだからねぇ」

「で、ですが……私どものようなモノに貴重なアイテムを使うなど……」

「アイテムは使ってこそ意味がある。確かに貴重なものを無闇矢鱈に無駄遣いするのは良くないが、少なくともお前たちに使うことは決して無駄などではないよ」

「……ああ、何と言う慈悲深きお言葉…。感謝いたします、ウルベルト・アレイン・オードル様」

 

 至高の主からの寛大な言葉に、プレアデスたちは歓喜と恐れ多さに小さく身を震わせ、なおも深く頭を垂れさせる。

 ウルベルトはクスクスと小さな笑い声を零すと、プレアデスたちに早く“人形”と入れ替わるように指示を出し、次にはデミウルゴスへと視線を移した。

 自身の姿を映す金色の瞳に、デミウルゴスは自然と背筋を伸ばす。それでいてこれからのことに思考を巡らせる中、まるでそれを遮るかのようにウルベルトに声をかけられた。

 

「では、そろそろ始めようか。あまり時間が長引けば聖王国の者たちに不審がられてしまうだろうからね」

「はい、ウルベルト様の仰る通りかと。……それでは、私も憤怒の魔将(イビルロード・ラース)と入れ替わった方がよろしいでしょうか?」

「いいや、お前の好きなタイミングで入れ替わってもらって構わないよ」

 

 柔らかな微笑みと共に返された言葉に、デミウルゴスはゾクッと小さく背筋を震わせた。

 やはり全て気付かれている……と改めて思い知らされる。

 決定的な場面を見られたわけではない。気配も存在も探知されてはいなかったはずだ。自分の言葉にもどこにも不自然なものはなかったはずである。

 しかし、それでも全てを見抜かれている。

 全ての事象も全ての思惑も把握して、時にその中でワザと踊って見せ、招き入れられたという素振りを見せながらも最後には本性を露わにして全てをその手中で踊り狂わせる。

 なんという叡智か。なんという先見の明か。

 彼の御方にかかれば、ナザリック一の叡智を持つモノとして創造されたはずの己とて足元にも及ばない。

 際限なく湧き上がってくる畏怖と崇拝の心に身を震わせる中、不意にクスッという小さな笑い声が聞こえてきた。

 いつの間にか俯かせていた顔を反射的に上げれば、ずっとこちらを見つめていたのだろう、創造主の金色の瞳とバッチリと目が合う。

 咄嗟に無様な姿を晒したと血の気を引かせると、デミウルゴスは思わずその場に片膝をついて深々と頭を垂れた。

 

「も、申し訳ございません! この様な無様な姿をウルベルト様にお見せしてしまうとは!!」

「フフッ、いやいや、構わないよ。何かを深く考えるということはとても良いことだ。何も考えないよりかはずっと良い。私はお前を炎獄の造物主としてだけでなく、叡智の悪魔としても創ったのだからねぇ。思考することは止めないようにしなさい」

「はっ、御身の御意のままに」

 

 その言葉は正しく天啓。絶対の言葉であり、必ず従うべきものである。

 畏まってその言葉を賜る悪魔に、ウルベルトは再び小さな笑い声を零した後、次には『さて…』と気分を切り替えるように言葉を零した。

 

「では、続きを始めようか。そうだな……、どうせなら接近戦でもしてみようか。お前はそちらの方が戦いやすいだろうし、私も少しでも接近戦の経験値が欲しいからね」

「はっ、それは構いませんが……、宜しいのでしょうか……」

「フフッ、私が言っているのだから勿論構わないとも。まぁ、本当に危なくなったら魔法を使ってしまうかもしれないが、それは許してくれ」

「勿論でございます! どうぞ、ご随意にお使いくださいませ」

 

 ビシッと腰を90度曲げて頭を下げるデミウルゴスに、ウルベルトがおかしそうにクスクスと笑い声を零す。

 しかし、それは瞬きの間のみ。

 次には〈飛行(フライ)〉の魔法を唱えて地面から数十センチほど浮き上がると、一拍後にはデミウルゴスへと突撃してきた。

 普通に考えれば純粋な魔法詠唱者(マジックキャスター)自らが距離を縮めるというのはどう考えても愚策。しかしウルベルトの持つ“守護三連魔神器”と、何より魔法詠唱者(マジックキャスター)とは思えぬ身のこなしが、そんな常識を覆していた。

