楽園の予言者  暫し凍結   作:ケツアゴ

5 / 6
第四話

 とある美女が気に入り、彼女の夫に化けたゼウスとの間に生まれた子供こそがヘラクレスだ。ヘラの怒りをその身に受けた影響で本来手にするはずだった王位も逃し、自分の子と妹の子を手に掛けた償いとして期限以内に様々な難行をこなした。

 

 その中にネメアの獅子の討伐がある。武器が通じぬ強固な毛皮を持つこの獅子をヘラクレスは素手で絞め殺して退治し、獅子の爪で毛皮を剥いで以後身に纏ったとされている。

 

 

「残念だったな、堕天使さんよ。其奴は俺のダチなんだ。手を引いて貰おうか」

 

 そんなヘラクレスがヘラに許されて神として迎え入れられる際に捨て去った人としての部分、その生まれ変わりであり、覚悟を示す証としてヘラクレスを名乗ることを決めた少年は、夕暮れの公園で正体を現した堕天使レイナーレの前に立ちふさがる。

 

 

 

 昔、彼は神であるヘラクレスにこう言われた事がある。

 

「その名を名乗る事は、碌な覚悟を持っていないと見られる事になるやもしれんぞ? 英雄の名を名乗り、そのガワを被る事で本当の自分から目を逸らそうとしていると、お面を被った子供のヒーローごっこの延長線上だとな」

 

「上等だ! それに俺はアンタみてぇになりてぇんじゃねぇ。アンタを超えたいんだっ!」

 

 英雄の末路など碌なものではない、そうケイローンから教わり、それでも英雄に憧れる彼にとってヘラクレスは目標だが、最終目標ではない。そもそも彼が憧れる英雄の形に必要なのは力であり、強くなる事にゴールはない。自分で自分の限界を決める気はないと吠える、人としての自分の魂を継ぐ者に対し、ヘラクレスは少し誇らしく思ったと語った。

 

 

 その後、稽古でつい力を入れ過ぎてしまい、ケイローンに怒られたのは苦い思い出だ。

 

 

 

 

 

「ちっ! 神器所有者か」

 

 レイナーレはアザゼルから一誠抹殺の命令を受けてきたが、もし何処かの所属だと判明したら切り上げて帰還しろ。その際、出来れば所属を探れ、とも命じられている。最初は間抜けな様子に一般人だと侮っていたが、光の槍に驚かないばかりか龍の手(トゥワイス・クリティカル)らしき神器を出現させた上に、神器から現れた盾で槍を防いだ時点で認識を変える。

 

「……貴方、どこの所属かしら?」

 

「ギリシャ神話。……一応冥府か? エリュシオンで暮らしてるしよ」

 

 レイナーレにとって忌々しいことに冥府の王であるハーデスは堕天使を嫌っている。至高の存在である(と彼女は思っている)堕天使が何故警戒しなければと不満に思うも、アザゼルから揉めないようにしろと命じられている以上は仕方なかった。

 

 

「まあ、そんな訳だ。此奴は正式所属じゃねぇが、殺す邪魔しちゃ駄目って事はねぇ。……それとも俺と一戦おっ始めるか?」

 

「……見逃してあげるわ」

 

 ここで死人に口無しと行こうかとも思ったが、ヘラクレスが握っている神器が何かも分からないレイナーレは撤退を決める。黒い羽を撒き散らしながら去っていくレイナーレを一誠はジッと見つめていた。

 

 

 

 

「……意外と可愛いの穿いてるな。にしても矢っ張りかぁ。もしかしたら本当に俺にって期待してたのになぁ」

 

「普段の行動考えれば罠か罰ゲームかって思うだろ。よっし! クーポン有るからシェイク奢ってやる」

 

 ドンッと胸を叩いて歯を見せて笑うヘラクレスを見て一誠は思った。どうせならマッチョじゃなくて美少女と行きたい、と。少しショックではあったが、最初から罠だと思っていたからかダメージはさほど無い一誠であった。

 

 

 

 

「ところでグレモリー先輩が動かなかったのって俺が何かするって思ったからか?」

 

