「それじゃあ、今日もお仕事お疲れ様。かんぱーい!」
『かんぱーい!』
早苗さんの音頭であたし、佐藤心と高垣楓、それに三船美優がカチンとグラスを合わせる。
今日は以前、大和も参加した飲み会をあたしたち女性四人で開催していた。この飲み会は他にも菜々さんや川島さんなども参加したりするのだが、基本的にはこの四人が普通である。
お店も前回と変わらない場所で、個室があるので非常に重宝していた。やっぱりアイドルが普通の居酒屋に行くと、どうしても目立っちゃうからね。それにお酒が入ってくると声も大きくなったりしてくるので余計にである。
「んぐっ、んぐっ……ぷはー! やっぱり仕事後に飲むいっぱいは最高ね」
目の前でビールを半分ほど豪快に飲み干す早苗さん。流石は346プロ内でも屈指の酒飲みとして知られているだけある。そういうはぁとも、もう半分くらい飲み干しちゃったんだけどね☆
ちなみに美優さんはレモンサワー、楓さんは梅酒を飲んでいた。
「ところで早苗さん、今日ははぁとに聞きたいことがあるって言ってたけど、それって一体?」
料理もきて、お酒もそこそこ進んだところであたしは早苗さんに尋ねる。
実は今日、はぁとに聞きたいことがあるとのことで招集がかかったのだ。いつもは適当に話してお酒を飲んで終わりなので、明確に話したいことがあるとは珍しい。
するとはぁとの問いかけに早苗さん……だけじゃなくて他の二人もニヤリと微笑んだ。嫌な予感がする。
「ふっふっふ、それはね……ズバリ、大和君とのことよ!」
「…………」
予想してなかったわけじゃないけど、いざ聞かれるとやっぱり戸惑ってしまう。
「べ、別にはぁとと大和は幼馴染だぞ☆ みんなもそれくらい知っていて――」
「でも、この前大和さんが風邪をひいた時、心さん血相を変えて事務所を出ていきましたよね?」
「あらあら、そんな心さんの姿、是非私も見たかったです♪」
「…………」
そういえば大和が風邪をひいた時、事務所にはプロデューサーと千川さんの他に早苗さんと美優ちゃんもいたんだった……。
あの時は大和のことしか考えてなかったから失念してたけど、あれはまずい行動だったかも。というか、今日の飲み会は私の事を一方的に糾弾する会だったらしい。
「い、いやぁ~、あの時は大和が風邪を引いたってことで、ただただ心配だっただけ☆ 別に他の意味なんて何もないぞ☆」
「そんな御託はいいのよ、はぁとちゃん!!」
「っ!?」
取り敢えず適当に言い訳にして様子を見ようと思ったのだが、いきなりドンッと机を叩いて早苗さんが立ち上がる。おかげでびっくりしてしまった。
ちなみに美優ちゃんもピクッとなっていた。こういう可愛いところが、大和のお気に入りたる所以なんだろうな~。二人でいる時もよく美優さんの話題になるし。
「ご、御託とは?」
「御託は御託よ。そーれーでー、ぶっちゃけどうなの、大和君は?」
「いや、だから大和は幼馴染で――」
「そう言うことを聞いてるんじゃないの! 恋愛対象としてどうなのかって!」
「あぁ……そっちか」
大和についての事を聞かれるのは初めてじゃないけど、こうして改めて聞かれるのは初めてだったりする。
それに聞かれても、自分のキャラをいかして適当にはぐらかしてきたし……。
「や、大和はもちろん好きだぞ☆ 幼馴染としてだけどな♪」
「ふふっ、心さん。嘘はよろしくないですよ?」
「い、いや、別に嘘なんてついてないぞ☆ いつも通りのしゅがーはぁと☆」
「……じゃあ、どうして視線を合わせてくれないのですか?」
「そ、それは……」
ニコニコと問い詰めてくる楓さん。これは早苗さん以上に強敵だ。そのため私は助けを求める意味でも美優ちゃんに視線を移す。
「み、美優ちゃんは私と大和のことなんて何も興味ない――」
「正直、好きなんですよね?」
「ぶふっ!?」
予想外の攻撃に吹き出してしまった。ま、まさか美優ちゃんもそっち側だったなんて。
「い、いやいや、大和のことなんてこれっぽっちも好きじゃないからな! ほんとの、ほんと!!」
「心さんってば、やけに必死ですね。それが逆に怪しいです♪」
「はい、とっても怪しいです」
「うぐっ……」
楓さんはニコニコと楽しそうに、美優ちゃんは興味津々といった様子で問い詰めてくる。
これは逃げきれそうにない。前方には早苗さん、後方には楓さんと美優ちゃん。
「ぶっちゃけ、大和君はともかくとしてはぁとちゃんは……ね?」
意味深な言葉、視線を早苗さんがあたしに向けてくる。流石、年上だけあって勘が鋭い。
