佐藤心が隣にいる日常   作:グリーンやまこう

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お祭り

「ねぇ大和。今日さ、近くでお祭りがあるみたいなんだけど、一緒に行かない?」

 

 

 またまたとある休みの日。今日も俺の部屋に上がり込んでゴロゴロしていた心から声がかかる。

 

 梅雨も明けて本格的に夏へと突入したわけで、今日もかなり気温が高い。そのおかげで心の格好はTシャツに短パン。非常にラフな格好であり、その姿でゴロゴロされると色々くるものがあるのでやめてほしい。

 一応幼馴染とはいえ、俺も男なんだから。

 

 

「今日はめっちゃ暑いし面倒だからパスで。俺、人ごみあんま好きじゃないし」

「残念ながら拒否は認められてません! 強制参加だぞ☆」

「相変わらず無茶苦茶だな。まぁどうせ今日は暇だし、行ってもいいけど」

「だったら最初からうんって言えや☆」

 

 

 というわけで、今日はお祭りに行くことになった。お祭りにはやっぱり浴衣が定番なので心は浴衣で行くらしい。

 浴衣なんてこいつの家にあったっけ? しかし、俺が知らないだけで実家から持ってきていたのかもしれない。地元の祭りに行くときは毎回浴衣を着てたしな。

 もちろん、俺は私服である。地元のお祭りの時も私服だったし、そもそも急にお祭りとか言われても浴衣なんて持ってないからね。仕方ないね。

 

 

「浴衣を着ていくのはいいとして、一人で浴衣を着れるのか? 実家にいた時は心のお母さんがいたからよかったけど」

「はぁとをなめんなよ! 浴衣を着ることくらい問題ないって☆」

 

 

 ちなみに大和は知らないのだが、このお祭りについては一週間ほど前、心と早苗さんたちがあらかじめ調べておいたものだ。心があらかじめ浴衣を用意していたり、浴衣の着方を知っていたのはこのためである。

 

 

 しかし心はこのお祭り計画の真の目的については知らされていなかった。

 

 

 真の目的の主導はもちろん早苗さんたち、『大和と心の恋仲を見守る会』のメンバーだ。メンバーは早苗さん、楓さん、美優さん、川島さん、ウサミン、その他もろもろ。

 先日の宅飲みで大和の気持ちが確実に心に向いていることを確信した早苗さんたちは、何とかして二人の関係を進展させたいと計画したのである。

 心は「それなら皆でいけばいいんじゃない?」と言ったのだが、目的が目的のためメンバーは二人で行くことをゴリ押した。

 強引に二人で行くことを提案してきた早苗さんたちに心は不信感を抱いたのだが、

 

 

「ま、まぁ、別に大和と二人でもいいよ……」

 

 

 と若干照れながら了承したため、メンバーがほっこりしたのは言うまでもない。

 

 こんな経緯を踏まえたうえで、今に至るというわけである。

 

 

「あっ、近くって言っても、あたしたちの最寄から三駅くらい離れたところだから」

「そんじゃ、ちょっと早めに出てった方がいいかもな。混むかもしれないし」

「結構規模も大きいらしいからそうしたほうがいいかもね~。それにお祭りの最後では恒例の花火大会もあるいらしいから」

「余計に混みそうだな。心も顔がばれると大変だからちゃんと変装してけよ」

「分かってるって。それにあたしは基本的に髪をおろしとけばバレないし」

「毎回思うけど、髪下ろすと別人だからな。それに眼鏡が合わさると……うん、あれは完全に詐欺だ」

「一人で納得してんじゃねぇよ☆ 後、詐欺は流石に失礼☆」

 

 

 そこでなぜか心がニヤニヤし始める。何となく嫌な予感が……。

 

 

「いやー、思ってることはもっと素直に言ったほうがいいと思うよ大和君!」

「君呼びはやめろ、気持ち悪いから。そもそも素直になれってどういう事だよ?」

「この前の宅飲みで大和ってば、髪下ろしたあたしの事を『美人』って言ってたんだよね~」

「なぁっ!?」

 

 

