すいません。年明け前に投稿する予定だったのですが色々と忙しく年が明けてしまいました。
クリスマスから数日後の12月31日。俺と心は仲良く新幹線に揺られているところだった。
「ん~、東京からだとあたしたちの実家まで結構時間かかるよね」
「確かに。まぁ、新幹線が通ってるだけましだと思わないと」
俺たちが新幹線に乗っている理由。それは実家に帰省するためだった。運よく俺も心も休みがとることができたため、こうして新幹線でゆられているというわけである。
席は奮発してグリーン車を取っていた。心はアイドルなので顔バレしても困るからな。まぁ、グリーン車に座ったところで顔バレしないとも限らないんだけど。
「というか、よく休みをとれたよな。この時期って年末の特番とかで結構忙しいと思うんだけど?」
「そこはプロデューサーの腕の見せ所ってやつ☆ まぁ、最近実家に帰れてないから今年くらいって言ったら、普通に休みにしてくれたよ。年末の特番なんかは事前に収録したものが多かったしね~」
常々思ってるけど、心のプロデューサーってかなり敏腕な人である。この前のクリスマスもそうだし(あれは心のごり押しもあったけど)、今日だって然りだ。
ほんと、いつも助かってます。これからもどうかよろしくお願いします。
「あと、うちの父親と母親が大和に会いたいって言ってたのもあるけど」
「そう言えばうちの親も、『久しぶりに心ちゃんの顔を生で見たいわ~』なんてメッセージを送ってきてたな」
「大和の親に会うってなったらほんと5年ぶりくらいだよね。そもそも、こうして一緒に帰省してるのもかなり久しぶりなわけだし」
うちの親と心は確か、成人式に顔を合わせて以来なはずだから再会を楽しみにしている。もちろん、アイドルになってからの活躍にも喜んでたけど、やっぱり昔のように顔を合わせて話したいらしい。
「まぁ、地元に戻ったらまずお互いの親に挨拶って感じだな」
「挨拶って、なんだか結婚を申し込みに行くみたいだね☆」
「それについてはまた今度な」
「そ、そう……」
「……何回も言ってるけど、自分でからかってきておきながら、反撃されて顔を赤くするのはやめてほしいんだけど?」
「う、うっさい!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ心に呆れ顔の俺。このやり取りも二回目くらいのような気がする。
心って攻撃力は強いけど、防御力が意外と弱いんだよな。ずっと攻撃してる分にはいいけど、カウンターとか受けたら途端にボコボコにされるってイメージ。
「挨拶って言えば、よっちゃんは元気なのか?」
これ以上、心をいじめるのは可哀想だと思った俺は話題を変更する。よっちゃんというのは心の妹の事である。
今は地元の大学に通うぴちぴちの女子大生だったはずだけど……。
「うん、この前もラインでやり取りしてたけど元気だよ。相変わらずマイペースなところは全然変わってなかったけど」
苦笑いを浮かべる心。彼女の言う通りよっちゃんは我が強い姉と違って非常にマイペースだ。喋り方もどこかのんびりだし、発言も天然気味。
ただ、姉に似て容姿は非常に整っている。しかし、どこかつかみどころのない性格をしているため、彼女を取り巻く男子は四苦八苦しているそうだ。
ちなみに、姉と妹を足して二で割ったら恐らく完璧な美少女が誕生すると俺は勝手に思っていたりする。
「今日も家にいるって言ってたし、多分家に行ったら会えると思うよ」
「それじゃあ、よっちゃんにも声をかけないとな」
「そうしてあげて。分かりにくいけど、よっちゃんも大和に会えるの楽しみにしてると思うから」
そんな感じで俺たちは残りの時間ものんびりと話しているのだった。
☆ ★ ☆
「うーん、久しぶりの地元だけどそんなに変わってないね~」
