佐藤心が隣にいる日常   作:グリーンやまこう

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 このタイミングでフェス限しゅがはは聞いてなかった……。
 決死の70連で引き当てた時は発狂しました。しゅがは、可愛すぎるでしょ。


宅飲み 2

「さて、お酒とかおつまみはこんなもんでいいか」

「うん、大丈夫だと思うよ。今日も集まるのはいつものメンバーだから」

「ほんと、最近宅飲みばっかりやってるけど、あの人たちはみんな暇なの? 彼氏の一人くらい、すぐにできそうなもんだけど」

「それ、早苗さんとか川島さんの前では禁句な☆」

 

 

 さて、今現在俺と心がいるのはマンションの近くにあるスーパー。

 今日は最近、恒例になりつつある心の部屋で宅飲みをする日だった。既に買い物かごの中にはお酒とおつまみが大量に入っている。

 毎回、宅飲みじゃなくて居酒屋で飲み会をすればいいのにと言っているのだが、断固として宅飲みは譲れないらしい。まぁ、顔バレの心配はないし安くつくからいいかもしれないけどさ。

 取り敢えず買うものは買ったので俺たちは会計を済ませてスーパーを出る。

 

 

「おっも。マンションが近くにあるのはいいけど、やっぱり車を持ってたほうが楽かもな」

「大和が車を買えば、あたしが多少寝坊しても送ってもらえるから助かるぞ!」

「いや、もちろん置いてくけど?」

「そこはせめて起こせよ☆ というか、彼女として扱いが酷すぎ☆」

 

 

 いつも通り買い物袋を二人で持ちつつ、マンションを目指す。車に関してはまだそれほど必要とはしていないし、もう少し熟考してみるつもりだ。

 そんなわけでマンションの、心の部屋に戻ってきた俺たちは宅飲みの準備を始める。俺は部屋の中の掃除係。心はおつまみだけでは味気ないということで軽く料理を作る係だ。

 部屋の中の掃除はあっという間に終わってしまったので、料理を作っている心を手伝うことにする。

 まぁ、俺のやることと言えば使い終わったお皿を洗うことくらいだけど。……あれ? 掃除してるのと変わりなくない? 料理もほとんど終わりかけてるみたいだし。

 

 完成した料理をテーブルに並べ終えたところで何気なく口を開く。

 

 

「それにしても、心って料理うまくなったよな」

「どうしたの急に?」

 

 

 エプロン姿の心がキョトンと首を傾げる。

 

 

「いや、前から料理ができることは知ってたけど、最近は手際もよくなって味も段違いになってる気がするし」

「そうかなぁ~?」

 

 

 心はそう言ってくるくると髪をいじっていたのだが、ぽそっと呟く。

 

 

「……まぁ、あたしたちさ結婚を前提に付き合ってるわけじゃん? それでもし、そうなった時に料理がうまければ、その、大和も喜んでくれると思って……」

「へっ? ……あ、……そ、そうなんだ」

「…………」

 

 

 なんだこれ。めちゃくちゃ恥ずかしいけど、めちゃくちゃ嬉しい。結婚を前提にとは言ったけど、心がそこまで考えてくれていたなんて思わなかった。

 俺が嬉しかったり恥ずかしかったりで何も言えずにいると、顔を真っ赤にした心が叫ぶ。

 

 

「そ、そんな恥ずかしがるなよ!! あたしとしては『おいおい、気が早いなぁ~』っていういつも通りの反応を期待してたんだから!」

「いや、できるわけないだろ……あんなこと言われて嬉しくないやつなんていない」

 

 

 俺はそう言って多少強引に心の頭を撫でる。

 

 

「だから、ありがとな。色々考えてくれて」

「っ! ……そういう所がずるいんだよ。だからさ、ちょっとこっち向いて」

「どうかした……んむっ!?」

「んっ……」

 

 

 心の方を向いた俺の唇に彼女の唇が重なった。俺の胸に手を置いて、少しだけ背伸びをして唇を重ねる心。

 触れるだけのキスだったので、すぐに唇を離す。しかし、お互いの顔は深いキスをした時よりも真っ赤だった。

 

 

『…………』

 

 

 何も言わずに見つめ合う俺達。上目遣いで俺を見つめる心はどこか魅惑的で――。

 

 

ピンポーン

 