 驚きの事実に俺は口をあんぐりと開く。驚く俺の顔を見て、心は満足げだ。

 あの時の事は何一つ覚えておらず、気付いた時には心の用意してくれていた布団で寝ていたのだ。……なぜか隣には心もいたけど。

 おかげで酔った勢いのまま、酷い過ちを犯してしまったと勘違いしてしまった。

 

 

「お、おいっ、俺はあの時他に何を言ってたんだ!?」

 

 

 色々とまずいことを口走っていると感じた俺は心に詰め寄る。

 

 

「えっ? ほ、他に!? そ、それは……」

 

 

 しかし、どういうわけか心は頬を赤らめて俺から視線を逸らした。えっ、なにその反応? まさか俺は、とんでもないことを早苗さんたちもいる前で話したんじゃ!?

 

 

「お、おいっ! 頼むから本当のことを言ってくれ! 俺は一体何を?」

「…………み、美優さんを可愛い、可愛いって連呼してた」

「う、嘘だろ……」

 

 

 その場に膝から崩れ落ちる。俺は酔ってべろべろの姿を晒したばかりか、何というセクハラ行為を……。

 心は心で顔を赤くしてため息をついてるけど、今はそんな事どうでもいい。

 

 

「遅すぎるくらいだけど、早急に美優さんへお詫びのメッセージを送らないと」

「い、いや、美優さんもそこまで気にしなくていいって言ってたし、大丈夫だよ!」

「ほ、本当か? でも、やっぱりけじめはつけておくべきで……」

「だから大丈夫だって。それにあたしは大和の幼馴染として、きちんと謝罪はしといたからさ! 今さら送っても迷惑なだけだとはぁとは思う!」

「マジか……悪いな、色々迷惑かけちゃったみたいで」

「あ、あはは……あたしのバカ。恥ずかしがらないで本当の事を言えば……」

「ん? 何をぼそぼそ呟いてるんだ?」

「な、何でもないから!!」

 

 

 赤い顔をさらに赤くさせて首をぶんぶんと振る心。そこまで必死に否定する理由は分からないが、取り敢えず何でもないなら気にしなくてもいいだろう。

 

 

「それじゃあ、あたしは一度部屋に戻って浴衣に着がえてくるから。大和も出かける準備を整えておいて」

「了解……って言っても着替えて財布を用意するくらいだけどな」

 

 

 そんな感じで俺たちは各自お祭りに行く準備を始めるのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「じゃーん! どうよ、はぁとの浴衣姿は?」

「似合ってる似合ってる」

「毎回言ってるけど、もっと心を籠めろや☆」

 

 

 彼女の着ていた浴衣は、紫を基調とした大人っぽいものとなっていた。所々に紫陽花の模様があしらわれている。普段の心からすると結構意外なチョイスだ。

 

 

「本当の事言えば、もっとピンクピンクで目がチカチカするような浴衣を着てくるのかと思ってた」

「あたし的にはもっと派手なのもよかったんだけど、やっぱりギャップも必要かなって! ほら、もっとアダルティなはぁとに酔いしれろ☆」

「アダルティって……」

 

 

 俺は呆れたように視線を逸らすも、正直なことを言えばめっちゃ似合っていた。普通に美人なので困る。

 髪をおろして眼鏡をかけているので、御淑やかな文学系女子にも見えなくもない。多分、髪が黒かったらそう見えていただろう。

 

 ちなみにこの浴衣は早苗さんたちの意見ではなく、心が自分で選んだものである。大和の好みを知っていたので、この色になったのだ。

 どうして自分の好みではなく、大和の好みを優先したかということは言うまでもないだろう。

 

 

「大和はいつも通りの格好だね~」

「まぁ浴衣も甚平も持ってないからな。女はともかく、男の俺は私服で十分だよ」

「うーん、それだとつまんないから来年は大和も浴衣を着てくること!」

「善処します。っと、そろそろ良い時間だし行こうか?」

 

 

 心と共に駅へと歩いていく。その最中、チラチラとこちらを見つめてくる視線を感じた。

 もちろん、その視線は俺ではなく心に注がれている。アイドルだからというわけではなく、単純に美人だからこそだろう。分かっていたこととはいえ、何となく面白くない。

 しかし、その気持ちを何とかして心の奥に押し込む。幼馴染だからかもしれないが、俺たちはお互いの変化にすぐ気が付くからな。

 