「田舎だから変わってないのは普通だけどな。むしろ、変わってないことに安心を覚えるよ」
新幹線を降りた後、バスなどを乗り継ぎながら到着した俺たちの生まれ故郷。そんな地元は、心の言う通りほとんど変わっていなかった。
近年は人口減少で過疎化が叫ばれて久しいので、地元が寂れてなくて少しほっとしたくらいである。そして、後5分ほど歩けば俺達の家に到着するというところまできていた。
「大晦日ってこともあるかもしれないけど、全然人が歩いてないな」
「大掃除も午前中のうちに終わらせっちゃった感じかもね。こうなったらあたしが地元に帰って来てるってツイートして……」
「無駄に騒ぎを起こすようなことをするなよ。まぁ、そんなツイートしても人は集まらないかもだけど」
「バカにすんなって☆ むしろ、長野県全域から人が集まるぞ☆」
「そんなに集まったらこの町が潰れるって。取り敢えず、ツイートはやめとけよ?」
「ちぇー。まぁいっか。どうせ友達とは集まる予定だし」
不満げな表情でスマホをしまう心。さっきはあんなこと言ったけど、心がツイートしたらそこそこの人は集まるだろう。一応、人気アイドルであるわけだし。
ただ、細かい出身地までは明かしていないので、集まるといっても彼女を昔から知っている人たちくらいだと思うけどな。
その後も話しながら歩いていくと、懐かしい景色が視界に入ってきた。小学校から高校時代まで呆れるほど見慣れた光景だったものも、こうして地元を離れると新鮮に見えてくるから不思議である。
「うちも大和の家も全然変わってないから、なんか残念だな~」
「いや、変わってたら逆に怖いだろ……。バカなこと言ってないで早く行こうぜ」
まずは心の家からということになり、彼女の家へ。
「ただいま~」
「お邪魔します」
何年振りか分からないけど、久しぶりに心の家の玄関をくぐる。すると心の声が聞こえたのか、遠くからパタパタと歩いてくる音が聞こえ、心のお母さんが顔を出した。
「おかえりなさい、心。それと大和君も久しぶりね」
昔と変わらない笑顔で迎えてくれる心のお母さん。その笑顔はどこか安心感を覚え……って、なんかニヤニヤしてる。どうかしたんだろうか?
一応、俺が心の家に寄ることは連絡済みのはずだけど。
「それで、今日大和君がうちに寄ってくれるのは結婚報告ってことでいいのかしら?」
『ぶふっ!?』
二人揃って噴き出した。予想外の攻撃に狼狽える26歳のカップル。そしていち早く動揺から立ち直った心が声を上げる。
「ち、違うからねお母さん!?」
「あら、そうなの? てっきり、そうだとばかり思ってたわ」
「そもそも、あたしと大和が付き合ってるなんて一言も伝えてなかったし、お母さんも聞いてこなかったじゃん!」
「そんなの、イベントの時の様子で丸わかりよ。彼氏の名前を出してなかったとはいえ多分、心と大和君の関係を知っていた人なら全員ピンと来たはず。その証拠に、私の友達から『いつ二人は結婚するのかしら?』って連絡がたくさん届いたもの」
『…………』
これは恥ずかしい。穴を掘って埋まりたいくらいだ。二人して顔を真っ赤にして俯く。
気付いてなかったのが俺たちだけというのも恥ずかしさに拍車をかけている。
「まぁ、その話はこの後ゆっくり聞きましょうか。お父さんも二人の到着を待ってることだしね」
助け舟を出してくれたのかは知らないが、一度この話を打ち切る心のお母さん。助かったといえば助かったけど、どうせ後から根掘り葉掘り聞かれるんだろうな……。
そんなわけで佐藤家のリビングへ向かうと、心のお父さんが炬燵に入ってテレビを見ているところだった。
「お父さん、心と大和君が来たわよ」
「久しぶりー、お父さん」
「すいません、お邪魔します」
「……まぁ、二人ともそこに座りなさい」
硬い表情で座るように促すお父さん。あれ、心のお父さんってこんなに厳し目な人だったっけ?
