佐藤心が隣にいる日常   作:グリーンやまこう

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出張

「えっ? 出張?」

「そうなんだ。今日、言われたんだけど、明後日の月曜日から金曜日の夜までらしい」

「うへぇー、結構長いんだね」

 

 

 夏の日差しもようやく収まってきて、最近は秋らしい気候が続くある日。

 俺は今日も仕事終わりに部屋に来ていた心に、出張が決まったと告げているところだった。

 

 

「そうなんだよ。出張って言われた時は日帰りだと思ってたんだけど、まさかこれほど長いなんて……」

「そんなに長い期間出張して何するわけ?」

「相変わらず事務員らしからぬ仕事だよ。今度、出張先でライブがあるからその下見と、もし新たなアイドル候補がいればその勧誘とか」

「……何というか、大和って本当に事務員なのかって聞きたくなる仕事多いよね?」

「それは言うな。今に始まったことじゃないんだし」

 

 

 ただ、心の言う通り上司は俺を何でも屋と勘違いしている節があると思う。

 全く、これで給料が弾んでなかったら絶対に受けてないところだぞ。

 

 

「それにしてもやっぱり出張にはいきたくないなぁ~」

「どうして? お仕事とはいえ、違う所に行けるのは楽しいじゃん」

「まぁ、確かにそうなんだけど……」

「えっ! それってもしかして――」

「……だって、俺が一週間もいなかったらお前、絶対に部屋を汚すだろ? 帰って来てからの後片付けが心配で心配で……」

 

 

 心の部屋は放っておくと、小物やらなんやらで大変なことになるからな。

 俺はそういってため息をついていると、心がプルプルと震えていることに気付く。

 

 

「ん? どうかしたのか?」

「……あ、あたしの部屋の事なんか心配してないでさっさと出張に行ってきなさい!!」

 

 

 少しだけ顔を赤くした心に怒られました。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 というやり取りがあった後、あっという間に出張日の朝になった。

 朝は早かったのだが、今日も俺の部屋に泊っていた心は玄関先まで起きてきてくれている。

 

 

「朝早かったんだし、起きてこなくてもよかったのに」

 

 

 俺がそう言って苦笑いを浮かべると、心は拗ねたような表情を浮かべる。

 

 

「……別にいいでしょ。あたしがしたくてこうしてるんだから。それとも、大和は可愛い彼女に見送られて嬉しくないの?」

「自分で可愛いとか言うなよな……反応に困る」

「なに? もしかして本気で可愛くないとか思って――」

「ちげぇよ。可愛いっと思ってるから困るんだ。それに、見送りも嬉しいに決まってるだろ」

「へっ!? ……あっ、そ、そうですか」

 

 

 顔を真っ赤にさせたと思ったら、なぜか敬語になって下を向く心。一方、俺も顔を赤くして頬をかいていた。

 恋人になってから心は日に日に可愛く、そして美人になっている気がする。おかげで最近は、この年になってドキッとする機会が増えているのでやめてほしい。もちろん今だって……。

 

 

『…………』

 

 

 気付くと、なぜかお見合いみたいにお互い喋らない状態が続いていた。

 しかしいつまでのこの状態を続けていては遅れてしまう。

 

 その為、まだ部屋の中ということもあって俺は心の身体を優しく抱き締めた。

 

 

「えっと、まぁ、そういうわけだから。見送りに来てくれてありがと」

「……うん。それじゃあ気を付けて」

 

 

 そう言って俺は部屋から出た……わけではなく、飛行機の時間までそこそこ余裕があったので、思う存分イチャイチャしてから俺は出張先に旅立ったのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「……っていう感じで出てったんだけど、大和ってば酷いよね。まるで私が片付けできない子供みたいに扱ってさ」

「うんうん、ごめんねはぁとちゃん。イチャイチャの部分が強すぎて前半の話、全部吹っ飛んでったわ」

 

 

 大和が出張先に飛び立っていってから三日後の夜。

 あたしは大和もいなくて暇だったので、いつものメンバーと飲みに行っていた。しかし、目の前であたしの話を聞いていた早苗さんがげんなりした表情を浮かべている。

 

 

