「《ピアシングフリーズ》!!」
「ピァァー!」
虚空から現れた氷柱が、空を逃げ惑う“空飛ぶニワトリ”を追いかける。
ニワトリは木々の枝を器用に駆使して、木の幹や枝を盾に、その氷柱を回避する。
「イルマちゃん!」
俺はニワトリを《ピアシングフリーズ》で追い込みながら、イルマに合図を出した。
「《シャドーバレット》!!」
イルマは瞬時に俺の合図に反応すると、闇魔法の《シャドーバレット》で、ニワトリの死角から攻撃を浴びせる。
「ピァァー!」
《シャドーバレット》は、一回の発動で複数の弾丸を放つことができる、《ウィンドカット》に並ぶ初心者お助け用の魔法だ。
しかしそのニワトリは、魔法の気配を察知したのか、くるりと振り返り様に灰色のブレスを放つ。
ロー・コカトリスの固有魔法、《石化ブレス》だ。
木の影から放たれた、完全に死角からの攻撃をそのブレスで無力化したロー・コカトリスは、そのままブレスを吐き出しながら、イルマの方へと首をひねらせた。
「イルマちゃん!」
俺はその動作をいち早く察すると、縮地スキルを使って彼女とコカトリスの間に割り込み、結界術を発動した。
「《エオロー・シェル》!」
次の瞬間、黄色い光の膜が二人を包み込んで、《石化ブレス》を弾き返した。
「ピァァー!?」
運動のベクトルが逆転した《石化ブレス》に驚いたのか、ロー・コカトリスは一瞬硬直すると、ホバリングをやめて急速に地面へと落下した。
しかしその一瞬のせいで、ロー・コカトリスの尾羽の一部が石化する。
「よし、飛べなくなった!
イルマちゃん、一気に仕掛けるよ!」
「はい、お嬢様!」
俺は地面へと落下したニワトリに大出力の《ウィンドカット》を放った。
同時にイルマも《シャドーバレット》を発動させる。
――スドドドドドド!
「ピァァー!?」
大量の黒い弾丸と大出力の風刃が、飛べないニワトリに襲いかかり土煙を上げる。
衝撃で地面が揺れて、上の方で石化していた木々が落下してきた。
俺はすかさず《エオロー・シェル》を展開すると、上空から落ちてくる礫岩を弾き飛ばして土煙が収まるのを待つ。
……え?
なぜ気配探知や魔力感知でニワトリの様子を確かめないかだって?
実は俺が今張っているこの《エオロー・シェル》という結界術は、ほとんどの攻撃を跳ね返してくれる代わりに、設定の都合上内側からの魔法やスキルも全部跳ね返してしまうんだ。
だから、もしこの中で気配探知などを使っても、外の様子を確認することはできない。
(……今思いついたけど、この魔法攻撃に転用できないかな?)
いつか試してみよう。
俺はそう心に書き留めると、そろそろ煙の晴れてきた外界に意識を向けた。
「ピァァー!」
すると、次の瞬間。
煙の向こうから赤い光線が走ってくるのが見えた。
「ヤバイッ!」
俺は直感的にそう判断すると、結界を解いて、イルマを抱えながら縮地を使ってその場を離脱した。
「きゃっ!?」
慣性の法則に従って、イルマの体が大きく揺れる。
……もしイルマちゃんが巨乳だったら、このとき彼女の胸は盛大に踊っていたんだろうな。
危ない危ない……。
俺は頭を振ると、気配探知でロー・コカトリスの様子を確認した。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「うん、問題ないよイルマちゃん。
心配してくれてありがと」
俺は、不安そうな顔で尋ねてくる彼女に、笑顔を以てそう返した。
(……どうやら、さっきのは死力を尽くした最後の足掻きってやつだったみたいだね)
俺は、気配探知、魔力感知の双方を使って、あの空飛ぶニワトリが絶命していることを確認すると、ほっと胸をなでおろした。
「それにしても、このコカトリス。
お嬢様の魔法がほとんど当たりませんでしたね……」
俺がイルマちゃんに、コカトリスが死んでいることを告げると、彼女も同じように胸をなでおろしながら言った。
「コカトリスは魔法の察知能力が高いからねぇ」
ロー・コカトリスの死骸に素材変換スキルを発動しながら、俺は彼女に同意する。
異世界生活も三週間目に突入した今日。
俺達はレベル80台の魔物が出没するエリアを探索していた。
モンスターとのレベル差もかなり縮まってきたおかげか、俺が獲得する経験値量も増え、レベルも2つほど上がってきた。
イルマも、高レベルのモンスター退治で急速にステータスを伸ばしつつあるようだ。
ちなみに、これが現在の俺達のステータスだ。
⚪⚫○●⚪⚫○●
アリス
称号:自然に生きる者
苦行を乗り越えた勇者
追放された者
人類の末裔
賢者
レベル 87/100
HP1000 MP199875/210000
JOB 仙術師
レベル 312/100
STR 85 AGI 100 VIT 60 INT 8600
スキル
経験値向上 10/10 命中補正 5/5 威圧 5/5 索敵 10/10 豪腕 3/10 俊足 10/10 縮地 10/10 自動回復 4/10 魔力向上 25/35 火魔法 10/10 上位火魔法 5/5 究極火魔法 5/5 水魔法 10/10 上位水魔法 5/5 究極水魔法 5/5 風魔法 10/10 上位風魔法 5/5 究極風魔法 5/5 土魔法 10/10 上位土魔法 5/5 究極土魔法 5/5 光魔法 10/10 上位光魔法 5/5 闇魔法 10/10 上位闇魔法 5/5 空間魔法 10/10 治癒魔法 10/10 祓魔術 10/10 結界術 10/10 死霊術 10/10 召喚魔法 10/10 武器作成 10/10 防具作成 6/10 裁縫 10/10 薬品作成 10/10 魔力操作 6/10 魔力感知 7/10 家具作成 5/10 素材変換 10/10 鑑定 10/10
