佐藤心が隣にいる日常   作:グリーンやまこう

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報告会

「さて、みんなグラスは持ったかしら? それじゃあかんぱーい!!」

『かんぱーい!』

 

 

 早苗さんの音頭から、グラス同士がぶつかり合ってカチンッと小気味いい音を立てる。そのまま俺は、グラスに入ったビールを半分ほど一気に飲み干した。

 現在は9月の後半。しかし、9月とは思えないほど暑い日々が続いており、余計にビールが身体に染み渡る。おつまみも美味しいし、やっぱりお酒は最高だな。

 

 

「相変わらずいい飲みっぷりですね、大和さん」

 

 

 左隣に座る楓さんが、同じくビールの入ったグラスを片手に頬笑みを浮かべている。ほんと、酒が絡むと楽しそうですね。ちなみに他のメンバーは美優さんと心。これだけで、どうしてこのメンバーが集まったのかある程度の見当がつくだろう。

 全員がグラスを半分ほど空けたところで、早苗さんは俺と心に視線を向ける。

 

 

「それじゃあ早速ではあるけど、二人に改めて報告をしてもらおうかしら?」

「そうですね。イベントとかでは盛大に報告してましたけど、やっぱりこうしてちゃんと言わなきゃとは思ってたんで」

 

 

 今日の飲み会の目的。それは、改めて俺と心が付き合ったということを報告するために集まったのだった。

 知っての通り、イベントでは報告済みなのだが飲み会の場ではなかなかメンバーが集まれず、今まで報告ができていなかったのである。

 

 

「えっとそれでは改めて……俺と横にいる心は、一か月前くらいから結婚を前提にしたお付き合いをはじめました」

「は、はじめました……」

 

 

 俺に続いて心も頬を少しだけ赤らめながら頭を下げる。

 

 

『…………』

 

 

 しかし、他の三人の反応は予想と違い無反応。あれっ? 俺としてはここで『おぉ~!』、という拍手と共に祝福されるもんだと思ってたんだけど。

 すると早苗さんが頭を抱えながら訪ねてきた。

 

 

「え、えっと、大和君。一つ聞いてもいいかしら?」

「は、はい。構いませんけど」

「け、結婚を前提に付き合ってるの?」

「そうですけど……あれっ、言ってませんでしたっけ?」

「聞いてないわよ!!」

 

 

 グラスをダンッとテーブルに叩きつけて早苗さんが叫ぶ。そんな彼女をしり目に俺と心はコソコソと状況を確認する。

 

 

(なぁ、結婚を前提ってこと言ってなかったのか)

(プロデューサーには伝えたけど、そう言えば他のアイドルたちには付き合ってるって事しか言ってなかった気がする)

(あー、だから早苗さんたちが驚いてたのか)

(それにしては驚き過ぎな気がするけど……早苗さん、何かあったのかな?)

 

 

 二人して首を傾げていると、早苗さんがビールを注文してなぜか遠い目を浮かべた。

 

 

「そうやって私の友達もどんどん結婚していったのよ。最初は結婚するなんて一言も言ってなかったのに。はぁとちゃんもいずれはそうなると思ってたけど、まさか初めからなんて……」

『…………』

 

 

 どうやら俺と心は早苗さんの地雷を踏みぬいたらしい。

 早苗さんを除く全員が神妙な面持ちで彼女の事を見つめる。

 

 

「お母さんにも早くいい人を見つけろって言われてるし、でもそんな人早々現れるわけないし……ふふっ、人生ってやっぱり難しいものね」

「だ、大丈夫ですよ早苗さん! 早苗さんならきっといい人が見つかりますから!」

 

 

 美優さんが頑張って早苗さんのフォローしている。流石だ。あとはこの場にいない瑞樹さんがいれば完璧なんだけど。

 ちなみに俺と心は見て見ぬふりをしている。だって、俺と心がフォローしても逆効果だと思うから。余計に早苗さんの心の傷を悪化させるだけだから。

 

 

「ちょっと無粋な質問かもしれませんけど、どうして大和さんは結婚を前提に付き合うといったんですか?」

 

 

