聖王と軍師の子孫は世界最強 作:ギムレー様
とある世界にある一つの島。
青々と茂る木々の間から日の光が降りそそぎ、森に住む動物たちを照らしている。
動物たちは争うこともなく仲良く遊んでいた。
一目見るだけで人の手が加わってないことの分かるその島はまさに生き物の楽園のようであった。
そんな島めがけて一匹の生き物が海の上を飛んでいた。
体長は約3mほどあり、全身を鱗に覆われている一対の翼を持ったその生き物。
鋭い爪を持つ四肢に二本の角と多くの牙を持った頭部。
鱗は白く輝きどこか神々しさを感じさせる。
その姿は古来より多くの伝説で語り継がれてきた生き物の姿と酷似していた。
その生き物の名は“竜”。
あるときは人々に危害を加え脅かす厄災として、またあるときは大いなる力の象徴として描かれ恐れられてきたもの。
その竜は島に近づくと徐々にその速度を落とし砂浜に着地する。
そして着地するのと同時に蕾のようなものに包まれる。
少しして蕾のようなものが霧散するとそこには一人の少年が居た。
「ん~~っ……やっとついた。」
体を伸ばしながらそう呟いた少年。
少しの間体をほぐしてから少年は島の森に向けて足を踏み出す。
森の動物たちは本来部外者であるはずの少年に対して襲うことも逃げることもせず、まるでそれが当たり前であるかのように受け入れていた。
しばらく歩いていると洞窟が見え、少年はそのまま洞窟の中に入っていった。
その洞窟の奥に辿り着くと、そこには門のようなものがあり、フードのついたローブで全身を隠した怪しげな人物がいた。
「おや?今回はいつもより早く戻ってきたね、ルーク。」
「ああ、この世界にはマムクートが今までの世界より多かったからな。そのおかげで心置きなく竜化が使えて移動時間を短縮出来た。」
「なるほど。そういえば君はマムクートの血も引いていたね。それで?今度はどこの異界にいくんだい?」
ルークと呼ばれた少年は怪しげな人物に話しかけられても警戒することなく、親しげにしている。
だが、それは別に不思議なことではない。
元々ルークとこの人物は知り合いだからだ。
洞窟の中にあるこの門は“異界の門”と呼ばれるもので、今いる世界とは異なる世界である“異界”に行くことができるものだ。
そしてこの人は異界の門を守っている番人のような人物だ。
「この二年間一回も帰ってなかったからな。今回は俺の生まれた元の世界に戻るつもりだ。じゃないとマキナにどやされちまう。」
「そうかい。でも気をつけて戻りなよ?今更君が賊なんかにやられるなんて思ってないけど何が起こるかわからないからね。」
「わかってるって。でも俺がどれだけ異界を旅してきたかはお前が一番知ってるだろ。」
「それもそうだけど……ま、いっか。それじゃあ待たね。」
「ああ、またな。」
ルークと番人の二人が別れの挨拶をすると、閉じていた異界の門から蒼白い光がひとりでに開いた。
門が完全に開ききるとルークは迷うことなく門の中に入っていった。
門をくぐってからは流れに身を任せながら蒼白い空間を漂っていた。
(感覚からしてあと少しでつくかな?父さんと母さんはげんきかなぁ。マキナは家出るときに結構ぐずってたから帰ったらいっぱい遊んでやろっと。)
考え事をしている間に今いる空間とは明らかに違う光が見えてくる。
あと少しで出口だとわかり、ルークが内心ではしゃいでいると突然足下に見たこともない魔法陣が展開される。
「なっなんだこれ!?引っ張られ………ッ!?」
何とか逃げようとするも魔法陣に強く引き付けられてしまい、そのままどこかへ転移させられてしまった。
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突然教室に現れた魔法陣みたいなのが輝いたので思わず目を閉じていた少年―――南雲ハジメはざわざわと騒ぐ無数の気配を感じて目を開く。
そして、周りを呆然と見渡していた。
月曜日で今日からまた学校だったのとついつい徹夜ごゲームをして寝不足だったことから憂鬱な気分になりながらも学校に行き、いつも通りにすごしていた。
二大女神として人気のある少女―――白崎香織が話しかけてきて、それにつられるようにクラスのトップカーストの八重樫雫、天之河光輝、坂上龍太郎がハジメの周りに集まり、その結果クラスからのヘイトがハジメに集中する。
そんないつもの事(ハジメは本当は放っておいて欲しい)があり、誰かどうにかしてくれと思ったがこんな事が起こるとは少しも考えていなかったからだ。
周りを見渡しているとハジメと同じ様にしているクラスメイトたちの姿が見える。
どうやらあの時教室にいた全員がここにいるようだ。
他にも今ハジメたちがいる台座のような場所の前に三十人ほどの法衣集団がいる。
今居る大聖堂のような場所もそうだが他に教室に居た時と変わっていることがないか観察していると後ろの方から呟いたような声が聞こえてきた。
「…………どこだ、ここ?」
心当たりのないその声に反応して、その声のした方向に振り向くハジメ。
そこには中学生位の男の子がいた。
