佐藤心が隣にいる日常   作:グリーンやまこう

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撮影

「すいません、八坂さん。ちょっとアイドル部門の部長さんがお呼びなのでいいですか?」

「えっ? アイドル部門ですか? 事務の部長なら分かりますけど」

「何でも、今度のイベントについての相談みたいですよ」

「はぁ、分かりました。それじゃあ行ってきますね」

 

 

 仕事をしていた手を止め、俺は首を傾げながら指示された部屋へと向かう。アイドル部門の部長が事務員の俺に一体何の用なのか。

 ……いや、そういえば最近心が「なんかあたしや楓さんたちで、新たにユニットを組んで撮影をするみたいなんだけど、人が足りてないみたいなんだよね~」と言っていたことを思い出す。

 人が足りないというのは、もちろんプロデューサーやそれを支える人たちのことだ。確かにプロデューサー一人では激務過ぎて倒れてしまうだろう。ただでさえ、参加メンバーの個性が強いのに、それ以外にも現場監督等との連絡が重なれば身体がいくつあっても足りない。

 でも、まさかその仕事が事務員である俺に降りかかってくるわけ――――

 

 

「君にお願いなのだが、今度結成されるユニットの撮影にプロデューサーと共についていってほしいんだ」

「…………」

 

 

 見事に予想が的中してしまった。俺は心の中だけで頭を抱える。

 事務員に声をかけるとか、どんだけ人足りてないんだよ。いや、事務員に声をかけなければいけないほど、プロデューサーさんたちの疲労がたまっているのかもしれない。

 それはいいとして一応、反論を試みる

 

 

「自分は普通の事務員なんですけど、いいんですか?」

「いいも何も、君は事務員でありながら多くのアイドルの信頼を勝ち取っていると千川君から聞いている。だからこそ、プロデューサーの補佐も務まると思って声をかけたんだ」

 

 

 どうやら俺に声がかかったのは千川さんからの推薦らしい。余計なことを……じゃなくて、推薦ありがとうございます。

 確かにアイドルたちと行動する機会は多いかもしれないけど、それにしたって事務員にプロデューサーの補佐が務まるとも思えないんだよな。そもそも、俺なんかに声をかける前に新しい人を雇ってほしいものである。

 

 

「もちろん、プロデューサーの補佐というわけだからそこまで責任の重い仕事はさせないつもりだ。せいぜい、参加アイドルたちの管理や送迎といった雑用になると思うから」

「それでもやっぱり自分には荷が重いというか……もっと適任がいるはずです」

「もちろん、給料は普段より多めにつけておくよ。それに私は行くメリットの方が大きいと思うんだ」

「……というと?」

「予定は一泊二日なのだが、撮影は高級旅館を借りて行われ、アイドルはもちろんプロデューサーやその他の人もその旅館に泊まれる。無論、君も例外ではない。更に夜は料理や温泉にも入ることができる。どうだい? よい条件だろう?」

「…………」

 

 

 ニヤリと黒い笑顔を浮かべるアイドル部門の部長さん。この人、はじめから俺を誘惑して落とすつもりだったな? 

 しかし数秒後、俺はプロデューサーさんのお供として撮影に参加することを決めた。決して食べ物や旅館につられたわけではない。プロデューサーさんの体調を心配しただけである。本当に。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「いやー、八坂君が手伝ってくれるって言ってもらえて助かったよ」

「まぁ、悪くない条件だったんで」

「それでもだよ。俺一人だったら多分、倒れてただろうから」

「笑い事じゃありませんよ……」

 

 

 通路を挟んで隣の席に座るプロデューサーさんが笑顔を見せる。

 早いもので今日は、心たち5人のユニット撮影日になっていた。今日の撮影場所になっている老舗旅館は京都にある。その為、集合時間が若干早めだった。

 昨日、心と共に夜遅くまで準備をしていた影響で眠いのなんの……。いや、準備していたというよりは遊んでいただけのような気がする。

 

 

「それにしてもロケバスなんて初めて乗りましたよ」

「確かに、八坂君が乗ることなんてほぼないだろうからね」

 

 

 恐らく最初で最後のロケバスだろう。というか、最後だと思いたい。

 ただの事務員がロケバスに乗ってること自体おかしな話である。人事部の方、早くプロデューサー候補をたくさん雇うんだ!