 デミウルゴスも特殊技術(スキル)によって長く鋭くなった爪や長い尾を駆使して応戦しながら、『なるほど…』と内心で舌を巻いた。

 デミウルゴス自身、ウルベルトがアルベドとコキュートスとパンドラズ・アクターから接近戦の手ほどきを受けていることは知っていた。しかし、まさかここまで腕を上げられているとは……と目の前の創造主の強さに感嘆を止められなかった。

 確かに同じ至高の御方であるアインズも、冒険者モモンとしては戦士として相応の力を発揮している。しかしアインズの場合は自身に〈完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)〉を施しているため、その強さにも納得はできたのだが……。

 デミウルゴスは一度クルッと全身を回転させて遠心力を加えると、その勢いのままに長い尾でウルベルトの杖を強く弾いた。ウルベルトがうまく威力を逃がして体勢を整えるのに、デミウルゴスは翼を羽ばたかせて上空へと舞い上がる。そのまま垂直にぐんぐんと高度を上げながら、下からウルベルトが追ってくるのを感じていた。

 しかしデミウルゴスの動きは止まらない。

 上空に静止してウルベルトと対峙するわけでもなく、まるで逃げるように高度を上げ続けながら口の中で小さく詠唱を唱える。

 瞬間、赤い魔法陣が出現し、デミウルゴスの細身の身体を覆うように展開した。

 普通であれば、主が接近戦を所望したならば最後までそれに準ずるのが務めだ。ここでデミウルゴスが魔法を使用するのは、主の意向に反する行動だと捉えられるかもしれない。

 しかしウルベルトの通常の戦法は魔法であり、決して接近戦闘ではない。

 それに……と、デミウルゴスは漸く上空で動きを止めた。

 下から追ってくるウルベルトを見下ろし相対する。

 創造主に楽しんで頂きたいという思いも勿論嘘ではないが、それ以外にも“同じ状況になった時、創造主は一体どういった行動を取るのか”デミウルゴスには興味があった。

 故に唱えたのはデミウルゴスが修得している数少ない魔法の中でも最高位のものの一つ。炎を纏いし、破壊の化身を出現させる魔法。

 

「〈隕石落下(メテオフォール)〉」

 

 詠唱が終わったと同時に、“それ”は姿を現した。

 雲を裂き、遥か上空から姿を現したのは炎を纏った巨大な塊。

 まるで太陽のように光り輝きながら地上へと舞い降りようとしている炎塊に、ふと上空で停止しているデミウルゴスと上昇を続けていたウルベルトの視線がかち合った。

 瞬間、ウルベルトの動きが緩やかに止まり、次には真っ逆さまに下へと落ちていく。

 創造主の突然の行動に、デミウルゴスは仮面の奥で大きく目を見開かせた。

 〈飛行(フライ)〉の魔法を消したのだろう、ウルベルトは重力に従ってどんどんと速度を上げて地上へと落下していく。

 例えこのまま地面に衝突したとしても、至高の御身であるウルベルトが傷を負うとは考え難い。しかし万が一という考えが頭を過ぎり、デミウルゴスは思わず翼を羽ばたかせて落下し続ける創造主を追いかけていた。

 遥か上空から凄まじい速さで落下していく二体の悪魔と、それをゆっくりと追随する巨大な炎の岩石。

 いち早く地上に着いたウルベルトは地面に激突する直前で再び〈飛行(フライ)〉を唱えて空中で静止した。そのまま何事もなく地面に足をつけ、瞬間、ウルベルトを中心に巨大な魔法陣が出現した。

 未だ追うように落下しているデミウルゴスと、地面に着地して頭上を見上げるウルベルトの視線が再びかち合う。

 ゆっくりと山羊の口が開かれ、何事かを呟いた。

 

『――……よ…け…ろ…』

 

 デミウルゴスが正確に口の動きを読んだその時、ウルベルトの足元の魔法陣が一層光り輝き、魔法が発動した。

 魔法陣から姿を現したのはいくつもの巨大な氷の蛇。

 しかしその見た目はコキュートスのような透き通ったダイヤモンドのような輝きを放つものではない。まるで雪に覆われた木の枝のように霜に覆われ、加えて全身から放たれている冷気によって周りが白くけぶっていた。

 とはいえ、その見た目に反して動きは素早い。

 まるで空気が高速で凍結するかのように蛇たちは蛇行しながら空を泳ぎ、デミウルゴスの横を通り過ぎて遥か上空の炎塊へと我先にと襲いかかっていった。その際、蛇たちの纏う冷気がデミウルゴスを襲い、触れていないにも拘らずデミウルゴスの身体を凍らせてダメージを与えてくる。

