佐藤心が隣にいる日常   作:グリーンやまこう

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ファッションショー

「八坂君、ちょっといいかな?」

「あっ、はい。どうかしたんですか?」

 

 

 パソコンに向かって渋面を浮かべていた俺は急いで顔を上げる。すると、そこにいたのは佐藤心のプロデューサーさんだった。

 

 

「えっと、佐藤さんが何かしでかしましたか? それとも佐藤さんのキャラに耐え切れなくなったとかですか?」

「いや、別に佐藤は何もしでかしてないし、キャラにも疲れてないよ。というか、本当に佐藤と幼馴染なんだよね?」

「はい、俺と佐藤さんは小学生からの幼馴染ですよ」

 

 

 俺のあまりの言い草に、プロデューサーさんが苦笑いを浮かべている。しかし、小さい頃から一緒に居れば遠慮もなにもなくなるのが幼馴染ってもんだ。

 それに、心に対して遠慮なんてしていればつけあがるのは目に見えている。

 

 

「まぁそれはいいとして、八坂君。明日は確か休みだよね?」

「休みですよ。もしかして仕事を変わってほしいとかですか?」

 

 

 この人は心の他にも様々なアイドルの担当をしており、いつも忙しそうにしているのだ。

 何度でも言うけど、早く新しいプロデューサーを雇ってあげて! まぁ、プロデューサーさんたちはいつも楽しそうだからいいんだけど。

 

 

「そういうわけじゃないんだ。佐藤が明日、ファッションショーに出るのは知ってるかい?」

「もちろんですよ。佐藤さんからしつこいくらいに言われましたから」

 

 

 正式に出演が決まったのは二か月ほど前で、心から直接報告も受けた。しかし、それから今日にいたるまで心から毎日『ファッションショーまであと○○日だぞ♡』というメッセージが送られてきている。

 嬉しい気持ちは分からなくもないが正直、鬱陶しいことこの上ない。なので最近は無視している。

 

 

「それなら話は早い。……明日なんだけど、心のファッションショーを僕と一緒に見ないかい?」

「えっ? どういうことですか?」

「実はそのファッションショー、一般の観客が見れるスペースの他に関係者だけのスペースもあって、そのチケットが一枚余っているんだ。それで八坂君は佐藤の幼馴染だし、業界の事もよく知っている関係者でもあるから丁度いいと思って」

「なるほど。だけどいいんですか? 確かに関係者かもしれないですけど、俺はただの事務員なのに」

「いいのいいの。そんな細かいところまで気にする人なんて誰もいないから。しれっと『僕、業界人です』って顔をしていれば多分大丈夫だよ」

 

 

 この人も結構適当な人である。しかしファッションショーを見ることなんて、男の俺には早々あることじゃないからいい機会かもしれない。

 休日を潰すのは少し惜しいが、参加させてもらう事にしよう。

 

 

「それじゃあ参加させてもらうことにしますね」

「いい返事がきけて良かったよ。えっと、明日の集合時間と集合場所は……」

 

 

 プロデューサーさんから明日の時間と場所の指示を受ける。

 

 

「あっ、それと大和君が明日来ることを佐藤には内緒にしておいてくれ」

「いいですけど、どうしてですか?」

「そっちの方が面白いからだよ」

 

 

 そう言って悪戯っぽくウインクを決めるプロデューサーさん。理由はよく分からないけど、取り敢えず明日ファッションショーに行くことは心に黙っていよう。

 

 

「分かりました。……あと、ウインク死ぬほど似合ってませんよ?」

「君も佐藤に負けず劣らず毒舌だね……」

 

 

 そんなこんなで明日は心が参加するファッションショーを見学することになりました。

 その日の夜。一応心には俺がファッションショーを見学するということを伏せつつ、『明日、頑張れよ』というメッセージを送っておいた。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 そしてファッションショー当日。

 

 俺はプロデューサーさんに指定された時間に指定された場所へと赴いていた。しばらくすると、プロデューサーさんも駆け足でやってくる。

 

 

