佐藤心が隣にいる日常   作:グリーンやまこう

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佐藤心が隣にいる日常

「大和さん、あなたは心さんを妻とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

 

「はい。誓います」

 

「心さん、あなたは大和さんを夫とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

 

「はい。誓います」

 

「それでは誓いのキスを」

 

 

 神父の言葉に俺は心の方へ身体を反転させる。純白のドレスに身を包んだ彼女は、うっすらと微笑みながら俺の事を見上げている。

 

 

「……なんか、こういう所でするのは少しだけ照れるね」

 

 

 彼女の言う通り、関係者だけとはいえ両親もいるし、プロデューサーさんや川島さんたちもいる。俺だって少しだけ照れくさい。

 

 

「確かに照れるけど、これやらないと先に進まないから仕方ないだろ?」

「仕方ないとか言うな☆」

「冗談だって」

「全くもう……それじゃあお願い」

「おう」

 

 

 ゆっくりと唇が重なり、周囲から歓声と万雷の拍手が湧きあがった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「ふぅ~。流石に疲れちゃったね」

「そうだな。結婚式やら二次会やら、盛りだくさんだったからな」

 

 

 俺と心は今、疲れた体をソファに預けている最中だった。既にお互い入浴は済ませている。ご飯も二次会などで散々食べていたため、もう流石に入らなかった。

 

 

「それにしても、結婚式も二次会も本当に楽しかったね」

 

 

 心の言葉に俺も頷く。結婚式はほとんど身内だけで済ませたのだが、二次会は346プロ内で行った為、アイドルの子たちがほとんど顔を出すという、さながら忘年会のような形で行われた。

 

 

「早苗さんが若干やけくそ気味だったのが、気になったけどな」

「あんまり言わないであげて。早苗さんもきっと焦ってるんだから」

 

 

 早苗さんには二次会の挨拶や司会を頼んだのだが、それ以外の所ではお酒が入った影響で終始やさぐれていた。めんどくさい事この上なかったのだが、結婚式や二次会でも色々お世話になっていたので文句は言わない方向で。

 その後、しばらく結婚式や二次会の事を話していたのだが、

 

 

「ねぇ大和。少しだけ昔話しよっか」

 

 

 唐突な昔話という言葉に俺は首を傾げる。

 

 

「昔話?」

「いいからいいから」

 

 

 いつの間にかコーヒーまで用意されていた。心にしては準備がいい。訳が分からないけど、取り敢えずソファに腰を下ろし、コーヒーを口に含む。

 

 

「で、昔話とは?」

「まぁ、いうほど昔でもないんだけどね~。あたしがこの事務所に入った時くらいの話」

「……その時に何かあったっけ?」

 

 

 心当たりがありつつもとぼけてみる。事務所に入った時の話で、心が今したい話なんて一つしかない。

 ただ、それは俺にとって、相当恥ずかしいことなので出来ることなら封印しておきたいのだ。

 

 

「何かあったっけって……どうせ気付いてるくせに」

「気付いてるけど、言いたくないことだってあるんだよ」

「大和にとってはそうかもしれないけど、あたしにとってはそうじゃないの。まだお礼の一つも言えてないんだからさ」

「別にお礼なんて……」

 

 

 俺は心に感謝されることなんて一つも――。

 

 

「大和があたしをプロデューサーに推薦してくれたんだよね?」

「……ちなみに、バラしたのは?」

「もちろん、あたしのプロデューサーだぞ☆」

 

 

 あの人……絶対に言うなってあれほど念を押しておいたのに。しかし今となっては後の祭りである。

 

 

「はぁ……それで、今の話はいつ頃聞いたんだ?」

「あたしが事務所に入って一か月くらいしてからかな。ふと思ったんだよね。どうしてプロデューサーは、あたしをアイドルとして正式にスカウトしたんだろうって。だってあたしって最初の印象だけだと、プロデューサーに大分引かれた気がしたからさ」

「大分どころじゃなくてドン引きだったけどな。というか、分かってるならそのキャラでグイグイ行くなよ」

「まぁまぁ! それでプロデューサーを捕まえて聞いてみたの。どうしてあたしをアイドルにしたのかって」

 