少なくとも、雰囲気はもっとやわらかかったはずだけど……。
(も、もしかして、改めて俺が心に見合う男かをチェックするつもりなんじゃ!?)
そう考えると、途端に緊張してくる。顔には出してないけど、お父さんにとって心は大切な娘の一人。いくら幼馴染とはいえ、娘は簡単にはやれんよという意思表示なのかもしれない。
俺が居住まいを正しているうちにお茶も運ばれてきて、いよいよという雰囲気が漂ってくる。
「…………」
目の前で心のお父さんはいわゆる碇ゲ〇ドウポーズをとっており、それがより一層緊張感を煽る。唯一の救いが隣でにこにこ微笑んでいるお母さんと、「なに、この雰囲気?」と呟く心がいることくらいか。
そして、とうとう心のお父さんが口を開く。
「さて、大和君。まずは私たちに報告があるんじゃないのかな?」
「は、はい!」
付き合っているということは恐らく知っているはずなのだが、それをもう一度確認してくる心のお父さん。
これはもう、覚悟を決めるしかない。俺は大きく深呼吸をすると、
「もう分かってると思うますけど、改めて言います。俺と心は結婚を前提に付き合っています」
「……そうか」
俺の言葉を聞いてゆっくりと息を吐く心のお父さん。眼鏡を外して目頭を押さえている。……あぁ、お父さんはきっと心の事が相当大切だったんだろうな。
恐らく、娘の幸せを願う気持ちと、自分の元から離れていく娘の姿が両方とも脳裏に浮かんでいるのだろう。そんな父の様子を心も心配そうに見つめている。
「……よかった」
「へっ?」
気付くと俺は心のお父さんに両手を握り締められていた。表情も先ほどまでの硬さはどこへやら。満面の笑みを浮かべている。
「いやー、本当によかった。心の近くに大和君のような、立派な青年がいてくれて。私は心配だったんだ。別に娘の活動を否定したりはしないが、それでもいい年をしてキャラを作ってバラエティ番組で身体を張る娘を見ていると、どうしても頭をよぎるんだよ。この子は果たして女性としての幸せを掴めるのだろうかってね」
「あ、あはは……」
笑いながら俺の肩をバンバンと叩いてくるお父さん。どうやら付き合うことは反対どころか、もろ手を挙げて賛成してくれているらしい。
だったら、最初の緊張感は何だよって話だが……。無駄に疲れただけである。
「…………」
心は心で複雑そうな表情を浮かべていた。キャラを作るだのなんだの言われて怒りたいけど、本気で心配されていたことを知って怒るに怒れないという感じである。
「だから、これからも心の事をよろしく頼むよ大和君。そして、私の事は是非お義父さんと呼んでほしい。別に婚約するのなら今この場でも――」
「はいはい、そこまでよお父さん。結婚するかしないかは二人が決めることなんだから」
暴走気味だったお父さんを制止するお母さん。やはり締めるところは締めてくれるので助かる。このままだと話が変な方向に脱線していくような気がしたし。
「あれー、なんかにぎやかだと思ったら大和君がいる。びっくり~」
扉が開かれ、少しだけ間延びした声が聞こえてくる。彼女もまた懐かしい顔だ。
「おっ、よっちゃん。久しぶり」
リビングに入ってきたのは心の妹であるよっちゃん。説明は先ほどしたので省略させてもらうけど、取り敢えず姉に似て美人でどこかのんびりしている女の子である。
「大和君久しぶりー。いえーい」
「い、いえーい」
差し出されるがままよっちゃんとハイタッチをする。……ハイタッチといえば聞こえはいいが、ただ手を合わせただけなのでパチンと音も鳴らない。何とも気の抜ける挨拶だ。
「おねーちゃんも久し振り~」
「久しぶり。ほんと、よっちゃんは全然変わってないね」
「変わらないのがよっちゃんですから」
ふんすと胸を張るよっちゃん。そんな妹を見て心は苦笑いを浮かべる。相変わらず噛み合わないやり取りだが、姉妹仲悪くないので安心してほしい。そこでよっちゃんが「それにしても」と口を開く。
「遂に大和君とおねーちゃんは結婚するの?」
のんびりとした口調からとんでもないことを言われ、再び固まる俺達。え、なに。俺たちってそんなに分かりやすいの?
