佐藤心が隣にいる日常   作:グリーンやまこう

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飲み会

「すいません八坂さん、ちょっといいですか?」

 

 

 心と一緒に飲みに行ってから大体二週間ほど経過したある日。

 

 

「はい、なんですか千川さん?」

 

 

 今日も今日とて仕事をしていた俺の元に千川さんがやってきた。俺はキーボードを打つ手を止めて、千川さんへ視線を向ける。

 

 

「実はですね、モノクロームリリィの二人を迎えに行くはずだったプロデューサーさんが急遽、別の現場に行くことになってしまいまして。代わりに二人を迎えに行ってほしいんです」

「あぁ、そういうことですか。良いですよ。二人はどこにいるんですか?」

「すいません、ありがとうございます。えっと二人は○○テレビ局に居てですね……」

「分かりました。それじゃあ行ってきますね」

 

 

 千川さんから説明を受けた俺は一度パソコンの電源を切り、車の鍵を持って事務所を出る。

 こうしてプロデューサーさんが急遽迎えに行けなくなるということはよくあるので、こうして迎えに行くのも慣れたものだ。人数も明らかに足りてないしね。早く新人でも何でもいいから、プロデューサーを入れてほしいものである。

 そんなわけで俺は車を走らせ、モノクロームリリィの二人が撮影をしているテレビ局へ。

 

 

「えっと駐車場は……あっ、ここか」

 

 

 局内にある駐車場に車を止め、二人が待っている場所へと向かう。俺が千川さんに教えてもらった場所についた時には既に、二人は談笑しながら待っているところだった。

 

 

「お疲れ二人とも」

「あれっ? どうして大和さんがこんなところに?」

 

 

 手をあげながら二人に声をかけると、加蓮ちゃんが不思議そうな声を上げる。

 

 

「実はプロデューサーさんが迎えに来れなくなっちゃって、急遽俺が来ることになったんだ」

「そうだったんだ!」

「そういう事。奏ちゃんもよろしく」

「えぇ、こちらこそよろしくね大和さん」

 

 

 大人っぽい笑みで微笑んだのは奏ちゃん。この北条加蓮ちゃんと速水奏ちゃんとのユニットがモノクロームリリィである。そんな二人と共に車へと乗り込み、事務所までの道を走らせる。

 その最中、

 

 

「ねぇねぇ、大和さんとはぁとさんって実はどんな関係なの?」

 

 

 興味津々といった様子で、後部座席に座る加蓮ちゃんが質問してきた。目がいつもより輝いているのは気のせいじゃないだろう。

 

 

「実はって、俺と佐藤さんはただの幼馴染だよ」

「えぇ~、絶対それだけじゃないでしょ? 奏もそう思うよね?」

「どんな関係かはともかく、ただの幼馴染ではないでしょうね。だって、裏ではため口で名前呼びなんだもの」

「奏ちゃんまで……ほんと、あの時に油断さえしなければ」

 

 

 実は俺と心が幼馴染ということは、内緒にしておきたかったのだ。変な噂が流れても嫌だったので……。

 しかし、ある時うっかり「心」と呼んでしまったのが運の尽き。その日は事務所にいたアイドルたちからの質問攻めで疲れた記憶しかない。

 更に女子の多い事務所ということで噂が広まるのも早く、今ではアイドル部門で知らない子の方が少ないくらいだ。

 

 

「とにかく、俺と佐藤さんの間には何もないよ。ただの幼馴染で腐れ縁なだけ」

「えぇ~、つまんなーい!」

「というか、加蓮ちゃんは俺をいじって遊びたいだけでしょ?」

「あっ、ばれた?」

 

 

 テヘッと舌を出す加蓮ちゃん。全く……これで実はマンションの部屋が隣ですなんて言ったらどうなることやら。

 彼女と同じユニットの奈緒ちゃんはほんと大変だな。まぁ、あれは奈緒ちゃんがいじりやすいってのもあるかもしれないけど。

 

 

「だけど、何もないって言うのはやっぱり信じられないわ。よく言うじゃない。男と女の間に友情は成立しないって」

「いや、それもそうだけど、俺と心は本当に何もないから」

 

 

 幼馴染というのは得てしてそんなものだ。距離は近いが、それ以上でもそれ以下でもない。

 

 