 ファストフード店で男二人顔を付き合わせながらシェイクを啜り、ポテトを口に運ぶ最中に一誠が呟いた事に対し、ヘラクレスは何を今更という顔をする。

 

「わざわざ確認を取らなかったのと、そもそも侵入されたのはお前について調べる為かもな。……偶に彼奴が無能なだけならって思うけど、それはねぇか。なら、尚更冥界で教育を受ける筈だ。恥を晒したくないなら学校じゃなくって家庭教師って選択肢もあるしよ」

 

 領主とは領地の防衛、治安維持、福祉、教育、収税、人事、外交、医療、その他諸々を担う者であり、無能な者をそれらを学ぶ学校に行かさず、あまつさえ縄張りの管理者に任命するなど有り得ない、とゼオンやヘラクレスは考え、一誠も説明を受ければ理解する。

 

 つまり、リアスはとんでもない天才だと、そう結論付けているのだ。公爵や魔王ともあろう者が身内を甘やかし、変な理由で権限を与える訳がないという真っ当な理由で。悪魔は合理主義なのだからそれは当然だろう。

 

 

「……ドライグの事、バレたか?」

 

「かもな。一応お前の親に見張りだけじゃなくって警護を付けるように打診しとこうぜ」

 

 底知れぬリアスの知謀に恐れを抱く二人は思案する。これからどうなるか、これからどうするべきかを。その後、警戒していたリアスからの聞き取りも特になく、それが逆に警戒心をあおる結果になって過ごすこと数日、この日は三人で一緒に帰っていた。

 

 

 

「それでジークが……ジークに……ジークは……」

 

「お前、本当にペットのことになると人格変わるよな」

 

 帰る最中、ジークがどれほど可愛くって賢くて良い子で将来が楽しみか、もう何百回聞いたか分からない話にヘラクレスがゲンナリし、一誠がそろそろ分かれ道だと内心ホッとした時、三人の前方に金髪の少女の姿が映る。不安そうな足取りで周囲を伺っている彼女は足下がお留守であり、実際石に躓いた。

 

 

 

 

「大丈夫ですか、お嬢さん。転んでその可憐な顔に傷でも付いたら大変でした。……所でお困りのご様子ですが、何か私に力になれる事は?」

 

「えっ、あっ、はい……」

 

 躓いたのだが、転んだり足を挫くよりも前にゼオンが正面から受け止めて事なきを得る。一瞬で現れて自分を助けてくれた彼に少女が戸惑う中、ヘラクレスと一誠は瞬時に移動した彼に呆れたような視線を送っていた。

 

「いや、一瞬で助けるのは別に良いけど、直ぐに口説き文句が出るってのはスゲェよ、ある意味……」

 

「取り敢えずハニーにチクっとこうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか。言葉の通じない異国の町で目的地を探すのはさぞ心細い事でしたでしょう。では、私がご案内致します。野に咲く美しい花の助けになることに理由など要りませんからね」

 

「有り難う御座います、ゼオンさん」

 

 少女の名はアーシア・アルジェント。この町の教会に赴任してきたが道も言葉も分からず困っていた彼女にとってゼオンは天の助けに思えたと語り、口説き文句を普通に受け入れている天然っぷりだ。ついでだからと同行したヘラクレスと一誠は教会と聞いて僅かに警戒する。既に廃棄され、何処の所有でもない場所に何故シスターが、それも言葉も通じぬ異国の者が送り込まれるのかを。

 

 

 

「……アーシアか。確か何処かで聞いた気がするんだが。ゼオンがああやってるのも探るためか?」

 

「じゃねぇの? って、あの子、堂々と神器使ってるよ!?」

 

 途中、怪我をした子供の傷をアーシアが癒すなどのハプニングを交えつつも教会が見えた時、突如ゼオンの携帯が鳴った。

 

 

「おや、どうも急用のようです。貴女と此処で別れるのは残念ですが、この出会いだけでも天運による物と思う事にしましょう。それだけアーシアさんとの時間は至福の一時でした」

 