「なんていうか、心さんって最近大和さんとのことを話すとき、色々吹っ切れた感じがしますよね?」

「どうにも大和さんが前回、酔っぱらって色々喋ったことを心さんに言ったらしくて。それだけ言っちゃったらもう何言っても一緒だって思ったみたいですよ」

「開き直るのが早いところが、心さんのいいところですね」

 

 

 横では美優ちゃんと楓ちゃんも若干、苦笑いを浮かべながらあたしの事を見つめていた。全く、大和が出張に行った朝の様子を、みんなが聞きたいって言ってきたから話してあげたのに……。この反応はあんまりだ。

 まぁ、楓ちゃんが言った通り色々ぶっちゃけたあたしにも原因はあると思うけどね。

 

 

「それにしても、心さんはどうしてあんな風に大和さんに突っかかったんですか? いつもの感じなら、『行ってらっしゃい』の一言くらいで済ませそうですけど?」

 

 

 美優ちゃんの疑問は最もだろう。

 恋人同士になったとはいえ、あたしと大和は幼馴染であり一緒に居る時間も多い。普通なら一言、二言で出発するのが普通だ。

 

 

「いや、その……」

「その?」

「実は大和が出発する前日の夜、約一週間会えないと思ったら……さ、寂しくなっちゃって」

「……つまり、寂しくなったから構ってほしくてあんなことを言ったと?」

 

 

 恥ずかしくなって無言で頷くと、早苗さんが「あぁ、もう!!」と声を上げる。

 

 

「何なのよ一体! くっ付く前は結構淡白だったくせに、くっ付いたとたん熱々になって!! 楓ちゃん、強いお酒を注文して頂戴!!」

「はいはい、ただいま~♪」

 

 

 やけくそ気味に楓ちゃんが注文したお酒をぐびっとあおる早苗さん。

 相変わらず飲みっぷりは男らしい。男より男っぽいのも困りものだが……。

 

 

「ほんと、大和君の彼女になってから一層可愛くなったわね、はぁとちゃんは!! 寂しくなったから構ってほしいなんて、大和君が羨ましいわよ全く!!」

「さ、早苗さん、恥ずかしいことをあまり大きな声で言わないで下さい……」

「声に出さなきゃやってられないのよ! 全く、早く結婚しちゃいなさい! 多分、二人ならいつ結婚しても一緒よ!」

「そ、それについては大和に言って下さい。あたしには答えかねます」

 

 

 まぁ、大和がプロポーズしてきたら速攻でオッケーする自信はあるんだけど……。

 それにしても強いお酒を飲んだせいか、早苗さんの酔いの回りが早い。

 普段なら酔うこともなくケロッとしているので今日は珍しい日だ。原因はほぼほぼ私にあるんだけど。

 

 

「それにしても、心さんでも寂しいって思うことがあるんですね。普段から大和さんと一緒に居ることが多いので余計にそう思います」

 

 

 そう聞いてきたのは楓ちゃん。心さんでもって、結構失礼な気がしないでもないけど普段が普段なので仕方がない。部屋は相変わらず分かれてるけど、ほぼ同棲してるみたいなもんだしね。帰るのも最近は一緒だから。

 

 

「うーん、自分でも予想外だったんだけど、むしろずっと一緒のだったから寂しくなったのかも」

「確かに、それはあり得るかもですね!」

「それにあたしと大和は一緒に居る期間が多かったけど、恋人同士ではなかったわけだからさ。まぁ、大和はどう思ってるか分からないけど」

「きっと大和さんも、同じように出張先で寂しがってると思いますよ。だって、二人の性格はとっても似ていますから♪」

「そうそう。大和君は冷静なふりしてはぁとちゃんの事大好きだし、今頃出張先で上司に愚痴でもこぼしてるんじゃない?」

 

 

 大和がそんな事言うとは思えないけど、寂しいと思ってくれてるのならちょっと嬉しいかも。

 その後はお酒やおつまみを食べながら話を進めていたのだが、

 

 

「ところではぁとちゃん、アタシたちはとっても気になっていることがあります。それが何かわかりますか?」

「な、なんでしょうか?」

「それはもちろん、大和君とのなりそめよ! 前聞いた時は適当に誤魔化された気がするけど、今回ばかりは逃げられないわ!」

 

 

