災厄の悪魔は正義を嗤う   作:ひよこ饅頭

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違う長編小説が一区切りついたので、漸くこちらも執筆再開です!
気が付いてみれば前回の更新から既に約1年半年経ってしまっているという事実……(汗)
待っていて下さった方、大変長らくお待たせしてしまって申し訳ありませんでした(土下座)


第23話 第二幕始動

 目の前でズンズンと歩いていく三つの亜人の背。

 ネイアとオスカーは小走りになりながら、どんどん前に突き進んでいく亜人たちの背を必死に追いかけていた。

 ネイアとオスカーと亜人たちとでは歩幅自体が違い、亜人三体の内の一体に至っては二足ではなく四足である。気を抜けば一気に距離を離されるであろう速さに、ネイアとオスカーは必至に足を動かし続けていた。

 そして辿り着いたのは一軒の家屋。

 お世辞にも決して立派だとは言えないその建物は、現在の解放軍の総指揮官となっている王兄カスポンド・ベサーレスの部屋がある建物であり、今や最重要拠点とも言うべき場所となっていた。

 家屋の扉の両脇には見張りの聖騎士が二人立っており、近づいてくる三体の亜人にギョッと目を見開いている。見るからに大きく顔を強張らせる聖騎士たちに、ネイアは亜人たちの背を追いかけながら内心で何度も頷いた。

 強者だと見るからに分かる亜人三体が自分の方に足早に向かってくるという光景は、想像するだけでも大きな恐怖を感じるだろう。

 しかし亜人たちはそんな人間たちの反応などどうでもいいのか、一切気にした様子もなく扉の方へ足を進めている。

 咄嗟に扉の前に立ちはだかるように移動して立った聖騎士に、亜人たちはそこで漸く足を止めると、鋭い双眸でその聖騎士をギロリと睨み見下ろした。

 

「……ほう、俺の前に立つか。殺されたいのか、人間?」

 

 遥か頭上から突き刺さる視線の重圧と、まるで肉食獣の唸り声のような声で言われた言葉に、扉を守るように立つ聖騎士はビクッと大きく身体を強張らせる。一瞬怯んだような素振りを見せた後、しかし次にはキッと表情と肩を怒らせてこちらに身を乗り出してきた。大きく口を開いて声を発しようとしたその時、不意にオスカーが亜人たちの横を通り過ぎて聖騎士の前に歩み寄った。

 

「突然申し訳ありません。カスポンド・ベサーレス殿下に命じられ、ネイア・バラハを連れて参りました。その際、この亜人たちから殿下に御目通り願いたいという申し出を受け、急遽共に参った次第です。恐れ入りますが、殿下にお取次ぎを願えますでしょうか?」

「……っ!! ……そ、そうか……。し、暫し待て!」

 

 通常であれば、到底通らないであろう申し出。しかしこの亜人たちが災華皇(さいかこう)のシモベであることは、解放軍に属する誰もが知っていた。

 聖騎士はオスカーからの丁寧な説明にどもりながらも一つ頷くと、次には別の聖騎士に目配せをしてから踵を返して家屋の中へと足早に入っていった。

 まるで逃げるような足の速さに、ヴィジャーがフンっと大きく鼻を鳴らす。

 瞬間、この場に残った聖騎士がビクッと小さく身体を震わせ、ネイアは内心で大きなため息を吐いた。

 災華皇がいた頃は彼が人間と亜人の間に入ってくれていたため大した問題も起きず、また人間側も少しずつではあるが亜人や悪魔たち――尤も対象は災華皇のシモベとなったモノたちのみだが――を受け入れる心境にもなり始めていた。しかしこうも高圧的な態度を取られては、その縮まりそうだった距離も一気にまた遠ざかってしまいそうだ。

 災華皇が築いてきたものを台無しにされていくような気がして、ネイアの中に小さな苛立ちがふつふつと湧き上がってくる。

 しかしネイアは苛立ちのままに声を上げることはせず、代わりに深く細く長く息を吐き出すことで感情が爆発しないように意識して心を落ち着かせた。『落ち着け、落ち着け…』と何度も心の中で唱えて自身に言い聞かせる。

 ネイアが必死に自身の感情を抑え込んでいる中、家屋の中から先ほどの聖騎士が足早にこちらに戻ってきた。

 

「お待たせした。殿下が会われるとのことだ、全員こちらへ」

 

 そう言って再び家屋の中へ入っていく聖騎士に、ネイアは思わず小さく首を傾げた。“全員”と言っていたことから、恐らく『ネイアも亜人たちも全員で一斉に来るように』ということなのだろう。しかしネイアがここに呼ばれた理由も、亜人たちがここに来た理由も、それぞれ違うはずだ。