 

 そこからの流れは何となく想像できたが、あえて聞かなかった。

 

 

「そしたらさ、『本人には内緒だけど、大和君の口添えも大きかったんだ』って言われたんだ。大和が346プロで働いてたのは知ってたけど、どういうことなんだろうって」

「本当に余計なことを……」

 

 

 俺は思わず頭を抱える。あの時の事は本当にたまたまだったのだ。魔がさしたとでもいうべきか。俺の人生のうち、いくつかある消したい過去のうちの一つである。

 

 

 その日もいつもと変わらず出社し仕事をしていたのだが、たまたま自分のデスクで頭を抱えるプロデューサーさんが目に入ってきたのである。

 

 

「どうしたんですか?」

「いや、新しいアイドル候補を見つけてさ」

「いいじゃないですか。プロデューサーさんが見つけてきたのなら間違いないですよ」

「いや、ちょっと今回の子は色々と問題点が多いというか何というか……取り敢えず写真だけでも見てみてよ」

「はい、ありがとうございます」

 

 

 プロデューサーさんから写真を手渡される。

 そして、見せられた写真を見た俺は絶句した。

 

 

 なぜならそこには、ぶりっ子ポーズを完璧に決める幼馴染が映っていたからだ。

 

 

「え、えっと、この人は?」

 

 

 頬を引きつらせながら訊ねると、プロデューサーさんは困ったような表情を浮かべた。

 

 

「それがこの間、良い子がいないかってドラマの撮影現場に行ってたんだけど、強引に渡されてな」

「へ、へぇ~。そんな人もいるんですね。それで何を迷っているんですか?」

「いや、素質は抜群にありそうなんだけど如何せん、性格にちょっと問題がありそうで。正式にスカウトするか迷っているんだよ」

 

 

 取り敢えず知らないふりをして話を合わせる。性格に問題がありそうと言ったプロデューサーさんの言葉は大いに理解できた。

 たまに見に行ってたから知ってたけど、彼女は過剰なぶりっ子? キャラ? を演じていたからだ。

 

 

「ちなみに、彼女の性格は?」

「うちにいるウサミンのような感じなんだけど、切羽詰まってる感じがひしひしと伝わって来てな~。キャラ作りもちょっと痛いっていうか……」

「…………」

 

 

 あいつの特性を一発で見抜くとは……正論過ぎてぐうの音も出なかった。流石は、年がら年中アイドルと仕事をしているだけある。

 

 

「へ、へぇ~、そうなんですか……」

「そうなんだよ。やっぱりやめておこうかな~。地雷臭がプンプンするんだよ」

 

 

 ため息をつくプロデューサーさん。

 

 恐らく、このままいけば心がこの事務所にアイドルとして入ってくることはないだろう。

 

 別に俺がここで、幼馴染である心の事を勧める義理なんてない。そんな事をしてしまえば他にもいるであろう、アイドルになれそうな女の子の枠を一つ奪ってしまうことになりかねない。

 

 だからこの話は聞かなかったことにすればよかった。これも何かの巡り合わせで――。

 

 

 

「プロデューサーさん」

「ん? どうかした大和君?」

 

 

 

 聞かなかったことになんて、とてもできなかった。

 

 

 

 俺は、あいつのいいところをたくさん知っていたから。

 

 あいつが腐らずに努力を続けていたことを知っていたから。

 

 あいつがどれだけくじけそうでも、笑顔を浮かべて頑張っていたことを知っていたから。だから――

 

 

「その、実はですね……」

 

 

 彼女の事をプロデューサーさんに精一杯売り込んだのだ。もちろん、幼馴染であることも正直に伝えた。

 プロデューサーさんには、幼馴染の贔屓目に見えていたかもしれない。だけど、俺は心が芸能界で燻ぶっていたのも知ってたので、多少強引にでもと売り込んだのだ。

 正式にオーディションを受けに来ている子の存在も知っている。俺のやり方が良くないことも承知の上だった。でも、それでも、

 

 

 

「心がアイドルとして輝いてる姿を見たかったんだ」

 

