佐藤心が隣にいる日常   作:グリーンやまこう

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 なんかまた長くなりましたけど、時間のある時に読んでいただければと思います。


昔話(高校編)

 色々と波乱含みだった中学時代を乗り越え、俺と心は一緒の高校に進学していた。偏差値が高いわけでもないけど、低いわけでもない。いわゆる普通の高校。

 そんな高校で、俺と心は相変わらずの関係を続けていた。

 

 

「いやー、それにしてもこうして大和と一緒に帰ってると、中学時代と全然変わらない気がしてくるよね」

「どうした藪から棒に?」

 

 

 その高校生活も二年生へと突入していたある日。部活帰りに隣を歩く心から声をかけられ俺は首を傾げる。

 ちなみに俺は中学時代と同じくテニス部に所属していた。心はどこの部活にも所属していない。中学時代からそうだったけど、やりたいと思う部活がないから所属していないのだと。心らしいっちゃ、心らしい理由である。

 

 

「だってさ、中学時代もあたしは大和が部活を終えるのを待ってから一緒に帰っていたわけで、変わりないなって思ったの」

「じゃあ俺なんか待ってないで別の人と帰ればいいじゃん。あっ、そう言えば心って友達いなかったね」

「ほんと失礼な奴だな。少なくとも大和よりはいるよ」

「失礼なのはどっちだよ?」

 

 

 そこまで話して同時に噴き出す俺たち。

 

 

 中学時代の一件によって俺と心は幼馴染から一歩前進……したわけではなく、むしろ何も変わらなかったと思う。

 もちろん、幼馴染としての絆は深まったのだが、別に男女の仲は深まっていない。今の距離感を気に入っているのはお互い様だし、その距離感を崩したくないと思っていることも事実である。

 だからこそ、俺と心は高校二年生になってもこんな関係を続けていた。クラスも何の縁か、二年連続で一緒だしな。まぁ、事情を知らない周りの友達からは「お前らって、付き合ってないの!?」と言われることが多いんだけど。

 まぁ、ほぼ毎日一緒に帰ってるし、クラス内でも話すことが多いから、そう疑われるのも当然である。

 

 

「そう言えば、来週から修学旅行だよね。大和って準備とかもうしてるの?」

「いや、何にもしてないよ。部活が結構忙しかったからさ」

 

 

 心の言う通り、俺たちの高校は来週から修学旅行である。場所は沖縄。既に班や観光場所も決まっており、後は向かうだけという感じだ。俺は沖縄に行った事がないので結構楽しみにしている。

 

 

「そういえば、先週まで県大会があったって言ってたよね。それなら仕方ないか」

「まぁ、県大会まで勝ち進んだはいいけど、結局二回戦負けだったからな」

「せっかく、前日に頑張れってメッセージ送ってやったのに!」

「むしろ、そのメッセージのお蔭で負けたのかも」

「ぶっ飛ばすぞ♪」

 

 

 軽口をたたき合える関係は本当にいいものである。だからこそ、心との帰り道は普段の楽しみになっていた。

 

 

「あっ、そうだ! あたしもまだ準備してないから、今週の日曜日に色々必要な物を買いに行こうよ!」

「了解。今週の日曜日は部活も休みだし大丈夫だよ」

「じゃあ決定ね! お昼は大和の奢りで!」

「丁重にお断りさせていただきます」

 

 

 そんなこんなであっという間に一週間がたち、修学旅行当日となっていた。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「うぉー! 本当に飛んでる!」

 

 

 修学旅行当日。今現在、俺たちは飛行機で沖縄まで向かっているところだった。そして、飛行機にも乗ったことのなかった俺は窓の外を見ながら興奮の声を上げている。

 離陸直後の浮遊感は気持ち悪かったけど、飛んでしまえばどうってことはない。ちなみに一日目の予定は、修学旅行恒例のひめゆりの塔などの平和記念資料館に行くことになっていた。

 二日目は午前中までクラス行動で、その後から三日目終わりまでが自由時間となっている。ほんと、楽しみ過ぎてウキウキが止まらない。

 

 

「う、うるせぇぞ大和……」

 

 

 隣に座る友達はグロッキー状態になってるけど。元々飛行機が苦手なんだとか。こんないい景色が見れないなんて可哀そうに。

 

 

「大和、お菓子いる?」

 

 

 顔色がどんどんと悪化する友達に手を合わせていると、前の席に座る心からポッキーの入った袋が手渡される。

 心も飛行機に乗るのは初めてらしいけど、全く問題ないようだった。離陸直後ですら楽しそうにしてたしな。

 