 

『っ!?』

 

 

 突然のチャイム音に俺と心は揃って我に返る。恐らく早苗さんたちが来たのだろう。

 

 

「あ、あたし、迎えに行ってくるから!」

 

 

 ばたばたとキッチンから出ていく心。俺は取り敢えず無心で残ったお皿を拭き続ける。

 ほどなくして早苗さんたちがリビングに入ってきた。

 

 

「やっほー、大和君。今日はよろしくね……って、大和君まで顔赤いけど何かあったの?」

「な、なんでもありませんから!」

 

 

 早苗さんからの問いかけに俺は必死に取り繕う。やっぱり、こんな短時間で顔色を元に戻すのは無理だったか……。

 大和君までということは、心も赤い顔を隠しきれなかったのだろう。

 

 

「あっ! もしかして私たちが来るまでの間にイチャイチャしてたんですか?」

「楓さん、思ったことを何でもかんでも口に出さないで下さい……。ちなみに、イチャイチャなんてしてませんから」

 

 

 ニコニコと笑みを浮かべる楓さんに、俺はがっくりと肩を落とす。この人、妙に勘が鋭いから隠し事ができないんだよなぁ。今回もビンゴだし……勘弁してほしいものだ。

 その後は美優さんも迎えてお酒の準備をする。美優さんは何も言わなかったけど、俺と心を見つめてにこにこ微笑んでいたので多分気付いているだろう。は、恥ずかしい……。

 

 

「と、取り敢えず全員集まったので乾杯だけしちゃいましょう。かんぱーい」

『かんぱーい!』

 

 

 グラスを合わせるとカチンと小気味いい音が部屋に響く。俺は先ほどの恥ずかしさを忘れるように、コップに入ったお酒(早苗さんが持ってきてくれた日本酒)を一気に飲み干した。

 

 

「ふぅ……」

「相変わらず、宅飲みだといい飲みっぷりね大和君」

「何度も言ってますけど、心の部屋なら別に迷惑をかける相手もいませんから」

「あたし的には大迷惑だぞ☆ だから、日本酒を一気に飲み干すのはやめろって☆」

「それなら大丈夫よ。この日本酒は飲みやすさを意識して度数は低めになってるから」

「そうなんですか。どうりで飲みやすいと思ったわけです」

 

 

 確かに口当たりもよく、味もまろやかだったのでこれならいつもより多く飲んでも大丈夫だろう。

 

 ……この時の俺に言ってやりたい。他人の言葉を簡単に鵜呑みにするなと。

 

 

「ささ、大和さん。もっと飲んで下さい。普段は遠慮してあまり飲んでいないみたいですから」

「あっ、すいません」

 

 

 空いたグラスに日本酒を注ぐ楓さん。人気アイドルに強制的でないとはいえ、お酌をしてもらっているなんて……。ファンがこの光景を見たら発狂しそうだな。

 いや、人気アイドル3人と宅飲みしてる時点で殺されかねないんだけど。

 

 

「また今回も色々作ってきたので是非食べてみてください」

「ありがとうございます、美優さん。いつもいつもすいません」

「いえ、こっちも好きで作っているので気にしないで下さい」

 

 

 ありがたいことに、美優さんが色々と料理を作ってきてくれたらしい。そして謙遜もできる。やっぱり美優さんは天使か何かの生まれ変わりだと思う。

 さらに彼女の料理の腕は何を作らせても間違いないので、将来旦那さんになれる人は毎日美味しい料理を食べられて幸せ者だろう。

 そんな感じで今日も宅飲みがスタートした。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 さて、飲み会も1時間以上が経過したところであたしはとある変化に気付く。大和の様子がおかしいのだ。

 元々少ない口数がさらに少なくなり、目も妙にトロンとしている。なんだか、前に酔った時の感じに似ているような気がしてならない。

 

 

(もしかして酔ってるのかな? いや、別に今日大和はそこまで飲んでるわけじゃないし、飲んでた日本酒も度が低いって早苗さんたちも言ってたし……)

 

 

 これはちょっと注意したほうがいいかも。あたしがそう思いつつ缶チューハイを飲んでいると、

 

 

「心、ちょっと」

 

 

 大和があたしを呼び、ちょいちょいと手招きをしている。一体何だろう?