 炎獄の造物主であるはずの自分にまでこれほどのダメージを与えるとは……と、デミウルゴスはあまりの威力に驚愕と小さな畏怖を湧き上がらせた。

 思わず蛇たちの動きを追うデミウルゴスの視線の先で、蛇たちは次々と頭上の炎塊へと牙を突き立てる。

 蛇たちは炎塊が発する熱に溶けることもなく次々と咬みつくと、次にはそこから更に氷と霜が炎塊の肌を走り、瞬く間に覆っていった。襲いかかる蛇の数は多く、炎塊は成す術もなく急速に凍り付いていく。更に言えば蛇たちの尾は全て未だ魔法陣が広がっている地面に埋まり繋がっており、凍り付いた隕石をしっかりと支えていた。

 その様は、遠目から見れば地面から生えた幾つもの雪の枝が、大きな巨石を上空で絡め取って地面に落ちないように支えているように見えることだろう。

 そのあまりに壮大で強烈な威力と事象に、デミウルゴスは未だ身体の至る所を氷結させながらも動きを止めた蛇たちの胴体の隙間を漂うように飛び、感嘆の吐息を零していた。

 これぞ正に至高の力。神にも等しき至高の御方の力そのものなのだろう。

 そこまで考えて、いや……と心の中ですぐさま否定した。

 先ほどの魔法の詠唱時間と発動した威力から推測するに、この魔法は恐らく第10位階魔法。決して超位魔法ではないのだろう。となれば、今目の前で起こった全ては創造主の力の僅か一端でしかないということに他ならない。

 

(……嗚呼、何という高みか…。正に至高なる存在、神さえも我が創造主には敵うまい……。)

 

 創造主の力に感極まり、高揚する感情を抑えられない。

 しかし、そこでふと〈伝言(メッセージ)〉が繋がり、デミウルゴスは熱を帯びていた思考を一瞬で冷やして切り替えた。同時にひどく残念な感情が湧き上がってくる。

 本当はもう少し創造主と共にいたかったのだが、こればかりは仕方がない……。

 デミウルゴスは〈伝言(メッセージ)〉の相手に短く指示を飛ばすと、次には〈炎の爆裂波(ファイヤー・エクスプロージョンウェーブ)〉を発動させた。

 瞬間、紅蓮の炎が爆発し、大きな渦を巻き上げながら激しい衝撃波が荒れ狂う。

 デミウルゴスは炎の渦の中心にその身を隠しながら、憤怒の魔将(イビルロード・ラース)を呼び出して自身と入れ替わらせた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 突然の悪魔たちの襲来に、小都市ロイツにいた聖王国の民たちは大きな恐怖に襲われながらも必死に都市外へと避難していた。

 彼らが恐慌状態に陥らなかったのは、偏に必死に彼らに声をかけて道を示していた聖騎士や神官たちの存在があってのことだろう。

 ヘンリーもまた聖騎士の仲間たちと共に必死に声を張り上げながら、民たちと共に都市の外へと逃れていた。

 周りに犇めき合う民たちを見渡しながら、先ほど聞いた情報を脳裏に蘇らせる。それと同時に湧き上がってくる感情に、ヘンリーは思わず強く拳を握りしめた。

 他の聖騎士から、遂にヤルダバオトが姿を現したのだと聞かされた時は心臓が止まるのではないかと思うほどの衝撃を受けた。災華皇(さいかこう)が相手を務めるとのことで他の者たちは全員都市外に避難するよう命じられたが、果たして本当にそれで良かったのだろうか……。

 しかしそれと同時に湧き上がってきた相反する感情に、ヘンリーは思わず眉間に大きな皺を寄せた。

 ヘンリーの中で、敵を前にして逃げなければならない事への屈辱と、ヤルダバオトに対する恐怖、そしてヤルダバオトから逃げることのできる小さな安堵が激しく鬩ぎ合う。

 国に仇なす者を排除する役を担う聖騎士が何たることか、と他の聖騎士に知られれば叱責を受けるかもしれない。しかし、情けないことではあるがそれが今のヘンリーの正直な感情だった。

 

 

 

「――……ヘンリー…っ!!」

「っ!? ……アルバ!!」

 