「よ、よよ、よっちゃんよっちゃん!?」
「はい、よっちゃんですよー」
慌てる姉とマイペースな妹。そんなマイペースな妹からの攻撃はまだまだ続く。
「いやー、いつくっ付くんだろうと思ってたけど意外に時間がかかったからね。よっちゃんからしてみたら遅すぎるくらいだよ~。もう、大和君はおねーちゃんを待たせすぎだよ?」
「えっ、はい。ごめんなさい」
怒られたので反射的に謝ってしまった。6歳差の、しかも幼馴染の妹に頭を下げる。なんと情けない光景か……。
ただ、待たせたという言葉に関しては事実かもしれないので何も言い返せない。
「おねーちゃんが大学生の時かな? 一回すごく寂しそうな表情で大和君の写真を見つめながら、『大和……』って呟いたのは今でも悲しい思い出だよ。まーだ、大和君は手を出してないんだって」
「よ、よっちゃん!? 大和も、今のはよっちゃんの勘違いだから!!」
多分、図星なんだろうな~。だってそうじゃなきゃ顔真っ赤にして慌てふためかないもの。
彼女にしてみたら、思い出したくない黒歴史だろう。マイペースな性格ってのはこういうシチュエーションで真価を発揮するんだろうな(白目)。
「だから安心したよ~。二人がこうして仲良く帰って来てくれて。すごく嬉しい」
感情をあまり表に出さないよっちゃんにしては珍しく、満面の笑みを浮かべている。終いだけあってどこか心に似ていて、年相応に可愛らしい笑顔。これだからよっちゃんは憎めないんだよな。
その後は、東京での生活を含めてワイワイと楽しく話していたのだが、
「はい、じゃあここからはお母さんと大和君の二人で話がしたいから、皆は一度出て行ってくれるかしら?」
「えっ? ど、どういう――」
「じゃあ退出~」
有無を言わさないまま退出させられていく三人。まぁ、文句があるのは心くらいで他の二人は特に何も言わずに出ていった。そして、お母さんと二人きりになる。
「ふふっ、ようやく色々と大和君に聞ける状態になったわね」
「一体、何を聞くつもりなんですか」
どんなことを聞かれるのかとげんなりする俺。
「たくさんの事を聞くつもりはないわよ。ただ……どうして心なのかなって」
「どうして、ですか?」
「うん。やっぱり気になるじゃない!」
楽しそうなお母さんとは対照的に、俺はどう答えたもんかと首のあたりをさする。
別に答えに窮したから困っているんじゃない。今まで考えたこともなかったので困っているのだ。
「だって、大和君は容姿もいいし、346プロで働いてるし、正直に言えばかなりモテると思うのよ」
「そんなことないですよ。俺は心とは違ってただの一般人ですから」
これは嘘偽りのない俺の気持ちである。告白されたことはあるものの、回数で言ったら片手でもお釣りがくるくらいだからな。むしろ、両手でもお釣りのこない心の方がよっぽどモテている。
今だってキャラこそ作っているけど、明るい性格だからって心の事を気に入る人はいるわけだし。
「……でも、仮に俺がモテていたとしても、心以外の人とは付き合わなかったと思います」
「あら、それはどうして?」
「いや、それはまぁ、何というか……」
歯切れの悪くなる俺。質問に対する答えは決まってるんだけど、それに問題がある。
「いいですか、今から俺、とんでもなく恥ずかしいこと言いますからね? だから別に聞く必要は――」
「いいからいいから、言っちゃいなさい! 私は何でも受け止めてあげるわよ」
言わなきゃ駄目らしい。これはもう腹をくくって話すしかないだろう。
「……心以上の人なんて、今までいませんでしたから」
直接、心のお母さんの目を見て言う勇気はなかったので、俺は視線を逸らしながら口を開く。
