「ねぇ大和」
「何だよ?」
「ひま~。かまって~」
「暇なら俺の部屋でゴロゴロしてないで、早苗さんや美優さんたちと遊びに行けばよかったじゃん」
「早苗さんたちはみんなお仕事だし、一人で出かけようにも今日は雨だからやることなくて」
「だからと言って俺の部屋でゴロゴロする理由にはならんだろ……ほらっ、掃除の邪魔だからどいてくれ」
「あーい」
「転がって移動するんじゃありません」
カーペットの上をゴロゴロと転がりながら移動する心にため息をつきながら、掃除機をかける俺。朝から困ったものだ。
ところで今日は普通に平日である。にもかかわらず俺がどうして部屋で心をあしらいつつ掃除をしているのかというと、先日の撮影が泊りがけだったということで会社からお休みを頂けたのだ。
まぁ、撮影日からは一週間以上たってるんだけどね。心は心で普通に仕事が休みらしい。彼女は最近働き過ぎということもあったので丁度いいだろう。
そんなわけで休みの被った俺たちだったのだが、先ほども言った通り外はあいにくの雨。買い物くらいになら出てもいいけど、遊びに行くとなるとちょっと厳しい天気である。
だからこそ俺は、普段できない部屋の掃除をしようと意気込んでいたのだが……。
「やまと~、喉渇いた」
「……飲み物なら冷蔵庫の中に入ってるから。勝手に飲んで大丈夫だぞ」
「分かった~」
気の抜けた返事をしながらトコトコとキッチンに向かう心。
冒頭の会話で分かっていた通り、自分の部屋にいても暇だという理由で心が朝から俺の部屋に来てダラダラしていた。掃除の邪魔であることこの上ない。
今日は完全にオフモードのようで、いつもはツインテールに纏められている髪はおろされ、格好もTシャツに短パンと、心のファンが見たら「誰だお前!?」ってなるような感じになっている。しかし、俺は見慣れた格好でもあったので特に気にしてはいない。
彼女がどいたおかげで掃除がしやすくなったので、今のうちにサクッと掃除機をかけてしまう。後はトイレ掃除と風呂掃除をして取り敢えず終わりかな~。
「飲み物ありがと。掃除はもう終わりそう?」
「残りはトイレ掃除と風呂掃除だけだよ」
「まだ掃除するの? ほんと、大和って顔に似合わず綺麗好きだよね」
「綺麗好きなのは否定できないけど、顔に似合わずってのは余計だ」
「じゃあ大和の掃除が終わるまで、ゲームして待っててもいい?」
「お前は本当に自由だな。まあいいけど。ゲームの場所はいつも通りの所だから」
「了解!」
無駄にかっこいい敬礼をしつつ、心はゲームが置かれているテレビ台の下をごそごそと漁りはじめる。
俺は本を読む以外にも、ゲームが好きだったりするので暇な時はよく髭が特徴的な主人公で遊んだり、敵を吸い込んでコピーするヒーローのゲームで遊んだりしていた。
心もたまに俺の部屋に来てやったりしているので、多分どちらかをプレイするのだろう。というか、俺はその二つしか持ってないし。
他にも欲しいゲームは沢山あるんだけど、仕事が忙しくて結局積むだけで終わっちゃうんだよね。
そんな事はどうでもいいとして、俺はトイレ掃除へ。風呂掃除も終えて戻ってくると、心が鼻歌を歌いながら髭親父のゲームをプレイしていた。
「この前の撮影の曲を口ずさみながらプレイできるとか、慣れたもんだな」
「もう何回も大和の部屋でやってるからね~。全クリもしたことあるから、これくらいはお茶の子さいさいだよ。多分、大和よりもうまい!」
「そこはゲームの持ち主として否定したいところだけど、否定できないから困る」
持ち主よりも、持ち主じゃないやつの方がうまいなんておかしな話なんだけどね。しかし、こればっかりは事実なのでどうしようもない。
俺はゲーム好きだけど、プレイがうまいわけではないしやり込むわけでもないからな。
「暇な時にもっと練習すればいいのに」
「一週目は結構頑張ってプレイするんだけどな。二週目になると新鮮味が薄れて、やる気がなくなるんだよ」
「贅沢な奴だな~。こんなに面白いゲームなんだからやり込まないと損だろ?」
「俺はどっちかって言うと、誰かのプレイを眺めてる方が好きみたいなんだ。ほらっ、心って楽しそうにゲームをするから見てて飽きないし」
「それならもっと釘付けになるといいぞ☆ はぁとは逃げないから☆」
「おい、よそ見してると髭親父が死ぬって……あっ、死んだ」
「…………今死んだの大和のせいだから」
「どう考えても、はぁとは逃げないとか言ってたお前の不注意だろ……」
恨みがましい視線を向ける心だったが、それほど気にしてはいないようですぐに意識をゲーム画面に集中させる。今やっているステージは結構難しいらしく、ノーミスでいくにはかなりの集中力がいるみたいだ。
その間、心は何も話さないので俺は暇になる。
(……なんかこうして集中してる心を見ると、悪戯したくなるな)
というわけで俺はゲームに熱中する心の耳元に顔を寄せ、
「ふぅ~」
「うひゃぁ!?」
心が甲高い声を上げ、コントローラーをカーペットの上に落とす。そのせいで、髭親父の挙動がおかしくなり敵の攻撃をもろに受けていた。
「何すんだよ大和!!」
「すいません。ちょっとした出来心で……今の悲鳴、すごく可愛かったぞ?」
「なにも嬉しくない言葉、どうもありがと! 次、耳に息を吹きかけたらグーで殴るから」
