「どうしたの? 最近落ち込んでいる様だけど……」
キルケーに修行をつけて貰うついでにヘスティアの家を訪ねたゼオンだが、ヘスティアが心配するように元気がない。何時もなら顔を見るなり出てくるお世辞が今日は出て来なく、心配して額を合わせてみれば熱はない。
「実はジークの散歩中にはぐれ悪魔を発見しまして……」
ゼオンは深い溜息を吐いた後、何があったかを話し出す。本来なら縄張りに管理者であるリアスに対処を任す所だが、小学生が遊び場にしているのか潜んでいる廃屋に入ろうとしていたので暗示を掛けて家に帰し、弱かったので瞬殺した後でリアスに連絡した。
だが、リアスは縄張りに潜んでいた事さえ知らなかったと言い、有能な彼女がそんな単純なポカをやらかすとは信じられないゼオンは最後まで使うまいとしていた手段、予言の力を使う事にした。無能の仮面に隠されたリアスの底知れぬ英知を見抜くには如何すべきなのか、と。
「その様な物は存在しない、そう予言が出まして。彼女の策謀を永遠に見抜けず負けたまま、と思うと……」
英雄の子として、英雄が招かれる地の管理者の息子として、父からは祖母の強力な予言の力、母からは魔術の才を受け継ぎ、師匠や環境に恵まれた彼は大きな挫折を知らない。だからこそ、一生智謀で勝てない相手を知ったショックは大きかった。
「……あー、もう! ほら、元気出しなって」
俯いたゼオンの背中をヘスティアの手が強く叩く。驚いた様子の彼の頭に女神に手が優しく置かれた。
「君の武器は頭脳だけじゃなくって、家族から受け継ぎ、師匠達から教わった事でしょ? なら、勝てない部分はそれで補いなさい。君なら出来るって私は信じてるからさ」
「……そう、ですかね」
「本当だったらこう言うのはメディアや恋人のあの子の仕事なんだけど、どうせ格好つけて隠してるんでしょ? まったく見栄っ張りなんだから。ほら! 悩んでる暇があったら頑張りなさい!」
「……はい!」
迷いは消えた。ゼオンはヘスティアの激励を受け、リアスに勝つべく修行に戻る。ただ、大きな勘違いに気付かないまま……。
この後、ゼオンから話を聞いたヘラクレスや一誠も強くなろうという意志を固め、リアスをいずれ越えるべき壁として尊崇の念さえ抱いていた。だが……。
「ふざけるなっ! 私達は何をやっていたっ! リアス・グレモリーは何を企んでいるんだっ!」
堕天使達が潜伏しているのは誰の管理も受けていない場所であり、縄張りの管理者ならば知っていて当然。リアスが管理者になったのは数年前であり、情報の引継は組織ならば当然だ。だからこそ、堕天使の配下であるはぐれ悪魔祓いによって契約者の男が惨殺されたと聞いた三人は憤った。
三人は博愛主義ではないので時として命に優先順位を付けるし、一般人だった一誠は未だ抵抗があるが敵の命を奪う覚悟も出来ている。だが、今回死んだのは一般人で、敢えてどっち側かと言えば契約相手なので悪魔側。それが拠点が分かっている相手に殺された。……優秀なリアスにしては考えられないミスだと三人は思い、何かしらの思惑があって見捨てたのではと結論付けた。
「領地に入り込んだ使い魔ですが、どうもディオドラ・アスタロトが関係しているようです」
「ディオドラ?」
アスタロトは現ベルゼブブを輩出した家だとは知っていた一誠だが、出された個人名は知らないので素直に尋ねる。言いにくそうに答えたのはヘラクレスだ。
「……例えるなら質が悪かった頃のゼウス、それも教会関係者専門のな」
友好の申し出を受けて先ずは留学をしてから、と日本に来る前に次期当主の中で特に家の力が強い者に関する調査はしているが、ディオドラは一定の分野、敵対する教会の力を削ぐという事に関しては若手の中で一番だった。聖女と呼ばれた少女を誘惑、陥れ、眷属にしたり家で囲ったりなど欲望に忠実な若手悪魔だが、その彼が堕天使を見張っているというのだ。
「……アーシア・アルジェントが目的か? そう言やベルゼブブとリアス・グレモリーの兄貴の現ルシファーは親友だったよな? おいおい、まさか……」
ヘラクレスの言葉が切っ掛けで三人はとある考えに行き着く。今回の騒動、全て両家の企みの一環なのではないかと。杜撰に見える計画も、ディオドラのごり押しによる急拵えが理由なら納得が行く。
「……アーシア・アルジェントが追放されたのも彼の仕業で、騙して感謝させて眷属にする、そんな考えにリアス・グレモリーは協力し、時々起こっている小競り合いの結果に見せかける為に契約相手を見殺しにしたのか?」
貴族の学校で手に入れる知識も繋がりも不要と魔王に評価され若くして縄張りの管理者になったリアスの底知れぬ知謀ならば、支配下にない者の動きさえも計算、誘導が可能だろうと考えれば納得が行く。何せどの様な方法を用いても知ることが出来ない底の深さの持ち主なのだから。
「お兄ちゃん、あのお姉ちゃん悪い子なの? 食べてあげよっか?」
ゼオンが拳を握りしめ、ヘラクレスと一誠が壁を殴る姿を見て心配したのか、ジークがゼオンの顔を見上げながら尋ね、その姿を見たゼオンは落ち着きを取り戻す。余りにも気に入らないない企みだが、我を忘れては、ましてや幼いジークに心配されるようでは手の平で踊るだけだ。
「……このまま黙っているってのは気に入りませんよね。堕天使はイッセーを狙ったわけですし」
「悪魔と契約してようが一般人は一般人だもんな」
「あっ、俺って家族がこの町にいるし、正式にギリシャに加入すりゃ悪魔と関わりがあるから狙われるかもって理由で調査しても問題ないよな? ……覚悟を決めたぜ。このまま中途半端な立ち位置じゃ何も出来ねぇ」
「戦い? ボクもー!」
三人は覚悟を瞳に宿し、ジークは遊びに連れて行って欲しい子犬のように尻尾を振って後に続く。そして、直ぐに送り込んだ監視によって堕天使達は上を騙して滞在していると判明する。目的はアーシア・アルジェントの神器を抜き取る為。予想の範囲であるために驚きはしなかったが、三人の更なる怒りを買うのに十分であった。少なくても殺された男性は、その企みの為の潜伏さえ無ければ生きていたのだから。
「……二人共、悪魔が何かするだろうと放置した我々にも責任がありますが、これは正義など関係しない、只気に入らないという理由での戦いです」
「十分承知だぜ!」
「ああ、分かってるっ!」
その日の深夜、廃教会前にやって来たゼオン達。今から行う戦いは義憤などで正当化すべき物ではないと確認するゼオン、そして了承していると返す二人。リアスとディオドラの企みを潰すため、三人は動き出そうとしていた。
「……うーん、むにゃむにゃ」
因みにジークは眠かったので留守番だった。
感想お待ちしています