……いや、美優ちゃんや楓ちゃんを見るに、あたしが分かりやすいだけかも。
「……は、はぁとはみんなのアイドルだから、誰か一人の人を好きになることなんて絶対に――」
『はぁとちゃん(心さん)!!』
得意のキャラで逃げ切る作戦、見事に失敗。これはもう観念するしかないだろう。私は余っていたおちょこを手にすると、
「……楓ちゃん、注いでもらってもいい?」
「はい♪ おちょこに、ちょこっと注がしてもらいますね」
もう少し酔ってからじゃないと話せないと思ったあたしは、楓ちゃんに日本酒を注いでもらう。面と向かって誰かに大和への気持ちを話したことはないので、変に緊張するな……。
あたしは注いでもらった日本酒を一気に飲み干す。
「……他のアイドルの子たちには内緒ですよ。特に口の軽い子には! 大和の耳にまで入るかもしれないので」
「分かってるわよ。この飲み会だけの秘密。美優ちゃんと楓ちゃんも約束ね」
『はい!』
「そ、それなら……ふぅ。楓ちゃん、日本酒もう一杯」
「はいはい、ただいま~♪」
もう一杯楓ちゃんに注いでもらった後、あたしは覚悟を決める。
「あ、あたしは……」
『あたしは?』
「や、大和の事が……」
『大和の事が?』
「す、す……………、き。…………です」
遂に言ってしまった。あたしは三人からの反応を待つ。
『…………ですよね』
三人が揃って頷く姿を見たあたしは急激に顔が熱くなり、思わず手で顔を覆ってしまった。
「だ、だから言うの嫌だったんだよ……」
もうキャラを保つことが難しいくらい恥ずかしい。そんなあたしを見て再び三人の声が被る。
『か、かわいい……』
「っ!? ほ、ほんとにやめて……と、というか、分かってたんだろ、あたしが大和の事を好きな事!?」
やけくそ気味に叫ぶと早苗さんが「ま、まぁ……」と頷く。
「普段の様子からして好きだよな~、って思ってたけど、まさかキャラを保てないほど素直になるはぁとちゃんが可愛くて」
「早苗さんの言う通り、正直意外でした。しかも最後「です」って敬語になるところも、大和さんに対して本気なんだなって言うのが伝わってきましたし」
大和に対して本気という楓ちゃんの言葉があたしに追加ダメージを与える。
そりゃ、本気じゃなかったらこんなに恥ずかしがってないけど……恥ずかしがってないけど!
あたしはダメージを緩和させるために、まだジョッキに残っていたビールを一気に飲み干す。
「……そんなに意外だった?」
「そ、そうですね……普段の心さんからはとても想像できなかったので」
美優ちゃんも他の二人と似たような理由を口にする。そんなに想像できないかなぁ……いや、想像できるわけないわ。普段が普段だからね。だけど、
「仕方ないじゃん……だって、好きなんだし」
『っ!?』
あたしが口を尖らせながらそう呟くと、三人は電撃が走ったように身体を硬直させる。
「はわわわっ!? 心さんがとんでもなく可愛いです。衝撃的です!」
「今のはヤバいわね。破壊力が普段と段違いよ。正直、こっちのキャラでやっていったほうがいい気がするわ」
「心さんの可愛さに私は失神寸前……ふふっ」
「三人ともバカにしてんだろ? 特に楓ちゃん」
三人にジト目を向けるも、彼女たちはまるで気にした様子はない。まぁ一人は硬直してなかったけど。
「じゃ、もうこの話はお終いにしていいでしょ?」
「何言ってるんですか? むしろこれからが本番ですよ!」
「そうよ! まだまだ聞きたいことがたくさんあるんだから!」
「えぇ……」
「心さんが放心……ふふっ♪」
もう楓ちゃんは無視しよう。多分、そこそこ酔ってるはずだから。前に大和も無視してたし。
それにしても、普段は落ち着いている美優ちゃんがここまで興味を示すなんて……。まぁあたしも含めて、女子は恋バナ大好きだから。なお、他人の恋バナに限る。
「それじゃあまずは、ズバリ! はぁとちゃんが大和君を意識しだしたのはいつ頃から?」
「意識しだしたの……」
こうなった以上、話しても話さなくても一緒なので、答えられる質問には素直に答えていくことに。
「意識しだしたのは多分、高校の頃……だと思う」
「それはどうして?」
「もう10年くらい前の事だから覚えてないかな」
「……確かに高校時代の事だもんね。私としては、高校時代から意識してたって事が知れただけで満足よ」
実は嘘なんだけどね。満足そうな早苗さんに心の中だけで謝る。
だけど、これだけ色々話しているんだから許してほしい。
「それじゃあ、心さんは大和さんのどんなところを好きになったんですか?」
今度は美優ちゃんからの質問に、あたしは首を傾げる。