 お酒もお互いに結構回ってきたところで、早苗さんから大和を好きになったことについて質問が飛んできた。まさかここでなれそめを聞かれる羽目になるとは……。

 そう言えば前回、あんまり覚えてないとかいって、適当に誤魔化した気がする。しかし、逃げようにも早苗さんの言う通りみんな目を輝かせているので逃げられそうにない。

 

 

「……他言無用でお願いしますよ? それに大した話でもないですから」

「絶対に大した話だと思うから大丈夫よ」

 

 

 ニコニコと早苗さんが笑みを浮かべている。あたしはため息をついて美優ちゃんたちの方に視線を移し……美優ちゃんたちもにこにこしていた。

 

 

「はぁ……それじゃあ話しますね。えっと、大和を意識し始めたのは中学時代です。実は中学時代、あたしはちょうど人間関係で悩んでた時期があったんですよね」

「あっ、そうなの? それを聞くと少し申し訳なさが……」

「全然気にしなくて大丈夫ですよ早苗さん。今となっては大和と笑い話にできるくらいですから」

 

 

 笑い話については本当で、大和とアルバムを見ながら「そう言えばこんなことあったよね~」くらいの感じで笑い話にしている。

 ただ、お互いにあの時のことは鮮明に覚えているので恥ずかしいっちゃ恥ずかしんだけど。

 

 

「まぁそう言うわけで人間関係に悩んでたって話だけど、これもよくあることで中学の時代の先輩が私の事を好きなんじゃないかって噂が流れてね。実際に告白もされたの」

「その先輩ってもしかして……」

「楓ちゃんの想像通り、カッコイイ、イケメンだって騒がれてた先輩。あたしは全然そうは思えなかったんだけど、周りの子たちは違ったみたいでね。その後はお察しの通り」

「……えーっと、はぁとちゃんはその先輩の告白を断って、その結果周りの女子から恨まれたと?」

「正解です。当時、クラスのトップカーストにいたような女子がその先輩の事が好きだったから、まぁー嫌われたね。『なにあの生意気な奴』って感じに」

 

 

 ほんと、女子って今も昔もめんどくさい。ほんと、346プロのアイドルはいい人ばかりだから余計にそう思う。

 今だったらグーパンチの一つでもおみまいしてあげているところだが、当時は中学生なのでとてもそんな事はできなかった。

 

 

「その事と、大和さんがどう関係してるんですか?」

「……大和とあたしは同じクラスだったんだけど、あいつってば、あたしがクラスから浮いてもずっと隣にいてくれたの」

「なんというか、大和さんらしいですね♪」

「……ふふっ、確かにそうかも」

 

 

 楓ちゃんの言う通り、大和は今も昔も全然変わっていない。あの時の大和の事はよく覚えている。

 大和があたしの傍にいれば大和まで嫌われてしまうといっても、あいつは全く聞く耳を持たなかった。

 当時は今よりも静かであまりしゃべらなかったから、何考えているのかよく分からないと言われていた大和。でも本人はその事を全然気にしてなくて、そのくせ静かな割には頑固で……。

 そんな彼の存在が今となってとても大きなことだったと自覚している。

 

 

「あたしと大和は幼馴染だったし、家も近かったから一緒に帰ってたんだけど、あたしがそんな状態になってても一緒に帰ってたからある時、一緒に帰らない様に教室で一人大和が帰るまで待ってたんだよね。そしたら……」

 

 

 あいつは何食わぬ顔で教室までやってきたのだ。部活帰りの大和はいつも通りの感じで「なんで教室にいるんだよ」と、ぶつぶつ文句を言いながらあたしの座る前の席に座ったのである。ほんと、今思い返しても信じられない。

 

 

「詳しいことは面倒だから省くけど、その時のあたしは色々と限界でさ。大和に強くあたっちゃったんだよね。『どうして来たの!? あたしの事なんてほっといてよ!!』って感じに」

 

 

 あの時の事を思い返すと、大和には本当に申し訳ない事をしてしまったと後悔している。まぁ、大和にそのことを話すと「もう時効だよ」って言うんだけど。

 

 

「その時、大和さんはどんな反応を?」

「一瞬、驚いたような顔してたけどね。でも、すぐに『うるせえ。そんなの俺の勝手だ』って言うから、正直こっちがびっくりしたよ」

 