⚪⚫○●⚪⚫○●
イルマ
称号:人間の従者
ハーフ・ダンタリオン
レベル 58/100
HP520 MP720/800
JOB メイド
レベル 56/100
STR 52 AGI 52 VIT 52 INT 80
スキル
給仕 10/10 使用人 6/10 闇魔法 10/10 上位闇魔法 2/5 誘惑 1/10 危機察知 5/10
⚪⚫○●⚪⚫○●
俺はロー・コカトリスの素材を回収すると、上位土魔法の《アース・クラフト》を用いて地面を平均して、外用の椅子と机を用意した。
「少し休憩しよっか、イルマちゃん」
俺はちらりと、少し怠そうな表情を隠しているイルマちゃんに声をかけると、席につくように促した。
「……はい、ありがとうございます、お嬢様」
イルマはそう言うと、少し申し訳なさそうな顔をして席についた。
そんな彼女に、俺は笑みを向けながらMP回復ポーションを手渡した。
「いいよいいよ。
今回のはちょっとキツかったしね……。
魔力使いすぎて倒れちゃう前にこれ飲んで?」
「あ……はい……」
その赤い液体の入ったフラスコ瓶を見た瞬間、彼女の顔が一瞬だけ引きつった。
「不味いけど、飲まないと魔力切れで倒れちゃうから。
我慢我慢♪」
そんな、どこか楽しげにポーションを勧める俺に、イルマは苦笑い一つ。味を感じまいと、一気にその中身を呷った。
「……ごくん」
彼女の細い首が、上下に揺れる。
すると、視界の端に開きっぱなしにしていた彼女のMPが、みるみる間に回復していった。
「やっぱり、称号がつくには、99本一気飲みの苦行を乗り越えないとか……」
ポツリ、とステータス画面を覗き込みながら独り言ちるが、これはいつものことなのでイルマはとりあえずスルーした。
それから暫くの休憩を終えた俺達は、再び《最果ての森》最奥へ向けて歩き始めた。
……え?
どうして奥へ進むのかって?
なんとなくだよ、なんとなく。
べ、別に今まで出口とは逆方向に進んでいたのが途中でわかって、今更引き返したりなんかしたら、なんか負けて気がして嫌だったとか、別にそんなんじゃないんだからね!
……え?
……これはツンデレとは呼ばないって?
固いこと気にすんなって。
ハゲるぞ、オッサン。
(そういえば、オッサンって名前の魚がいたような……)
ま、いっか。
俺は頭の中の無駄話を終わらせると、ストレージから水筒を取り出して一口呷った。
それから暫くイルマちゃんと雑談を交えながら奥へ奥へと歩を進めていると、目の前に石造りの鳥居のようなものが現れてきた。
「これは……一体何でしょうか?」
「さあ……?
廃神社か何かじゃないのかな?」
その鳥居には、俺が廃神社と称したように、無数に蔓が巻き付き、厚く苔むしていた。
鳥居といえば木でできているイメージだったのだが、どうやらこの世界の鳥居は石製のようだ。
俺は好奇心からその石の鳥居に近づくと、その柱に手を触れてみた。
ザラザラとした感触が、長い年月を経て徐々に風化していった歴史を感じさせる。
「でも、こんなところに参拝に来る魔族なんているんですかね?」
イルマはそんな俺の隣で、見上げるほどに高いその鳥居を眺めながらそう尋ねてきた。
「いるんじゃない?
だってほら、イルマちゃんと出会ったところだって廃村だったし」
「言われてみればそうでしたね……。
失礼しました、お嬢様」
イルマはそう言うと、恭しく謝罪した。
(別に謝らなくてもいいんだけどなぁ……)
俺はそんなイルマの仕草を見て苦笑を浮かべると、さてと鳥居の奥に視線を移した。
……こういうところってフィールドボス出そうでなんか怖いんだよなぁ。
俺はははっと乾いた笑い声を出すと、気配探知と魔力感知を発動させた。
(……ふむ、中も結構な荒れようだな。
境内はさほど雑草の類は生えてないみたいだけど……これは多分、周りに咲いてる桜の木のお陰かな?
拝殿の中は……うわ、何も無い……。
床も腐ってるし、ところどころ朽ちて穴が空いているところがある。
……本殿は……ん?)
何か強い魔力反応を持っている物体が、横たわっているのが魔力感知に引っかかった。
俺はその物体を気配探知で探ってみると、どうやらそれは人形をしているように見えた。
(あれは……人が倒れてる……!?)
俺は久しぶりの住人発見に、大きく目を見開いた。
そんな俺の様子に、怪訝に思ったのか。
イルマは首を傾げて問いかけてきた。
「どうかなさいましたか?」
俺はその質問を聞くと、「人が倒れてる」と簡潔に返答して、さらにその人物の周辺を索敵スキルで探ってみる。
すると、その倒れている人物の近くに、何かをむしゃむしゃと頬張っているような、何か得体のしれないモノが一体存在した。
その形状は、説明するなら『手足の生えた球体』が一番近いだろう。
おそらくそいつが頬張っているのは、近くに倒れている人物の大きさを考えると、それの親か、歳の離れた兄姉といった具合だろうか?
「イルマ、行くよ!」
「はい、お嬢様!」
俺はその光景を見た瞬間、イルマの体を抱きかかえて縮地を発動した。