 

「それじゃあ遠慮なく」

「あっ、こら! 5本も一気にもっていかないでよ!」

「ごめん、お腹減ってたから」

 

 

 俺がポッキーと5本貰ってもぐもぐしていると、

 

 

「ほんと、二人って仲いいよね。昔からずっとこんな感じなの?」

 

 

 心の隣に座る彼女の友達から苦笑いを向けられた。この子は高校から、それもこのクラスに入ってから友達になったらしいので、俺たちの中学時代を知らないのだろう。

 

 

「うん。まぁ、幼馴染だからね。昔から大和はあたしにべったりで大変なんだよ。親離れできない子供みたいな感じで」

「おいおい、事実と異なる証言がいくつもあったような気がするんだけど? 今すぐ訂正してくれないか?」

「いひゃい、いひゃいってば大和!」

 

 

 誤解を招くような発言をした心のほっぺたをグイグイと引っ張る。もちろん、幼馴染だからって容赦はしない。むしろ、幼馴染だから容赦はしない。

 

 

「とても幼馴染ってだけの距離感じゃないんだけどな~。大和君も、心ちゃん相手じゃなきゃこんなに喋らないでしょ?」

「そんなに喋ってるように見える?」

「自覚ないんだ……心ちゃんも大和君といる時はいつもより楽しそうだし」

「えっ? そんなことないと思うんだけど」

「こっちも自覚ないんだ……」

 

 

 なんか、話しかけられた時より呆れられているような気がするけどまぁいいか。

 

 

「それをふまえてなんだけど、二人ってさ付き合ったりしないの?」

『付き合う?』

 

 

 俺たちの声が見事に被った。

 

 

「どうして大和とあたしが付き合うの?」

「そうだそうだ。どうして俺と心が付き合う必要があるんだよ?」

「だって、二人は周りから見て、付き合ってないとおかしいくらいの距離感なんだよ?

「いつもいつもイチャイチャイチャイチャして、見てるこっちの身にもなってほしいよ……」

 

 

 後半の方は小声だったのでよく聞こえなかったからいいとして……俺と心が付き合う、か。幼馴染って印象が強すぎてあまり考えたことがなかった。

 同じことを考えていたのか、心と目が合う。そして、

 

 

「ないでしょ?」

「ないよな」

 

 

 これまた同じタイミングで言葉が被った。いや、だって幼馴染としての印象が強い心と付き合うなんて本当に考えられない。中学の時に一度だけ揺らぎかけたことがあったけど、それ以降は別にって感じだからな。

 しかし、心の友達は信じられないのか「何で!?」と声を上げる。

 

 

「おかしいよ! 恋人でもないのにそれだけイチャイチャできるって、多分心ちゃんたちだけだよ?」

「俺たちじゃなくても、イチャイチャしてる人なんて結構いるでしょ? というか、俺たちは別にイチャイチャしてないし」

「そうだよね? 私たちは普段からこんな感じだから」

「……無自覚なのが一番問題なんだよなぁ」

「無自覚? 何の話?」

「いや、こっちの話」

 

 

 遂に心の友達は頭を抱え始めた。そんなに俺たちって変わってるのかなぁ? 別に普通だと思うんだけど。

 

 

「じゃあ質問を変えるけど、二人のうちどっちかが誰かと付き合うのはいいの?」

「大和が誰かと付き合う? あっはっは! ありえないよ。こんな口下手で無表情で基本的に何考えてるのか分からないやつの事なんて、好きになる人いないから!」

「お前、幼馴染とはいえ、言っていいことと悪いことがあると思うぞ?」

「でも、間違ったことは言ってないでしょ?」

「……悔しいけど間違ってないから余計に質が悪い。良いよなお前はモテるから」

 

 

 今言ったように、心は心でモテるからこれまた質が悪い。顔はもちろん、性格も明るいので憧れる男子も多いのである。

 

 

「まぁまぁ、悲しまないで。大和の優しさはちゃんと私には伝わってるから」

「だといいけどな」

「そういう所が無自覚だって言うんだよなぁ……」

 

 

 再び頭を抱える心の友達。今の会話のどこに問題があったのだろう?