 

「大和? どうかした?」

 

 

 こんな風に。俺の顔を覗き込んでくる心に、何でもないよと手を振る。

 

 

「ちょっとボーっとしてただけだよ。それよりも、ちゃんと前見てないと転ぶぞ?」

「大丈夫だって。これでも草履の扱いには慣れてるから……って、わっ!?」

 

 

 迅速にフラグを回収した心の腕を掴んで何とか転倒を阻止する。こいつのフラグ回収率はほんと異常だな。

 

 

「何が大丈夫だって? 草履の扱いには慣れてるはぁとさん?」

「い、今のはわざと転んだだけだから! 大和がちゃんと助けてくれるのかをテストしただけ!」

「はいはい。言い訳は見苦しいだけだから、前見て歩こうな」

「バカにされてる気分……」

 

 

 むすっと口を尖らせる心を宥めているうちに最寄り駅に到着したので、俺たちは改札をくぐり丁度やってきた電車に乗り込む。

 二人で座れるほど席は空いてなかったので扉の付近へ。

 

 

「結構人が乗ってるね。浴衣の人もちらほらいるし、みんなお祭りに行くのかな?」

「多分そうだろ。ほらっ、もっとこっちに寄れって。仮にもアイドルなんだからさ」

 

 

 俺はそう言って彼女を隠すようにして前に立つ。アイドルということはもちろん、彼女に視線を向けさせないためでもある。

 

 

「おっ、この対応ははぁと的にポイント高いぞ☆」

「そりゃありがとよ」

 

 

 ちょっと強引過ぎたかなとも思ったけど、心は特に気にしていないようだった。むしろ、どこか嬉しそうである。

 10分ほど電車に揺られ、目的の駅に辿り着いたので俺と心はそこで降りる。

 

 

「うへぇ~、こりゃなかなかの人だな」

 

 

 お祭りとなっている会場の入り口に着いた俺は、開口一番それなりの人の多さにため息をつく。

 心の言っていた通り、規模が大きいだけあってどこを見ても人人人……。早くも吐き気がしてくる。

 

 

「確かに、結構な人だね。人混みが苦手な大和にとっては地獄みたいな空間だな☆」

「予想してたよりは少ないから、まだましだけどな。取り敢えず屋台もたくさんあるし、のんびり見ていくか」

「賛成!」

 

 

 会場内には様々な屋台が所せましを並んでいた。

 定番であるお好み焼きやたこ焼きの屋台の他、綿菓子やお面、金魚すくいなど、これまた定番である屋台が数多くある。

 

 

「大和、大和! まずは射的でもやろうよ!」

「分かったから引っ張るなって。自分で歩けるから」

 

 

 はしゃぐ心に半ば引っ張られるようにして俺たちは射的の屋台へ。二人分の代金を払い、受け取った銃を構える。

 

 

「これで負けたほうが、たこ焼きかお好み焼きを奢りね」

「その勝負のった。後悔しても知らないぞ?」

「ふふっ、その言葉そっくりそのまま大和に返してあげる! 取り敢えず沢山倒したほうが勝ちってことで」

「了解」

 

 

 そんなわけで急遽、射的対決が始まったのだが、

 

 

「ふふーん! やっぱり大和はいつまでたっても下手くそだね?」

「くそぅ……こんなはずでは」

 

 

 端的に言うと、普通に負けた。しかも完敗。

 俺が一個も倒すどころかかすりもしなかったのに対し、心は全弾命中させキーホルダーやらキャラメルやらを手にご満悦だった。

 

 

「結構うまくなってたと思ったんだけどな。ゲームでも最近、似たようなシューティングゲームをやったから勝てるとばかり」

「ゲームでもって、あのイカのゲームでしょ? あれじゃあ多分、練習にもなってないんじゃない?」

「言われてみると……そもそも、心がうますぎるんだよ。昔からそうだったけど」

「これでも久しぶりだったし、腕は落ちてたんだけどね~」

 

