この可哀想なファフニールに優しさを!   作:まつ壱

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在り来りな転生

「……ここが、異世界なのか?」

パッと見た感じは異世界感ゼロですけど……。

 

それもそのはず、キョロキョロと見渡したが木と草で生い茂っているだけで、人もモンスターも寂しがり屋のファフニールさえ見当たらない。

 

ただの草原に転生されたのか??

 

おいおいおい! 俺の異世界ライフはどうなったんだよ!?

目覚めて一瞬で世界観が終わる異世界物語って誰得だよ!?

 

慌てる俺に止めてくれる人が居る訳なく、パニック状態に陥っていた。

「もしかしたら、ここは異世界では無く。 日本の何処かの田舎とかで俺は誰にも認知されずに転生されたって感じなのか!?」

 

ある意味他の人から見たら滑稽に見えるだろう……。

 

そんな振り切れない気持ちに悩まされていた時、俺は一つ気づいた事がある。

「…………えっ?」

 

…………俺、宙に浮いてね?

 

不自然にふわぁっと浮いた身体は重力と言う理不尽な掟に逆らうことが出来ず、頭から地面へとダイブしていた。

 

ゴフゥ!?

 

「なっ! あぁ、あったーまがあったーまが!!」

落ちた衝撃と痛みで今自分がどんな状況下に居るのかはっきり分からない。 てか、一体何があったら俺が宙に舞う事になるの!?

 

痛む頭を押さえながらその場にムクリと座る。 そして、知性の少ない頭で考えてみる。

 

まぁ、理解不可能な事が起きたって事はここが異世界と言えるだろう。 魔法とかの類だろうか? 狙われては……ないだろう。

 

正解に近づけようとするがこの世界の知識が不十分だ。

 

「何か『証拠』的な物が無いのかな? それさえ見つかればこの謎も解決するのだが……」

そう言いながら、草の上に大の字で寝転ぶ。

 

そして、後悔した。

 

後悔した理由は単純だ。 宙に浮いた原因が分かったから……。

 

「oh……。 嘘だろ?」

 

「グルゥゥヴゥゥガァルルヴゥゥゥ」

 

至近距離の俺に耳を劈く勢いで咆哮を飛ばしてきた。 多分、この子がメルが言っていた黄焔龍ファフニールだろう。

 

出逢えた事に嬉しさもあり、鼓膜を破られた事もありで、何とも言えない感情に悩まされている。 ……この後パクリとされないだろうな。

 

「な、なぁ、言葉……分かるか?」

 

「グルゥゥヴヮ?」

 

やっぱり、種族が違うだけで会話も成り立たないか、しょうがない……別のコミュニケーションの取り方を変えてみよう。

 

「フンッフンッフン」

 

「ガルゥ?」

 

……ジェスチャーを試してみたが通じないな。

 

どうすればいいんだよ!? 俺は頭を抱えながら脳内に訴えかけた。 そんな悩んでいる俺の隣でファフニールは静かに土に向かって爪を突き刺し始めた。

 

どうしたんだろう? 遊んでいるのかな?

 

何もする事もないのでファフニールの謎の行動ただただボォーと見守っていた。 暇なのである。

 

ザクザクと豪快な音を出しながら土を抉っていくのを見ているが、音フェチの俺としては、その音にうっとりとしてしまって時間さえ忘れる程だ。 それに、ファフニールは爪先で『初めまして』と書いている……うむ、なんと…き、よ…うな!?

 

ぉィ、まじィかョ?

 

唐突の事に俺は口を半開きにする事しか出来なかった。 そんな俺に対してファフニールは「ガルゥヴゥ!」と唸って少し嬉しそうに尻尾をバタバタと地面に叩きつけていた。

 

「おまっ、おまっ、お前って言葉での会話は出来ないが、文字系統では通じ合えるのか?」

 

そう言い放つと再び土に向かって爪を突き刺した。

 

ん? 何だ何だ?

 

『そうです この声帯では普通に会話すら出来ないのです すみませんご主人様 』

 

ご、ご主人様…だと…?

 

そんな感じなのかと首を傾げる。 自分的には旅の同僚的だと思っていたが違ったのかな?

 

「まぁ、話せなくても通じ合える事が分かったから、良かったのかな。 うん、これから宜しくなファフニール」

 

『はい 宜しくお願いします 後 まだ私には名前が無いので考えてくれますか 』

さっきと違って意気揚々と凄いスピードで地面に文字を描いていく。 今までの、慣れていない感じは何処へ……。

 

「名前かぁ…。 こんなのが良いって思うのある?」

 

『ご主人様が決めてくれるなら 何でもいいですよ^^*』

 

俺が決める名前なら何でもいいのかぁ。 それにプラスして、絵文字まで入れてくれるなんて……。

 

もう、泣きそうです。

 

「本当にいい子だなぁ。 う〜ん、もっと親しくなるには……あっ、そうだ。 なぁ、君の名前を考えている間にこの世界に来るまでの話でも聞く?」

 

『はい お願い致します 興味深いです 』

軽く唸って合図を送ってくれる。

 

よし、この子に似合う名前と飽きさせない愉快な話を!

 

 

そして、すっと息を吸い込み話し始めた。 ファフニールに出逢うまでの話や日本に居た頃の話、どれも出来る限り詳しく話した。 自分という名の『生き物』を分かってもらう為に……。

 

「そうそう、そしたらメルが……って言っていて」

 

『メルって あの時の事まで話していたの!? 』

 

一人の人間と一匹のファフニールの会話は何時間にも及んだ。

 

「はぁ、こんなに話したのは久しぶりだよ……。 でも話せて良かったと思うよ!」

予想以上に話したから結構な疲れが押し寄せて来たが、何と言えば良いだろう……とても幸せと想うこの気持ちを。

 

『私も本当に楽しかったです ちょくちょく唸ってしまって恥ずかしいです 』

 

……唸るって恥ずかしい時に使う感情表現なのか?

出会った時から聞いていたが、あまり変化が分からなかった。

 

「ふぁぁ……。 ごめん、流石に色々とありすぎて眠たくなってきた。 今日はこれぐらいにして明日話の続きをしない?」

 

ファフニールも同じなのか疲れた様に首を振る。

『分かりましたご主人様 私も眠くなったので眠らせてもらいます それでは おやすみなさい 』

書き終えたと同時にファフニールは楽な姿勢で目を瞑る。

 

「キュールゥルゥルゥ……フゥー」って寝るのはや!?

 

そんな気持ち良さそうなファフニールを横目に自分も目を閉じる。 閉じるまでは良かったが、やっぱり異世界へ来たという興奮で寝付けないでいた。 眠たいのは確かなのに……。

 

「あぁ、明日から楽しみだなぁ……。 これからの異世界旅はどうなるのかな?」

そう思って再び目を閉じたが……逆効果だったので後悔した。

 

 




わぁぁぁ、書き終えました。

序章なのでファフニールとの一日を書いてみました。 この後も、どんどん関係が進展していくので乞うご期待!!

それでは、また次回。

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