「おはようございます」

「おはよう八坂君。今日はわざわざありがとう」

「こちらこそ、誘っていただいてありがとうございました」

「それじゃあ早速行こうか。佐藤はもう控室で待ってるから」

 

 

 どうやらプロデューサーさんは、先に心を控室に送り届けてから俺を迎えに来てくれたらしい。

 そのまま俺はプロデューサーさんに連れられて関係者控室へ。

 

 

「はい、ここにいる間はこの証明書を首からぶら下げてね」

 

 

 関係者であるという証明書を受け取り首から下げる。これで俺も関係者の仲間入りだ。

 

 

「よしっ、まだファッションショーまで時間があるし、佐藤の所に行こうか。多分緊張してるはずだし、八坂君が来れば喜ぶし、緊張も解れると思うよ」

「喜ぶというよりびっくりしそうですけどね。……まさか、最初からそれが狙いですか?」

「どうだろう?」

 

 

 とぼけるプロデューサーさん。まぁ、これ以上の詮索はやめておこう。もしかするとびっくりさせるというよりも、緊張をほぐすことが目的なのかもしれないし。

 そして小さな個室のようなところに入ると、緊張した面持ちの心が鏡の前で深呼吸していた。既にファッションショーで使う衣装を身に纏っている。

 

 

「ふぅ、やっぱり緊張すんな……」

「お疲れ、佐藤」

「あっ、プロデューサー☆ お疲れ……って、えぇっ!? や、大和!? えっ!? はぁっ!?」

「落ち着けって。キャラブレてるぞ」

 

 

 俺の顔を見て驚きの声を上げる心。まぁ、いるはずのない人がここにいるのだからある意味当然の反応か。今から大事なファッションショーが行われるわけだしな。

 

 

「ど、どど、どうして大和がこんなところに!? ぷ、プロデューサー!!」

「ははっ! 実は昨日、僕が誘ってたんだよ。チケットも一枚余ってたし」

「そ、そんなの聞いてないって! 大和もどうして教えてくれなかったの!?」

「プロデューサーさんに口止めされてました」

「プロデューサー、後で覚えておけよ……」

 

 

 恨みがましい視線を向ける心だが、プロデューサーはどこ吹く風だ。

 この人はかれこれ一年ほど心のプロデューサーを務めているので、彼女の扱いはお手の物である。

 

 

「それじゃあ俺は少しだけやることがあるから、後は二人だけで頼んだよ」

「えっ!?」

「分かりました。頑張ってください」

 

 

 心は戸惑っていたものの、仕事があるといって部屋を出ていくプロデューサーさん。部屋には俺と心だけが残された。

 

 

「……はぁ。何で来たんだよ?」

 

 

 ため息交じりに心が俺を見上げる。

 

 

「何でって、プロデューサーさんから誘われたからだけど? それとも、俺が来ちゃいけない理由でもあるのか?」

「いや、別にないけど……」

「じゃあ問題ないじゃん。そもそも、メッセージアプリで『あと○○日だぞ♡』って送ってきたのは心だろ? だから来ても大丈夫かなって思ったんだ」

「そうだけどさ……」

 

 

 そこで言葉を区切った心。その後、少しだけ拗ねた様子で視線を逸らす。

 

 

「……こんな緊張してる姿、大和には見せたくなかったの」

「何だ、そんな事かよ」

「そんな事って――」

「いつも通りでいいじゃん」

 

 

 心の肩を軽くポンッと叩く。

 

 

「スポーツとかでも言われてる通り、自分が持ってる力以上の事をしようとするから緊張するんだ。普段通り、いつも通りの心でいいんだよ。それ以上の事が出来るときなんて、ほとんどないんだからさ」

「でも……」

「でもも何もあるか。いつも通りのしゅがーはぁとをお客さんに見せてこい。お客さんも、ファッションショーのお偉いさんも、プロデューサーさんも、みんなそれを望んでるんじゃないのか?」

 

 

 俺がそう言って笑うと心も少しだけ緊張が解れたのか、表情がやわらかくなる。

 

 