 傷心中の早苗さんは放っておき、楓さんの質問に答えることにする。

 ぶっちゃけ恥ずかしくて答えたくないんだけど、心も聞きたそうにそわそわしているので仕方がない。

 

 

「いや、大した理由はないですよ。……ただ、心と結婚したかったからそう言っただけなんで」

「カハァッ!?」

「さ、早苗さん!?」

 

 

 どういうわけか、俺の答えを聞いた早苗さんが血を吐いて机に突っ伏した。

 それを見た美優さんが驚きの声を上げ、楓さんが楽しそうに笑っている。楓さんは多分酔いが回り始めてるな。

 

 

「結婚したかったからって、素敵ですね大和さん♪」

「そうですかね? どっちかと言えば少し重い気がしないでもないですけど」

「そんな事ありませんよ。ねっ、心さん?」

「……まぁ、そうだけど」

 

 

 楓さんの言葉に不貞腐れたような返事をする心。もしかすると、変な事でも言ってしまったのかもしれない。

 

 

「なぁ、心。俺なにか変な事言ったか?」

「……別に美優ちゃんとか楓ちゃんにしてみれば普通のことかもしれないけど、今の早苗さんには大ダメージだよ。大和、もしかしてわざといった?」

「わざとって、俺はただ楓さんの質問に答えただけで……」

「尚更、質が悪いよ。……まぁ、私としては凄く嬉しかったんだけどさ」

「ぐふぅっ!?」

「早苗さん!?」

 

 

 頬を赤らめて視線を逸らした心を見て、回復しかけていた早苗さんが再び机に突っ伏した。

 そんな早苗さんを介抱しつつ、美優さんがジト目で俺たちを睨む。

 

 

「二人とも、わざとやってます?」

『…………』

 

 

 今度は言い訳できなかったので、二人して美優さんから視線を逸らす。うーん、今のはどう考えても俺たちが悪かった。

 結婚云々の話は今後、早苗さんの前でしないようにしよう。

 

 しばらくして早苗さんも復活したので俺たちは再び付き合った報告に戻る。

 

 

「それにしても、イベントの時の心さんは可愛かったですね。私は大和さんや他のアイドルたちと一緒にテレビで見てましたけど、実際にその場にいたかったくらいです♪」

「か、楓ちゃん、あのイベントの事は結構トラウマだからやめて……」

「どうしてトラウマになってるのよ? あの時のはぁとちゃん、各方面で大好評だったじゃない」

「それはそれでいいんだけど、やっぱり恥ずかしいんだって! この前大和の部屋でイベント時の録画を見てたけど、ほんと恥ずかしすぎて死ぬかと思った……」

「一緒に見てたんですね!」

「美優ちゃん!!」

 

 

 見事に自分からボロを出した心が顔を真っ赤にしている。今のは自業自得なので仕方がない。

 

 

「それにしても大和君とはぁとちゃんって、こうしてみると付き合う前とあまり変わらないわよね? 一緒にテレビを見るにしても付き合う前からやってそうだし、実際に付き合う前と変わったことってあるの?」

 

 

 早苗さんからの疑問に俺と心はお互い気まずそうな表情を浮かべつつ、ゆっくりと視線を逸らした。それについては、聞かれると結構まずいと思ったからである。

 しかしそれを見逃してくれる三人ではない。

 

 

「あらっ? 今、気まずげに視線を逸らしましたけど、何かまずいことでもあるんですか?」

「い、いや、何でもないですよ楓さん」

「そうそう! 何にもないから、本当に!」

 

 

 必死こいて否定したために、より一層三人からの疑惑の視線が強くなる。

 もちろん付き合う前から変わらないところもある。しかし、実を言うと付き合った後に変わったところもそれなりにあって、

 

 

 

 

 

 これはとある仕事終わりの事。俺の部屋でテレビを見ていたのだが、

 

 

『……大和』

『ん? どした?』

『今日、少し疲れたから……』

『……分かったよ』

 

 

 俺はそう言って隣に座る心の身体を引き寄せ、優しく抱き締めた。

 

 

『んっ……ありがと』

『おう』

 

 

 ギュッと力を強めて抱き付いてくる心。

 

 【疲れた】

 