 

 頑固な奴だとは思ってたけど、まさかその頑固さがここで発動されるとは思ってなかった。

 

 

「それでね、あたしの前の席に座ってからしばらく黙ってたんだけど、ボソッと呟くようにしていったの」

 

 

 

『俺はお前になんて言われても隣にいる。だからさ、何かあったらちゃんと言えよ』

 

 

 

 あたしがハッと顔をあげた時にはもう大和は視線を窓の外に移していた。二回は言わないといった感じに。

 不器用な大和を見てあたしは安心するとともに……堪えきれなくなった涙を流していた。

 

 不器用に関してはお互い様だったのかもしれない。

 

 

「……いや~、青春ね。学生時代に戻りたくなっちゃったわ」

「ぐすっ……大和さんと心さん、やっぱり昔からお似合いだったんですね」

「どうして美優ちゃんが泣いてるのさ?」

 

 

 苦笑いを浮かべながら、ハンカチで目元を拭っている美優ちゃんの頭をよしよしとなでる。

 同い年だけど、本当に可愛い子だなぁ。

 

 

「あれっ? でも意識し始めたということは、まだ心さんは大和さんの事を好きじゃなかったんですか?」

「意識したのは認めるけど、好きって言う感情はまだ抱いてなかったかな。どっちかというと、親友って感情が強かったからね~。大和を好きになったのは高校の二年生の修学旅行の時だよ」

「あっ! それってもしかして修学旅行の時に大和さんが誰かに告白されたとかですか?」

「楓ちゃん、冴えてるねぇ。実はそれが正解だよ」

 

 

 あたしは中学時代からそこそこ告白されてたほうだったけど、大和が誰かに告白されたのはその時は初めてだったと思う。

 

 

「あたしは人づてにその話を聞いたんだけど……色々考えちゃったんだよね。もし、大和が誰かと付き合ったら私との関係はどうなるんだろうって。そしたら……胸の奥がズキッと痛くなってさ」

「そこで大和君を好きだと自覚したと。結局、大和君はその時の告白にどう返事をしたの?」

「その場で断ったみたいですよ。大和らしく、一言で『ごめん』だったらしいです」

 

 

 断った理由はしばらく聞かせてくれなかったけど、恋人になってから意識したのはいつ頃って話になって、修学旅行の時と言われた。

 大和もその時、あたしとの関係を考えて自覚したらしい。理由もあたしとほぼ同じだったので少し嬉しかったのは内緒。

 

 

「今の話を聞いてると、くっ付くべくしてくっついたって感じね、大和君とはぁとちゃん」

「そ、そんな事はないと思いますけど……」

「ふふっ、頬が緩んでますよ心さん?」

「う、うるさいな!」

 

 

 からかわれたり、話しているうちに、そろそろ時間となったのであたしたちは名残惜しくも居酒屋を後にする。

 その帰り道、

 

 

「そうだ! はぁとちゃんって、大和君が帰ってくる日の夜は特に何も予定が入ってなかったわよね?」

「入ってませんけど、どうかしたんですか?」

「駅まで迎えに行ってあげたらどうかしらと思って。一番近くの最寄り駅まで行ってあげたらどう?」

「えっ? 別に迎えなんて必要ないんじゃ?」

「彼女に迎えられて嬉しくない彼氏なんていないわよ。ほらっ、善は急げって言うし早速大和君に連絡して」

 

 

 勢いのまま大和に帰ってくる時間帯を聞き、そして帰ってくる日の夜。

 

 

「おかえり、大和」

「おう、迎えありがとな」

 

 

 いつも通りの感じに大和を迎える私。そのまま出張先の話や大和がいない間の話をしつつ、マンションへと戻る。

 いつものように晩御飯を済ませ、お風呂をお互いに済ませ、ソファに並んで腰かけたところで……、

 

 

 どちらからともなくキスをした。

 

 

 触れるだけのものから、ディープなものまで、5分ほどキスしてから唇を離す。

 

 

「……なに? 寂しかったの?」

「……それはお前もだろ?」

 

 その日の夜は普段よりも激しかった。




 過去編はリクエストを頂いているので、いつかしっかりやりたいと思います。
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