 

 

「だけど、心ちゃんってモテる割には誰とも付き合ってないよね。それは何か理由があるの?」

「別に、理由はないけど。何となくって感じかな」

「もったいないなぁ。心ちゃんくらい可愛かったらどんな男の子でも選り取り見取りだと思うのに~」

「いやいや、流石にそんな事はないよ。本当に誰とも付き合う気がないからそうしてるだけ」

「基本的に我が強い心と合うやつなんてなかなかいないだろ? 付き合ったら男は苦労しそうだし」

「大和はぶっ飛ばされたいのかな?」

 

 

 そう言って拳を掲げる心。そういうとこだよ、そういうとこ。

 

 

「はぁ……それで話を戻すんだけど、二人のうち仮にどっちかが付き合ったら二人はどうするの?」

「仮に付き合ったらねぇ……別にそこまで気にしないと思うけど。付き合うのはお互いの自由だからな」

 

 

 俺の言葉に心もうんうんと頷いている。別にどっちかが付き合ったところで俺たち、幼馴染の関係が大きく変わるわけではないので気にしなくても大丈夫だろう。

 

 

「大和君の言葉が本当ならいいんだけど……まぁこの話はこの辺で終わりにしよっか。それよりも今日の予定はどうなってたっけ?」

「えっと、今しおり出すから待ってて」

 

 

 その後は今日のスケジュールを確認したり、世間話をしているうちに俺たちを乗せた飛行機は無事、沖縄県の空港に着陸したのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 あたしたちは沖縄についてから順調にスケジュールをこなしていったのだが、修学旅行最大の事件は2日目の夜に起こった。

「ね、ねぇ、心ちゃん!」

「どしたの、そんなに慌てて?」

 

 

 入浴を済ませ、部屋でのんびりしていたあたしの所に友達の女の子が駆け寄ってきた。普段は落ち着いている子なので、こんなに慌てているのは珍しい。

 

 

「さっき、別の友達から教えてもらったんだけど、大和君がAクラスの○○ちゃんに告白されたんだって!」

「…………」

 

 

 一瞬、理解が追いつかなかった。フリーズする頭。1分ほどかけて何とか我に返ったあたしは、何とかして口を開く。

 

 

「……ドッキリじゃないよね?」

「違うよ! 本当の本当に告白されたんだって」

 

 

 ドッキリではなかった。まぁ、ドッキリなんかでこんな嘘つくとは思えないんだけど……。

 ○○ちゃんは私も知っている。どちらかというと大人しい子だったんだけど、男子からの人気は高かったはず。そして去年、同じクラスで大和と話しているところも何度か見かけた。

 その時は特に何も感じなかったんだけど、

 

 

「そ、それで、大和はなんて返事をしたの?」

 

 

 僅かに震える声。思いのほか動揺している自分に驚く。どうしてこんなに心臓が痛いんだろう? 答えを自分から尋ねたのに、答えを聞きたくないと思う自分がいる。

 矛盾している自分の気持ち。

 

 

「それが告白したって事しかわからなくて、肝心の返事はまだ分からないんだよ。男子から連絡を待ってるんだけど、大和君が頑なに口を割ろうとしないみたいで」

「……そう、なんだ」

 

 

 大和の返事がまだと知って、少しだけホッとするあたし。きっと、大和は相手の事を気遣って返事を口にしないのだろう。こういう所は本当に大和らしい。

 それでもホッとしたのには変わりなくて……あれ? どうしてあたしはホッとしているんだろう? まだ受け入れたのか、断ったのか、肝心の部分が何もわかっていないのに。

 

 

「気になるんだったら大和君に聞いてみたら? 多分、答えてくれると思うけど」

 

 

 動揺が顔に出ていたのか、友達があたしを気遣うような言葉をかけてきた。それ程までに動揺していた自分に驚いてしまう。

 そんなあたしは「分かった」と言いかけて口を噤む。

 

 

「……いや、やめとく。大和だって話したくないかもしれないから」

 

 

 いくら幼馴染とはいえ、聞いていいことと悪いことはあるだろう。大和は聞いたら教えてくれると思うけど、あたしが同じ立場だったら多分嫌だと思うから。

 そもそも、誰が告白してどんな返事をしたのかなんて、高校生ならばすぐに伝わってくるので改めて聞くこともないはずだ。

 大和がいくら口を開かなくても、その○○ちゃんの方から伝わってくると思うし。

 

 

「いいの? 普通、あれだけ仲良くしてたら気になると思うんだけど?」

「いいのいいの! 幼馴染とはいえ、誰かと恋愛するのなんて自由だからさ。この前の飛行機の中でも話してたでしょ? それに、大和はあたしが誰に告白されたとしても聞いてこなかったし」

「それってほとんどの場合、心ちゃんが告白されたってことを大和君が知らなかっただけじゃ?」

「ひ、否定できない……」

 あいつはあたしの性格を見て我が道をいってるなとよく言ってくるけど、大和も大和ですごい性格をしていると思う。大和みたいな性格の奴、全国で探しても中々見つからない……とあたしは勝手に考えている。