 突然名を呼ばれ、物思いに沈んでいた意識が浮上して咄嗟に声が聞こえてきた方を振り返る。

 振り返った先にはこちらに駆けてくる昔馴染みの姿があり、逃げる民たちに流されそうになっているところを咄嗟に手を伸ばして掴み引き寄せた。

 

「すまん、助かった……。そちらはどうなっている?」

「何とか全員避難できたようだ。そちらはどうだ? 神官たちは怪我人の移動を手伝っていたのだろう?」

「こちらもどうにか全員移動できた。それよりもヤルダバオトが乗り込んできたというのは本当なのか?」

「そう聞いている。災華皇閣下が相手をされると聞いてはいるが……」

 

「……ノードマンさん! ユリゼンさん!!」

 

 そこに、再び新たな声が聞こえてきて二人はそちらへと顔を向けた。

 見覚えのある小柄な少女が人混みの中を懸命にかき分けながらこちらに駆けてくる。

 何とか目の前まで来た少女は持ち前の人相の悪い顔をこちらに向けると、鋭い双眸で睨み上げてきた。

 

「お二人とも、ご無事なようで良かったです。皆さん、全員無事に避難はできたのでしょうか?」

 

 声と言葉だけを聞けば生真面目で優しい少女だと分かるのだが、顔を見ると途端に喧嘩を売られている様にしか見えなくなってしまうのはかわいそうだな……とヘンリーはネイアを見つめながらふと場違いなことを内心で呟く。しかしそんな呑気なことを考えている状況ではないことは分かっているため、ヘンリーは素知らぬ顔で真剣な表情を顔に瞬時に張り付けた。

 

「ええ、恐らく全員が問題なく避難することができたでしょう。……それよりも、災華皇閣下がお一人でヤルダバオトと戦うと聞いたのですが、それは本当なのですか?」

「……はい。支配下に置いたエントマというメイド悪魔は連れていますが、それ以外は一人も連れていません。私も同行を願い出たのですが、足手まといになると言われてしまいました……」

 

 顔を俯かせて肩を落とす少女に、ヘンリーはその口惜しさに共感して思わず眉尻を下げさせた。咄嗟に口を開きかけ、しかし何を言えばいいのか分からず黙り込む。

 災華皇の力を思えば、誰であろうと彼の足手まといになってしまうだろう。それはネイアとて誰に言われるまでもなく分かっているはずだ。

 分かりきったことを言われたところで何の慰めにもならず、しかしこのまま放っておくこともできずにヘンリーは再び口を開きかけた。

 しかしその時、ふと視界に何か白いものが映り込んだことに気が付いて思わず意識をそちらへと向けた。

 

「……ん……?」

「……どうかしましたか?」

 

 思わず顔を向けて声を零すヘンリーに、顔を俯かせていたネイアも反応して顔を上げてくる。

 ネイアとアルバもヘンリーの視線を辿るように顔を動かし、そこにいた人物に思わず訝しげに顔を顰めさせた。

 

「………誰だ、あれは…?」

 

 ヘンリーとネイアの心情を代弁するかのようにアルバが顔を顰めさせながら小さく言葉を零す。

 彼らの視線の先には人混みに紛れるようにして聖騎士団の女団長が白いローブを身に纏った見知らぬ五人ほどの集団と対峙していた。白いローブの集団は一度レメディオスに頭を下げると、次には都市の中へと駆け去っていく。レメディオスは暫くその白い背中を見送った後、すぐに何事もなかったかのように踵を返して部下たちがいるのであろう方向へと歩き去っていった。

 一連の光景が妙に心に引っかかり、ヘンリーたちはなおも顔を大きく顰めさせる。

 しかし彼らが何事かをする前に、まるでそれを遮るかのように突然の衝撃と突風がヘンリーたちを襲った。

 

「「「っ!!?」」」

 

 咄嗟に身を縮み込ませ、吹き飛ばされないように足を踏ん張る。周りの民たちも突然のことに悲鳴を上げる中、ヘンリーは突風が止んだと同時に顔を上げて都市中心へと視線を走らせた。

 瞬間、目に飛び込んできたのは無残に崩壊している都市中心部の光景。

 しかし崩壊はそれだけでは終わらない。今も幾つもの建物が次々と崩壊し続け、土煙を上げながら地響きと共に地面へと崩れ落ちていた。

 その隙間から幾つもの色とりどりの閃光と、一拍遅れて激しい破壊音がこちらにまで響いてくる。

 恐らくあそこで激しい戦闘が繰り広げられているのだろう。

 ヘンリーたちは先ほどの白いローブたちの存在など忘れ、只々固唾を呑んで閃光が絶え間なく放たれている場所を食い入るように見つめていた。

 