髪型は肩にかかるぐらいに整えられた白に近い銀髪で藍色のメッシュが一房入っており、同じく藍色の目をしている。
顔付きは整っているが、一見しただけでは性別が判断しにくい中性的な顔付きだ。
金色で縁取られた青色の膝ぐらいの長さまである上着に焦げ茶色のズボン、腰には金色のベルトがまかれ、上着よりも深い青色のブーツをはいている。
さらに上着と同じように金色で縁取られた青色の胸当てと肩当てを、腰のベルトには鞘にはいった剣をつけ、表が青色で裏側が赤色のマントを羽織っていた。
豪華絢爛という訳ではないが貴族のような風格を思わせる雰囲気の男の子や服装にハジメは思わず凝視してしまう。
だが考えてみれば、この台座の上にいるということは同じような状況なのだろうが見たことのない人なので、ハジメは男の子に話しかけていた。
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転移が終わったのか地面に足が着く感覚がしたので周りを見てみると、そこは見たことのない建物の中だった。
「…………どこだ、ここ?」
まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。
縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。
背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。
一見すると美しい壁画だが、ルークはどこか薄ら寒さをその絵から感じたので視線をそらした。
(あの時の魔法陣にこの状況からして転移したのか。それにこの場所と周りの様子から召還かなんかの儀式にでも巻き込まれたのか?)
自身に起きたことと法衣をきた術者らしき人たちが何十人もいることなどから仮説を立てていく。
あれこれと考えていると近くにいた少年がルークに話しかけてきた。
「えっと、君も突然ここに連れてこられたの?」
「?ああ、そうだが…………誰?」
「あっごめん。僕の名前は南雲ハジメ。よろしくね。」
「ハジメか。俺はルーク、よろしく。」
お互いに自己紹介を終えて話を続ける。
「それでハジメ、さっき君もと言っていたけどハジメたちもか?」
「うん。突然魔法陣が現れたと思ったらいつのまにかここに居たんだ。」
「こっちもだいたいそんな感じだ。」
ハジメと話していると法衣集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。
だけど纏っている覇気が強いため、皺などがなければ五十代と言っても通るぐらいだ。
錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音でルーク達に話し掛ける。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ。」
そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せたが、ルークにはどこか裏のありそうな感じがして警戒心を抱いた。
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その後は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。
メイドに飲み物を給仕され、それを確認してからイシュタルはこの世界について話し出した。
それをまとめると
1.この世界はトータスと呼ばれている。
2.トータスには人間族、魔人族、亜人族の三つの種族がいる。
3.人間族と魔人族は何百年も戦争を続けている。
4.魔人族による魔物の使役によって拮抗していた戦力が崩れた。
5.それによって、人間族は滅びの危機を迎えている。
となる。
「あなた方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という“救い”を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、“エヒト様”の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい。」
(…………狂信者かよ。)
イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。
ルークはその表情がこれまでの旅の中で見た狂信者と同じであることから思わず顔をしかめる。
狂信者は信仰する神のためならば平気で非道なことを行うことがあることを知っているルークはイシュタルに対しての警戒心を強めた。
その時、突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。
だけどルークよりも低身長かつ童顔で見た目は少女といってもいいような彼女の行動はハジメと同じ世界の人たちをほっこりさせていた。
(こいつら状況わかってんのか?)