「うーん、やっぱり大和さんは口が堅いからボロが出ないね~」

「心に聞いても同じ感じだと思うから、聞いても無駄だと思うぞ。そもそも、どうして俺と心の関係をそんなに知りたがるんだよ?」

「だって、私や奏って幼馴染って呼べるような人がいないからさ。どういうものなのかなって。気になる人も多いんだよ」

「みんなが憧れる様な感じではないけどな~。まぁ、気を遣わなくてもいいってことは大きいかもしれないけど」

 

 

 こんな感じで事務所までの車内は加蓮ちゃんと奏ちゃんから質問攻めにあったのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 車内で色々なことを話しながら事務所へと戻ってきた俺は残っていた仕事を片付け、さて帰ろうとした時に一通のメッセージが俺のスマホに届いた。

 差出人は心。内容を確認すると、

 

 

『今日、居酒屋○○に集合な。居酒屋に入ったら佐藤の友人て言えばわかるから。……バックレは許さないぞ☆』

「……何だこのメッセージ?」

 

 

 取り敢えず俺はこの後、心の指定してきた居酒屋に行かなければいかなくなってしまった。しかも、いつも行っている居酒屋ではなく、少しだけ事務所から離れた場所にある居酒屋である。

 どうしてこんな場所を? まぁ考えていても仕方がないので帰りの準備を済ませて事務所をでる。

 

 

「それじゃあ、お疲れ様です千川さん」

「はい、お疲れ様です」

 

 

 千川さんに頭を下げ、俺は指定された居酒屋に向かう。グーグルマップを頼りに向かうこと約30分。

 

 

「このお店か」

 

 

 パッと見はどこにでもありそうな普通の居酒屋なのだが、どうやら完全個室を備えているらしく人目を気にせずお酒を楽しめるらしい。

 別に個室なのは構わないのだが、いつも普通の居酒屋で飲んでいる俺たちからしたら違和感がある。もしかして、心以外にも誰かいるのかな? 

 そう思いながら扉をくぐり、近くに来た店員さんに佐藤の友人であると告げる。

 

 

「かしこまりました。それではご案内いたします」

 

 

 案内された部屋の中から、どうにも聞いたことのある声が複数聞こえてきたのだが今は気にしないことにした。

 靴を脱いで中に入る。すると、

 

 

「おっ、やっと来た! おっそいぞ大和君!」

「大和、このしゅがはを待たせるとか罪な奴だな♪ まぁ今日に関しては許してあげるけど☆」

 

 

 一番に飛び込んできたのはグラスを片手に上機嫌な片桐早苗さんと、すっかり出来上がっている様子の佐藤心の姿。初っ端から頭の痛い光景だが、その隣で苦笑いを浮かべている三船さんがいたので許す。

 

 

「ご注文は何かございますか」

「取り敢えず生を一つお願いします」

 

 

 注文を済ませ、着ていたスーツをハンガーにかける。

 

 

(さて、どこに座ろうか……)

 

 

 俺が視線を巡らせていると、楓さんがちょいちょいと手招きをしていることに気付いたので遠慮なく彼女の右隣へ。しかも俺の座った右隣には三船さんもいる。

 

 

「ふふっ、お疲れ様です大和さん」

 

 

 俺の隣で微笑んだのは346プロに所属するアイドルの一人高垣楓さん。元モデルでダジャレが好きというなかなかお茶目なアイドルだ。

 ちなみに、先ほどジョッキを片手に上機嫌だった片桐早苗さんは元警察官という経歴であり、三船美優さんは元OL。うちの事務所が個性的である所以みたいなものだな。

 これはもう、スカウトしてきたプロデューサーさんを褒めるべきだろう。今日はこの三人に俺と心を含めた5人で飲むらしい。

 

 

「お疲れ様です楓さん。今日はこの四人で仕事だったんですか?」

「いえ、そういうわけではなくて元々この四人で飲もうと約束していたんです」

「それで、女四人で飲んでもつまらないから大和君を誘ったってわけ!」

「なるほど。プロデューサーさんは誘わなかったんですか?」

「誘ったんだけど、まだ仕事が残ってるんだって。ほんと働き者よね、うちのプロデューサー君たちは」

 

 

 男一人では若干居心地が悪いのだが、仕事なら仕方がない。それにしても、このタイミングで来ている俺は何だか暇人みたいなのだが……。

 