「……あっ…!」

 

 不意に誰かが声を上げる。

 目を凝らせば紅色の一つの人影が垂直に空へと飛んでおり、続いて漆黒の人影もまるでそれを追いかけるように飛んでいるのが目に入った。

 

「……あれが…、ヤルダバオト……」

 

 隣でアルバがポツリと言葉を零す。ヘンリーはアルバを振り返ることなく、ただ上昇を続ける二つの影を見つめながら大きく頷いた。

 彼の言う通り、あの紅色の影が魔皇ヤルダバオトなのだろう。では、それを追っているのが災華皇だろうか。

 まるで追いつめているかのようなその光景に、自然と胸が熱く高揚していく。

 誰もが希望と期待を胸に食い入るように見つめる中、しかしまるでそれを嘲笑うかのように“それ”が現れた。

 

「っ!!?」

「……こ、これは……!!」

「ああ、そんな…っ!!」

 

 ヘンリーが思わず息を呑む中、周りでも多くの人々が悲鳴を上げ始める。

 彼らの目に映ったのは、上空に突如現れた赤々とした巨大な炎の塊。それはこの大戦が始まる際にヤルダバオトが城壁を破壊するために召喚したものであり、また先の小都市防衛戦の折には災華皇も召喚したもの。小都市防衛戦の時には5000もの悪魔の軍勢を一撃で灰塵に帰しており、聖王国の人間はその恐ろしさを目の当たりにしていた。

 その強大な力が、今再び目の前で猛威を振るおうとしている。加えて、今までヤルダバオトを追い詰めるように飛んでいた災華皇が突然地上に落下し始めたため、周りからは新たな悲鳴が湧き上がった。一体何が起こったのかと、誰もが恐怖と焦燥に顔を蒼褪めさせ、絶望に支配される。

 しかし再び状況は一変した。

 突然地上から出現した幾つもの真っ白い何か。

 まるで白い木の枝のようなそれは、我先にと轟々と燃え立つ炎塊へと襲いかかり、その身を絡め取ったと同時に容赦なく凍り付かせた。

 

「す、すごい……!!」

「何が起こったんだっ!?」

 

 目の前で起こったことが信じられず、周りが再び騒めき始める。

 しかし良くも悪くも、それは長くは続かなかった。

 次に起こったのは、突如現れた赤々とした爆発と渦を巻く大きな炎。激しい熱波が生じてこちらにまで届き、そのあまりの熱さと激しさに誰もが悲鳴を上げる。

 しかし、熱波が通り過ぎた後に顔を上げたヘンリーたちは、そこに見つけた“それ”に目を大きく見開かせて全身を硬直させた。

 彼らの視線の先にいたのは魔皇ヤルダバオト。

 しかしその姿は先ほどまでの細身で小さなものではなく、この距離でも分かるほどに巨大で赤々と燃え立つ、正に“悪魔”という言葉が相応しいものへと変貌していた。

 それからは小さな声さえも零す者は誰一人としていなくなった。

 目の前で繰り広げられる、幾つもの色とりどりの閃光。しかしその規模は先ほどとは雲泥の差で、その一つ一つ全てが音だけでなく余波をもこちらにまで届かせていた。炎が上がればこちらにまで熱波が届き、氷が降れば冷気がこちらにまで襲いかかり、雷が走れば衝撃がこちらにまで駆け抜け、地が揺らげばこちらの地面も激しく振動する。

 それは正に人知を超えた壮絶な戦い。まるで神話や物語でしか語られぬような戦いが、今自分たちの目の前で繰り広げられていた。

 誰もが圧倒された。そして誰もが魅了された。

 ヤルダバオトが巻き起こす禍々しい破壊の力に対し、迎え撃つ災華皇が放つ力の何と力強く美しいことか……。

 正に“災華皇”という名の通り、災華皇の魔法は全てが色とりどりに咲き乱れる美しい華のようだった。

 災華皇が再び上空に舞い上がり、瞬間、巨大な魔法陣が空一杯に出現する。

 淡く美しい光を放ちながら展開していくそれに、ヘンリーを含むこの場にいる多くの者が両手を胸の前で組んで祈るように見つめていた。

 しかし、その時……――

 

「っ!!?」

「ああっ!!?」

「何が…、一体何が起こったんだ!!?」

「閣下はどうなった!!?」

「いやぁぁぁっ!!」

 