 この言葉を出すときは、心が甘えたいという無言の合図になっていた。付き合う以前にこんなことはあり得なかったので、大きく変わったところの一つであるといえるだろう。

 最初こそ戸惑ったものの、

 

 

『いいじゃん。付き合ってるんだし。それに……ずっとこうしたかったんだから』

 

 

 拗ねたような言葉といじらしい表情に心臓を貫かれ、以降心が甘えたがっている時はいつもこうしている。

 俺にしたって断る理由もないからな。ちなみに逆もあって、

 

 

『…………』

『わっ!? どしたの、急に抱き締めてきて?』

『……なんか今日はこういう気分だった』

『……はいはい。全く、大和は甘えんぼだなぁ』

『うるせぇ』

 

 

 

 

 今思い返しても頭の痛い光景だ。とても人様に見せられるような状況ではない。

 でも、これくらいは許してほしくもある。人生、働いてるとどうしようもなく疲れる時があって、誰かに甘えたくなる時が来るのだ。その相手がたまたま心だっただけなのである。

 

 

(でも、こんなこと恥ずかしくて言えるわけないんだよなぁ……)

 

 

 言った瞬間、三人から生温かい視線を向けられるのが目に見えている。そして顔を真っ赤にして俯く俺たちの姿も……。

 いや、早苗さんからだけは恨みがましい視線を向けられるかもしれない。

 

 

「とにかく、付き合う前も後も特に変わりはありませんから!」

「……まぁ、今日の所は許してあげるわ。でもいずれはね?」

 

 

 早苗さんが様になるウインクを決める。いずれは言わなきゃいけないらしい。まぁ、なんとかのらりくらりとかわしていくことを考えておこう。……かわしていけるのだろうか?

 

 

「まぁまぁ、今日の所は久しぶりに集まったんですしどんどん飲んで下さい心さん」

「おっ、悪いね楓ちゃん」

 

 

 甲斐甲斐しく心のグラスにお酒を注ぐ楓さん。お酒を注がれた心は上機嫌にそれを飲み干していく。

 傍から見れば普通の光景だ。ちょっとペースが速いくらい。

 

 ……でも何だろう。楓さんの微笑みに少し裏があるような気がする。俺の気のせいならいいんだけど。

 

 

「ふふっ、いい飲みっぷりですね心さん。すいませーん、追加の注文をお願いします」

「楓さん、ちょっと心の飲むペースが速いのでもう少し抑えめに」

「いいじゃん大和~。今日は久しぶりに集まれたんだし、無礼講だよ無礼講!」

「そうです、無礼講ですよ大和さん♪」

「無礼講の使い方、違う気がしますけど……」

 

 

 俺がため息をついている間に、運ばれてきたお酒を心が口につける。このペースで飲んだら、絶対に酔っぱらった心をおぶって帰るはめになるんだよな。

 

 

(でもみんなで飲むのも久し振りだって今日行ってたし、大目に見てあげるかな)

 

 

 しかし、その判断は大きな間違いだった。

 

 

「やまとは~、本当にやさしいんだよ!」

「うんうん。それで具体的にどんなところが優しいの?」

「うーんと、あたしが甘えたいとき、いつもギュッと抱き締めてくれるところ!」

「ふぅ~ん。優しいのね、大和君」

「流石です、大和さん」

「はわわわっ!」

「…………」

 

 

 完全に出来上がって惚気だした心に俺は頭を抱える。左隣では楓さんが「やりましたっ♪」、と言わんばかりにほくそ笑んでいた。

 畜生、結構なペースで飲ませてたのは惚気話を酔っぱらった勢いで引き出すためか!