 

「こうしてみると、大和って暇人みたいだね~」

「俺の思ってたことを口に出すなよ。否定できないから辛いんだ」

 

 

 案の定、心にツッコまれた。うちの場合はプロデューサーさんたちが働き過ぎなだけです。俺は至って標準です。

 そもそも、単なる事務員とプロデューサーの仕事を比べることから間違っている。

 

 

「まぁまぁ、誰が暇なのかはどうでもいいことなのよ。こうして楽しくお酒が飲めれば。あっ、大和君の生が来たわよ」

 

 

 店員さんからジョッキを受け取り、改めて他の四人とグラスを合わせる。しかし、楓さんにだけはなぜか避けられ、

 

 

「酒に避けられる……ふふっ」

「いや、あんたのせいでしょうが……」

 

 

 この人もすっかり出来上がっているみたいだ。楓さんは酔うとなかなか面倒である。酒豪には変わりないんだけど……。

 適度に料理を摘みつつ、俺は四人の中で唯一の良心、唯一の癒しである美優さんに声をかける。

 

 

「お疲れ様です、美優さん」

「お疲れ様です。なんか無理やり参加させちゃったみたいですみません」

「いえいえ、いいんですよ。どうせ心の言う通り今日は暇でしたから」

「そうですか? それなら良かったです」

 

 

 微笑む美優さん。あぁ、やっぱりこの人は天使だ。酔っても変に絡んでこないし、騒いだりしないし、酔ったら酔ったでちょっと艶っぽくなるし……。

 ただ、あまりお酒は強い方ではないらしいので、大抵サワーや度数の弱いお酒をよく飲んでいる。

 

 

「サワーにあまり差はない……うーん、いまいち」

 

 

 楓さんがまた何か言ってたけど無視した。

 

 

「美優さん、今日は撮影ですか?」

「いえ、今日はテレビの撮影で……クイズ番組だったんですけど、あまり答えられませんでした」

「むしろ、美優さんはそれでいいんですよ」

「えぇっ!?」

 

 

 視聴者の皆さんは、美優さんがアワアワと慌てる姿を楽しみにしてるのだ。別に答える、答えられないは別にして。

 本人は気付いていないみたいだけど、そこがまた彼女の可愛いところでもある。

 

 

「で、ですが、クイズ番組は正解を出さないと意味がないんじゃ?」

「有名大学の人ならそうかもしれませんけど、美優さんなら問題ないんです。むしろ答えなくてもいいくらいですから!」

「それは絶対ダメですよね!?」

 

 

 俺が美優さんと楽しく会話していると、

 

 

「やまとぉ~」

「……なんだよ? というか、いつの間に移動してきた?」

 

 

 鬱陶しいやつが絡んできた。せっかく美優さんとの会話を楽しんでいたというのに……。

 ビールのジョッキ片手に移動してきた心に、心底げんなりした表情を浮かべる。左隣にいた楓さんは、早苗さんの横でにこにこと日本酒のおちょこを傾けていた。

 

 

「いや~、ちゃんと飲んでるかなって! あれっ? 大和ってばジョッキが空いてるぞ! 店員さん、生一つ追加で!」

「勝手に注文すんなよ。あぁ、すいません。生とお冷を一つお願いします」

 

 

 もちろんお冷は俺の分ではなく、心の分である。まだ二人で飲んだ時ほど酔ってはいないけど、それでも酔い過ぎないに越したことはない。

 店員さんがビールとお冷を持ってきてくれたので、お冷を心に差し出す。

 

 

「ほらっ、取り敢えず水飲んどけって」

「えぇ~、はぁとはまだまだ飲めるよ~?」

「そう言ってるやつが一番危ないんだよ。料理もまだまだあるんだからそっちを食べろって」

「ぶーぶー、やまとのケチー」

 

 

 唇を尖らせながらも料理を口に運ぶ心。若干可哀想ではあるのだが、べろべろに酔った心を背負って帰るよりはよっぽどましである。

 

 

「あっ、これ美味しー! 大和も食べる?」

「いいのか? それじゃあこの皿によそって――」

「はい、あーん♡」

「何してるの、バカなの?」

 

 