 

 

「ん? どうかしたの?」

 

 

 不信感を覚えつつも、あたしは大和の元へ。すると、

 

 

「心、もっとこっち。足の間に座って」

「……はい?」

 

 

 いきなり何を言い出したんだ? 早苗さんたちも見てる中で……。

 しかし、あたしは一つ確信した。大和の奴、完全に出来上がっている。言動といい、目の据わり具合といい、前に酔っぱらった時とそっくりだ。

 

 

「いや、座るわけないだろ。まったく……ちょっと水持ってくるから大人しくして――」

「心、早く」

「へっ!?」

 

 

 いきなりグイッと手を引っ張られたと思ったら、気付くとあたしは大和の脚の間にいた。しかも、あすなろ抱きをされるというおまけつきで。

 

 

「ちょっ!? ば、ばかっ! バカ大和!! やめろって!!」

「ん~、心の匂いがする……」

「ひゃあっ!? ……く、首筋はくすぐったいから」

 

 

 あたしの声が聞こえていないのか、酔っていて理解できていないのかは分からないが、大和はあたしの首筋辺りに顔を埋めている。

 ゾクゾクとくすぐったいので抜け出そうともがくも、そこはやはり男と女。力の差があり過ぎて抜け出せる気がしない。顔や耳がどんどん熱くなってくる。

 

 

「ちょ、ちょっとみんな助けて……」

 

 

 見られているのは仕方ないとして、この状況を打破するために三人に助けを求める。しかし、

 

 

『…………』

 

 

 三人は静観を決めたようで、ニコニコとあたしたちを見つめていた。う、裏切り者!!

 

 

(ど、どうしてこんなことに……そもそも、大和が飲んでたのはそこまで度数の強いものじゃなかったはず)

 

 

 首元をハスハスされつつ、大和が飲んでいたであろう日本酒の瓶に視線を移す。そこで私は衝撃の事実を目にした。

 

 

(えっ! この日本酒、度数が滅茶苦茶高いじゃん!!)

 

 

 これは話が違う。いくらお酒に強いとはいえ、これだけ高いのを飲めば大和が酔うのも無理はない。

 ……もしかしてあたしと大和ははめられた?

 

 

「さ、早苗さん! 日本酒の度数がおかしいんですけど!? めちゃくちゃ強いんですけど!?」

「あらっ、気付かれちゃったみたいね。だけど、アル中とかにはならないと思うから安心して頂戴!」

「そういうことじゃないんですよ! ……もしかして最初から大和を酔わせるつもりでした?」

『…………』

 

 

 三人が無言でスッと視線を逸らす。これは計画的な犯行であろう、間違いない。というか、やってることがお酒の弱い女子大生を無理やり酔わせて色々してしまう男子学生の手口とそっくりだ。

 飲みやすいことが逆にあだになったらしい。

 

 

「心ってほんと、いい匂いするよな~」

 

 

 そして相変わらずの酔っぱらいである。ひ、人の気も知らないで……。まぁ、酔っている時に迷惑をかけているのはお互い様なので強く言えないんだけど。

 ちょっと三人、無言で写真撮んなって。連写もしないで。

 あたしをほっといてパシャパシャと写真を撮った三人は満足げな表情を浮かべる。

 

 

「……さて、結構満足できたからそろそろ助けてあげましょうか」

「そうですね。助けてあげましょうか♪」

「ご、ごめんなさい心さん。でも、良かったですよ!」

「できれば最初からそうして欲しかったんですけど!?」

 

 

 そこで三人が助太刀をしてくれて、ようやく大和の脚の間から抜け出すことができた。大和が酔うと、必ずあたしがとんでもなく疲れるのはどうしてだろう……。

 あたしは元の席へ戻り、残っていたチューハイをグイッとあおる。

 

 

「全く、悪ふざけもほどほどにしないとはぁと、怒っちゃうぞ☆」

「でも、大和君にあすなろ抱きされて嬉しそうだったじゃない」

「は、ははは、は、はぁと怒っちゃうぞ?」

「それだけ動揺するってことはあながち間違ってなかったのね……」

「本音はやっぱり隠しきれませんね♪」

 

 