「そうかな? お客さん、沢山声援くれるかな?」

「当たり前だろ。……それに、俺が今まで見てきた中で一番まともな格好してるんだ。だから、自信もって歩いてこい」

 

 

 頬をかきながら目を逸らした俺の言葉を聞いて心は目を見開く。

 そしていつも通りの笑み……と言うよりは、いつもより悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

 

「……そこは、はぁとの緊張を最大限にほぐすためにも素直に『俺が見てきた中で一番可愛い』って言う所だぞ?」

「うっせ」

「全く、本当に大和は素直じゃないんだから。可愛いやつだな♪」

「だからうるせぇって。……やっぱり言うんじゃなかった」

 

 

 ため息をつく俺を見て、一層楽しそうに笑う心。すっかり緊張は解れたようだけど、なんだか損した気分だ。

 そんなタイミングでプロデューサーさんが戻ってくる。

 

 

「いやぁ、お待たせお待たせ……って、僕はお邪魔だったかな?」

「ぜんっぜん、邪魔じゃないですので大丈夫です」

「そうかい? それにしても……佐藤の緊張も解れたみたいで良かったよ」

「何言ってんのプロデューサー? はぁとは全く緊張なんてしてないからな♪ 最初からいつも通りのはぁとだし、これからもいつも通りのはぁとだぞ☆」

「さっきまで緊張してガチガチだったくせに」

「何を言ってるのかな大和君? 水飴入り練乳飲ませるぞ☆」

「ほんと、緊張が解れたみたいで何よりだよ……」

 

 

 俺たちのやり取りを見てプロデューサーさんが呆れている。しかし、俺は何も悪くない。悪いのはどう考えても心である。

 

 

「さて、そろそろ時間だから佐藤は今朝指示した待機場所まで行ってくれ。俺たちは関係者スペースに向かうからさ」

「オッケーだぞ、プロデューサー☆ ファッションショーでは、はぁとの魅力でみんなをスウィーティーしちゃうからな♡」

「期待しておくよ。それじゃあ大和君、行こうか」

 

 

 そう言って俺とプロデューサーさんは部屋を後にしたのだった。

 

 ちなみに初めてファッションショーに参加した心は、持ち前の明るいキャラクターで観客の心を掴み、ショーは大成功に終わったのだった。

 まぁ、歓声の他に笑い声も響いてたんだけどね。あいつの憧れのポーズや言動は一昔古いんだよ……。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「……というわけで、ファッションショーお疲れ様! かんぱーい!!」

『かんぱーい!』

 

 ファッションショーが終わり、ご褒美として俺たち三人は焼き肉店へと足を運んでいた。既に目の前の机には野菜の盛り合わせだけ置かれている。

 

 ところでなぜご褒美に焼肉なのかというと、何でもファッションショーまでの間、心は体型維持のためにダイエットを行っていたらしい。

 まぁ、この年になってくると体型の維持は大変だと身をもって体感しているところなので仕方ないと思う。ただ、別に心は太ってもないし、ちょうどいい体型をしている。

 しかしそれを言ったら、「女の子は大変なんだぞ♪」と妙にすごみのある顔で怒られた。

 

 

「さぁ、今日はお祝いだ。二人とも心置きなく食べてくれ」

「やった♪ 流石プロデューサー!」

「ほんとに俺までご馳走になっていいんですか?」

「構わないよ。今日、ファッションショーに来てくれたお礼も兼ねてるしね。それに君が来てくれなかったら佐藤はずっと緊張してたろうから」

「余計なことを話すお口はどれかな? しっかりチャックしておかないとね♡」

「もごもご……」

 

 

 心が笑顔でプロデューサーの口に玉ねぎを突っ込む。しかも生の。プロデューサーさん、玉ねぎの辛さに涙目である。

 

 

「ゲホゲホっ……ま、まぁ、本当に何でも頼んでいいからな」

「それじゃあ……これとこれとこれとこれ! それを4人前ずつかな~。それともちろんご飯!」

「えっ? そんなに食うのか?」

「まだまだこんなもんじゃないよ! これはほんの序章だから♪」

「食い切れる量にしてくれよ~」

 