他にも色々な理由があるかもしれないけど、結局はこれに尽きるだろう。心以上に魅力を感じる人がいなかった。ただ、それだけの事である。
「要するに俺がベタ惚れなんです。他の人が目に入らなくなるくらい、好きなんですよ。……はい、この話はお終いです」
強引に話を打ち切る。これ以上はとても恥ずかし過ぎて言えたもんじゃない。幸いなことに、お母さんも納得してくれたようで優しく微笑んでいる。
「ふふっ、やっぱり大和君は昔から変わってなくて安心したわ。心一筋の所とかね?」
「あんまりいじるのはやめてもらえませんか……。これでも結構恥ずかしがってるので」
「なんだか、心と大和君は結ばれるべくして結ばれたって感じよね~。まぁ、お母さんとしてはもう少し早く付き合ってもよかったんじゃないかなって思うんだけど」
「それに関してはノーコメントでお願いします」
あぁ、本当に顔が熱い。まさか26歳にもなって恋愛の事でこれほどいじられるとは思っていなかった。
……いや、普段から早苗さんたちにいじられてるから今更か。
「だけどね、安心したのは本当よ。やっぱりアイドルとして活動してるとはいえ、結婚って問題はどうしても心配になるものだから」
そこで心のお母さんはスッと真面目な顔になり、
「色々あるとは思うけど、心の事をこれからもよろしくお願いします」
俺に向かって頭を下げてきた。……別に俺は結婚の報告をしに来たわけじゃないんだけどな。でも心と結婚したいのは変わらないので俺は力強く頷き、
「はい、任されました」
そう返事をしたのだった。俺の返事を聞いた心のお母さんは満足そうな表情を浮かべ、
「ところで、孫の顔は何時みれるのかしら?」
「ぶふっ!?」 ガタッ!! 「おねーちゃん、慌てすぎ~」
とんでもないことを口走った。思わず口に含んでいたお茶を噴き出しかける。
……なんか、扉の向こうで物音と話し声が聞こえたような気がするけど、気のせいだよな?
「な、何を言い出すんですか!?」
「何をって、別に普通の事じゃない! 両親からしてみれば誰しも、孫の顔を見たいと思うものよ」
「いやいや、まだ俺たちは結婚もしてませんから! 子供だって心の気持ち次第なところもありますし」
「あら? この前心に、メッセージアプリで『子供は欲しいの?』って聞いたら『大和との子供は三人くらい欲しいなぁ~』って言ってたわよ。多分結婚したら、仕事よりも大和君との子作りの方を優先するんじゃないかしら?」
ガタタッ!? 「おねーちゃん、うるさいよ~」
は、初めて聞いたぞそんなこと。というか、子作りとかド直球に言わないでほしい。
「大和君は子供、欲しくないの?」
「い、いや、欲しくないわけではないですけど……」
「だったらちょうどいいじゃない! いやー、楽しみになってきたわね。初孫は男の子か女の子、どっちかしら? お父さんもきっと喜ぶわよ!」
楽しそうに将来の初孫について考えをめぐらすお母さん。俺はついていくことができず、乾いた笑いを浮かべるばかり。
「ま、まぁ、もしそうなったらお互いの仕事に支障が出ない程度にしておきます」
「うふふ。結婚も含めて色々と期待して待っているわね」
余計な期待を背負わされたこと以外は、佐藤家への挨拶は無事に? 終わったのだった。
☆ ★ ☆
俺の家でのあいさつを終え、今は心を送り届けているところだった。まぁ、送り届けるといっても、お互いの家は30秒も離れてないんだけど。
ちなみに、俺の家でも会話は大体心の家で話したものとほとんど変わらなかった。
「近いから送ってくれなくてもよかったのに」
「送れってうちの親がうるさいんだよ」