 呆れた様子の早苗さんとやっぱり楽しそうな楓ちゃん。ちなみに大和はあたしがどこかに行った事で暇になったのか、近くにいた美優さんに絡んでいた。

 あんな酔っぱらいに絡まれてさぞかし鬱陶しいのでは……と思ったら美優さんは楽しそうに大和の話を聞いている。

 

 一体どんな話をしているのか。二人の会話に耳をそばだてて「心は本当に可愛くて――」……聞こえなかったことにした。

 あそこに混ざったら確実に自分が墓穴を掘る。この記憶もさっきの記憶も、明日の大和には残っていないのだから本当に羨ましい。

 自分だけが辱めを受けて損した気分だ。取り敢えず、大和の傍からお酒を全てどかしておこう。これ以上飲まれると何をされるか分かったもんじゃないし……。

 

 その後は普通にお仕事の話をしたり、彼氏の出来ない早苗さんの愚痴を聞いたりして(思った以上に闇が深かった)宅飲みは進んでいったのだが、

 

 

「あっ! そうです心さん。この前、パリで撮影があってその時にびびっ☆ ときた生地屋で気に入った生地を買ったんでしたよね?」

「う、うん、確かに買ったけど……それがどうかしたの?」

「ちょっとやってみたいことがあって! 持ってきてもらってもいいですか? もちろん、生地を傷つけたりはしませんので」

 

 

 楓ちゃんの言葉に首を傾げつつ、しかし断る理由もないので買ってきた生地を取り敢えず持ってくる。

 

 

「うわぁ……実際に見るのは初めてですけど、本当にお洒落な生地ですね!」

「でしょー、美優ちゃん? 生地なんてどこで買っても変わらないと思ってたけど、やっぱり良いものは違うって思ったね~。これで次の衣装もバッチリ☆」

 

 

 大和と話していた美優さんが、こちらに視線を移して感動の声を上げる。真剣に選んだのでそう言う反応をしてくれるとすごく嬉しい。

 ただ、あまりにもいい生地がたくさんあり過ぎてプロデューサーを散々待たせたのは内緒だぞ☆

 

 

「それで楓ちゃん、持ってきたはいいけど、この生地をどうすればいいわけ?」

「えっとですね、ピンクを生地を右手に、赤い生地を左手に持ってもらったら、大和さんの前に移動してもらってもいいですか?」

 

 

 なんかよく分からないけど、楓ちゃんの言われるがまま生地を持って大和の前へ。相変わらず大和は酔っぱらったままなのにどうするつもりなのか。

 

 

「楓ちゃん、あたしはどうすれ――」

「大和さん! 大和さん的には右のと左のどっちが好みですか?」

 

 

 あたしの声を遮って楓ちゃんが大和に質問を投げかける。えっ、なにその質問? 意味もよく分からないし、酔っぱらってる大和がまともに答えられるとは思えないんだけど……。

 楓ちゃんの呼びかけに大和は顔を上げ、あたしの持っている生地をじっと見つめる。そしてあたしを指差し、

 

 

「……真ん中」

 

 

 とんでもなく恥ずかしいセリフを言い放ってくれた。文字通り、部屋の中の時が止まる。あたしの頭は一瞬にして真っ白になった。

 しかし、酔っぱらった大和は止まらない。

 

 

「真ん中が一番可愛い。すごく綺麗。左右のとは比べ物にならない。比べるのが失礼。そもそも元の素材の良さが違いすぎる」

 

 

 歯の浮くような台詞の数々。バカじゃないかと思ったけど、恥ずかしさが勝って声がうまく出ない。口がパクパクと動くだけだ。

 

 

「ちょ、ちょっと少しの間眠っててくれるかな!?」

 

 

 これ以上、酔っぱらった大和に喋らせるのはまずい! ようやくまともな思考に戻ったあたしは大和を眠らせた後(物理的)、キッと楓ちゃんを睨みつける。

 しかし、当の本人は全く悪びれた様子もない。すごく楽しそうだ。

 

 

「やりました♪」

「楓ちゃーん? まさか最初からこれが目的で生地を持ってこさせたの?」

「いやー、大和さんの可愛い姿を見ることができて私は大満足です!」

「あたしは何もよくない!!」

 

 

 大きな声を出してしまったあたしは、はぁはぁと肩で息を吐く。

 彼女の意図に気付かずホイホイ持ってきたあたしもあたしだけど、まさかこんなことになるなんて……。生地を持ってきて損した。本当に楓ちゃんは大物だと思う。

 