 しかし、今はその性格のお蔭でモヤモヤに拍車がかかってしまった。

 

 

「……まぁ、この話はもういいんじゃない? そもそも大和が簡単に誰かと付き合うとも思えないしね」

「そ、そうなのかなぁ?」

「大和はそういうもんなの。それじゃあもう遅いし寝よっか?」

 

 

 なんだかんだ、12時を回ろうかという時間になっていたのであたしは明日のことも考えてベッドにもぐりこむ。

 

 

「じゃあおやすみ~」

「うん、おやすみ心ちゃん」

 

 

 そう言って目を瞑ったまでは良かったのだが、

 

 

(……眠れない)

 

 

 大和が誰かに告白されたという事実が頭の中をぐるぐるとめぐって全く眠れない。そして、眠れない理由はただ単に大和が告白されたというだけではなかった。

 

 

(大和がもし付き合ったとして……あたしはどうなるんだろう?)

 

 

 眠る前は大和が誰かと付き合うなんてありえないと言ったけど、実際の所は分からない。

 ○○ちゃんと大和は去年、よく話していたし今年に入ってクラスが変わっても廊下で話しているところを何度か見かけた。

 あんなことを言った割には、二人が付き合ったとしても何ら不思議ではない。いや、傍から見ればお似合いのカップルに見えるだろう。だからこそ、

 

 

(……いやだな)

 

 

 思わずギュッと痛む心臓を右手で掴む。どうして嫌だと思ってしまうのか分からない。本当なら幼馴染が付き合うのだから祝福してあげるのが普通だろう。

 でも、あたしは大和が誰かと付き合うのが嫌だと思ってしまった。大和がその○○ちゃんと一緒に帰っている姿を想像するだけで再びズキンズキンと心臓が痛む。

 理由が分からないからこそ余計に辛い。

 

 大和とは小学生の頃から一緒で、こうして高校まで一緒に通っている。中学の時には本当に、感謝してもしきれないくらいに助けてもらった。そんな大和がもしかすると遠くに行ってしまうのかもしれない。

 

 

(やだよ、そんなの……)

 

 

 あたしは思わず枕に顔を押し付ける。じわっと涙まで滲んできた。別に大和が誰かと付き合ったところで、私との関係を完全に断つということはないだろう。

 でも、確実にあたしとの時間が少なくなるのも事実で、それがどうしようもなく寂しいと感じてしまった。

 

 

(何考えてるんだろあたし……)

 

 

 自分勝手なことしか考えられない、今の自分が嫌になる。そもそも、あたしだって付き合う機会はあったはずなのにこれまで誰とも付き合ってこなかった。何度も言っているように、大和が誰かと付き合うのは勝手である。

 だからこそ、こんな気持ちになるのはおかしい……おかしいはずなのに。

 

 

(なんであたしはこれまで付き合ってこなかったんだろ……)

 

 

 自分と合わないからとか、タイプじゃないからとかそんな理由で断ってたけど……もしかすると、心の奥にある本当の理由は違うものなのかもしれない。

 それは大和の存在があったから? 大和がいたからあたしは誰とも付き合ってこなかったのかな?

 

 

(……わかんない)

 

 

 結局この日の夜はモヤモヤした気分が晴れずにあまり眠れなかった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「ふわぁ……」

 

 

 次の日。あたしは寝不足の瞳を擦りながら、朝食を食べる部屋までの道を歩いていた。本当はもう少し眠っていたかったのだが、朝食は全員で食べるということなので仕方がない。

 眠い頭を何とか起こしつつ、自分の席に着く。あまり食欲もないけど、食べないと倒れるかもしれないので無理やり詰め込もう。

 そう思っていたところで、大和が部屋に入ってくるところが見えた。大和もあたしに気付いたのか、軽く手を上げる。あたしも手を上げかけて、その手をすぐに下ろしてしまった。

 告白されたということが引っかかり、何となく気まずかったのである。

 

 

「?」

 

 

 大和は不思議な顔をしていたけど、特に気にした様子はないようだった。まぁ、大和はあたしの気持ちを知る由もないので当然なんだけどね。

 そのまま朝食を終え、修学旅行三日目の自由時間になった。もちろん、あたしと大和は別の班である。

 

 

「それじゃあ心ちゃん、行こっか」

「……うん」

 

 

 どこか上の空だったこの時のあたしに、罰が当たったらしい。

 

 

 

 

「……はぐれた」

 

 

 

 