小説で言うと、二行分くらいの会話で心の家の玄関に辿り着いてしまうそんな距離。手をつなぐ暇もなかった。
「……初詣に行くときはまた連絡するから」
「うん……」
「それじゃ、よいお年を」
恒例の挨拶を最後に俺は後ろを振り返って歩き出す。その時、
「……大和」
「ん? なに――」
振り返ると心の顔が目の前に合って、そのまま唇が重なった。
「んっ……」
首に手をまわしキスを続ける心。濃密に舌も絡まり合う。唇が離れた時にはお互いの間に唾液が糸を引いた。
俺が驚きの瞳で心を見つめると、彼女は少しだけ拗ねたような顔をする。
「……何驚いてるの? キスなんて何度もしてるじゃん」
「いや、今日は随分急だったからさ」
「……お母さんにあんなこと言っておいて?」
「あんなことって……お前、まさか聞いてた?」
「うん。扉少し開けといてそこから聞いてた」
「マジかよ……」
そうすると、あの恥ずかしいセリフの数々を全て聞かれていたというわけだ。
別に聞かれてて悪いことはなかったけど、かといって聞かれていいかといわれれば微妙なところである。
すると心は、自分の顔をが見えない様に抱き付いてきた。そして、
「あんなこと言っておいて、こっちがそういう気持ちにならないとでも思ってるの?」
俺の胸に顔を埋めながら随分ストレートなことを言ってきた。一方どうしたもんかと困った俺は、取り敢えず心の髪を梳く様にして撫でる。
「なに、この手は?」
「何となく手持ち無沙汰だったから」
「ふーん」
「やめるか?」
「……続けて」
しばらくこの状態で彼女の頭を撫でていると、
「…………から」
「えっ?」
「あたしだって同じだから。大和以上の人なんていなかったから」
頭を撫でるのをやめ、彼女の身体を優しく抱き締めた。
「それを今言うのはずるい」
「ずるいのは女の特権だから」
「ほんと、良い特権だよな。俺にも欲しいくらいだよ」
「絶対あげないから」
すると心がさらに身体を寄せてくる。
「……もっと強く抱き締めて。寒いから」
「はいはい」
この時期の夜は身体が凍えてしまいそうなほど寒い。でも、こうして抱き締めあっていると真冬の寒さを忘れてしまうほど暖かかった。
☆ ★ ☆
「ふふふ~」
家に戻ると、なぜかよっちゃんがあたしの顔を見てニヤニヤとしていた。
「な、なに、よっちゃん?」
「いや~、何でもないよ~。ただ、おねーちゃんって結構積極的なんだな~って」
「んなっ!? さ、さっきの見てたの!?」
顔を真っ赤にすると、益々よっちゃんの表情がニヤニヤと緩んでいく。
「偶然ね~。自分の部屋のカーテンを開いて玄関を見たらびっくり。真冬の空の下、そこだけ南国かってくらい熱々な光景が広がっていたわけですよ」
「ち、ちがっ! あ、あれは大和が抱き締めてきたから仕方なく……」
「大和君より先に、甘えるように抱き付いてたのはどこの誰でしたかね~」
弁明しようと思ったら速攻で論破された。どうやら大分最初の方から見られていたらしい。
「いやはや、おねーちゃんは改めて大和君にぞっこんなんだなって思ったわけですよ。遅咲きの青春ってやつですな~。そんなわけで、よっちゃんはお風呂に入ってきます」
「ちょ、ちょっと、よっちゃん! さっきのはそう言うことじゃなくて! そもそも大和に原因があって――」
「はいはい、惚気話は後で聞いてあげるからね~」
大晦日も佐藤家の姉妹は仲良しみたいです。
よっちゃんは自分で勝手に想像して書いたんですけど、なんか某キャラに大分似てしまった気がします。
何はともあれ、番外編もあと3話くらいで終わる予定なので最後までお付き合いいただければと思います。