 誰もが眦を裂かんばかりに目を見開かせ、恐怖と絶望の悲鳴を上げる。

 災華皇の勝利を多くの者が願う中、まるでそれを打ち砕くかのように突如地上から幾つもの鋭い閃光が空を切り裂いて上空に浮かんでいた災華皇の身体を貫いた。

 瞬間、空に展開されていた魔法陣が溶けるように消え去り、災華皇も力なく地上へと落下していく。細く小さい黒い影が未だ原形をとどめている建造物の影に隠れるようにして落ちて消えていき、その一拍後、突然紅蓮の炎の渦が地上から爆発するように出現した。

 ヤルダバオトが正体を現した時に発生させた時と同じような光景が再び目の前に現れる。

 しかしその威力は段違いで、こちらにまで襲いかかってきた熱波の威力も凄まじかった。誰もが互いを盾にするように身を縮み込ませて寄り添い合い、吹き飛ばされないように足を踏ん張りながら互いを支える。

 そして漸く熱波が過ぎ去って顔を上げると、そこには変わらず大きな炎の渦が都市の中心部で渦を巻いていた。空は焦げたように赤黒く染まり、多くの黒い灰が宙を漂ってこちらにまで飛んできている。

 誰もが放心したように呆然とその光景を見つめる中、不意に黒い影が頭上に現れたことに気が付いて、誰もが反射的に上空へと目を向けた。

 

「――皆、すぐにこの場から逃げろ! カストディオ団長はどこにいる!?」

 

 突如頭上に姿を現したのは、先ほどまで都市の中心部で激戦を繰り広げていたはずの災華皇。その身に纏う衣装は多くの灰に薄汚れており、至る所が裂け、裾などもボロボロの状態になっていた。

 いつにない災華皇の姿に、誰もが先ほどまでの激戦を頭に過らせて畏敬の念を湧き上がらせる。

 しかし、多くの者から崇拝にも似た眼差しを向けられている災華皇自身はそれに全く気が付いた様子もなく、どこかひどく焦っているようだった。何かを探すように金色の双眸を忙しなく動かし、それでいて何度もこの場を離れるように声を張り上げてくる。

 その予想外過ぎる展開に、人々は誰もが困惑の表情を浮かばせた。

 これまでの災華皇はいついかなる時でも優雅に落ち着き払っており、何かを命ずる時は必ず明確な指示と理由を口にしてくれていた。しかし今の災華皇には余裕もなければ明確な理由の分かる言葉一つとて口にしてはくれない。

 何故こんなにも慌てているのか。

 何故自分たちは逃げなければならないのか。

 逃げるにしても、一体どこに行けば良いのか。

 困惑したまま一歩も動けないでいる聖王国の民たちに、ヘンリーはこのままでは駄目だと判断すると、災華皇に声をかけようと大きく身を乗り出した。

 その時……――

 

「……早く逃げ…っ!!」

「それは許可できないな」

「っ!!?」

 

 不意に途切れた災華皇の声と、まるで覆いかぶさるように響いてきた低い声音。

 気が付いた時には視界が真っ赤に染まり、身が焼けるほどの熱気が襲いかかってきた。

 

「…きゃあああぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁっっっ!!?」

「あ、悪魔だぁぁっ!!!」

「ひぃぃっ! た、助け……っ!!」

 

 突如どこからともなく姿を現した魔皇ヤルダバオト。

 ヤルダバオトは宙に浮かぶ災華皇の背後に出現すると、その太く大きな腕を伸ばして災華皇の首をがっしりと掴み捕えた。相当の力がかけられているのか、首を掴まれた災華皇は抗う素振りも見せずに山羊の顔を小さく歪ませている。しかし一切臆することなく鋭い光を宿す金色の瞳に、ヤルダバオトは実に愉快そうに低く喉を鳴らしていた。

 とはいえ、ヤルダバオトの姿もまた災華皇同様に傷ついており、その有様は災華皇以上に酷いものだった。

 顔の右半分は拉げたように歪んで崩れており、全身にも大小様々な傷が刻まれている。災華皇を掴んでいる方とは逆の左腕は二の腕部分が抉れており、赤々とした流れ出る血の隙間から白い骨が覗いていた。