 それなのに同時に呼ばれるとは一体どういうことなのか。それともどちらかが中で待つということだろうか……。

 頭上に多くの疑問符を浮かべながら、しかしネイアは大人しく聖騎士の言葉に従うことにした。

 無言のまま家屋に入っていくネイアに、それにつられるようにしてオスカーや亜人たちも建物内へと足を踏み入れていく。

 家屋の奥へ奥へと進んでいき、最終的に案内されたのは最奥にある二番目に大きな部屋だった。

 案内役の聖騎士が扉をノックしてから中に声をかけ、一拍後に聞こえてきた王兄の声にこちらを振り返ってくる。聖騎士は扉の脇に寄って道を開けると、無言のままこちらを見つめて視線だけで中に入るよう促してきた。

 ネイアは聖騎士からゆっくりと視線を外し、目の前の扉を真っ直ぐ見つめる。

 瞬間、不意に小さな緊張と不安がどこからともなく湧き上がってきて、ネイアは思わず小さく身体を強張らせた。いつにない自身の様子に内心戸惑いながら、とにかく一度落ち着こうと静かに深呼吸を繰り返す。そして気合を入れ直して鋭い双眸を一層凶悪なものに変えるネイアに、しかし彼女が扉に手をかける前にオスカーが横を通り過ぎて扉の前に立った。扉を数度ノックし、扉の向こうへ自身の名前と入室の旨の言葉を発する。そして扉のノブに手をかけると、そのまま扉を押し開けた。

 

「王兄殿下、お待たせしてしまい大変申し訳ありません。ネイア・バラハを連れて参りました」

「ああ、ありがとう。ネイア・バラハ、入ってきたまえ。それから私に会いに来たという亜人たちもこちらに入ってきたまえ」

 

 室内からカスポンドの穏やかな声が聞こえてくる。

 亜人たちと共に呼ばれたことに再び内心で首を傾げながら、ネイアはオスカーが前に出たことで緊張感が少し和らいだのを感じながら入室の言葉と共に室内へと足を踏み入れた。

 

「……っ……!?」

「………ほう……」

 

 部屋の中に入室したため室内の光景が視界に広がり、そこにあった面々にネイアは思わず驚愕に目を見開いて小さく息を呑んだ。後ろから亜人たちの驚愕の声も小さく聞こえ、ヴィジャーなどは興味深そうな声すら零している。

 彼らの視線の先……室内にいたのは二人の人間と二人の悪魔と三体の亜人。

 人間はネイアをこの場に呼んだ王兄カスポンド・ベサーレスと聖騎士団副団長グスターボ・モンタニェス。

 悪魔は亜人たちが捜していたメイドたち、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータとシズ・デルタ。

 そして見覚えのない三体の亜人は、獣身四足獣(ゾーオスティア)半人半獣(オルトロウス)藍蛆(ゼルン)だった。

 

「急にこのような場に呼んですまないな、驚いただろう。しかし彼らは我々に危害を加えるつもりのないモノたちだ。まずはこちらに来てくれ」

 

 驚愕のあまり扉の近くで立ち止まってしまっているネイアたちに、王兄が苦笑を浮かべながら声をかけてくる。それに慌てて部屋の奥に進めば、扉が大きな音と共に閉められた。

 オスカーは既に亜人たちの存在を知っていたのか一切驚いた様子はなく、ヴィジャーたちも既に驚愕の表情から興味深そうなものや面白そうな笑みを浮かべている。

 自分一人が取り残されているような心持ちにネイアが思わず顔を小さく翳らせる中、先ほど小さな声を零していたヴィジャーが再び口を開いた。

 

「まさか貴様らもここにいるとはな。貴様らも災華皇に下っていたのか?」

「それにしては今まで姿を見ていなかったが、一体今までどこにいたの?」

「それに、そこのゼルンは一体どういうことじゃ? 見たところ、ただの下っ端のようにしか見えんが」

 

 ヴィジャーだけでなく他の亜人二体も口々に疑問の言葉を口にする。

 下っ端と言われたゼルンが小さく身じろぐ中、オルトロウスが神妙な表情を浮かべながら一歩こちらに進み出てきた。

 

「それはこちらの台詞です。皆さんも災華皇の下にいたのですね。……我々は災華皇の指示で南方に偵察に行っていたのですが……」

 

 途中で言葉を切り、オルトロウスは神妙な表情を浮かべている顔を大きく顰めて俯かせる。

 少しの間静寂が支配する室内に、ネイアは無言のまま小さく首を傾げた。

 これまでの口振りからしてどうやら彼らは知り合いのようだったが、一体どういった関係で何がどうなってこうなっているのか今一理解が追いつかない。

 ネイアが訝しげな表情を浮かべているのに気が付いたのか、不意に顔を上げた亜人と目が合い、次には亜人たちは何かに気が付いたような表情を浮かべてきた。

 

「……ああ、失礼、まだ名乗っていなかったな。私はヘクトワイゼス・ア・ラーガラー。そしてこちらが“黒鋼”のムゥアー・プラクシャー殿。我らはそちらにおられる“魔爪”殿やナスレネ・ベルト・キュール殿、ハリシャ・アンカーラ殿と同じく“十傑”に数えられるモノだ」