 

 

「まだ京都まで結構時間がかかるから、八坂君ものんびり休んでくれていいよ」

「そうしたいのは山々なんですけど……こいつが邪魔なので眠れないというか」

 

 

 俺の肩に頭をのせている張本人に視線を向ける。

 

 

「……すぅ、……すぅ」

 

 

 肩にもたれかかって寝息を立てているのは幼馴染であり、今回のユニットメンバーでもある佐藤心だった。さっきまで起きていたのだが、今は気持ちよさそうに眠っている。

 別に幼馴染だからと言って隣同士になることはなかったのだが、なぜか他メンバーの勧めでこうなった。

 ちなみに、心以外のメンバーは高垣楓さん、三船美優さん、片桐早苗さん、安部菜々さんの四人である。このメンバーが集まれば比較的わいわいがやがやとなるのだが、朝早いため起きている人は一人もいなかった。……チラッと見えたけど美優さんの寝顔は天使です。

 

 

「他のアイドルとかプロデューサーさんとかに聞いていた通り、二人は本当に仲がいいんだね」

「まぁ、腐れ縁の幼馴染ですから」

「……自分にはそれ以上に見えるけど?」

「やめて下さいよ。俺と心はそんなんじゃないですって。そもそも、仮にそんな事になったらスキャンダルものじゃないですか」

「別にうちの事務所は恋愛に寛容だから大丈夫だよ。それにきちんと説明すればファンも事務所も分かってくれるって。長年の幼馴染との恋愛……うーん、話題性が抜群だ。これはこれで仕事になりそう」

「…………」

 

 

 すっかり仕事に染まってしまったプロデューサーさんは放っておくことにする。仕事のことしか考えられないこの人はもうダメだ。完全に346プロの歯車になってしまっている。

 ……俺も人のことは言えないかもしれないけど。

 

 

「……んぅん」

 

 

 そこで心が少しだけ身をよじったので起きたのかと思ったが、すぐに寝息をたてはじめる。幸せそうな顔で眠っているので、いい夢でも見ているのだろう。

 ……涎が垂れてきていたので、服を汚される前にハンカチでふき取ってやった。こういう所がなければ多少なり、動揺してたんだけど……。

 

 

「…………やまと、……あたし、まだまだ飲める……」

「……その辺でやめとけよ」

 

 

 どうやら夢の中でも俺と飲みに行っているらしい。相変わらずの様子に、思わず苦笑いを浮かべながら彼女の頭を優しく撫で……隣からの生温かい視線にハッと我に返る。

 プロデューサーさんがニヤニヤしながら俺の事を見つめていた。

 

 

「本当に仲がいいみたいだね」

「……お願いなので忘れてください。今のは条件反射のようなものだったんです」

 

 

 赤い顔でお願いするも、プロデューサーさんはニヤニヤと笑みを浮かべるばかり。八坂大和、一生の不覚である。というか、条件反射って言い訳もどうかと思う。

 

 ところで普段の言動が言動のため忘れがちなのだが、心の顔は非常に整っている。もちろん眠っている時の顔も例外ではない。悔しいけど普通に美人だ。

 

 

「…………俺、もう寝ますから」

「はいはい」

 

 

 プロデューサーさんからの視線から逃れるようにして、俺は目を瞑る。

 目を瞑ったことによって、心の温もりと心の髪から香るシャンプーの匂いがより一層強くなったが、眠気が勝っていたことによってすぐに夢の世界へと旅立つことができたのだった。

 

 ちなみに、隣の席で仲良く肩寄せ合って眠る姿をアイドルの皆さんに撮られていたのはまた別のお話。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「おーい、心。そろそろつくから起きてくれ」

 

 

 ロケバスを走らせること数時間。間もなく目的地である旅館に到着するとのことだったので、未だに隣で眠りこけている心の肩を揺さぶって起こす。

 こいつのせいで俺の左肩が結構なダメージを受けた。

 

 

「んにゃう……まだ、はやいって……後一時間」

「一時間も待ってたら撮影ができなくなるから。ほらっ、寝ぼけてないで早く起きろ」

「んんっ……あれっ? もう着いたの?」

 

 

 そう言ってトロンとした瞳を向ける心。俺はそんな心の意識を覚醒させるためにオデコにデコピンをおみまいする。

 