 

 

 そう言って俺はコーヒーを一口すする。

 

 

 

「よくそんなこと恥ずかしげもなく言えるよね?」

「心を必死に売り込んだ時点で相当痛いんだ。これくらい大したことないんだよ」

「それは言えてる☆」

「せめてフォローしてくれ」

 

 

 結構傷ついてるから。そんな俺を見て心は頬笑みを浮かべ、

 

 

「だけど、そんな幼馴染の言葉をプロデュサーから聞いてからかな。大和の傍にいたいって感じ始めたのは。まぁ、それより前から大和の事は好きだったけどね」

 

 

 割と不意打ちでドキッとすることを言われた。そんな心情を読まれないように何とかして表情を取り繕う。

 

 

「なるほど。そんな経緯があったから俺の隣の部屋に引っ越してきたんだな」

「そんな感じ☆ でもさ大和。少し変だと思わなかった?」

「変って?」

「あたしが、何の前触れもなく大和の隣の部屋に引っ越してきてさ」

「言われてみれば。偶然にしちゃ出来過ぎだと思ったけど……もしかして、計画的犯行だったりする?」

「犯行とか言うな☆ 犯罪者じゃねーぞ☆」

 

 

 冗談はさておき、心当たりがあるとしたら一つくらいしかない。

 

 

「誰かに、例えば千川さんかプロデューサーさんに俺の住所を聞いたとか?」

「当たり☆ 正解した大和には一スウィーティーポイントをプレゼント☆」

「いらねえよ、そんなポイント」

 

 

 立派な個人情報流出である。俺はがっくりと肩を落とす。ただ、今さら言われたところで驚きはしない。

 流出の件も……バラしたのは千川さんかプロデューサーさんだろうから、今度何かおごってもらおう。それでこの件はお終いだ。

 

 

「大和の住所をきいて、急いで引っ越して……いやー、大変だったよ。偶然引っ越してきたのを装うのも」

「お前が幼馴染じゃなかったら完全にストーカーだよ」

「大和だって満更じゃなかったくせに~」

「頬をつつくなって」

 

 

 満更じゃなかったけどさ。そりゃ、好きな女が隣に引っ越してきたんだ。嬉しくないわけがない。

 それまではLINEが中心で、会って話をするなんてなかなかできなかったからな。俺も入社した一年間くらいは、時間的余裕も精神的余裕もなかったし。

 

 そんな事を考えていると、心が俺の肩に頭を預けてきた。

 

 

「どうした?」

「ちょっとこうしたくなってさ。あの時の大和が、あたしのいいところをプロデュサーに伝えてくれたから今のあたしがいるんだな~って」

「……あんなのきっかけにすぎないだろ。ここまで人気が出たのはお前が腐らずに努力してきたからだ。俺は別に何も――」

 

 

 

「嬉しかった。ありがとう」

 

 

 

 言葉を遮った彼女の声は少しだけ濡れていた。目元を拭うような仕草を見せ、俺から視線を逸らす。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 俺は黙って心の髪を梳く様に撫でる。ここで言葉はいらない。幼馴染特有の勘だ。

 しばらくして落ち着いたのか、心が少しからかうような口調で話しかけてきた。

 

 

「でもさ、普通幼馴染ってだけでそこまでする?」

「まぁ、しないだろうな。今思い返してもやりすぎたかなって思ってるし」

「じゃあなんで?」

 

 

 彼女からの質問に俺は視線を逸らす。そのままボソッと呟く。

 

 

「…………から」

「えっ、なに?」

「……心だったから」

「……へっ?」

「心だったからだって言ったんだよ。お前じゃなかったらこんなことしてない」

「えっ……あ、そ、そうだよね。あはは……」

 

 

 俺たちの間に気まずい空気が流れる。言った俺も恥ずかしいし、言われた心も恥ずかしかったからこその沈黙だろう。

 というか、こんなことわざわざ言わなくたって少し考えたらわかるだろ!