「……あ…、これはご丁寧にありがとうございます。……私は災華皇閣下の従者を務めております、聖王国聖騎士団従者のネイア・バラハと申します。……失礼ですが、先ほど仰られていた言葉は本当なのでしょうか? つまり、あなた方も災華皇閣下のシモベとなっていたと?」

「その通りだ。ここ小都市ロイツを奪還する軍に加わっていたが、その時に災華皇の手のモノであろう悪魔に囚われ、そのまま災華皇に下ったのだ」

「先ほどヘクトワイゼス殿が言った通り、我々は災華皇の命により聖王国の南方へ偵察に向かっていた。しかし南方は既に魔皇ヤルダバオトの手に落ちていたことが判明し、こちらに戻ってこようとしていた」

 

 ヘクトワイゼスに続いてムゥアーも会話に加わる。

 ヴィジャーによく似た獣の顔がこちらに向けられ、次にゼルンに向けられ、最後にカスポンドやグスターボに向けられた。

 

「しかしいざここまで戻って来てみれば都市は多くの悪魔たちに包囲され、災華皇とヤルダバオトは戦っていた。……そして結果は災華皇の敗北。これからどうすべきか話し合っている時に、このゼルンと出会った」

 

 ムゥアーの説明に、再びこの場にいる全員の目がゼルンに向けられる。

 ゼルンは再びビクッと身体を強張らせて気まずそうに身じろいだが、次には意を決するような素振りの後に少しだけこちらに進み出てきた。

 

「そちらの人間の王の兄殿と副団長殿には既に説明したのだが、改めて名乗りと説明をさせてもらう」

 

 続いて聞こえてきたのは聞き覚えのない女の澄んだ声。

 不思議な響きもなければ変な言語も使わない、人間と全く同じようにしか聞こえない声にネイアは思わず小さく驚愕の表情を浮かべた。

 種族も見た目も違うというのに、言語と声音は人間と全く変わらない。それは他の亜人や悪魔たちに対しても全く同じことがいえるのだが、この異形にしか見えないゼルンもまた同じであるという事実はネイアに奇妙な衝撃を与えていた。

 不意に災華皇のことを思い出す。

 続いて、人間だけではない……亜人やアンデッドや異形たちまでもが一緒に暮らしている魔導国の光景を思い出す。

 悪魔も亜人も異形も……、人間のようにそれぞれ違い、決して一括りに考えるべきではないと言っていた災華皇の言葉を思い出す。

 その身を犠牲にして、ヤルダバオトと共に消えてしまったその姿を思い出す。

 自分たちのために消滅していったスクードの最後の姿を思い出す………――

 

 

 

「――……ラハ、……ネイア・バラハ……!」

「……っ……!?」

「ネイア・バラハ、大丈夫かね? 話をきちんと聞いているか?」

「……も、申し訳ありません……! 少し…考え事をしておりました」

 

 強めに何度も名を呼ばれることでハッと我に返り、ネイアは慌てて頭を下げる。

 次々と頭に浮かぶ光景に意識を取られ、いつの間にか全く話を聞いていなかった。自身の体たらくに自己嫌悪に陥り、頭を下げながら苦々しい表情を浮かべる。

 腰を90度に曲げた状態で話を聞いていなかったことを謝罪するネイアに、王兄は小さくため息のような息を吐いた後に心労を気遣う言葉をかけ、改めて先ほどまでの話を繰り返し話し教えてくれた。

 王兄の話によると、このゼルンはヤルダバオトに対して密かに反抗している亜人たちからの使者であるらしい。

 亜人たちは全員が進んでヤルダバオトの配下になった訳ではなく、力と恐怖によって脅される様に支配され、或いは人間でいうところの王族のような立ち位置にある支配階級に属するモノを人質にとられて従わざるを得ないモノも少なくないという。そしてこの目の前のゼルンもまた、自分たちの支配階級に属する王子を人質にとられているとのことだった。

 では何故そのゼルンがこのタイミングで使者としてここにいるのかというと、ヤルダバオトが災華皇によって現在深手を負っているため、それに乗じてお互いのための交換条件を持ちかけるために来たらしかった。

 ゼルンの言う交換条件とは、ヤルダバオトに抗するための協力と、囚われの身となっているゼルンの王子の救出。つまり、囚われの身の王子を救出してくれればヤルダバオトに反抗している亜人側もヤルダバオトに反旗を翻すと言ってきているのだ。

 そしてゼルンの王子が囚われているのは、ここから西南西にある城塞都市カリンシャ。ローブル聖王国の中でも最も強固に作られた都市であり、なるほど重要人物を収容しておくにはもってこいの場所だった。

 

「カリンシャにはゼルンの王子だけでなく、聖王女も囚われていることが既にメイド悪魔たちから報じられている。故に我々はこの条件を呑むことにした」

「……!! それでは、もしや災華皇閣下もそこにっ!?」

「それはまだ分からない。しかし可能性はゼロではないだろう。……しかしいざ救出しようとしたとしても、相手に気付かれてしまっては人質を害されかねないし、それでは意味がない」

