どうも皆さん。
原住民のイルマちゃんに怖がられてすごく凹んでいますアリスです。
あの、友達ってどうやって作るんですかね?
ある人は『友達は作るんじゃない。いつの間にか、気づいたらそうなっているものなんだ』とかって言いますけど、そんなの社交スキルチートの言うことだと思うんですよ。
俺みたいな人との付き合い方がわからない人には、勢いに任せるしかないんです。
……ま、その勢いも萎えてしまえば意味ないですけど。
「フフッ……。
俺なんてどうせ怖い人ですよ。
いつもいつも、ちょっと話しかけただけでヤーさんと間違われる……」
だからこそ、この美少女フェイスならそんなこともないだろうと思い切って話しかけたのに……。
俺は、地面に落ちていた木の枝で足下を突つきながら、自嘲気味に笑った。
「あ、えっと……大丈夫ですか……?」
そんな俺を見かねたのか。
イルマは若干怯えながら、遠くからそう尋ねてきた。
「大丈夫じゃないさ……。
主に、俺の心が……」
「お、“俺”……?」
俺はポツリとそう答えると、盛大なため息をついた。
「えっと……すみません……。
あの、その……た、助けていただいて……ッ!」
「ん?
あー……いいよいいよ。
別に大したことないし」
リアルになってからの戦闘で、一番レベル差が狭かったからどうなるかとは思ったけど、結局はゲームと同じだったしな……。
「まったく、この世界は変なところがゲームのままだ……」
「げ、げーむ……?」
俺の独り言に、怪訝な表情で返すイルマ。
(あー、そっか。
この世界の人だもんな……)
ゲームって言われても、そりゃわかんないわ。
俺は、手を振って「気にするな」と答えておいた。
なんてったって、説明がめんどくさいうえに、受け入れられない確率が大だからな……。
「……そういや、まだ飯食ってなかったな」
数度の会話で、かなりの精神力を回復できた俺は、そういえば今まで忘れていた空腹感を思い出して立ち上がった。
そして、その瞬間。
間に合わせたかのように、その場から小さな腹の虫の鳴き声が廃村に木霊した。
その鳴き声を、俺は聞き逃さなかった。
刹那、俺の目が、漫画であればギラーンという効果音が付きそうな勢いでイルマの方を向いた。
「ヒッ!?」
その目に何を思ったのか。
彼女は反射的に短い悲鳴を上げて後ずさった。
しかし俺には、ようやく見つけた話し相手を逃がす気は毛頭ない。
俺は縮地スキルまで使って彼女の正面まで接近すると、イルマの両肩をガシッと掴んだ!
「ちょうどいい……。
話し相手が欲しかったんだよ、お前も付き合え」
「ハッ、ハイぃ――ッ!」
こうして、俺は話し相手を手に入れるのであった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
グツグツと音を立てる鍋を挟んだ、その向こう側。
そこには、紫のかった藍色の髪をした美少女メイドが一人、鍋の様子をお玉でかき混ぜながらも眺めていた。
彼女の名前はイルマ。
さっき俺が助けた、この世界の原住民だ。
……え?
そのメイド服はどうしたのかって?
ふふん!
よくぞ聞いてくれました!
実は、最初彼女はとてもぼろぼろなローブ姿だったんだ。
ところどころ破れたりほつれたり、いつついたのかわからない、古い血糊の跡や泥に塗れていたんだ。
そのままじゃあまりにも不衛生だから、ということで、俺がゲーム時代に裁縫スキルをマックスにするために作っておいた、試作品のメイド服を彼女の体の大きさに合わせて仕立て直したんだ。
「あの……?」
……にしても、やっぱり俺ってセンスいいわぁ……。
彼女の髪色が暗い感じだったから、それと対象的な明るいヘッドドレスやエプロンドレスにしてみたんだけど、これがよく映える!
もちろん、イルマちゃん自身の素材の味を活かすために、多少彼女の色に近づけて色彩は直したけれど……。
「……うん、やっぱりいいわ。
この着せ替え人形……」
「き、着せ替え人形……?」
おっとしまった。
心の声が漏れてしまってたか……。
「んーん、なんでもないよ。
……それより、イルマちゃん。料理上手だね?