 

 

「き、気持ち悪いなぁ大和は! 幼馴染とはいえ!」

「そうだよ。あの時の俺は最高に気持ち悪かったんだよ!」

「本当に反省してよね! ほんとうにもう、大和は昔から、昔から……」

 

 

 そこで言葉が途切れる。

 

 

 

「……まぁ、でも、そんなところを大好きだと思っちゃう私も、十分気持ち悪いんだけどね」

 

 

 

 苦笑いのような、しかしどこか幸せそうな笑みを浮かべる心。

 

 あぁ、駄目だ。本当に。こいつは……いい女過ぎて困る。俺は心の身体を優しく抱き締めた。

 

 

「んっ……どうしたの急に?」

「いや、ずるいな~って」

「意味わかんないんだけど?」

「分かんなくていいよ」

 

 

 分かられたら相当恥ずかしいし。だから俺は、何も言わずに彼女の身体を抱き締め続ける。どのくらい彼女の身体を抱き締めていただろうか。

 

 

「ねぇ大和」

 

 

 問い掛ける様な心の声に、俺は抱き締めていた腕を緩める。

 

 

「どした?」

「これからも変わらずによろしくね?」

 

 

 胸の中で頬笑みを浮かべる心。どこかあどけなさを残しつつ、大人の色気も漂わせる表情。

 

 今更ながら俺なんかには勿体ない奥さんだよな~。なんてことを思いつつ俺は、

 

 

「おう」

 

 

 そう、短く返事をしたのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 それから時が流れ。

 

 

「お父さん、お母さん、早く!!」

「あんまりはしゃぐと転ぶぞ~」

 

 

 笑顔で走っていく娘を見つつ、俺はのんびりとその後を追う。季節は四月。今日はお花見をするとのことで、近くの公園まで足を運んでいた。

 

 

「相変わらず、美織は元気だよね」

「母親に似たんじゃないか? 昔から無駄に元気だったし」

「無駄とか言うんじゃねぇよ☆」

 

 

 そして俺の隣には心の姿が。Tシャツにジーパンと非常にラフな格好ではあるのだが、スタイルがいいせいかモデルのようにも見える。

 本人は子供を出産してから太ったとか言ってたけど、とてもそうには見えない。そもそも、太った太ったと言いながらお菓子をよくつまんでいるので、そこまで気にしていないのかもしれない。

 

 ちなみに我が娘の本名は八坂美織(やさかみおり)。母親似で、色々な人から可愛い可愛いと言われる4歳児です。母親似に育ってくれて本当によかった。

 

 話しながら歩いていくと、視線の先に見慣れた人影が。俺たちに向かって手を振っている。

 

 

「あっ、大和君に心ちゃん、こっちこっち~」

「久しぶりね~」

 

 

 レジャーシートに座って、手を振っていたのは片桐早苗さんと川島瑞樹さん。今日はお二人に誘われるような形で、お花見をすることになっていたのだ。

 

 そして、これが一番大事なんだけど……二人とも既に結婚しています。二人とも結婚しています(大事なことなので二回言いました)。

 早苗さんが結婚したのは結構最近、瑞樹さんは俺たちが結婚してから一年後くらいに結婚していた。

 瑞樹さんにいたっては子持ち。今も腕の中で娘さんがすやすやと寝息を立てている。確か今月で10か月くらいだったかな? その為、現在芸能活動は休止中。

 

 瑞樹さんに関しては、いわゆる電撃結婚みたいな形での婚約だった。俺も心も滅茶苦茶驚いたのは懐かしい思い出だ。いや、あの時は事務所の中も大騒ぎになったっけ。

 早苗さんは驚きを通り越して、真っ白になってたけど。まぁ早苗さんからしてみれば戦友に裏切られた気分だっただろうし。

 

 

「ほんと久しぶりだね~。半年ぶりくらい?」

「最近はみんな、育休やら仕事やらで予定が合わなかったからな」

 

 

 話しつつ、俺たちはビニールシートの上に腰掛ける。

 

 

「なかなか集まれなかったもんね。美織ちゃんもお久しぶり」

「おひさしぶりです!!」

「ふふっ! 相変わらずの可愛さね」

 

 

