「《ピアシングフリーズ》!」
視界に魔物の姿を確認した瞬間、すかさず俺は魔法名を唱えた。
その瞬間、魔物――ギガース・ウルドラゴニルの足元から、巨大な氷柱が伸び、ヤツの巨体をひっくり返した。
「キュルアーン!?」
巨大トカゲは突然の事態に戸惑いの叫びを上げながら、地響きを立てながら仰向けに倒れる。
《ピアシングフリーズ》。
マジシャンレベル82で習得できる上位水魔法だ。
本来は地面から突き出した氷柱が、あの巨体を下から貫く予定だったのだが……。
「流石レベル72……!
そう簡単にはいかせてくれないか……ッ!」
俺はヤツの状態に愚痴を吐きながら、気配探知で捉えていたNPCイルマの姿を視界に捉える。
(あそこかっ!)
向かって右前方、ギガース・ウルドラゴニルから約30メートルの地点。
腰を抜かしているのか、地面に座り込んだまま動こうとしない小さな人影が目に見えた。
「く……ッ!
《ラド・シャッフル》!」
オリジナル魔法である空間魔法の一つ、《ラド・シャッフル》。
命中補正スキルで指定した対象と、自分の位置を逆転させる魔法だ。
俺はなるべく奴から距離を取ると、命中補正スキルでNPCにカーソルを合わせると、魔法名を唱えた。
瞬間、視界がぐるりと回るような不快感と共に、船酔いに似た吐き気が頭を掠めた。
「きゃっ!?」
遠くから少女の悲鳴が聞こえる。
どうやら無事成功したみたいだ。
俺は気配探知でイルマが十分フィールドボスから遠い場所にいることを確認すると、自力で起き上がったトカゲの怪物に視線を戻した。
「キュルアーン!!」
ギガース・ウルドラゴニル(長いから以降トカゲ)は目を光らせると、怒ったように吠えた。
こういう動作は大概、地面から生えてくるタイプの魔法の予備動作だ。
俺はすかさず縮地スキルを使って、トカゲの近くまで接近する。
「ここからなら避けられないだろッ!」
縮地で距離を詰めて、《アンスール・ロッド》をトカゲのデカイ腹に殴りつけながら、俺は至近距離から《イサ・ハガル》の魔法を発動させた。
――ズドドドドドドドドドドドド!!
青い魔法陣のエフェクトが狂ったように乱回転し、雹礫の弾丸をマシンガンのように撃ち込んでいく。
「キュルアーァン!?」
どうやらトカゲの魔法発動はキャンセルできたようだ。
終末世界オンラインでのこういった魔法を使ってくる大型モンスターとの戦闘にはコツがある。
まず、このように魔法を発動させる隙を与えないこと。
そして、ヤツの弱点属性を正確に見極め、それのみでHPを削り取ること。
そして最後に、一点集中的に、同じ部位を攻撃すること。
この3つさえ揃っていれば、レベル差が狭くてもやっていける。
ただ、レベル差が狭いと、そもそも接近すら許してくれないのが終末世界クオリティだ。
俺は気配探知で上空から隕石のようなものが落下してくるのを確認し、縮地を使って急いでその場を離脱――は、しない。
なぜなら俺には、オリジナル魔法《結界術》があるからだ。
「《エオロー・シェル》!」
次の瞬間、俺を中心として半透明な黄色いバリアーが展開した。
「
つっても、二年も昔の話だけどね!
オレがそう叫んだ瞬間、上空から降ってきた隕石が、俺の張った結界に触れて弾けた。
そしてその弾けた隕石はすべて、俺の目の前にいる巨大トカゲの顔面へ被弾する。
「キュルアーァ!?」
「《ピアシングフリーズ》ッ!」
続けて、最初に放った魔法をもう一度、今度は魔力操作スキルを使ってやつの体内から発動させた。
――バゴォォン……ッ!
次の瞬間、そのデカいトカゲは内側から氷の柱に貫かれて爆散した。
ちなみに俺は、被害が自分に及ばないように発動とほぼ同時に縮地で退避していたので、ノーダメージで済んだ。
まさに圧勝。
こちらのHPは1ポイントも被害を受けていなかった。
これも、魔力向上スキルのスキルMod――《無詠唱》のお陰だな。
⚪⚫○●⚪⚫○●
ハロハロ〜♪ア〜リス〜だよ〜♪
……えっと、はい。
ふざけすぎました、ごめんなさい。
どうも。
朝食にするスープの材料を集めて、今日の寝床となるキャンプ場を探していたら、何と廃村を見つけましたアリスです。
せっかく村を見つけたわけだし、索敵スキルのMod、気配探知で廃村の中に偶然人とか居ないかな〜なんて思って探してみたら、なんとびっくり!
この世界の原住民がフィールドボスっぽいのに襲われそうになっているのを発見しました!
何とか(?)無事に原住民の保護に成功し、そんでもってフィールドボスの……えっとなんだっけ?ギガース……うど?うら?うるにごる……?
……あ、ウルドラゴニルだ!
なんか某宇宙人みたいな名前だなぁ……。
名前言いにくいからトカゲでいいよね?
で、そのトカゲも討伐することに成功しました!
皆さん拍手!
「って、ここには俺しか居ねぇよ!!」
あとイルマとかいうNPCだけだよ!
俺は素材変換スキルで、そのトカゲをアイテムに変えた。
ちなみに、ゲットできたEXPは108000だった。
「あ、あのっ!」
俺がそんな一人漫才を繰り広げていると、ビクビクと震えながらイルマちゃんが話しかけてきた。
(( ゜д゜)ハッ!
そうだった!初めての原住民、しかも会話可能な相手が居るんだった!)
あ〜!
待ちに待った、あこがれの会話相手ぇ〜っ!
俺はその呼びかけに対して、音速も超えるのかというほどの勢いで彼女に振り向き、目をキラキラと――もといギラギラと輝かせながら、縮地を使って彼女の真正面まで飛んでいった。
「何かなっ!
イルマちゃんっ!」
「ヒィ……ッ!?」
イルマはそんな様子のアリスに、思わず悲鳴を上げた。
思わず後ずさるイルマ。
ギラギラと輝く彼女の目は、完全にご馳走を目の前にした餓鬼だった。
イルマが悲鳴を上げるのも無理はないのかもしれない。
「何でもいいよっ!
思ったことを好きに言ってごらん!
俺は今話し相手に飢えてるんだぁ……!」
「ち、近寄らないでください……っ!!」
「うん、わかった!
近寄らないよ!……って、え?」
今、なんて言った?
ち、近寄らないで……?
な、なんで?
聞き間違いかなぁ……?
もし聞き間違いじゃなかったら、俺泣くよ?
ほんとに泣くよ……?
「んん〜……?」
俺はそんな疑問を問い詰めるように、ハイライトの消えた目を大きく見開いて、小首を傾げた。
擬音語で説明すれば、まさに“ギギギギギ……?”という感じだ。
「ヒィ……ッ!?」
再び後ずさるイルマ。
どうやらあの言葉は聞き間違いではなかったようだ。
はらり、と俺の目から涙がこぼれ落ちた。