 

「いたっ!? 何すんだよ!?」

「あと5分くらいで到着するから降りる準備しとけって。美優さんと楓さんも起きてください」

 

 

 ぷりぷり怒る心を適当にあしらいつつ、後ろで眠っていた二人を起こす。プロデューサーも早苗さんと菜々さんを起こしていた。

 

 

「おい、大和。別にデコピンする必要はなかったんじゃない?」

「ごめん。なんか前髪がデコピンをしてくださいって風に分かれてたから」

「大和もおでこ出せ☆」

「お断りします」

「二人とも、夫婦漫才なんかしてる場合じゃないよ。もう着いたから早く降りる準備して」

『夫婦漫才なんてしてないです(してないぞ☆)』

「そういう所なんだけど……」

 

 

 呆れたような表情を浮かべるプロデューサーさんの指示に従いつつ、俺たちはロケバスを降りる。

 

 

「うわー、すごいわね」

「ほ、ほんとですね……こんなすごい旅館を貸し切ってるなんて夢みたいです」

 

 

 目の前の旅館を見て早苗さんと美優さんが感嘆の声をあげている。ただ、そんな感想を述べたくなるのも分かる程、目の前にある旅館は雰囲気もあり歴史を感じられるものだった。

 

 

「高級感が溢れてる……これは夜が楽しみだな♪」

「まずはちゃんと撮影してからだぞ?」

「分かってるって! 今のははぁと流のジョーク☆」

 

 

 心はいつも通りで安心した。パチッとウインクを決める心に、俺は苦笑いを浮かべる。

 まぁ、こいつはよっぽどのことがない限り緊張するようなタイプじゃないからな。取り敢えず旅館の中に入り、チェックインを済ませて自分たちの荷物を部屋に運ぶ。

 部屋割りは楓さんと美優さん、それ以外の三人という感じに分かれていた。俺はプロデューサーさんと一緒の部屋だ。

 

 

「それじゃあ荷物を自分の部屋に置いてから、もう一度ここに集合で」

 

 

 プロデューサーさんの指示を受けてそれぞれの部屋へと向かう。部屋の内装については省略するが、部屋はびっくりするくらい広かった。多分、今後こんな部屋に泊まることはないんだろうなと思うくらいに。

 

 

「よしっ、みんな揃ったみたいだし、今日一日のスケジュールを改めて説明するから。大和君も含めて、みんなよく聞く様に」

 

 

 再び全員が揃ったところで、プロデューサーさんが一日の流れについて説明する。

 まずは旅館で新曲の撮影。その後、場所を移してロケを行うらしい。俺のやることは新曲の撮影がつつがなく進むようサポートすることと、ロケ場所までの送迎である。

 

 

「それじゃあ大和君、アイドルたちの事は任せたよ。俺はロケ場所の人たちと打ち合わせをしてくるから」

 

 

 あらかた指示を出し終えたプロデューサーさんは足早に旅館から出ていく。

 

 

「……さて、じゃあ今日は撮影よろしくお願いします。自分はサポートすることくらいしかできませんけど、なるべく皆さんのお役に立てるよう頑張るので」

 

 

 俺は5人に向かって頭を下げる。

 

 

「そんなに謙遜しなくても大丈夫よ大和君。私たちは大和君に期待してるんだから!」

「そうですよ! 菜々も、撮影頑張りますから!」

 

 

 早苗さんたちからの激励を受け、気持ちが少しだけ楽になる。これなら今日の撮影も何とか進めていけそうだ。

 

 

「ありがとうございます。それではこの後早速撮影になりますので、あちらの部屋で着がえを済ませてきてください」

 

 

 そう言って5人は着がえの部屋に向かい……最後に心が俺の前で立ち止まるとポンッと肩を叩いてきた。

 

 

「……力抜いて、頑張れよ」

「……お前こそ」

 

 

 逆に彼女の背中をポンッと叩くと心はニコッと微笑む。こうして今日の撮影が始まったのだった。今思い返してみると、心の一言は凄くありがたいものだったと思う。

 ちなみに新曲の撮影とロケは大きな遅れもなく、完了することができました。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「おぉー……ここがこの旅館の温泉!」

 

 