「私も()()()とお話しできて楽しかったです。では、またの機会に」

 

 最後まで口説き文句に気付いた様子のないアーシアと別れて進む途中、ゼオンが立ち止まった。

 

 

 

 

「追跡や監視の類は無いと。見せかけコールに疑いの予兆を見せませんでしたが……」

 

「おいおい、あの嬢ちゃんが一体……あっ! 癒しの聖女かっ!」

 

「聖女?」

 

 喉に引っ掛かっていた魚の小骨が取れた気分でスッキリしたヘラクレスに対し一誠は知らないのか疑問符を浮かべ、歩きながら説明がなされた

 

 

 

 アーシア・アルジェント。癒しの奇跡を行使する聖女として祭り上げられ、怪我をした悪魔を癒した事で魔女として追放された少女だ。ここで一誠は疑問に思った。悪魔が羽を隠していたのなら、気配を察する訓練を受けていない者は人と区別が付かないだろうし、訓練を受けた者や事前に戦っていた者が後から来たのならその辺は納得が行く。

 

 だが、悪魔は何をしに来たのかが疑問だ。聖女が居る場所に襲撃を掛けて手酷い反撃にあったのか。しかし戦闘が起きたなら護衛や周囲に避難勧告が来るはずだ。そして襲撃者と知っていれば流石に癒しはしないだろうし周囲が行う前に止める。

 

 つまり聖女が一人でいる時に偶然悪魔が怪我をした状態で現れ、癒した所に偶然他の者がやって来たとなるが、やや首を傾げる一誠であった。

 

 

「聖職者を陥れるのも悪魔の仕事ですからね。信仰を集める道具である聖女など目障りでしょう。……それが堕天使の拠点にやって来るのは疑問ですが。あっ、先日の堕天使があそこを拠点にして滞在中って言いましたっけ?」

 

 陥れたにしてはその後がお粗末すぎる。結局、敵勢力に渡って居るのだから。既に手駒にして内通させるにしてはレアな能力を失うリスクがある。堕天使内でも優遇され重要な情報を手に入れられるだろうにしてもだ。

 

 

「マッチポンプとかじゃねぇか? ほら、堕天使に従うしかないって落ち込んでいる所を恩を返すって言って好待遇を用意、もしくは眷属にするとか」

 

「どちらにしろリアス・グレモリーがどう出るかですね。彼女なら把握して裏で動いているでしょうし。……一応形式として知らせておきましょう。回復能力持ちが後から増員されるなど、本格的な戦闘をする可能性もありますし、知っていたのに黙っていたとなると、付け込む理由になりますので」

 

 リアスが無能で、堕天使はこの町が誰の管理下にあるかも知らずにアーシアの神器を抜くつもりなのなら助かるのにと、そう呟くゼオンに一誠は思う所があるが何も言えない。神話体系間の微妙な関係については学んでいるからだ。

 

 

 

 

「まだ予測の範囲ですし気に病んでも仕方ありませんよ。仮に彼女が亡命を望むのなら助けますし、無辜の民が巻き込まれるなら手を出します。ですが、かも知れない、で動けるほど私の立場は軽い物ではないのです。……ドライグを宿す君もね」

 

 そんな一誠の心中を察したのだろう。ゼオンは慰めの言葉と同時に警告を行う。目の前で困っている人が居るのなら助けたいが、それで自陣から出るかも知れない犠牲を考えれば躊躇する。世の中、目先の正義だけで解決しないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あー、ところでよ。あの子に親切にしてたのは探るためか?」

 

「いや、当然でしょう。私、立場的に断れない相手と同盟相手でもない他の勢力に属する方は口説きませんよ、通常は」

 

 ヘラクレスと一誠は彼を疑った事を恥じ、その事が言い出せないでいた。……だからゼオンは知らない。家に帰れば怒れる者が笑顔で待っている事を……。




感想お待ちしています


実際、アーシアがはめられた時の状況が分からないんですよね 暗くなるし、変態は死んでるから短編でやるとは思えないし いや、過去偏としてやるのかな? もしくは既にやってる?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。