 ぺこりと頭を下げた我が娘に、瑞樹さんと早苗さんもニッコリ。自分で言うのもなんだけど、本当によくできた娘だ。心には「親バカだね~」と言われたけど、それも致し方なし。

 それからは話もそこそこに、持ってきたお弁当などを広げてお花見を始める。今日は流石にお酒は抜きだけど。

 

 

「美優さんは結局お仕事でしたっけ?」

「そうそう。誘ったんだけど、予定が合わなくてね」

「まぁ、育休から復帰したばっかりで仕事も多いだろうから仕方ないわよ」

 

 

 美優さんも多分に漏れず結婚していた。最近仕事復帰したのだが、美優さんに人妻特有のエロスが組み合わさったおかげで、世の男たちは狂喜乱舞している。あんなお嫁さんがいる旦那さんはきっと幸せ者だろう。

 ひとしきり話したところで、早苗さんが思い出したかのように声を上げる。

 

 

「あっ、そうだ。美織ちゃん、この前練習中だったお母さんのアイドル時代のポーズ。私たちに見せてくれない?」

「ちょっ!? 早苗さん!?」

 

 

 突然の爆弾投下に焦る心。しかし、

 

 

「それ、私も見たかったのよね。美織ちゃん、できそう?」

「うん、バッチリだよ! いっぱいれんしゅうしてきたから!」

 

 

 瑞樹さんの追撃を受け、もはや娘を止めるものは誰もいない。元気よく返事をした我が娘は立ち上がり、

 

 

「はぁ~い♪アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆さとうしんことしゅがーはぁとだよぉ☆」

 

 

 最高に可愛いポーズを披露してくれた。うん、流石娘だけあって特徴をよく捉えている。ツインテールなのも加点要素だ。

 早苗さんと川島さんもニッコリと笑顔。顔も母親似なので、まるで子供の頃のしゅがはを見ている気分になる。

 

 

「うぐぐっ……頭が痛い……」

 

 

 まぁ、隣では奥さんが苦悶の表情を浮かべながら頭を抱えてるけど。しかし、もはや恒例行事と化しているので気にしない。テレビでもよく見る光景だ。

 

 ちなみに、うちの奥さんは美織が生まれたのを機に露骨なキャラづくりをやめています。何でも、あのキャラを演じ続けるには流石に限界だったとのこと。

 それでも30過ぎまで、あのキャラを演じられた心のメンタルもすごいものである。俺だったら恥ずかしすぎて絶対にできない。

 

 

「大和ってば、失礼なことを考えてない?」

「いえ、全く」

 

 

 こいつは結婚してからというもの、どんどんと鋭くなっている気がする。こりゃ、一生隠し事なんてできないだろうな。まぁ、隠し事なんてする気もないんだけど。

 

 

「そういえば二人とも、結婚してそろそろ10年くらいたつけど、未だにラブラブしてるの?」

「お互いに名前呼びだし、確かに気になるわね」

 

 

 早苗さんと瑞樹さんがそう聞いてきたので、俺たちは顔を見合わせる。そしてしばらく考え、

 

 

「別にラブラブはしてないよな?」

「うん、してないね。子供も生まれたし、いつまでも新婚気分じゃないわけだし」

 

 

 冷静に答える俺と心。

 

 

「えぇ~、そうなの? つまんないわね~。二人ならいつまでも、新婚時のようなラブラブっぷりを見せつけてくれると思ってたのに」

「時が流れていくうちに、関係も変わっていくもんですよ。まぁ、でも――」

 

 

 俺はそう言って彼女のお腹を見つめる。心もその視線に気づき、優しく微笑みながら自分のお腹を撫でる。そして、

 

 

 

「この子を宿すくらいには関係は変わってないですけどね」

 

 

 

 早苗さんと川島さんはしばらくポカンとし……ゆっくりと笑顔を浮かべた。そのまま早苗さんは心のわき腹をつんつんとつつく。

 

 

「なによなによ。あんなこと言った割には全然そんなことないじゃない」

「ほんとよね~。心配して損しちゃったわ。幸せそうで何よりよ!」

「心配って、瑞樹さんたちが勝手に心配してただけじゃないですか」

「だってねぇ? 私たちと違って、心ちゃんたちは一番結婚期間が長いわけだったから」

「ぶっちゃけ、小さい頃からの期間を含めれば、とんでもなく長い期間一緒に居るわけですしね」

「そう思うと長い付き合いだよね、あたしたち」

 

 

 俺たちは思わず苦笑いを浮かべる。

 

 物心ついたころから一緒に居て、気付いたら結婚してて……。こんなに長い期間、一緒に居るのは多分、世界中探してもほんの一握りなんじゃないだろうか?