 撮影などの仕事を終え、片付けなどを済ませた俺は一人露天風呂で声をあげていた。旅館を貸し切っているだけあって、他の人たちは誰もいない。プロデューサーや他のスタッフさんたちも既に入浴を済ませているらしく、浴場は貸切状態だ。

 こんな機会も滅多にないので、存分に堪能させてもらうことにしよう。

 

 ちなみにプロデューサーさんは早苗さんたちと一緒に飲んでいるみたいだ。潰されないように気を付けてください。適当に身体を洗ってから、温泉にゆっくりと浸かる。

 

 

「あぁ~~」

 

 

 思わずおっさんのような声が出たが許してほしい。

 俺も早いもので26歳。そろそろおっさんと言われてもおかしくない年になってきた。そう考えると心はおば……これ以上はやめておこう。

 数分、のんびり浸かった後、俺は楽しみでもあった露天風呂へ。

 

 

「結構広いなぁ~」

 

 

 予想していたよりも一回りほど大きくて驚いた。辺りは静かで、落ち着いて温泉を楽しむのにはもってこいの状況である。

 この温泉の効用は肩こりや冷え性にきくんだとか。最近、デスクワークの影響で肩こりが酷いのでありがたい。

 そんなわけで俺は先ほどと同様、「あぁ~……」と声に出しながら温泉に浸かる。すると、

 

 

「……大和?」

 

 

 竹垣の向こうから心の声が聞こえてきた。そういえば、竹垣越しに女性用の露天風呂が繋がってるとか書いてあったっけ。

 

 

「ん? どうした心?」

「やっぱり大和だ♪ おっさんくさい声が聞こえてきたからもしかしてって思ったけど」

「悪かったなおっさんで。でも、俺だって年齢を四捨五入したら30だし。十分おっさんだよ。そう考えると心もおば――」

「それ以上は禁句、だからな?」

 

 

 壁越しでも感じる威圧感に俺は口を噤む。年齢の話はやっぱり駄目だったらしい。

 

 

「まっ、年齢のことはいいとして、男湯は大和一人?」

「そうだよ。そっちもか?」

「うん、こっちも心の貸切状態! いやー、極楽だよ~」

 

 

 心はリラックスしたような声を上げる。普段使っている風呂はこんなに広くないので、リラックスする気持ちはよく分かる。

 

 

「ところで早苗さんたちとは一緒じゃないのか?」

「早苗さんたちは一足早く入っちゃったよ。……もしかして、美優ちゃんたちを狙ってたり? うわ~、大和ってばエッチだなぁ~」

「そんなわけないだろ。色々やってたらこんな時間になっただけだ」

「それなら早苗さんに通報しないでおいてあげる♪ それに、美優ちゃんたちの代わりに、このはぁとがいるからな☆」

「心では正直、代わりにならないかな?」

「正直すぎんだろ☆ はぁとのダイナマイトボディに酔いしれろ☆」

 

 

 心がダイナマイトボディとか言ったおかげで色々想像してしまったが、すぐにその想像をもみ消した。

 

 

「それにしてもほんと夢みたい。5人で撮影できたこともそうだけど、こんな高級な旅館に泊まれるなんて思わなかったし、まさか、こうして大和と露天風呂で話すとも思ってなかったし♪」

「ほんとだよ。俺もまさかただの事務員なのに、こんな旅館に泊まれるなんて夢にも思わなかったからな」

「言われてみると大和って普通の事務員だもんな。こうして撮影してると分からなくなりがちだけど」

 

 

 そう言って心が笑い声をあげる。俺も思わず苦笑いを浮かべた。旅館の人も俺が事務員だと知って驚いてたからな。

 

 

「……ねぇ大和。この後時間ある?」

「あるけど、どうかしたのか?」

「いや、この旅館の周りって結構雰囲気いいから、ちょっと散歩でもしたいなって。もちろん、大和が良ければだけど」

「大丈夫だよ。俺もこのあたりの雰囲気はいいなって思ってたから」

「よしっ、それなら決まりね! じゃあ着がえを済ませたら受付前の休憩スペースに集合でよろしく☆」

 

 

 そこで竹垣越しの会話を打ち切り、俺は脱衣所へ。着がえを済ませ、待ち合わせ場所の休憩スペースに向かう。

 5分ほど待つと、心が小走りでやってきた。

 

 