 

 とても落ちてるようには見えなかったけどな。全弾命中とか、心は総じて器用すぎるんだよ……。

 ちなみに、心との射的対決は祭りに来るたびやってるのだが、勝てたことはない。つまりこの勝負、はじめから俺の奢りは決まっていたようなものなのだ。

 

 

「それじゃあ勝負にも勝ったことだし、早速……と言いたいところだけど、もう少し回ってからにしようか? まだまだ遊び足りないし!」

「今日はとことん心についていくよ」

 

 

 その後は金魚すくいに型抜き、ヨーヨー釣りなどを巡り、いい感じにお腹も減ってきたので約束通り俺が心の分のタコ焼きを奢ることに。

 

 

「それじゃ買ってくるから、ここを動くなよ?」

「動かないって。全く、子供じゃないんだから!」

 

 

 心ともろもろの景品を置いて俺はたこ焼きの屋台へ歩いていくのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

(……大和ってば遅いな~。もしかしてたこ焼き屋が混んでる?)

 

 

 大和がたこ焼き屋に行ってから約10分ほどが経過したのだが、未だに大和は帰ってこない。

 さっきから獲得したキーホルダーをいじったり、ヨーヨーで遊んだりしているのだが、流石に飽きてしまった。

 

 

「あ、あのっ!」

 

 

 そんなあたしの頭の上から声が降ってくる。顔を上げると、少しだけ緊張した面持ちの男性二人があたしの事を見つめていた。

 

 

「はい、なんですか?」

「見たところ一人みたいなんですけど、俺たちと一緒にお祭りを回りませんか?」

 

 

(あ~、多分ナンパだな)

 

 

 あたしはナンパしてきた二人組を冷静見つめる。多分、手慣れているタイプではない。むしろその逆。もしかすると、ナンパすること自体初めてなのかも……。

 手慣れてたら一言目に『あのっ!』なんて言わないからね。これならあしらうのも簡単そう。ナンパされるのも初めてではないから、特に問題はない。

 

 

「あたし、人と一緒に来てるのでごめんなさい。今はちょうどその人を待っているところなので」

 

 

 いつも通り適当にあしらうも、二人は意外と粘り強かった。

 

 

「で、でも、さっきからそこで座ってるし、このままだと合流できないかも」

「その人と合流したいのなら俺たちも協力して探しますから!」

 

 

 うーん、初めてなのに結構頑張るなぁ~。よしっ、こうなったらもっと強めに――。

 

 

 

「おいお前ら、何やってんだよ?」

 

 

 

 あたしが強く言うまでもなかった。大和があたしをナンパしてきたひとりの肩に手を置く。

 

 

「えっ? あなただ誰って……ひぃっ!?」

 

 

 大和の眼光の鋭さと声の低さにナンパしてきた二人組が短い悲鳴を上げる。鬼のような形相まで浮かべているけど、これはどうしてだろう?

 

 

「俺の連れに何か用?」

「い、いえっ、ととと、特に用は……」

 

 

 相変わらず低い声で大和が二人を睨みつけている。一方二人は完全に震えあがっていた。

 ナンパしてきた二人組は目測でも170センチ前後。そして今まで言ってなかったけど、大和は身長が180センチ以上ある。

 そんな男に眼光鋭く睨みつけられたら基本的には誰だって震えあがるだろう。

 

 

「用がないならさっさと帰れ」

『は、はいぃいい!』

 

 

 あっという間に去っていく二人組。大和はそんな二人が見えなくなるまで睨みつけた後、あたしの隣にどっかりと腰を落とす。

 

 

「……ったく、目を離したすきにナンパなんてされてんじゃねぇよ」

「大和が遅いからいけないんだろ? というか無駄に時間かかってたけど、どこまで行ってたの?」

「一番近いところ所だけど、やたら人が並んでたんだよ。更に、帰りは人の波にのまれて……酷い目にあった」

 

 

 大和も大和で大変だったらしい。どうりで遅かったわけだ。

 

 

「それはお疲れ様。取り敢えず買ってきたたこ焼き食べようよ!」

「それもそうだな。丁度出来立てほやほやみたいだし」

 