 しかし、一見満身創痍に見える状態であっても、この悪魔はどうやら存在するだけで周辺に害を及ぼすようだった。

 二体の悪魔がいるのは自分たちの頭上の空中。こちらからはそれなりに距離が離れているというのに、ヤルダバオトの身体が高熱を発しているのか、真下にいた人間はその熱気に焼かれて悲鳴を上げていた。更にはヤルダバオトの全身に刻まれている傷から血が流れて下に滴り落ちており、その血液さえも高熱を発しているようでジュゥゥっと言う音と共に触れるものを全て焼いていた。

 多くの人間が少しでも災華皇とヤルダバオトのいる場所から離れようと悲鳴を上げながら逃げ惑い始める。

 しかしその人間の大波に逆らうようにして、一人の少女が足を踏ん張りながら手に持つ弓矢を鋭く構えた。

 

「閣下を離せっ!!」

 

 少女の鋭い声が空気を震わせ、大きく響き渡る。

 そしていざ矢を放とうとしたその時、しかし未だヤルダバオトに首を掴まれている災華皇がまるでそれを止めるかのように掌をこちらに向けて片手を挙げてきた。

 少女は咄嗟に矢を握り直し、攻撃しようとする手を止める。人相の悪い顔に焦りの色を浮かべるネイアに、災華皇の金色の瞳が真っ直ぐに向けられた。

 

「……やめろ。これ以上、“契約違反”を犯して奴に隙を与えてはならない」

「っ!!? ……閣下、何を……!!」

「くくっ、何故この強き王が私に屈したのだと思う?」

 

 動揺のあまり声を震わせるネイアに、ヤルダバオトが不気味な笑い声を零す。

 そして、この場にいる全員にかけられた問いかけ。漸く身が焼かれない場所まで逃れられた人々は、ヤルダバオトからの不意の問いかけに恐怖に色づいていた顔に困惑の色を浮かばせた。

 奴は何を言っているのか。

 そもそも“契約違反”とはどういうことなのか。

 誰一人として言葉を発せずに沈黙が続く中、ヤルダバオトはまるで嘲笑うかのように一つ鼻を鳴らした。

 

「一つは魔力を消費し、万全な状態でなかったこと。……もし万全な状態であったなら、もしかすれば私の方が負けていたかもしれん」

「……っ!!」

「そしてもう一つは……、お前たちの指導者の一人(・・・・・・)が“契約違反”を犯して我が配下を我らの戦場に送り込んだからだ」

「「「っっ!!?」」」

 

 瞬間、この場にいる全員が衝撃のあまり驚愕の表情を浮かべたまま身体を凍り付かせた。ヘンリーもまた、ヤルダバオトが何を言っているのか訳が分からず頭を混乱させた。

 奴は一体何を言っているのか。

 唯の虚言か、それとも本当のことなのか。

 虚言ならば、何故災華皇は否定しようとしないのか。

 不意にヤルダバオトが口にした“指導者”という言葉が頭を過ぎり、幾つかの人間の顔が頭に思い浮かんだ。

 王兄カスポンド・ベサーレス。聖騎士団団長レメディオス・カストディオ。聖騎士団副団長グスターボ・モンタニェス。他にも上層部の一部の貴族や神官たちの顔も頭を過ぎる。

 しかし、そこでふと少し前に見たレメディオスと謎の白いローブたちが会っている光景が脳裏に浮かび、ヘンリーは思わず背筋に冷たい衝撃を走らせた。こめかみから冷たい汗が噴き出し、頬を伝って流れ落ちていく。心臓が急に激しく暴れ始め、耳のすぐ側で鼓動の音が大きく鳴り響いた。頭の中でも警鐘が鳴り響き、思考が止まって真っ白になっていく。

 まさか、まさか、まさか、まさか、まさか……!!

 頭に浮かんだ考えに、ヘンリーは恐怖のあまりゴクッと大きく喉を鳴らした。しかし喉を通るものは何もなく、口の中はいつの間にかカラカラに乾ききっていた。

 

 

 

「………まさか…、レメディオス・カストディオ……?」

「「「っ!!?」」」

 

 静寂の中、不意にポツリと響いた一つの声。

 瞬間、恐怖が一気に明確な形を得てしまったような気がしてヘンリーはゾクッと戦慄を走らせた。

 反射的に振り返れば、そこには目を見開かせたネイアが呆然とした表情を浮かべて立ち尽くしていた。

 彼女も白いローブの集団を見た者の一人である、恐らくヘンリーと全く同じ思考を辿ったのだろう。しかし彼女自身、信じられないという思いを抱いてはいるのだろう。もしかすれば、否定してもらいたくて実際に言葉を口に出したのかもしれない。