「ごめん、待たせちゃった?」

「5分くらいな」

「もうっ! そこは『いや、待ってないよ』でしょ?」

「幼馴染だし、いいかなって。むしろもっと遅いと思ってたし」

「まぁ、結構急いだからね。そんな話はいいとして、早速いこっか?」

 

 

 二人並んで旅館の外に出る。外の空気は涼しく、温泉で火照った身体にちょうどいい。心も気持ちよさそうに身体を伸ばしていた。

 その後、しばらく歩いたところに二人並んで腰かけられるようなところがあったので俺たちは腰掛ける。

 夜空には幾つもの星が煌めき、輝いていた。

 

 

「……なんか不思議な気分。大和とこうして撮影に来て、一緒にこの夜空を眺めてるのって」

「俺も全く同じ事思ってた。346プロにはいる時には一ミリたりとも想像してなかった光景だし」

 

 

 就職前の自分に言ってあげたいくらいだ。お前は幼馴染と一緒に京都の夜空を見上げることになるぞって。

 そこで心が俺の肩に頭を預けてくる。

 

 

「どうした?」

「いいじゃんたまには。それにバスの中でもやってたから今更でしょ?」

 

 

 いいんだけど、その時とは状況が全然違うんだよな……。

 

 

「もしかして、照れてる?」

「照れてねぇよ。重いだけだって」

「言い訳すんなって☆ アイドルしゅがーはぁとの頭を預ける相手なんて、そうそういないんだから!」

「へいへい、感謝してまーす」

「もうちょっと気持ちを込めろ☆」

 

 

 なんていつも通りのやり取りを繰り返したところで、心がぽつりと呟いた。

 

 

「……大和。今度はさ、二人で来ようよ」

「来るってこの旅館にか?」

「うん。お金貯めて、今度は撮影とか抜きで大和とのんびりしたい」

「俺はいいけど、心は本当にいいのか? むしろ美優さんたちと一緒の方が……」

「大和と二人じゃなきゃやだ」

 

 

 二人がいいと断言した心に気恥ずかしさを覚えた俺は、頬をかきながら視線を夜空に移す。

 心はどう思ってるのか分からないけど、俺は今の言葉を聞いて少しだけ意識してしまった。

 

 彼女を一人の女性として。

 

 

「…………」

 

 

 心は俺の返事を待っているかのように特に何も言わなかった。

 表情は髪に隠れてよく分からない。ただ、彼女の耳は真っ赤に染まっていた。

 

 

「……いいよ。じゃあ次は二人で来ようか」

「…………楽しみにしてる」

 

 

 その言葉の後、しばらく無言の時間が続く。しかし、居心地の悪さは特に感じなかった。むしろ安心感すら覚えるほど……。

 

 

「……そろそろ戻ろうか。あんまり遅くなると早苗さんたちが心配するかもしれないし」

「うん、わかった」

 

 

 立ち上がった俺たちは旅館までの道を歩き始める。その間は会話も少なく、あっという間に旅館に到着した。

 俺は心を泊まる部屋の前まで一緒に歩いていく。

 

「……ありがとね、大和」

「おう、気にすんなって。それじゃあおやすみ」

「うん」

 

 

 そのまま心が扉を開け――――

 

 

「やまとくぅ~ん!!」

 

 

 プロデューサーさんがめっちゃ酔っぱらっていた。顔は真っ赤になっており、呂律も若干回っていない。

 その後ろでは早苗さんたちが申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 

 

「ごめんね大和君。プロデューサーと飲んでたんだけど、思いのほかお酒が回っちゃったみたいで、さっきからこの調子なの。少しだけ付き合ってもらえない?」

 

 

 俺と心は顔を見合わせて……苦笑いを浮かべた。

 

 

「それじゃあ付き合わせてもらいますよ。俺はまだお酒も入ってないんで」

「はぁとも付き合っちゃうぞ☆」

「ごめんね。無理に付き合わせちゃって。あたしたちも一緒に飲むから」

「よっしゃー! 今日はとことん飲むぞーー!」

 

 

 結局この日は日付が変わるまで飲むことになるのだった。




 作者、今日の面接を終えてやっと就活が終わりました。後はどこの企業に行くか決めるだけです。
 あと、風邪の回があったと思いますが、しゅがは視点の話に需要があればやりたいかなと思っています。
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