 

 袋の中からたこ焼きのパックを二つ取り出し、大和はそのうちの一つをあたしに差し出す。

 

 

「じゃ、遠慮なくいただきまーす! ……ん~、美味しい!」

「ほんと、美味しそうに食うな」

「別に味は普通だけど、お祭りの雰囲気の中で食べると美味しさが二倍増しになるんだよね」

 

 

 そのまま半分ほど食べ進めたところで大和がボソッと呟く。

 

 

「なぁ……あいつらに何もされなかったか?」

「……もしかして、心配してくれてる? 大和ってば優しぃ~い~」

 

 

 あたしとしてはからかったつもりだったのだが、大和の反応は予想とは違っていて、

 

 

「……心配しちゃ悪いかよ。結果としてはすぐに追い返せたけど、男二人に囲まれてたんだ。心配しないほうがおかしいだろ」

「あっ……、そ、そう、だよね……」

 

 

 確かに大和の言う通り、傍から見れば結構危ない状況だったのだ。

 アイドルの佐藤心だと気づかれなかったとはいえ、無理やり連れていかれる可能性も……。今回は運が良かったということだろう。

 

 

「それで、何もされなかったのか?」

「う、うん。ナンパもほとんどしたことない人たちみたいだったから」

 

 

 そう答えると大和はホッと息を吐き、アタシの頭をポンっとなでた。

 

 

 

 

「良かった」

 

「っ!?」

 

 

 

 

 さっきとはうって変わって、優しい表情に優しい声色。あたしは大和の表情を見た瞬間、すぐに顔を逸らした。

 

 

(い、今のはヤバいってバカ大和。……顔がにやける)

 

 

 キュッと心が締め付けられるような感覚。頬が一気に熱を持つ。

 心配されて嬉しかったのも相まって、心臓が狂ったように早鐘を打ち始めた。

 

 

「…………」

 

 

 大和は空気をよんだのか、ホッとしたのかは分からないけど、黙ってたこ焼きを口に運んでいる。

 ただ、何も話してこなかったのはありがたかった。今話しかけられるとどんな反応をするか分かったものじゃなかったし……。その後5分ほど無言の時間が続いたのだが、

 

 

「……大和、残りも食べちゃっていいよ」

「ん? いいのか? せっかくの奢りなのに」

「いいから!」

「まぁ、食べれるからいいけど」

 

 

 胸がいっぱいになりたこ焼きどころでなくなったあたしは、残りをパックごと大和に差し出す。うぅ……ほんとは全部食べたかったのにな。

 これも全部、予想外の事をする大和が悪い。

 

 

(……まぁ、嬉しかったからいいや)

 

 

 顔をにやけさせつつ、大和がたこ焼きを食べ終えるのを待つ。

 

 

「……よしっ、たこ焼きも食べ終えたしそろそろ行くか。次は花火だっけ?」

「そうだよ! 花火が見えるところはここからちょっとだけ離れてるみたいだから」

 

 

 そう言って立ち上がると、大和はあたしの右手をギュッと掴んだ。

 

 

「へっ? な、なにっ!?」

「……また変な奴にナンパされたから困るだろ?」

 

 

 びっくりして固まるあたしの右手をしっかりと握り締め、大和は引っ張るようにして歩き始める。

 大和と手を握って歩くのなんて、中学の時以来二回目だ。

 

 

「…………」

 

 

 前を歩く大和は無言で歩き続けている。しかし、耳は真っ赤に染まっていた。

 

 

 

(大和、急にこんなことしないで……。期待、しちゃうから)

 

 

 

 大和の背中を見つめながら心の中だけで呟く。中学時代と今とでは状況も何もかもが違う。

 彼の気持ちは何も分からない。でも、繋いだ手は離したくない。

 

 

(……だって、大和と手をつなぐことがこれで最後になるかもしれないから)

 

 

 その後、花火を見ている間も大和は手を繋ぎ続けていた。

 

 

 

 そして、マンションに着くまであたしたちの手が離されることはなかった。




 突然で申し訳ないのですが、残り3話か4話で本編は終了です。最後まで読んでいただければ幸いです。
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