 

 プロデューサーの注意もそこそこに心は店員さんを呼んで手際よく肉を注文する。

 

 

「大和とプロデューサーは何か頼む?」

「肉は心が注文してくれたのを適当に食べるから、取り敢えずご飯と烏龍茶で」

「僕も八坂君と同じで頼むよ」

 

 

 しばらく待っていると肉やら飲み物やらが運ばれてきたので、取り敢えず野菜を隅にどかし肉を焼き始める。

 

 

「ん~~~! この肉を焼いてる時間ってたまらないよね! スウィーティー!!」

「焼肉にスウィーティーって……」

「細かいことはいいんだよ! あっ、そろそろ焼けてきた♪」

「肉を食うのは構わないけど、野菜もバランスよく食べて――」

「うーん、美味しい!!」

「聞いちゃいねぇ」

 

 

 言うだけ無駄と悟った俺は、隅にどけていた野菜から食べ始める。焼いた玉ねぎっておいしいよね?

 

 

「いやぁ、八坂君と佐藤は本当に仲がいいねぇ」

「今のやり取りを見て本当にそう思えるんですか?」

「むしろ、今のやり取りを見れば誰だってそう思うよ。僕も八坂君でいう佐藤みたいな幼馴染が欲しかったな」

「あいつでよければいつでも差し上げますけど?」

「オイコラ、聞こえてんぞ☆ あっ、店員さん! 追加の注文いいですか?」

 

 

 俺を笑顔で睨みつけながら同時に注文もする。あいつって特技が裁縫といい、意外と器用だよな。

 

 その後は雑談を挟みながら、楽しく食事は進んでいき、

 

 

 

 

 

「それじゃあ二人とも、今日はお疲れ様」

『お疲れ様です』

 

 

 

 

 

 プロデューサーさんと店の前で別れ、俺と心はマンションまで歩き始めていた。

 

 

「ん~、今日は沢山食べたな~」

「ほんとにな。今度は俺たちがプロデューサーさんに何かご馳走してあげないと」

 

 

 あの人は自分に所帯もないし、趣味もないから別にいいって言ってたけど流石にね? 仕事ばかりの疲れをたまには癒してあげないと。

 

 

「それにしても、今日食べた分は明日またみっちりレッスンしてもらわないとな」

「ほんとほんと。この年になるとどうしても体重が落ちにくいし、お肉もつきやすい……って、何言わせんだよ?」

「悪かったって。悪かったからほっぺた引っ張るな」

 

 

 ジト目でほっぺたをムニムニと引っ張ってくる心に、謝るとすぐに離してくれた。しかし、プンプン怒っている。

 

 

「全く、女の子に体重の話はNGなんだからな!」

「ごめん、ごめん」

 

 

 その後はお互い無言の時間が続いたのだが、心が不意に口を開いた。

 

 

「あのさ、大和」

「ん? どした?」

「あの時はからかっちゃったけど……今日はありがとう。大和の言葉がなかったら多分、緊張したまま失敗しちゃったかなって」

「いや、成功させたのは心の実力だよ。俺も偉そうなこと言ったけど、心の立場だったら多分緊張で押しつぶされてたと思うから」

「それでもさ……、やっぱり嬉しかった。大和に言ってもらえて」

 

 

 視線を移すと、心は口元を恥ずかしそうにもにゅもにゅと動かしていた。頬も赤く染まっている。

 

 

「……顔真っ赤」

「っ!? あぁ、もうっ!! やっぱりこんなこと言うんじゃなかった!!」

「俺も同じように思ったけどな」

「この話はやめやめっ! そうだ大和! これからコンビニでお酒を買って大和の部屋で飲もうよ! さっきは一滴も飲んでなかったし、これから朝まで二次会だ!!」

「……明日も朝から仕事だぞ? それもお互いに」

「徹夜でもなんとかなるって!」

「26歳になって徹夜は身体がしんどいので遠慮したいです」

 

 

 その後、心を納得させるのにそれなりの時間を要したのだった。

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