 

 何だか話の流れが怪しくなってきているような気がして胸が騒めく。

 思わず固唾を呑んで小さく身構える中、王兄は再び口を開いて爆弾を投下してきた。

 

「そのため、軍を二つに別けてカリンシャを攻め落とし、人質を救出する。この二つの軍は、一方は秘密裏に都市に侵入して人質を救出するもので、もう一方はその後一気にカリンシャを真正面から攻め落とすものだ。また、前者の秘密裏に都市に侵入する方は人質救出後、速やかに都市奪還の戦闘に加わり、外側と内側とで亜人と悪魔を挟み撃ちにする作戦になっている。そして、この人質救出の任をネイア・バラハ、君に担ってもらいたい」

「……!! …む、無理です……!!」

 

 予想通りの無茶苦茶な命令に、ネイアは背筋を戦慄かせながら思わず大きな声で拒否の言葉を吐いた。

 確かにネイアは普通の者に比べると多少目と耳は良く、父親譲りの弓の才能も持っている。しかしそれ以外については全くの素人で、隠密などは専門外だった。ネイアの父はその辺りも非常に優秀ではあったが、残念なことにネイアはその辺りの才能までは受け継いでおらず、からっきしである。どう考えても自分が隠密部隊に参加して役に立てるとは思えなかった。

 しかし王兄自身もその辺りは考慮していたのか、まるでこちらを落ち着かせようとするかのように軽く片手を挙げて小さな苦笑を浮かべてきた。

 

「勿論、君一人でという訳ではない。君の他にもこのメイドの悪魔たちと、それからこちらの亜人たちも協力してくれるとのことだ」

 

 そう言って王兄が指し示すのは、メイド悪魔二人とゾーオスティアとオルトロウス。

 二人のメイド悪魔たちは無言で微動だにしなかったが、ヘクトワイゼスとムゥアーと名乗った二体の亜人たちは無言ながらも一つ大きく頷いてきた。

 

「その他にももし君の中で連れて行きたい者がいれば、少数であれば了承しよう。何より、もし災華皇もカリンシャに囚われているのなら君が望む通り速やかに救出できる。確かに危険な任務ではあるが、君としても望むことではないかな?」

 

 王兄の言葉に、ネイアは思わず言葉に詰まりながら無言で思考を巡らせた。

 確かにネイアの現在の一番の望みは災華皇の救出であり、もし彼の王がカリンシャにいるのであれば自分が一番に救出したいという気持ちも大いにある。加えて自分以外にも強力な力を持つであろうメイド悪魔と“十傑”に数えられる二体の亜人もついてきてくれるのであれば、これほど心強いことはないだろう。

 そこまで考えて、しかしネイアは心の中で緩く頭を振った。

 いや、ここで色々考えたところで仕方がない。どんなに思考を巡らせたところで、恐らくこれらの話は既に決定事項なのだろう……と思い直す。

 ネイアは災華皇の従者ではあるが、元々は聖王国の者であり、最終的な所属は聖王国の聖騎士団である。たとえどんなに嫌だと拒否したとしても、自分は命令されれば従う他ない。こうやって丁寧に説明され、“一応”という体ではあるが意見を聞く体制を与えられているだけでも優遇されているのだろう。

 ネイアは出て来そうになったため息を咄嗟に呑み込むと、無意識に俯かせていた顔を上げて一つ大きく頷いた。

 

「分かりました。同行者は……先ほど殿下が仰られた悪魔二人と亜人の皆さんだけで結構です」

「宜しい。それでは次に正面からカリンシャを攻める軍についてだが、こちらには元聖騎士オスカー・ウィーグラン、並びに君たち災華皇の配下となった残りの亜人たちにも加わってもらいたい」

 

 王兄はネイアの答えに一つ頷くと、続いてオスカーやヴィジャー、ナスレネ、ハリシャたちに目を向ける。

 オスカーたちは驚いた様子を一切見せることはなかったが、無言のまま無表情を貫くオスカーとは打って変わり、ヴィジャーは獣の目を鋭くさせ、ナスレネはどこか呆れたような表情を浮かべ、ハリシャはどこか面白がるように口の端を笑みの形に歪めた。

 

「ほう、わしらの力を借りたいと……」

「フンッ、話にならんな。第一、そもそも何故俺たちが貴様らに力を貸さねばならん」

 

 ハリシャの言葉にもヴィジャーの言葉にも明確な拒否の意思が宿っている。ナスレネは無言でいるものの、浮かべているその表情からどうやら彼女もヴィジャーやハリシャと同じ意見のようだった。

 確かにナスレネもヴィジャーもハリシャも災華皇の配下になったのであって、聖王国の管理下に入ったわけではない。聖王国からの指示に従う義務もなく、彼らが納得しかねる反応を示すのも仕方がないと言えた。

