──紅魔館 2F廊下──
「ハァ・・・っとに広すぎねぇか?この館・・・」
咲夜と戦った時の疲れが抜けきっているはずもなく、少し弱気になっているようだ。自覚できているだけマシではあるか。
左腕の感覚がほとんどない。傷はふさがったようだが、骨がどうも逝っているようだ。
「・・・誰だ」
ようやく見えてた廊下の角から、何者かの気配を感じる。
「あ、あなたが侵入者さんですか・・・?」
角から顔を見せたのは、頭に小さな黒い羽をつけた女性だった。
「残念、今は恐ろしい吸血鬼を倒しにきた勇者だ」
「よかったぁ、その受け答えの仕方は侵入者さんですね」
今の会話のどこにそれが分かる要素があったのだろうか。そもそも見た目から侵入者だと分かるはずなんだが。
ただ、向こうは戦う気はないようなので、警戒だけはしつつ、話を進める。
「で、俺に何か用?」
「パチュリー様に、案内してくるよう命じられたんです」
・・・向こうから来てくれるとは。だが、罠の可能性もある。
「それを証明できるものはある?」
「えっえっ証明できるもの!?え、えと、えーっと・・・」
大丈夫かこの娘・・・。もはや罠の有無より、この娘がやっていけてるのか心配してしまう。
「そうだ!私こう見えてパチュリー様の部下なんですよ!小悪魔といいます!」
「え、あ、うん」
・・・うん、この娘は罠とか無理だ!
思わず素がでてしまうほどに、彼女が明るく笑う。
「あー、とりあえず案内してくれる?」
「はい!こっちですよ!」
考えるのも馬鹿らしくなってきたので、もうついていくことにした。
歩きながら彼女、小悪魔に問う。
「なあ、咲夜さん置いてきちゃったけど大丈夫か?」
「たぶん、妖精メイドたちが運んでくれてるので大丈夫ですよ」
妖精メイド・・・おそらく隠れて見ていた気配の正体がそれなんだろう。
「咲夜さんは多くの妖精メイドたちをまとめるメイド長なんです。この紅魔館は咲夜さんのおかげで成り立っているようなものなんですよ」
ここでは従者のことをメイドと呼ぶらしい。一気に愛らしくなった気がする。
今のところ罠はないようだ。この娘が罠を仕掛けられなくても、知らされていないだけ、という可能性もある。
だが、それは杞憂だったようで、何事もなくパチュリーのいるという図書館まで案内される。
「ここが大図書館です。どうぞ」
小悪魔は扉を開け、中に入るよう促す。客としての扱いなら当然なのだろうが、少し疑ってしまう。
警戒を緩めないように、俺は図書館へと足を踏み入れた。
──そのころ 人里付近──
「霊符・夢想妙珠」
カラフルな弾幕とともに、霊夢と相対していた妖怪が吹っ飛ぶ。
「まだやる気?」
起き上がり、こちらを見ている妖怪を睨みつけながら言う。
「ヒ・・・」
「?」
「ヒィィおたすけぇぇぇ」
いきなり飛び起きた妖怪は、叫びながら全速力で去っていった。
「・・・まったく、ああいう中途半端に力があるから人間を食ってみたいなんて思うのよ」
強い妖怪ばかり出てこられても、仕事が増えて面倒なだけだが。
「あの様子ならしばらくは大丈夫そうね。さっさと報告して・・・」
「おーい、霊夢ぅー」
「・・・魔理沙、何か用?」
霧雨魔理沙、人間の魔法使いで、よく一緒に異変解決をする仲だ。
「そんな嫌そうな顔するなよ」
「元々そんな顔よ。それより何なの?」
「あぁそうだった、あれ見てみろよ!」
「あれ?」
魔理沙の指差す方を見ると、空が紅く染まっているのが分かる。少し嫌な予感がする。
「霧の湖のほうなんだけどさ、一緒に行ってみようぜ!」
「・・・そうね、いいわよ」
私がそう答えると、魔理沙は心底驚いたように言う。
「一発OKだとは思わなかったぜ・・・」
「どうせ断っても連れて行く気でしょうが。それに・・・」
私が少し口を濁したのに、魔理沙が首をかしげる。
「それに、嫌な予感がするのよ」
「おぉ~こいつはいよいよ楽しみになってきたぜ!」
楽しみじゃないわよ面倒くさい。
「ほら霊夢!さっさと行くんだぜ!」
魔理沙はそういって、箒の向きを変え、先に向かっていく。
この異変起こしたやつ、絶対ボコボコにしてやる・・・
私は魔理沙の後を追いつつ、そう、心に決めた。
いかがだったでしょうか。小悪魔は個人的に天然な娘だと嬉しいですね。次回のパチュリーとのお話まで、気長に待っていただけると嬉しいです。