 

 

「沢山喧嘩もしましたし、色々なことがありましたね。浮気もされましたし」

「浮気に関しちゃ、完全にお前の勘違いだっただろうが。しかも結婚前だし。記憶を捏造するんじゃねぇよ」

「あれ、そうだったっけ?」

「そうだよ、全く……」

「まぁまぁ、それだけ色んなことがあったってことだよ!」

 

 

 調子のいい奴め。まぁ、それを笑顔で流してしまう俺も大概なのかもしれない。

 

 

「ちなみに、心ちゃんは今どんな時が一番幸せなの?」

「幸せですか? ん~、あんまり考えたことはないですけど……」

 

 

 すると、心が俺の肩に頭を預けてきて、

 

 

「どんな時が一番の幸せって聞かれたら、多分――」

 

 

 最後に彼女はこう言って笑顔を浮かべるのだった。

 

 

「あたしはこうして彼(大和)の隣に居られることが一番の幸せです」

 

 

 

          佐藤心が隣にいる日常~完~

 

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

おまけ

 

「そ、それでさ、明日から新婚旅行なわけだけど……」

「そうだけど、それがどうかしたのか?」

 

 

 心の言う通り、俺たちは明日から新婚旅行に行くことになっている。一般の人と比べて期間は短いが、きっちり日程を開けてくれたプロデューサーさんには感謝だ。

 しかし、先ほども言った通り新婚旅行がどうかしたのか?

 

 

「明日は朝早いけど……」

「うん、早いな」

「準備もまだ微妙に終わってなくて……」

「まぁ、後は服とかつめるだけだけど」

「早く寝ないと、明日からに支障をきたすかもだけど……」

「だから、それがどうした――」

「大和との子供が欲しい」

 

 

 ど真ん中に160キロのストレートを投げ込まれた。何かしゃべろうとしたのだが、口がパクパクと動いただけだった。

 

 

「子供が欲しい」

 

「二回言わなくても分かってるから」

 

 

 ようやく口が動いた。しかし、何と返事をしたものか……いや、素直に自分の気持ちを言えばいいだけなんだけど。

 

 

「も、もう結婚したわけだし、その……アレも付けなくていいから、できるよね?」

「できるけどさ……」

 

 

 いや、確かにこれまではきちんと避妊具を付けてやってたけどさ。だけど、いきなり子供なんて事務所がなんていうか――。

 

 

「プロデューサーにはちゃんと許可貰った」

「……ごめん、プロデューサーさん。うちの嫁が迷惑をかけて」

 

 

 どんな聞き方をしたのかは知らないけど、まじでごめんなさい。

 

 

「そしたら『ママタレって結構需要あるから、大和君に昼も夜も頑張れって伝えておいて』って言われた」

 

 

 前言撤回だわ。あの仕事人間め……。

 

 

「そ、それで、大和は……欲しい?」

 

 

 そういって頬を真っ赤にした心が、上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。ムラムラっとした感情が湧きあがってくる。ここで本音を言わないのは流石に男の名が廃る。

 

 

「……欲しいに決まってるだろ」

「ふふっ♪ なんだかんだ大和も正直だよね」

「うるせぇ」

 

 

 新婚旅行初日はお互い、寝不足でした。




 これにて「佐藤心が隣にいる日常」は完結になります。
 完結までに長い日時が経ってしまいましたが、ここまで読んで下さった方には感謝しかありません。
 また、番外編として投稿するかもしれませんが、あまり期待せずに待っていてください。
 一応、活動報告にて後書きを載せておりますので、そちらも見ていただければ幸いです。 
 それではまたどこかでお会いしましょう。
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