 あたしは近くのベンチに座って頭を抱えていた。ボーっとしていたあたしは、本来乗るはずだったバスに一人だけ乗ることができず、同じ班のメンバーとはぐれてしまったのである。

 幸いなことに今はスマホがあるのですぐに連絡することはできたけど、問題は次のバスが30分以上来ないことだった。

 

 

「取り敢えず班の皆には謝って、計画通りに行動してもらうとして……あたしはどうしよっかな」

 

 

 ここからすぐに動くのも微妙な時間だったので、適当にぶらぶらしていることに。これまた幸いなことに、近くには沖縄で有名な国際通りがあったのでその中のお店を見て回ることにする。これなら、一人でも十分に時間を潰せるので丁度良かった。

 そんな感じで気になったお店に入って商品を物色していると、

 

 

「あれ、心?」

「えっ? や、大和!?」

 

 

 聞き慣れた声に顔を上げれば、大和が隣でお土産を物色していたので驚きの声を上げてしまった。

 今朝まで散々、頭の中で考えていた人が急に現れるとどうしてもテンパってしまう。

 

 

「な、何でこんな所にいんの?」

「それはこっちのセリフだよ! 大和は今、グループで行動してるはずだよね?」

「それがボーっとしてたらバスに乗り遅れてさ。それで、今から合流しても時間的に厳しいってことになって一人で色々物色してた」

 

 

 やってしまったとばかりに頭をかく大和。いつも無表情な彼の表情が少しだけしょぼんとしているように見える。

 一方、あたしはこんなところまも幼馴染で似なくてもいいのにと思いつつ、笑みがこぼれてしまった。

 

 

「ふふっ!」

「笑うなって。確かにボーっとしてた俺も悪いけどさ」

「ううん、そうじゃなくて。あたしも同じだったから笑っちゃってさ」

「えっ? 心も班のメンバーとはぐれたのか?」

 

 

 びっくりする大和に「うん」と頷くあたし。なんだかわからないけど、すごく嬉しい。

 

 

「だからこれまで一人だったんだけど、一人で回ってもつまらないから一緒に回ろうよ」

「えっ? でもお前はまたみんなと合流するんじゃないのか?」

「合流する予定だけど、かなり時間が空いちゃうの。そもそも、本当に合流できるのかどうかも分からないし。だからはぐれた者同士、一緒に回るのも悪くないかなって」

 

 

 あたしの言葉に大和は少しだけ考えるそぶりを見せるも、すぐに顔を上げる。

 

 

「確かに、修学旅行を一人でってのもつまらないから一緒に回るか。こんなところまで幼馴染と一緒に回るのもどうかと思うけど」

「こんな可愛い幼馴染と一緒に回れるんだから逆にありがたいと思えって」

「はいはい、感謝してまーす」

「もっと気持ちを込めろ♪」

 

 

 いつものように軽口をたたくのだが、他人がきけばすぐにわかるくらいにあたしの声は弾んでいた。多分、気付かないのは目の前にいる鈍感な幼馴染くらいだろう。

 そんな経緯であたしたちは、国際通りをのんびりとめぐり始めた。

 

 あらかたお店を回りつくして、ちょっとした休憩スペースでアイスを食べながら休憩している時に、あたしはあの事について思い切って聞くことにした。

 

 

「ねぇ、大和」

「ん? どうした?」

「……昨日、○○ちゃんに告白されたんだよね?」

 

 

 アイスを口元まで運んでいた大和の手が止まる。

 

 

「知ってたのか?」

「そりゃ、結構噂になってたからね。返事までは聞いてないんだけど」

 

 

 一瞬、どう答えようか迷った様子の大和だったのだがすぐに口を開く。

 

 

「断ったよ。ごめんって」

 

 

 大和の言葉を聞いて、これまで胸を覆っていたもやもやが一気に晴れた気がした。最低だけど、断ってくれてよかったと思ってしまった。あたしは何時からこんなに性格が悪くなったんだろう? 