 しかしそれに異議を唱えたのは意外なことに今までずっと無言を貫いていたオスカーだった。

 

「お待ちを。確かに皆さんは聖王国に下ったわけではなく、また災華皇閣下がカリンシャに囚われているとは限らない。しかしあなた方が災華皇閣下のシモベとなったことは紛れもない事実であり、逆に閣下がカリンシャにいないとも限らないことも事実のはず」

「………何が言いたいのじゃ、人間?」

「閣下のシモベとなった我らが、閣下がいないと100%断言できない場所を探さないというのは、閣下への裏切りとみなされるのではないか……ということだ」

「……………………」

 

 オスカーのどこまでも淡々とした静かな声音と言葉に、亜人たち全員が黙り込む。浮かんでいる表情はどれもが苦々しいもので、どうやら亜人たちも未だ納得してはいないものの理解はしているらしかった。

 どの道、亜人たちが魔導国までの案内を頼もうとしていたメイド悪魔たちは今回の作戦に参加する。であれば、作戦が終わらない限り彼らは魔導国に向かえず立ち往生するしかない。ならばいっそのこと彼らも作戦に参加した方が、作戦終了後すぐさま魔導国を目指すことも可能だろう。

 ネイアがそこまで考えて内心頷く中、オスカーも続けてネイアが思ったことと全く同じことを口に出して亜人たちに話して聞かせた。カスポンドもグスターボも一言も反論せずにオスカーの話を聞いているため、彼らとしても作戦終了後に彼らが離脱し、魔導国を目指すことを考慮しているのだろう。

 確かに亜人たちにとっては寄り道感や手間感は否めないだろうが、しかしある程度災華皇への忠義を示しつつ当初の予定通りに魔導国に行けるのであれば、悪い話ではないはずだ。

 暫くどこか気まずい沈黙が続く中、最後にはヴィジャーの盛大なため息が静寂を破った。

 

「………仕方がない。その作戦とやらに力を貸してやろう……」

「ひひっ、そうじゃな。それに災華皇が本当にカリンシャにいるのなら、良いアプローチにもなるであろうて」

「確かに。でも、もし閣下がカリンシャにいなかった場合は、そこの人間の言った通りにそのままメイドの悪魔たちと共に魔導国に行かせてもらうわよ」

「ああ、それで構わない」

 

 ヴィジャー、ハリシャ、ナスレネが次々と発してくる言葉に、しかし王兄は全く臆することなく、むしろ当然な様子で一つ頷いて返す。

 どうやら無事に話がまとまりそうでネイアは内心で安堵の息を吐いた。何より、災華皇を救うための行動を漸くできることに歓喜が湧き上がってくる。

 ネイアは胸に溢れる感情を噛みしめながら、この場にいるメンバーと共に今後の行動や作戦の内容について詳しく話し合っていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓第七階層……――

 紅蓮の輝きを放つ溶岩の川が数多く流れる、空気すらも赤く染まる灼熱の世界。

 数多の悪魔や幾体かの邪精やアンデッドが犇めく光景は、これらを見た誰もがこの世の地獄……煉獄のようだと思うことだろう。

 普通の人間であれば呼吸をするだけで肉体や喉だけでなく、肺や肺胞すらも焼け落ちてすぐさま命を落としてしまうだろうこの世界で、一つの人影がゆったりとした足取りで歩を進めていた。

 長い銀色の尾を揺らめかせながら歩いているのは、この階層の守護者である最上位悪魔(アーチデビル)デミウルゴス。

 いつもの薄っすらと浮かぶ微笑を今も眼鏡で飾った顔に浮かべながら、悪魔は真っ直ぐに目的の場所に向かっていた。

 そして辿り着いたのは紅蓮や朱金に彩られているこの世界において一つだけポツリと浮かぶ真っ白な神殿。

 “赤熱神殿”という名のこの神殿は、真っ白な柱が乱立している古代ギリシャ風の美しい神殿であり、しかし至る所が破壊尽くされて荒廃している状態だった。

 しかしこれは意図的なものであり、今の姿が完成されたもの。そのためデミウルゴスの目にはこの神殿が完璧なものとして映り、むしろこの姿であるからこそ美しいとすら考えていた。

 悪魔は主が自分のために作ってくれた己の居城を見上げて一つ『ほぅ…』と小さな感嘆の息を吐き出すと、湧き立つ嬉々とした感情を胸の内で宥めながら再び歩を進めて神殿の中へと入っていった。

 この神殿は外からの見た目に反し、内部にはあらゆる部屋や施設が造られ揃っている。数多ある部屋の中でも玉座の間の次に大きく広い部屋にデミウルゴスは真っ直ぐ向かっていった。

 目的の部屋の扉の前で立ち止まり、そのまま右手の甲で数度ノックする。

 数秒後、丁寧なノックからの反応は悪魔が望む創造主からの声と言葉ではなく、内側から開かれた扉と、その隙間から覗いた一体の女悪魔の顔だった。

 