他の奴等のあまりにも緊張感のなさすぎるその様子にルークは呆れる。
だが、次にイシュタルの言った言葉にその場の空気が凍りついた。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です。」
場に静寂が満ちる。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな。」
「そ、そんな……。」
確かにそうだ。
ルークも転移魔法があることは知っているが、転移はその世界の中だけしか転移できず、異界への転移は不可能だからだ。
さらにその世界のどこにでも転移出来る訳ではなく、一度行ったことのある場所にしか転移できず、距離が遠いほど使用魔力も馬鹿みたいに多くなり、術式がしっかりしてないとすぐに失敗してしまうという繊細な魔法のためルークの行ったどの世界でも使い手はおらず、文献に乗っている位だった。
だからこそルークは異界に行くのには異界の門を使っていたのだ。
ハジメの世界の人たちはイシュタルの言葉に口々に騒ぎ始めパニックになっていた。
その様子を侮蔑の込められた視線を向けるイシュタルをみて、ルークは内心で「狂信者が。」と舌打ちをする。
未だパニックが収まらない中、一人の男子―――天之河光輝が立ち上がりテーブルを叩いた。
その音で他の者が天之河に注目し、それを確認するとおもむろに話し始める。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい。」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします。」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな。」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
天之河のその宣言で絶望の表情だった人たちが活気と冷静さを取り戻し始める。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……。」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ。」
「雫……。」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……。」
そう言って三人の男女が賛成すると他の人たちも次々賛成していった。
一部の人はそれに反対したり、微妙な表情を浮かべていたが周りの雰囲気に押されて意味をなさない。
そんな状況にルークは思わず呟く。
「馬っ鹿じゃねぇの。」
ルークの発したその言葉は不思議と多くの生徒の声で騒がしかった大広間に響き渡った。
そしてそれを聞いた人たちが次々とルークの方に視線を向ける。
その視線にはルークが誰なのかという疑問と天之河に馬鹿と言ったことへの怒りが込められており、だいたい3:7の割合になっている。
静かになった大広間で直接言葉を向けられた天之河がルークに問い掛ける。
「君は誰なんだ?いきなり初対面の相手に馬鹿とは失礼だろ?俺たちは真剣に考えて決めたことなのに一体どこが馬鹿だと言うんだい?」
「真剣に………ねぇ。」
ルークは自身を見てくる天之河を観察する。
その顔には自分たちの決意を馬鹿と言われたことへの怒りや不快感が読み取れるがそれ以外には他の者たちと同じルークが誰なのかという疑問しか読み取れなかった。
(こいつ………もしかして自覚してないのか?)
そのことに引っかかるものを感じながらルークは話を続ける。
「お前はこれから何をするのかちゃんとわかっているのか?そして今自分が何をしたのかわかっているのか?」
「?ああ、もちろんわかっているさ。さっきも言ったように戦いを終わらせてこの世界と皆を救うんだ!!」
「ふ~ん、あっそ。」
(全くわかってないな。……結局話を戦いを経験したことのない一般人か。)
戦争をするということは相手を、人を殺すことがあるということなのに、そして自分が他の人たちをその戦争に巻き込み、命の危険にさらすことになっているということを理解してない天之河を冷たい目で見るルーク。
(正義感が強いのかは知らないが理想ばかりで現実が見れてない。ここで言ってもいいが…………辞めといたほうが得策か。)
本当は話した方が良いのだろうがイシュタルに見られていることに気づいて思いとどまる。
ああいう狂信者の前で神の不都合になることをするとどんなことになるかわからないからだ。
また元の世界に戻るために行動するのを邪魔されないようにするためでもある。
一応天之河たちにも力はあるようなので、それでもどうしようもない事態になったら自分が助ければいいかと結論ずけてルークは黙り込んだ。
敵意を向けてくる奴やいまだに話してくる天之河をながしながら。