「……うーん、別にどこっていうのはないんだよね~」
「えっ? そうなんですか?」
「ほんとほんと。どこってよりも、大和だから好きなんだし……あっ」
思わず口を滑らせる。今日は酔っていることもあってか、頭が回っていないみたいだ。
時すでに遅しとは、このような時の事を言うのだろう。三人がニヤニヤしつつあたしを見つめていた。
「い、今のはなし! なしだから!!」
「へぇ~。つまり、はぁとちゃんは大和君の全部が好きなわけね」
「否定しなくて大丈夫ですよ。全部わかってますから」
「心さんが羞恥心で顔を真っ赤に……ふふっ」
ニヤニヤの早苗さん、優しい微笑みを浮かべる美優ちゃん、相変わらずの楓ちゃん。
完全に油断していた……。しかし、言ってしまった言葉は今更なかったことにはできない。こういった話はどうも調子が狂って困る。
「それじゃあ私からも。大和君にされて嬉しかったことって何かありますか」
楓ちゃんの質問にあたしは記憶を巡らせる。嬉しかったことは数えきれないほどあるのだが、して言えば、
「……大和ってさ、昔からあたしがアイドル活動してるのを知ってるんだ。多分、幼馴染であり、一番のファンでもあるって感じ。それでね、346プロに入って一年くらい経ったころかな? 大和の部屋でたまたまとあるもの見つけたの」
その日は暇だったから大和の部屋でダラダラしてたんだけど、大和がコンビニに行ってくるってことで部屋に一人になった。
待っている間、何気なく視線を巡らせていたところ、本棚に見慣れないカラーボックスが置いてあったのに気付いたのである。
気になったのでそれを開けてみたところ、中からあたしの写真集等が出てきたのだ。
「どんな小さな記事でも、私が載っていた雑誌や写真集なんかを大切に保管してたんだ。あいつは写真集を買ったことも、それについての感想も、何も言わないんだけどね。でも、そんなところが大和らしくて……すごく嬉しかったんだ」
その後、嬉しいやら恥ずかしいやらで、帰ってきた大和の顔をまともに見れなかったのは内緒。大和は大和で『どうしたんだ、ニヤニヤして? 気持ち悪いぞ』と言っていたけど……。
私が恥ずかしい話を言い終え三人を見ると、なぜか全員机に突っ伏していた。耳が真っ赤なのも何でだろう?
「い、今の話は流石にダメージが大きいわ……なによもう、完全に両思いじゃない」
「本当です。聞いたのは私ですけど、逆にこっちが恥ずかしくなりましたね……」
「なんだか大和さんに対しても申し訳なくなってきました……」
小声でぶつぶつ言っているため、何を話しているのか全く聞き取れない。しばらくして起き上がった三人に不思議そうな視線を向ける。
「ねぇ、三人ともどうかしたの?」
「別にどうもしないから大丈夫よ。ところで、はぁとちゃんは大和君の事が好きなわけだけど、付き合いたいな~、とかって思ったりしないの?」
「うーん、付き合いたいって思ったりするけど今の関係が楽しいのも事実だし、悩ましいところかな」
追加で注文した梅酒を飲みながら答える。
あたしの思い込みかもしれないけど、多分大和との関係は友達以上、恋人未満だと思う。付き合いたいは付き合いたい。でも、そのせいで今の関係が壊れるのも嫌だ。
ほんと、恋って難しくてめんどくさい。
「確かに、今の関係が崩れるのって怖いですよね。お二人は本当に仲がいいですから」
「まっ、関係どうこう以前に、そもそも大和があたしの事どう思ってるかによるんだけどね」
「……実際のところ、大和君はどうなのかしらね?」
「絶対に心さんの事、好きだと思いますけど……。ただ、好きのレベルが分かりにくいというか……ポーカーフェイスが抜群にうまいですから」
「大和さんって、ほんと誤魔化すのが上手ですよね。事務所のみんなが心さんとのことについて聞いても、笑顔で「ただの幼馴染だよ」ってはぐらかしてますし」
あたしはそう言って笑ったけど、三人は微妙な表情でこそこそ話し合っている。
所々大和という言葉が聞こえてきてるから、彼のことについて話してると思うんだけど……。
「さっきも言ったけど、三人とも大丈夫?」
『大丈夫!』
「そ、そうですか……」
大和に対する質問と言い、無駄に息ぴったりでげんなりする。
「まっ、この話はこの辺にしてどんどん飲みましょう。はぁとちゃん、大和君について色々言いたいこともたまってるんじゃないの?」
「まぁ、ないこともないですけど……」
「じゃあ、この際だし話しちゃいなさいよ。どうせ、普段は話せないんだからね?」