 しかし、ヤルダバオトも災華皇も何も言わない。ヤルダバオトはニヤリとした笑みを浮かべ、災華皇は顔を顰めたまま硬く口を閉ざしていた。

 それが何よりの答えのような気がして、ヘンリーは絶望が足元から這い上がってくるような気がした。

 しかし、まるでそれを救おうとするかのように、不意に黙り込んでいた災華皇がゆっくりと口を開いた。

 

「……ヤルダバオト、お前と取引がしたい」

 

 瞬間、この場がザワリっと小さく騒めく。

 突然何を言い出すのかと誰もが不安そうな表情を浮かべる中、ただヤルダバオトだけは変わらぬ不気味な笑みを浮かべていた。

 

「ほう、取引か……。お前は私に一体何を望む?」

「“彼らの時”を」

「では、その見返りとしてお前は私に何を差し出す?」

「……“この身”を…」

「「「っ!!?」」」

 

 瞬間、再びこの場が大きく騒めいた。

 しかし人々の表情にあるのは不安ではなく驚愕と困惑。中には焦燥の色を浮かべる者もおり、ヘンリーとネイアもまたその内の一人だった。特にネイアはこちらが心配になるほどに顔を蒼褪めさせ、動揺も露わに一歩足を踏み出して身を乗り出した。

 

「なっ、何を仰るのですか!? いけません、閣下っ!!」

 

 彼女の声が悲鳴のような悲痛な色をもって響く。

 しかし二体の悪魔は少女には目もくれず、ただ互いだけを真っ直ぐに見つめていた。

 

「下等生物にそこまでするか。……なるほど、このまま殺すにはあまりに惜しいな」

「……それでは…?」

「良いだろう、その取引を受け入れよう。どちらにしろ、この傷では暫くまともに動けん。この者たちには絶望に向けての猶予を与え、その間に私は傷を癒しながらお前を支配してみせよう」

「……望むところだ、魔皇ヤルダバオト」

 

 目の前で交わされる悪魔同士の契約。

 それに、もはや自分たちには何一つ変えることも動かすこともできないのだと突き付けられたような気がした。

 この場は二体の悪魔が支配しており、何かを変えるのも動かすのも、どちらかの悪魔にしかできない。

 ヤルダバオトの言う通り、絶望の闇にゆっくり落とされていく……。

 

「………皆、最善の手立てを…」

「〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉」

 

「災華皇閣下あぁぁぁっっ!!!」

 

 最後にこちらに向けられた金色の瞳と柔らかな声音。

 しかし言葉は最後まで紡がれることなく、紅蓮の悪魔の詠唱によってその姿ごとどこかへとかき消えた。

 残ったのは呆然とした人間たち。

 虚無を孕む静寂の中、少女の悲痛な叫びだけが虚しく響いていた。

 

 




まだ今回の話では謎が残っている状態になってしまいました……(汗)
申し訳ありません! 次回で、次回で一部(?)は謎が解明される予定ですので!!
もう暫くお待ち頂ければと思います(土下座)
後、デミウルゴスが読唇術でウルベルト様の唇の動きを読んでますが、『山羊の唇をどうやって読むんだよ』というツッコミはなしでお願いします!
相手は創造主ですし、被造物パワーで読めたということにして頂ければと思います!(滝汗)

*今回のウルベルト様捏造ポイント
・“守護三連魔神器”;
二メートルほどの青白いクリスタルの杖。武人建御雷作の神器級アイテム。打撃攻撃の他、物理攻撃と魔法攻撃に対する防御力上昇、神聖属性に対する絶対耐性、第三位階魔法と同程度の魔力消費と引き換えに物理攻撃に対してパリィができる。
・〈重力の鎖〉;
範囲攻撃魔法。重力を何倍にもして、範囲内の全てを押し潰す。
・〈蛇の氷樹〉;
第10位階魔法。氷の蛇型の氷結魔法。氷結ダメージのオーラを放っており、咬みついた対象にも氷結ダメージを与える。また、攻撃後は氷そのものになって対象の動きを拘束する。
・〈炎の爆裂波〉;
爆発と共に炎の渦を出現させる。その際、熱波も噴き出し範囲攻撃も行う。

※ダーク・ポーション
原作にあったような気がしたけれど描写を見つけられなかったポーション。アンデッドを回復させるポーションとして見たことがあるような気がしたが、気のせいだろうか……(汗)
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