 そのままの流れで断った理由も聞いてみることに。

 

 

「何で断ったの? 大和、○○ちゃんとよく話してたじゃん」

「いや、確かに話してたんだけど……その」

 

 

 あたしの顔をチラチラと見ながら妙に歯切れが悪くなる大和。流石にその様子だけじゃ、彼がいったい何を考えているのかは分からない。

 

 

「……まぁ、要するに今は誰とも付き合う気がないから断ったってだけだよ」

「要するにまでが全部すっ飛んでたから、何もわからなかったんだけど?」

「いいんだよ。それはこっちの話だから。あんまりぺらぺら話すと○○さんにも迷惑がかかるし。というか、そんなに広まってるとは思わなかったよ」

「そりゃ、修学旅行に告白したわけだからね」

「だとしてもなんだけどな。……はぁ、同じ部屋の男子には一応、広めるなってくぎを刺しといたんだけど」

「そんな約束、あってないようなもんだから言うだけ無駄だよ」

 

 

 大和が告白された後、すぐに女子の所へ伝わってきたからね……とは言わないでおいてあげた。言ったら大和がショックを受けそうだし。

 

 

「広まった後で言ってもしょうがないけど、お前もこれを聞いたからって広めるなよ?」

「分かってるって。それよりもあっちの方に行ってみようよ。なんか美味しそうな食べ物があるみたいだし!」

「ほどほどにしとけよ。この後は普通に夕食なんだからさ」

 

 

 そんなわけであたしたちは三日目を二人で一緒に過ごしたのだった。結局、お互い班には時間の関係で合流できなかったけど、告白の返事を聞くことのできた私はとても満足だった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「結局、大和君断っちゃったんだってね」

「あっ、そうなんだ」

 

 

 夕食を終え、部屋でのんびりしていたあたしに友達が残念そうに伝えてくる。もちろん結果は知っていたけど、一緒に居たことを知られたくなかった私は適当に相槌を打つ。

 偶然とはいえ、大和と一緒に居たことが広まってしまえば彼によからぬ噂が広まると思ったからだ。迷惑をかけるくらいなら、黙っておくに越したことはないだろう。

 

 

「なんだ、残念だな~。あの二人、結構お似合いだと思ってたのに。これも大和君から聞いてないの?」

「何にも聞いてないよ。まっ、断ったことに関しては大和も大和で思う所があるんじゃない?」

 

 

 これまた、今日聞いたことを言うわけにもいかないので適当に誤魔化しておく。まぁ、誤魔化すほどの内容じゃないんだけど。ごめんって言っただけみたいだし。

 

 

「ちょっと私、飲み物を買いに行ってくるね」

 

 

 これ以上、追及されても困ると思ったあたしはホテルのロビーにある自販機へ。丁度喉も渇いてたしね。エレベーターを使って一階まで降りる間にふと考える。

 

 

(結局、あのもやもやは何だったんだろう)

 

 

 大和と話してからもやもやは消えてしまったけど、その理由に関しては分からず終いだ。無理して確かめることでもないかもしれないけど、大和ともう一回話してみたらわかるかもしれない。

 まぁ、今日に関してはもう会うこともないんだろうけど……。なんて考えているうちにエレベーターは一階に到着し、私は降りて自販機のある場所まで歩いていく。すると、自動販売機でお茶を買っている幼馴染の姿が目に入った。

 

 ……偶然もここまでくると色々疑ってしまう。

 

 

「……なんでまたいるの?」

「そりゃ、こっちのセリフだ」

 

 

 ため息をつきながら呆れるあたしを見て、大和も似たようなことを思ったのであろう。げんなりとした表情を浮かべている。

 

 

「偶然にしたって、ここまで来ると流石に呆れちゃうよ。大和ってあたしの事つけてたりする?」

「そんな断るわけないだろ。むしろ、俺がいるところにお前が来るんだから、ストーカーはそっちじゃないのか?」

 

 

 飲み物を買いつつ、いつものように軽口をたたき合う私たち。でも、あたしは大和がここにいてくれてよかったと思った。

 

 あのもやもやの意味を確かめたかったから……。

 

 

「ねぇ大和。このホテル、ちょっとした庭みたいなところがあるから行ってみない? 少し話したいこともあるからさ」

 

 

 そう言ってあたしは大和の服の袖を引く。

 

 

「別にいいよ。俺も話したい事あったし」

 

 

 あたしの誘いに大和は頷く。まだ就寝時間までは時間があるので、先生に見られても何も言われないはずだ。

 

 それにしても大和の話したいことって一体?

 

 そのまま二人で外にでる。ホテルの外は静かであたしたち以外、人の気配を感じない。

 夜風の気持ちよさに目を細めつつ、二人でのんびり歩きながら庭を眺める。

 

 

「ここのホテル、池まであるんだな。しかも、ご丁寧にベンチまで置いてあるし」

「どっちかっていうと、ホテルより旅館って感じだよね」

 

 

 そのまま二人並んでベンチに腰を下ろす。雰囲気のせいか、あたしたちはお互い無言になる。

 無言になっても気まずい雰囲気にならないのは幼馴染のいいところだ。しかし、今は少しだけ気まずかったりする。

 

 