「これは、デミウルゴス様」

「……ウルベルト様に報告があってきたのですが、ウルベルト様はいらっしゃいますか?」

「はい、どうぞお入りくださいませ」

 

 扉の隙間から顔を出したのは、デミウルゴスの直轄の親衛隊である三魔将の内の一つの嫉妬の魔将(イビルロード・エンヴィー)

 烏の頭部を持ち、人間の女の身体にボンテージファッションを纏った女悪魔の言動に、デミウルゴスは少し違和感のようなものを覚えながらも室内に入った。

 至高の主が室内にいる場合、まずは誰が来訪したかを知らせ、室内に通して良いか聞くのが普通である。嫉妬の魔将は自分の直轄の部下であり、その辺りもきちんと理解しているはずだ。

 にも拘らず、何故今回はそのどちらもせずに自分を室内に入れたのか……。

 疑問に思わず口の端の笑みが消える中、しかし室内に入った途端にその理由を理解した。

 室内には確かにデミウルゴスの創造主であるウルベルト・アレイン・オードルがいた。

 しかしそれ以外にも他の三魔将である憤怒の魔将(イビルロード・ラース)強欲の魔将(イビルロード・グリード)がおり、他にも何故か領域守護者である超巨大奈落スライムの紅蓮すら揃っていた。

 デミウルゴスの入室に、強欲の魔将がこちらを振り返って頭を下げてくる。憤怒の魔将もこちらに頭を下げてはくるものの動きは非常にぎこちなく、紅蓮に至っては微動だにしていない。

 しかしそれは致し方ないことだった。

 彼らが最も崇拝し優先する存在は至高の主であるウルベルト・アレイン・オードル。

 そして現在、そのウルベルトはなんと紅蓮をベッドにし、憤怒の魔将の炎の翼と尾を布団と抱き枕にしていた。

 創造主の両目はしっかり閉じられ、一目で眠っていることが分かる。恐らく紅蓮や憤怒の魔将のどちらかだけでも少しでも動いたなら創造主はすぐさま眠りから覚めてしまうだろう。

 それ故に、彼らのこれまでの一連の行動はむしろ正しいと言える。

 デミウルゴスは内心で一つ頷くと、じっと眠っている創造主を見つめた。

 まるで炎に包まれる様にして眠っている創造主。

 健やかなその寝顔と様子に、しかし創造主を見つめるデミウルゴスの心中は非常に複雑だった。

 悪魔の胸の内で激しく燃え盛り渦を巻いているのは嫉妬の炎。

 至高の御方が……それもデミウルゴスにとって唯一無二である創造主が己以外のモノに自身に触れることを許し、あまつさえその身全てを預けている。

 普段は仲間に対しては大変優しく寛容で慈悲深い彼ではあるが、こればかりは殺意にも似た激しい感情を鎮められず、激情は胸の内で荒れ狂い、衰える気配もなかった。

 しかし彼らにこの激情をぶつけるのは筋違いというものだろう。

 デミウルゴスは湧き出そうになる嫉妬による殺気を何とか抑え込みながら、努めて冷静な素振りでゆっくりと眠るウルベルトの傍らに歩み寄った。

 

「………ウルベルト様」

 

 その場で片膝をついて跪き、意識して作った落ち着いた声音で創造主の名を呼ぶ。

 数秒後、ゆっくりと開かれる獣の目。

 瞼から覗いた金色の異形の瞳が少しの間天井を見やり、次にはそっとデミウルゴスに向けられて小さく柔らかく細められた。

 

「………デミウルゴス……」

「……ウルベルト様、お休み中に申し訳ありません」

「……いや、構わないよ。ただ気まぐれに眠っていただけだからね」

 

 頭を下げて謝罪の言葉を口にするデミウルゴスに、ウルベルトはやんわりとした微笑みを浮かべて小さく頭を振ってくる。

 悪魔は疲労のバッドステータスがなく、飲食だけでなく睡眠も不要だ。しかし勿論飲食も睡眠も実行しようと思えばできるわけで、恐らく今回ウルベルトが眠っていたのは本当に気まぐれだったのだろう。とはいえ休んでいたところを邪魔したことは事実であり、激しい嫉妬を覚えていたとはいえ申し訳ない気持ちも湧き上がってくる。

 小さく表情を翳らせて畏まる悪魔に、ウルベルトはフフッと小さな笑い声を零した。

 目覚めたばかりの未だ眠気を宿すほんわかとした雰囲気を纏いながら、ウルベルトは小さな吐息と共に横たわっていた上体を起き上がらせる。その際、ベッドになっていた紅蓮がふにゃりと自身の身体を変形させて起き上がるのを助け、憤怒の魔将はウルベルトを覆っていた炎の翼と尾をどかしてウルベルトから離れ、そのまま地面に片膝をついて頭を下げた。