「そうですよ、心さん。ここはお酒の席。大和さんに対することを何でもぶちまけちゃってください」
「大和に対する事……それじゃあ」
早苗さんたちのお言葉に甘えてあたしは色々話すことにした。
☆ ★ ☆
「ん~、色々話したからスッキリしたな」
残り時間が5分ほどになったので、あたしは大きく伸びをして話を切り上げる。
普段は胸のうちにしまっていることを洗いざらい話したので結構スッキリした。やっぱり、何でもため込むのは良くないね☆
「……なんか、大和君への不満という惚気話を聞いた気分だわ」
「不満の8割がただの惚気で驚きました」
「しばらくこの手の話はやめましょう。私たちがダメージを受けます……」
ただ、話を聞いていた三人は一様に疲れた顔をしていた。もしかしたらあたしばっかり話していたので、聞き疲れたのかもしれない。
「ごめんね、三人とも。あたしばっかり喋っちゃって」
「いいのよ、気にしないで。元はと言えばアタシたちから聞いた事なんだし。それはそうと、はぁとちゃんの住んでるマンションってアタシたちの家から反対方向だけど帰る時大丈夫?」
「ん~、まぁ大丈夫ですよ!」
「えっ? でも今日は大分お酒も入ってますし、危ないんじゃ? 不審者がいないとも限りませんし」
美優ちゃんの言う通りベロベロの時ほどでないとはいえ、そこそこアルコールが回っている。こんな状態で不審者に襲われたらひとたまりもない。
「それなら大和さんを呼んでみてはどうでしょうか? もちろん、大和さんがよろしければですけど」
「今日は仕事、休みのはずだけど来てくれるかな?」
時刻は夜の9時くらいなので、大和が来てくれるのか微妙なところだ。あいつのことだから「めんどくさい」とか言いそう。
「大和君の事だからきっとはぁとちゃんを心配して来てくれるわよ」
「一応連絡してみるけど……」
メッセージアプリを使って大和に迎えに来てほしいと伝える。2,3分後、
『わかった』
大和らしい、素っ気ないメッセージが返ってきた。
「どうでした?」
「わかったって」
「ふふっ♪ やっぱり大和さんは優しいですね。心さんも嬉しそうです」
楓ちゃんの言葉に私はそっぽを向く。表情に出してないつもりだったのに……。
「それじゃあ先に会計して、お店の外で待ってましょうか」
会計を済ませてお店の前に移動する。四人で話しながら10分ほど待っていると、大和が小走りでやってきた。
「悪いな心、待たせちゃったみたいで。早苗さんたちもすいません……って、なんかニヤニヤしてますけど、俺の顔になんかついてますか?」
『いいえ、何も!』
「それならいいんですけど」
「や、大和、来てくれてありがと☆ それじゃあ早苗さんたち、私たちはこれで失礼します!」
「えっ!? ちょ、押すなって!」
これ以上ここにいると危険だ。なにを話されるか分かったものじゃない。ということで、あたしは大和を連れて強引にこの場を退散することにした。
そのまま早苗さんたちが見えなくなるところまで大和を引っ張っていく。
「……ふぅ、この辺りまで来たら大丈夫かな」
「何が大丈夫だ! 強引に引っ張るなって!」
「ごめんごめん。今のは不可抗力だったんだ☆」
「不可抗力って……まあいいや。怒るだけ無駄だし」
「そういう事♪」
呆れる大和をしり目に、あたしたちはマンションまでの道のりを並んで歩く。
「大和、さっきも言ったけど迎えに来てくれてありがとな♪」
「別に気にしなくて大丈夫だよ」
「だけど、よく来てくれたよな。ぶっちゃけめんどくさがってこないと思ったんだけど」
「そりゃ休みだしめんどくさかったけど……一応な」
「もしかしてはぁとの事、心配してくれた?」
「酔った勢いで誰かに迷惑をかけられても困るし」
「台無しだぞ☆」
そんな中で大和がふと訊ねてくる。
「そういえば飲み会で俺の事でも話してたのか?」
「えっ!? な、何でそう思うの?」
「いや、さっき早苗さんたちが俺の事を見てただろ? ということは直前まで俺の噂でもしてたのかなと思って。もしかして、変な噂でも流してたんじゃないだろうな?」
「な、流してないけど……」
ただ、大和について話していたのは事実で……。
今日の会話を色々を思い出したあたしは、恥ずかしさが込み上げてきて思わず大和の肩をバシバシと叩く。
「痛っ!? なんだよ急に!?」
「う、うっさい! 全部大和が悪いんだからな!!」
「意味わかんねぇよ……というか顔真っ赤だけど、どうした?」
「赤くない!!」
あたしたちの関係が進展するのにはまだまだ時間がかかりそうです。
しゅがはの作品、もっと増えろ。