「……あのさ、大和。ちょっとだけ聞いてもらってもいい?」

「ん?」

「あたし、大和が○○ちゃんに告白されたって聞いてから、大和に断って聞くまでずっと胸のもやもやが続いてたの。その理由って分かったりしない?」

「心が分からなきゃ、俺だってわかるわけないだろ」

「あはは、だよね……だからさ」

 

 

 気付くとあたしは大和の右手に自身の左手を重ねていた。

 

 

 

 

「キス……してみない?」

 

 

 

 

 あたしの言葉に大和は驚いたような表情になる。それもそのはずだ。いきなりキスしようなんて言われたのだから。

 

 

「ど、どうしてそんなこと?」

「別に大和が嫌なら全然大丈夫だよ。でも、キスしたら今の気持ちが分かるかもしれないから」

 

 

 自分でも滅茶苦茶なことを言っているのは理解できている。それでも、あの時感じたもやもやの意味を知りたかった。いや、今思うと知りたかったというよりは確認しただけだったのかもしれない。

 

 彼に対するこの気持ちが本物なのかどうかを……。

 

 大和はしばらく視線をあたしから外して逡巡した後、

 

 

「いいよ」

「えっ?」

 

 

 大和の返事に思わず驚きの声を上げてしまった。

 

 

「だって、もやもやの意味を知りたいんだろ?」

「し、知りたいけど……良いの大和は?」

「駄目だったら、良いなんて言ってないよ。それでどうする?」

「う、うん。あたしはしたい……です」

 

 

 色々な気持ちがごちゃ混ぜになって、大和相手になぜか敬語になってしまった。

 

 

「じゃ、じゃあ、するか」

 

 

 でも、大和も緊張している様子で……ちょっぴり安心した。緊張の和らいだあたしは大和の方に顔を向けると、口をとがらせて目を閉じる。

 

 

「…………」

 

 

 大和の気配がゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。彼の右腕があたしの腰を抱いた。

 

 

 

『…………』

 

 

 

 彼の吐息をすぐ近くに感じる。

 

 

 そして、あたしたちの唇が初めて重なった。

 

 

 しばらく……いや、時間にしてみれば5秒もなかったかもしれない。でも、この時のあたしにとってはとても長い時間に感じた。

 唇を離したあたしたちは、何となく恥ずかしくてお互いに視線を逸らす。

 

 

「……しちゃったね」

 

 

 こんなに頬が熱くなったことはない。こんなに心臓がドキドキしたことはない。チラッと大和に視線を移すと、彼も彼で頬を少しだけ赤く染めていた。

 そのままお互い無言になったのだが、

 

 

「……なぁ、心」

「なに?」

「実はさ、俺も告白されてからずっとモヤモヤしてたんだ」

「えっ、大和も?」

 

 

 まさかのカミングアウトである。しかし、あたしは首を傾げた。

 あたしはともかく、大和がモヤモヤするなんて理由が見つからないからだ。そんなあたしの気持ちを知ってか、大和は続きの言葉を口にする。

 

 

「告白された時、お前の顔が頭に浮かんでさ。だから、その、どうしてお前の顔が浮かんできたんだろうってモヤモヤしてて……」

「う、うん……」

「今もまだモヤモヤしてる。だからさ……、……かい……いいか?」

「えっ? なに?」

「…………もう一回してもいいか?」

 

 

 腰が抜けるかと思った。でも大和の目は本気で、嘘を言っているようには見えない。その瞳に見つめられたあたしは、もう赤い顔を隠すことができなかった。

 さっきの一回だけで十分恥ずかしかったのに、二回目なんて。でも、

 

 

 

「………………うん」

 

 

「……ありがと」

 

 

 

 気付くとあたしたちの唇は再び重なり合っていた。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「うわぁ……大和君、二回目に関しては確信犯でしょ? どう考えても好意が芽生えたからこその二回目って感じがするし」

「……何の事やら」

 

 

 早苗さんからの追及に俺は視線を逸らす。ただ、彼女の言う通り二回目のキスに関しては確信犯だ。普通に心とキスしたかったから、多分その時点で好きだったからキスをしたのである。

 モヤモヤしてたなんて一種の言い訳に過ぎない。心にしても分かっているはずだ。

 

 

「まぁまぁ、早苗さんいいじゃないですか。私としては甘酸っぱい青春時代の話を聞けてとても満足です♪」

「本当にそうですね。私もお二人のなれそめを聞くことができてとても楽しかったです!」

 

 

 しかし、皆さんそれなりに満足してくれたみたいで良かった。これにて俺と心の昔話はお終いというわけである。

 

 