 これで美優さんが顔を赤くして慌ててなければ、デコピンの一発でもくらわせていたところである。

 

 

「大和君はどんな風に抱き締めてくれるの?」

「あたしが痛くない様に優しく抱き締めてくれるよ~。大和の胸の中にいると、すごく安心できるんだ」

 

 

 心の惚気は止まることを知らず、聞かれた質問全てに応えていく。ほんと、俺からしてみれば悪夢のような状況だ。

 

 

「あっ、でも大和の方から抱き付いてくることもあって、その時はよくあたしの胸に顔を埋めてるよ~」

「セクハラよ、大和君」

「あらっ、大和さんにもそんな一面が」

「え、エッチです!」

「…………」

 

 

 俺のライフポイントがゴリゴリと削られていく。これだから酔っぱらいは始末に負えないのだ。

 しかも心は、酔うと記憶が無くなるタイプなのでより一層達が悪い。俺だけ記憶が残るとか地獄かよ。

 

 

「い、今のは心が過剰に表現してるだけで別に俺は胸に顔を埋めてるわけでは――」

「うそだぁ~。胸に顔埋めて匂い嗅いでるじゃん!」

 

 

 この酔っぱらい!! 俺は心を睨みつけるも、彼女はへらへらと笑みを浮かべるばかりである。結婚を前提に付き合ってるけど、一瞬殺意が沸いた。

 

 

「大和君って意外と変態だったりするの?」

「……俺は普通なんです。信じてください」

「大和さん、素直になりましょう」

「どうしてそんな、聖母みたいな頬笑みを浮かべてるんですか……」

「……エッチなんですか?」

「だから違うんですって!」

「あはは~。大和はエッチだなぁ~」

「元はと言えばお前のせいだろ!!」

 

 

 ムニムニと心の頬を引っ張るもまるで効果はない。むしろ「いひゃいよ~」と、なんか楽しそうだ。

 俺は諦めて彼女の頬から手を離す。

 

 

「……今の話は他言無用でお願いします」

「分かってるわよ。大和君の名誉のためにもね」

 

 

 他の二人も頷いてくれたので、きっと俺の名誉は守られるだろう。

 

 

「やまと、おさけぇ~」

「もうやめとけ。これ以上酔っぱらったらいよいよ始末に負えないから」

「えぇー。やまとのケチ~」

「ケチでもなんでも結構だよ。すいませーん、お冷一つ」

 

 

 心の為にお冷を頼んでようやく一息つく。なんか、今日の仕事より飲み会の方が疲れたぞ……。

 その時、心がじっと俺を見ていることに気付く。

 

 

「ん? どうかしたのか? 気分でも悪くなったか?」

「ううん、別にそうじゃないけど……やっぱり大和は昔から変わらないなって」

「変わらないって、どうしたんだよ藪から棒に?」

「大和は昔から優しいなって事」

 

 

 トロンとした瞳のまま、心が俺の右手に自身の左手を重ねる。

 

 

「あたしが重たいもの持ってたら絶対に持ってくれるし、さりげなく車道側を歩いてくれるし、あたしがどっかに行きたいって言えば、文句を言いつつ付き合ってくれるし……昔から困った時には大和がいつも隣にいて助けてくれた」

 

 

 そして心は俺の右手を握ったまま、

 

 

 

「だから、あたしは大和の事が大好きなの」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 ニコッと笑顔を浮かべたのだった。

 

 ……ほんと、この酔っぱらいは質が悪い。顔に熱を感じた俺は、それを隠すために目の前のグラスに口をつける。

 今の言葉で今日の事は全部許してあげてもいいかなと思うあたり、俺も単純なのかもしれない。

 

 

「楓ちゃん、私たちは今、とんでもないものを見せられてるわよ」

「酔った時に本音が出やすいのは分かってましたけど、こんなことになるんですね」

「でも幸せそうですし、いいんじゃないですか?」

「幸せそうなのはいいけど、アタシにはやっぱり大ダメージよ……」

 

 

 三人が何やら話してるけど、聞かないほうがいいと思ったので聞かないでおいた。その後は適当におつまみを食べたりお酒を飲んだりして、

 

 

「それじゃあ、今日はありがと大和君。あと、はぁとちゃんの事お願いね」

「了解です。楓さんと美優さんも今日はありがとうございました」

 

 

 居酒屋の前で早苗さんたちと別れ、俺は帰路につく。背中にはもちろん、酔っぱらって眠りこけている心を乗せていた。

 すやすやと気持ちよさそうな寝息を立てている。

 

 

「……今日は仕方ないから俺の部屋で寝かせよう」

 

 

 この後の事を考えて苦笑いを浮かべる俺だった。




 大和の酔っぱらった姿も見たいと、意見を頂いているのでいずれやりたいと思います。
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