 ウルベルトはまるで眠気を飛ばそうとするかのように軽く拳を挙げて背筋を伸ばす。それでいて伸ばしていた背筋を元に戻しながら小さな吐息を零すと、ベッドから椅子へと形を変えた紅蓮の上で優雅に足を組み、まずは紅蓮と憤怒の魔将に目を向けた。

 

「紅蓮、ラース、ありがとう。とても気持ちよく眠らせてもらったよ」

「それは何よりでございます。少しでもお寛ぎ頂けましたでしょうか?」

「ああ、とても寝心地が良かったよ」

「ありがとうございます。そう仰っていただけますと、これに勝る喜びはありません」

 

 大人しく寝具になっていた超巨大奈落スライムと憤怒の魔将に礼を言えば、超巨大奈落スライムは嬉しそうに巨大な身体をウルベルトを揺らさない程度にくねくねと躍らせ、憤怒の魔将は一層深く頭を下げてくる。

 二体の様子にフフッと再び小さな笑い声を零す創造主に、デミウルゴスはチラッと紅蓮と憤怒の魔将を見やった後に改めて創造主に目を向けた。

 

「しかし……、何故このような状況に……?」

「うん? ああ、最初は普通に魔将たちと世間話をしていただけだったのだがねぇ」

 

 デミウルゴスの未だ渦巻く複雑な心中に気が付いているのかいないのか、ウルベルトはひどく寛いだ和やかな様子でこれまでの経緯を説明し始める。

 創造主の口から語られる内容は、その身に纏う空気と同じくひどく穏やかなものだった。

 創造主の話によると、最初は先ほどの言葉の通り、普通に魔将たちと世間話をしていただけだったらしい。

 最近のナザリック地下大墳墓全体や第七階層の様子。

 三魔将それぞれの日頃の行動について。

 数多の悪魔や魔法や戦闘などについての談義などなど。

 興味深い内容に話が盛り上がり、また話題も尽きなかった。

 そんな中、不意にウルベルトが“ある熱”を感じ取ったことによって一気に話の方向が変わったのだという。

 熱の発生源は憤怒の魔将。

 全身から放たれる超高温の熱に、これで眠ったら気持ちよさそうだという話になったらしい。そして、どうせなら紅蓮も呼ぼうということになり、先ほどの状況になったとのことだった。

 創造主からの説明に、デミウルゴスは思わず再び複雑な表情を浮かべた。

 確かに悪魔は自身の属性問わず、殆どのモノが炎や熱に対して完全耐性を持っている。悪魔の頂点に立つ悪魔の支配者(オルクス)であるウルベルトも勿論例外ではなく、普通の人間であれば触れるだけで炭と化す灼熱の二体の身体もウルベルトにとってはちょうどいい温度でしかないだろう。

 しかし理解はできてもやはり納得はできず、嫉妬する心は少しも落ち着くことがない。

 このままではいけないと自身に言い聞かせて何とか落ち着こうと密かに苦心する中、ウルベルトが組んだ足の上に右肘を乗せ、軽く曲げた指の背に顎を乗せながら少しだけこちらに身を乗り出してきた。

 

「それで? 少々早いようだが第二幕の準備ができたのか? それとも何かの報告で来てくれたのかな?」

「……! ……は、はい。聖王国の解放軍が動きました。五日後、カリンシャに向かい進軍するとのことです」

「なんだ、漸くか。それも五日後とは……、随分と余裕があるものだ」

 

 デミウルゴスの報告の内容に、ウルベルトが呆れたような表情を浮かべてくる。続いて小さく肩を竦める創造主に、デミウルゴスはここで漸くいつもの小さな微笑をその顔に再び浮かべた。それでいてゆっくりと口を開き、王兄カスポンド・ベサーレスに扮している二重の影(ドッペルゲンガー)から受けた報告の内容を創造主に伝える。

 深みのある美声が紡ぐ報告内容は、主にこれから城塞都市カリンシャに進軍する解放軍と離反する予定の亜人たちの動きや作戦内容について。

 ウルベルトは無言のまま静かにデミウルゴスからの報告に耳を傾けていたが、話が終わるとため息にも似た息を盛大に吐いて自身の椅子になっている紅蓮に勢い良く深くその背を預けた。

 

「なるほど。一つのことをするにもいろんな思惑のあるモノたちをまとめながら行わなければならないから大変だな。特に聖王国は王制ではあるが南方貴族たちの力もそれなりに強い。南方貴族が全滅していない以上、悪魔や亜人たちへの脅威が去った後のことも考えながら行動していかなければ、待っているのは新たな争いだ。……そう考えれば、何をするにもそれだけ時間がかかってしまうということか」

「はい、ウルベルト様の仰る通りかと」

「国というのは広大だ。決して王一人で統治できるものではないから、今更貴族や領主といった存在が不要とは言わないが……。それでもありとあらゆる場面で足を引っ張り合うようでは鬱陶しくて仕方がない。我が魔導国ではこういったことにならないよう、徹底して貴族や領主などを管理していく方策を考えていかなければならないな」

