「此処が日本か。ナンパでもすっか、おい?」
俺の名はヘラクレス。大英雄ヘラクレスの魂を継ぐ者だ。そう、人間では到底成し得なかった試練を達成したギリシャ神話最強の英雄のな。え? パンツに塗られた毒で苦しんで焼身自殺したり、お気に入りの美童を助けるためにアルゴー船から降りたヘラクレスで間違いないかって? ……その通りだよ、チクショー。
俺が前世について自覚したのは幼少期。ある日突然、自分の前世がヘラクレスだって分かっちまった。変な例えかもしれねぇが、散々苦労したのに、乗れるようになった途端に平然と自転車に乗れるように受け入れたんだ。……その日から暫くは黒歴史って奴だ。自覚した途端にメキメキ上がっていく力とゼウスの息子だって事で調子に乗って、予言で俺の居場所を突き止めて派遣されたお師匠にボッコボコにされるまではな。
「貴殿は力だけでなく心も鍛えなくてはな」
後はこんな感じで無理矢理弟子にされて性根を叩き直された。でも、今じゃ感謝してる。あのままじゃ調子に乗ったまま禄でもない事をやってただろうからな。来世まで面倒を見ようなんて弟子思いのお師匠には本気で感謝しているよ……ああ、ヘラクレスは神になったんじゃってツッコミだが、正解だ。漫画とかで悪の心を切り捨てたとかいうキャラがいるが、同じ様に人間の部分を切り捨てたんだよ。だからオリュンポスには神であるヘラクレスが居るし、更正の一環としてボコボコにされた。
だから俺はノーマルだっ!
「……ナンパか。止めておこう」
俺の提案にゼオンは静かに首を横に振る。視界の先にいるのは此奴好みの……といっても美人や美少女なら大概好みなんだがな。そんな好みの女が居るのに珍しいので俺は怪訝に感じた。何かあるんじゃないかってな。
「あぁん? お前だってナンパは好きじゃねぇか」
「いやいや、私にもポリシーがあってね。立場的に断れないレディ相手と、恫喝するような方法でのナンパはしないのさ。君は人相が悪い。私だけで後から楽しませて貰うよ、あでっ!?」
無言で隣の友人の頭を叩く。俺は今、此奴と共に日本に存在する悪魔の縄張りに足を踏み入れていた。
「そういや悪魔にゃどう説明してんだ? 素直に予言で利益があるからって言ってるわけねぇし」
「その辺は悪魔側から何度も交友を持ちたいって申し出があったし、それに応じてまずは若者の留学をって事らしい。……ところでリアス・グレモリーについてはどう思う?」
俺達が住むことになるマンションに入り、荷解きをしながら振られた話題に俺は途端に真剣な表情になる。
「油断できねえってところだな。事前の調査もどれだけ信用できるかって感じだ」
この駒王町を縄張りにするのはグレモリー公爵家の次期当主リアス・グレモリー。本来なら貴族の学校で政務についての知識や将来のための繋がりを手に入れるのが普通だが、日本の一般的な高校で普通の授業を受けている。多少人外や異能力者が居るが、殆どは一般人だ。
つまり、今更学校に通わなくても構わないと親が納得するほどの政務の手腕と人脈を持っており、この町で新たな人脈を手に入れつつ実践を学んでいるって所だ。魔王の妹で、更にもう一人魔王の妹が居るのに補佐をするアドバイザーや護衛の情報がないって事はうちの諜報能力を持ってしても騙されるような凄腕がいるか、その辺の奴じゃ邪魔にしかならない凄腕って訳だ。
「私の予想では本人の力がずば抜けていると見た。町に到着してから感知を続けているが、侵入者を探知する防衛用の結界が余りにお粗末だ。家の名を背負って異能力者を受け入れている以上、何かあれば家の名に泥を塗るのだからね」
「今夜晩餐会を兼ねた顔合わせだったよな。出来れば相手の底を見たいが……」
「逆に此方が見透かされるかもしれない……だろう? 面白いじゃないか。この程度の苦難を乗り越えられなくてどうするって話だよ、ヘラクレス」
不安が一気にかき消される。はっ! 時間が有れば女の尻を追いかけ回してる様な奴だが、本当に頼りになる奴だぜ。俺もリアス・グレモリーを見定めてやろうと心に決めた時、転移用の魔法陣が輝いてジークが飛び出してきた。
「お兄ちゃん、新しいおうちについたの~? なら、探検しよ、探検!」
飛び出してきたジークは直線上にいた俺の頭を踏みつけ、そのままの勢いでゼオンに飛び付くと見事にキャッチされた。
「こーら。ヘラクレスを踏んだら駄目だぞ、ジーク。悪い子にはお仕置きだー」
「わきゃあ~!」
まず頭、次に顎、最後に仰向けになってさらけ出されたジークのモッフモフの腹を撫で回すゼオンの顔は緩みきっている。……此奴、ペットが絡むと途端に駄目になるなっ!
「じゃあ、お散歩に行こ!」
「仕方ないなあ。じゃあ、絶対に喋らないようにな。それとヘラクレスに謝っておくんだ」
「うん! ごめんね、ヘラクレス!」
犬ってのは順位をつけて露骨に態度に出す生き物だ。どうも俺は同等か少し下程度に思われているらしいが、子犬相手じゃ怒る気もしねぇ。ポンという音と共に頭が一つの姿に変身すりゃゴールデンレトリーバーの子犬にしか見えねぇ。何時買ったのか首輪を付けたジークをゼオンは可愛い可愛い言いながら撮影してやがった。多分今度の休み辺りにアルバムを編集するんだろうな。
「じゃあ、近くの公園まで散歩に行ってくるよ。私の荷物は置いていてくれたまえ」
「頼まれてもテメェの分まで誰が片づけるかよ」
荷解きを途中で放棄してペットの散歩に向かう馬鹿を見送った俺は黙々と作業に戻る。…共同スペースの物程度は出しておくか。
「初めまして。私がリアス・グレモリーよ」
「ゼオン・コルキスです。初めまして、ミス・グレモリー」
警戒しながら迎えた晩餐会。貸し切ったレストランでゼオンはリアスとにこやかに握手を交わしてるが、随分と舐められたもんだぜ。眷属らしい奴らは見るからに大したことねぇって感じだし、リアス・グレモリーにいたっては品定めする様な目を向けて来ている。
力を察せられないか、単純に表面的な部分を信じるとでも思ったのか? 貴族が腹芸できねぇ訳ねぇし、品定めする様な目に気付かない訳ねぇだろうが。恐らくこっちがどう反応するか探っているのだろう。ゼオンも俺には分からないが相手を探ってるんだろうな。
「……それでどうだったよ?」
晩餐会の帰り、俺の問いにゼオンは悔しそうな声で返した。
「私も未熟が過ぎる。相手の奥底を見抜けなかった。……毎週末にエリュシオンに戻って修行の予定だが、厳しくするように頼んでおこう」
認めてやるぜ、リアス・グレモリー。今回は俺達の負けだ。だが、何時までもそっちが上だと思うなよっ!
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