 

「楓さんが生地をと言い始めた時に何となく察しましたけど、まさかここまで期待通りのやり取りをしてくれるなんて……。流石大和さんに心さんですね!」

「美優ちゃんも変なところで感心しない!!」

 

 

 察していたのなら大和との会話をやめてでも止めて欲しかった。

 

 

「落ち着いてはぁとちゃん。それくらい、二人は相性バッチリって事なんだから!」

「む、むぅ……」

 

 

 相性バッチリと言われて悪い気はしな――。

 

 

「まぁ、恥ずかしいのには変わりないんだけどね!」

 

 

 台無しである。途中まで褒めておいて最後に落としてくるのは質が悪い。これじゃあダメージも二倍になってしまう。

 

 

「さて、予想外のおまけも見れたことだし、アタシたちはそろそろ帰りましょうか」

「そうですね。おまけのお蔭で今日の宅飲みも大満足です♪」

「ありがとうございました、心さん」

「あ、あはは……。おまけのお蔭であたしは倍疲れましたよ……」

 

 

 乾いた笑いしか出ないあたしだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「それじゃあはぁとちゃん、今日はありがと。大和君の事もよろしくね」

 

 

 手を振って帰っていく三人を見送った後、あたしはリビングへと戻る。するとそこには、

 

 

「ぐーぐー……」

「……はぁ」

 

 

 机に突っ伏すような形で眠りこける大和の姿。思わずあたしはため息をついた。

 今日の飲み会がいつもより疲れたのは、間違いなくこの酔っぱらいのせいである。あたしをあすなろ抱きしてきたり、変なことを言い出したり……ほんと大和を酔わせてはいけないと再確認できた。

 そう言えば、いつかの宅飲みで大和が酔っぱらった時と状況が非常に似ているような気がする。あの時と違うのはあたしたちの関係くらい。

 別に襲っても恋人同士だし何も言われないだろう。……別に襲ったりはしないけど。匂いも嗅いだりしないけど。

 

 

「取り敢えず、このままだと邪魔だからどかして」

 

 

 引きずるようにして、大和を邪魔にならない場所にまで移動させる。今日、片付けは他の三人も手伝ってくれたので、やることといえば机を片付けるくらいだ。

 

 

「んしょっと」

 

 

 机の片付けも終わり、あたしはシャワーを浴びるために浴室へ。戻ってくると、大和は床に倒れるようにして眠っていた。

 めちゃくちゃ堅いはずなのに全く起きる気配がないのは、それだけ眠りが深いということなのだろう。

 

 

「……もぉ、そこは布団じゃないよ」

 

 

 手早く布団を敷いてそこに大和を寝かせると、彼の表情がふにゃっと緩む。やっぱり寝心地は良くなかったらしい。

 

 

「ふふっ……」

 

 

 そんな彼の表情を見ていたあたしの口から笑みが漏れる。こんな何気ない表情を見るだけで心が満たされるのは、それだけ大和の事が好きだということなのだろう。

 まぁ、高校生の時から好きだったし仕方ないかもね。惚れた弱みってやつ。

 

 

「……でも、今日あたしを散々辱めてくれたことは許さないんだから」

 

 

 むにっと彼の頬を軽く引っ張る。全く、あすなろ抱きは酔ってるときじゃなくて二人きりの時にしてくれればいいのに……。そしたらもっと喜べるし、もっとたくさん堪能できたんだから。

 

 

「まぁいいや。頬を引っ張るのはこのくらいで。……あたしが料理頑張ってるって言った時、喜んでくれたし。今日はそれに免じて許してあげる」

 

 

 眠っている大和にそれだけ言って頬から手を離す。実をいうと、あの時が今日一番嬉しかった。

 喜んでいるのかについては彼の表情を見るだけですぐにわかる。手際の良さや味の変化にも気づいてくれたし、何よりあたしが色々考えていることに気付いてくれたりもした。

 

 大和は本当にずるいと思う。普段は鈍感だから余計に……。

 

 

「……お休み、大和」

 

 

 そんな彼の頬にキスをしてから寝室へ向かい、ベッドの中に入る。

 今日はいつもよりいい気分で眠りに落ちたのだった。




 もちろん、生地のくだりは元ネタありです。
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