「個人的には心さんの『しちゃったね』という一言がグッとだったかと」

「私は心さんの『キスしてみない』ってところですかね」

「か、楓ちゃんに美優ちゃん、あんまり掘り返すのはやめてほしいんだけど……というか、掘り返すなら大和のセリフも掘り返してよ!」

「俺はもう早苗さんに掘り返されてるから」

 

 

 心が若干、顔を赤らめている。まぁ、中学時代と高校時代の過去は俺たちにとって恥ずかしさの塊なので仕方がない。俺はこの話をするとなった時点で諦めている。

 

 

 ちなみにキスの後はこれまた中学時代と同じように何かが起こるわけではなく、普通に四日目を過ごし修学旅行は終わりを告げたのだった。その後は二人とも大学に進み、心はアイドル。俺は346プロの職員となっていた。

 そしてなんだかんだ合って付き合うことになり、今に至るというわけである。途中、ざっくりし過ぎかもしれないが、これといって大きな出来事もなかったのでしょうがない。

 もちろん、ずっと連絡はお互いに取っていたんだけどね。まぁ、アイドル活動を始めてから346プロに入るまで、鳴かず飛ばずだった心を少しだけ心配していたのは事実だけど。

 

 

「まぁ、取り敢えずまとめるとこの中高時代があったからこそ今の二人があるって事よね」

「その通りだと思いますよ。まぁ、この出来事がなくても早かれ遅かれ自分の気持ちには気付いてた気はしますけど」

「いやいや、あたしはともかく鈍感な大和は絶対に無理だって。特に中学、高校時代の大和なんて酷いもんじゃん」

「酷いって、お前も大概失礼だな」

「まぁまぁ、今のお二人が幸せならいいじゃないですか」

 

 

 にっこり笑顔の楓さんに窘められ、俺と心は恥ずかしくなって俯く。その、まあ、幸せって部分は間違ってないわけだし。

 

 

「ふふっ、仲が良くて羨ましい限りです。……あっ、もうこんな時間!」

「あら、昔話を聞いているうちに結構長居しちゃったみたいね。アタシたちはそろそろ帰らないと。……二人の幸せな時間を邪魔しないためにも♪」

『さ、早苗さん!!』

 

 

 俺たちの声が綺麗に被った。早苗さんめ余計なことを……これまた恥ずかしい。そんな俺たちを見て、優しい微笑みを浮かべながら三人は満足げに帰っていった。

 

 その後は、二人で後片付けをし、風呂などを済ませる。

 

 

「じゃ、夜も遅いしそろそろ寝るか」

「うん」

 

 

 二人、同じベッドに入り……なんだか眠れなかったので俺はベッドの端に腰掛ける。心も俺の隣に腰掛けてきた。

 

 

「どうかしたの大和?」

「いや、なんか眠れなくてな」

「昔話をしたから?」

「そうかもしれない」

「……じゃあ、キスでもする?」

「昔の話を意識し過ぎだろ?」

「嫌なの?」

「嫌じゃないから困る」

「素直なのはいいことだと思うよ」

 

 

 そう言って心が俺の方に顔を向け目を閉じる。何というか、あの時に似ている感じがした。

 違うのは触れるだけでは満足できないということ。

 

 俺は心の腰を抱き、深く、深くキスをした。舌を絡ませるたびに心の口から甘い嬌声が漏れる。唇を離そうとすると、心が首に腕をまわしてそれを許さない。

 かなり長い時間キスを交わし唇を離すと、心が潤んだ瞳を俺に向けてきた。

 

 

「……今日はこれで終わりじゃないよね?」

「終わりって言ったら?」

「襲う」

「直球過ぎだろ……まぁ終わりなわけないんだけど」

 

 

 俺は心の身体をベッドに押し倒すと、そのまま心の着ていたパジャマを脱がす。下着姿になった心は、僅かに頬を赤らめて俺から視線を逸らす。

 

 

「……大和ってばがっつきすぎ」

「お前の方が誘ってきたんだろ。というか、そう言いつつ俺のズボンを脱がしてるのはどこの誰ですかね?」

「いいじゃん。最近はお互い忙しくて全然シてなかったんだから。私だって我慢してたの。だから早く……」

 

 

 自分の胸を押さえながらそう懇願してくる心。そんな仕草をされて我慢できるほど、俺の理性は強くない。

 

 

「我慢してたのは俺もだから」

 

 

 その日の夜はいつもより少しだけ長かった。




 ちなみに作者は沖縄に行った事がないので修学旅行に関しては全て想像です。なんか、おかしなところがあれば指摘していただければと思います。
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