「はっ、畏まりました」

 

 ウルベルトの言葉に、デミウルゴスは右手を胸に当てて深々と頭を下げる。これはデミウルゴス自身も前々から思っていたことであり、今回創造主の言葉を受けてより一層重要度を上げて早々に着手すべき案件であると認識を改めた。

 創造主の言う通り、広大な土地や数多の種族を統治する場合、人手はいくらあっても足りないため貴族や領主といった統治階級の者たちはある程度必要となってくる。しかしそれらの力が強くなりすぎて国のトップの地位を脅かしたり、有事の際に足を引っ張り合う事態になっては元も子もない。これはリ・エスティーゼ王国が最も良い例だろう。

 魔導国は今のところ統治している領地も小さく、そのため国政に携わるモノもその殆どがナザリックのモノで占められている。もしこの状態をずっと続けることができるのであれば何の問題もないだろう。

 しかし今後領土を拡大させていけばナザリックだけでは手が足りず、現地の貴族や領主などもある程度取り込んでいく必要が出てくる。そうなった時、貴族や領主たちの管理方法がとても重要になってくるのだ。

 ナザリック以外のモノも国政に携わらせるようになった場合の厳しい規定を早々に考えていかなければ……と頭の中で『やることリスト』に項目を加えながら、デミウルゴスは改めて目の前の創造主へと目を向けた。

 

「現在カリンシャは捕虜を複数抱えていることもあり、多くの亜人を配備しております。その中には内心では魔皇ヤルダバオトに服従を誓っていないモノも多くおりますが、予定通りこのままの状態でよろしいでしょうか?」

「ああ、それで構わないよ。……そういえば、頭冠の悪魔(サークレット)とは鉢合いそうか?」

「恐らくは。解放軍の進行速度やカリンシャ侵入のタイミングにもよりますが、概ね鉢合わせる可能性の方が高いかと思われます」

「そうか……。確か現在頭冠の悪魔が所持している“頭”の一つは第五位階魔法まで使えるんだったな。……この世界の基準で考えると、この場で手放してしまっては少々勿体なくも思えるが……」

 

 独り言のように呟いて何事かを思い悩むウルベルトに、デミウルゴスはそれを静かに見守りながらも内心では創造主の大いなる慈悲深さに改めて敬服していた。

 己が創造主は常日頃から悪魔と言う存在は愛する対象であると口に出して言い、実際にもナザリックにいる多くの悪魔たちに対して大いなる慈悲や心配りをしてくれていた。

 確かに第五位階まで使用できる“頭”を失うことを残念に思っているというのも事実なのだろう。しかしそれ以前に頭冠の悪魔の身の安全や生死の有無を気にかけてくれていることがデミウルゴスには分かった。

 ウルベルトの心優しさに、改めて胸が熱くなる。

 ただのシモベ風情に対し、何の躊躇いもなく当然のように気にかけて下さる至高の御方。

 何と慈悲深い御方であろうか……。何と寛大な御方であろうか……。

 どこまでも尊い至高の創造主に敬服し、心の中で改めて忠誠を誓う中、不意に何事かを考え込んでいたウルベルトが再びこちらに目を向けてきた。

 

「デミウルゴス、少し相談なんだが……――」

 

 そんな言葉の後に語られる言葉と内容に、デミウルゴスは思わず顔に浮かべている笑みを深めた。

 今までの計画にはなかった小さな変更……。しかし今後のことを考えれば多くのことに大きな影響を与えかねない変更に、しかしデミウルゴスは反対や異議の言葉を口に出すことはしなかった。

 恐らく……いや間違いなく、ウルベルトは自分では思いつかないような素晴らしいことを考えて実行しようとしている。

 今までそれを敢えて口に出して自分に指示してこなかったのは、恐らく自分がそれに気が付き、思い至るのを待ってくれていたからなのだろう。

 そう考えれば、ウルベルトの真の思惑に気が付かず、今もなおその真意に思い至れていない我が身に対して不甲斐なさが湧き上がってくる。

 しかし分からなければ今後分かるようになるために今以上に精進していけばいい……と自身に言い聞かせて気持ちを切り替える。

 至高の主であるウルベルトもアインズも、己を含めた下々に対して幾度となく学びの機会を与えて下さっている。ならばその温情を無駄にすることなく、ウルベルトの言動や一挙手一投足に至るまで気を配り、どのような思惑がありどのような狙いがあるのかを日々学ばせて頂くべきなのだ。

 デミウルゴスは密かに心中でそう意気込むと、ウルベルトの“ちょっとした提案”について深く頭を下げるのだった。

 

 




ナスレネの口調が分からない~~……。
場面によって女性口調になったり老婆口調になったり普通の口調になったりするので、ナスレネは特に台詞を書くのが難しいです。
もし違和感などありましたら申し訳ありません……(土下座)
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