誰かに教えてもらったの?」
俺は慌てて首を振って、先程の独り言を無かったことにすると、話題を目の前のお鍋に変えた。
実はあの後朝食(といってもメニューを開いた頃には既に12時を迎えていた)の用意をしようといろいろ準備をしていたのだが、そこに彼女がやってきて、助けてくれたお礼としてご飯を作ってくれることになったのだ。
それから、その格好だといろいろ不衛生だからということで、お風呂に浸からせて着替えさせたのだ。
……いや、誤解しないでくれたまえ諸君よ。
別に俺は彼女の裸を見たわけではないぞ?
《クラフト》とストレージ内にあった木材で五右衛門風呂作って、薬品作成スキルで手頃に作れる香油――ゲーム時代にはなかったレシピだが、昨日池で風呂に入ったときにたまたま検索かけたら見つかったんだ――とタオルを渡しただけだからな。
ま、その後イルマちゃんがご飯の用意してくれている間に彼女の残り湯を存分にいただきましたけど。
……別にこれ、犯罪じゃないよね?
――それはともかく。
俺がイルマちゃんに料理のことを尋ねると、彼女はゆっくりと首を振った。
「いえ……。
自分で覚えたんです」
少し間を開けて、彼女はそう答えた。
(……うん。
これは何があるな。主にキークエストの進展の気配だ)
長い間こういうゲームをやっていれば、だいたい分かるようになる。
何か重要なクエストが進展する、もしくはそれに繋がるらしいという、あの独特の気配。
彼女の言葉には、そんな気配がプンプンする。
イルマがグツグツと鳴る鍋に、俺が山で抜いてきた芋の粉末を投入するのを見ながら、俺は彼女の話の続きを待った。
「私達ダンタリオン族は幼少期から主に、要人の影武者として育てられるんです」
影武者……っていうとあれか。
王様とかが戦争のときとかに、自分にそっくりな人を残して逃亡する時間稼ぎをするための生贄みたいなやつだっけ。
ということは、多分彼女がここにいるのは、身代わりになるはずだった要人が死にでもしたのか……?
それでなんやかんやあって逃げてきた……とか?
俺はイルマのそのセリフから、そんな予想を立ててみた。
が、しかし実際はそうではなかったようだ。
「でも、私には一族が使えるはずの《変装》スキルが無くて……。
誰かが持ち込んだ、他種族のスパイと疑われて《最果ての森》に追放されたんです。
私が料理を覚えたのは、ここでの経験からですよ」
……。
よくわかんないけど……。
ん〜、こういう時って、どうするのが正解なんだろ?
彼女が今ここでそんな話をしてきたってことは、つまりアレだろ?
その里の人たちを見返したいから協力して!……みたいな?
……冗談じゃない。
いくら人恋しくて、話し相手がほしいからといえども、そんな面倒ごとは引き受けたくはない。
だから俺は、ここでこんな重要な話し相手を失うとしても、これだけは聞いて置かなければならないと思った。
その回答次第では、今後俺の身の振り方が変わってくるだろうから。
俺ははぁ、とため息をつくと、彼女の目を見て、一つだけ質問した。
「……それで、イルマちゃんはこれからどうしたいのかな?」
行く宛がないと言うなら俺が拾ってあげてもいい。
何せ料理ができるというのは貴重だからな。
だけど、彼女の成り上がりに協力するのはゴメンだ。
そういう意図を孕んだ質問に、イルマは直感で気がついた。
しかし、もしそんな意図がなかったとしても、彼女の心はアリスに助けられた頃から一つに決まっていた。
「……仙人様に助けていただいた命です。
私は、仙人様についていきたいと思っています……!」
仙人様……か。
まぁ確かにジョブは仙術師になってるけどさ……。
「それなら良かった!
俺、実は料理が得意じゃなくてさ〜」
俺がそう答えると、イルマはパァァと顔を輝かせた。
「ありがとうございます、仙人様!」
こうして、俺の異世界生活にイルマという話し相手兼メイドが追加されるのだった。
ちなみに、イルマちゃんの料理はすごく不味かった。
これから料理は俺が作ることにしよう……。
そう、固く心に決めるアリスだった。