 唐揚げを箸で摘まんで差し出してきた心を半眼で睨む。あーんとか、バカップルかよ。

 二人きりならともかく、他のアイドルたちがいる前でこんなことは流石に恥ずかしい。……いや、二人きりでもダメか。

 

 

「バカとは何だバカとは! 失礼な奴だな」

「だってバカじゃん。俺たち、もう26だよ?」

「別にいいじゃーん。幼馴染なんだし。こういう事するのに年齢は関係ないんだよ。ほらほらあーん♡」

「いやいや、やらないって。早苗さんたちからも何とか言ってやってくださいよ……って、全員興味津々!?」

 

 

 無言でスマホを掲げる早苗さん、楓さん、そして美優さん。その目は「おい、早くしろよ」と言っている。おかしいな、味方が誰もいない。

 

 

「大和に味方はいないんだよ♪ というわけで、あーん♡」

「……あーん」

 

 

 渋々、誠に遺憾ながら、心からの唐揚げを受け入れる。その瞬間、パシャパシャと音を立てる三人のスマホ。しかも連写された。

 

 

「どう? 美味しいでしょ?」

「美味しいよ。……普通に食べられればもっと美味しかったんだろうけど」

 

 

 恨みがましい視線を向けるも、心の楽しそうな笑顔に一蹴されてしまった。

 

 

(まぁ、いっか。唐揚げは美味しかったし)

 

 

 ここで引いてしまうあたり、やっぱり俺はなんだかんだ心に甘いのかもしれない。その後は普通に飲み会を楽しみ、

 

 

「それじゃああたしと大和はこっちだから。じゃあね!」

「お疲れさまでした」

『お疲れ様(です)』

 

 

 居酒屋の前で反対方向に帰るという三人と別れ、そのまま心と二人でマンションまでの道を歩き始める。

 今日は心が酔っていない分、帰り道が非常に楽だ。

 

 

「いやぁ、今日は楽しかったな~。大和はどうだった?」

「楽しかったよ。誘ってくれてありがとな」

「ふっふっふ、もっとあたしのことを褒めるがよい!」

「褒めるんじゃなかった」

「冗談、冗談だよ。……大和がそう言ってくれてよかった」

 

 

 いつもより優しく微笑む心に俺も笑顔を浮かべる。

 メールではあんな誘い方だったけど、多分急に誘ったことを気にしているのだろう。幼馴染なんだし、気にしなくていいんだけどな。

 そんなわけで俺は彼女の肩をポンッと叩く。

 

 

「まっ、これからも人数が足りなかったり、暇だったらいつでも誘ってくれ。俺も心に誘われると嬉しいからさ」

「……そっか。じゃあこれからは遠慮なく毎日でも誘うからな!」

「毎日は勘弁してくれ。肝臓が壊れる」

「大和の嘘つき~。さっきと言ってることが違うぞ!」

 

 

 こうしていつもの感じに戻った俺たちは軽口をたたき合いながら、お互いの住むマンションへと帰っていくのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 心と大和と別れた三人は最寄りの駅に向かって歩き始める。その最中、

 

 

「それにしても、どうして心さんは急に大和さんの横に来たんでしょう?」

 

 

 美優がふと居酒屋で感じた疑問を口に出す。

 

 

「ふふっ、そんなの決まってるじゃない。大和君に構ってもらえなくて寂しかったのよ」

「寂しかった?」

「ここ二週間くらいはお互いに忙しくて、ろくに会話もできてなかったみたいですから。きっと甘えたかったんだと思います」

「そう思うと、心ちゃんって意外と不器用よね。マンションの部屋も隣なんだし、話そうと思えば何時でも話せるのに」

 

 

 ちなみに、この三人は二人の部屋が隣同士だということを知っている。以前の飲み会で、酔った心がうっかり口を滑らせたのだ。大和は絶対に口外しないでと念を押しているため、一応他のアイドルたちにはバレていない。

 

 

「不器用というよりはきっと、相手を気遣ってのことだと思いますよ。まぁそれは大和さんも一緒だと思いますけど」

「親しき仲にも礼儀ありということでしょうか?」

「そういうことだと思うわよ。それにしてもほんと、お似合いの二人よね~」

「ふふっ、今後が楽しみです」

「今度は女子会でも開いて、色々聞いちゃいましょうか」

 

 

 美優の提案は後日、現実になるのだがそれはまた別のお話。

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