ギロッと俺を一睨みした後、心は再びゲームに意識を戻す。しかし、睨みつけられたくらいで悪戯をやめる俺ではない。
俺は心の首元に狙いを定め、さわさわと指を這わせた。
「きゃぁっ!?」
今回も可愛らしい悲鳴をあげてコントローラーを落とす心。もちろん、髭親父の挙動はおかしくなり敵の攻撃をもろに受け儚く散っていった。
その様子を見ていた俺は耐え切れずに口元を押さえながら下を向く。
「……くくっ……ぷっ、……お、お腹痛い」
「やーまーと? 今度やったらグーで殴るって言ったよね?」
「……ぷっ……、はぁはぁ……いや、耳以外ならオッケーかと思って」
「そういうのを屁理屈って言うんだぞ☆ そんな大和にはお仕置きが必要みたいだな♪」
コントローラーを机の上に置いて、心がニッコリと気味が悪いくらいの笑みを浮かべる。これはもう逃れることができないだろう。
全てを悟って目を瞑った瞬間、心のチョークスリーパーが炸裂した。ちなみにゲームを邪魔して心のチョークスリーパーをくらうのは毎回の事です。
☆ ★ ☆
「全く、大和が邪魔しなければもっといい感じにゲームを進められたのに!」
「だからごめんって。それに、お詫びとして昼飯を作ってやっただろ?」
「昼飯っていっても余り物で作ったチャーハンじゃん」
「美味しくなかった?」
「……美味しいけど」
不満げな表情を浮かべながらチャーハンを口に運ぶ心。ゲームがひと段落付いたため、俺たちは昼食を食べていた。
冷蔵庫に入っていた食材を使ってチャーハンを作ったのだが、割と美味しいと思う。心も先ほどのことについて文句を言いながらも、黙々とチャーハンを食べてるし。
「それで午後はどうしようか? またゲームでもやる?」
「ゲームは飽きたから、どこかに行こうよ。雨も弱くなってきたし」
窓の外を見ると相変わらず雨は降っているのだが、朝よりは大分弱まってきていた。これなら多少遠出をしても大丈夫だろう。
「それじゃあ駅前の家電量販店に行こうぜ。丁度新しいゲームが欲しくてな」
ちなみに欲しいゲームというのは、剣をメインとしたアクションを駆使して様々なダンジョンを攻略するゲームの最新作である。
「ゲームに飽きたから出かけるのに、結局新しいゲームを買いに行くって何か矛盾してない?」
「まぁまぁ、そう言わずに。新しいゲームも増えるし、家電量販店は意外と楽しめるから大丈夫だって」
「うーん……まぁいっか。あたしもそろそろ次のゲームをやりたいと思ってたところだし!」
「なんか新しいゲームを買っても心が主にやってそうな気がする」
「それはいつものこと☆」
午後の予定が決まったところで俺たちは食器を片付け、出かける準備をする。心も今の格好では色々とまずいので、着がえに部屋へと戻っていった。
数分ほど待つと心はいつも通り、変装用の格好で戻ってくる。
「お待たせ~。はぁとの準備はバッチリだぞ☆」
「オッケー。そんじゃのんびり向かいましょうか」
傘をさしつつ、俺たちは駅前にある大型の家電量販店に向かう。15分ほど歩いたところで目的のお店に到着した。
「えっと、ゲームとか玩具のコーナーは……5階だな」
エスカレーターに乗ってゲームや玩具が販売されてている階へ。
「おー、久しぶりに来たけど結構広いんだな。それに玩具もたくさんある!」
心が辺りを見渡して感嘆の声を上げる。
俺はそこそこの回数来ているのでどうにも思わないけど、心にとっては新鮮なものに映るらしい。
「はしゃぐのはいいけど、まずはゲームコーナーに――」
「大和! こっちに懐かしいアニメの玩具があるよ!」
「聞いちゃいない……って、自分で歩けるから引っ張るなって!!」
こいつのどこにこんなパワーが……。なんて思いながらグイグイと心に引きずられていく。いや、もしかすると自分が非力なだけかもしれない。
「うわぁ! このアニメ、懐かしい! よく大和の家で一緒に見てたよね?」
「ほんとだ。俺の実家にまだこのアニメのDVD、置いてあるよ」
昔よく見ていたアニメのグッズを眺めながら、懐かしさに浸る俺たち。
彼女の言う通り、家も隣だったせいで小学生の頃はよく家でアニメを見ていたものだ。
「あの頃はよく、このアニメのキャラクターになりきって遊んでたな~」
「お前が主人公の真似したいがために、俺は毎回敵キャラで意味もなく倒されてたのもいい思い出だよ」
「そんな事あったけ?」
「そんな事あったよ。というか、その顔は絶対覚えてるだろ?」
「バレた? いやー、あの頃ははぁともやんちゃだったよ」
「やんちゃは今でものような気がするけど」
「うるさいぞ☆」
懐かしいアニメの玩具を眺めるのはこの辺にして、俺と心は今日の目的であるゲームコーナーへ。
「えっと、欲しいゲームは……おっ、あったあった」
「それが欲しかったゲーム?」
「そうだよ。これは全世界でも人気があって、俺も一度でいいからやってみたいと思ってたんだ」
「ふぅーん。それならあたしも楽しめそうかな。やり込み要素も結構ありそうだし!」
「攻略はネットとか見ながらになりそうだけどな。取り敢えず買ってくるから、心はゲームでも見て待っててくれ」
ゲームコーナーに心を残して俺は会計に向かう。レジがそれなりに混んでいたおかげで若干時間がかかってしまった。
会計を済ませた俺は急いでゲームコーナーへと戻る。
(あれっ? 心がいない……)
一瞬焦ったが、隣接していたガチャガチャのコーナーに心の姿を見つけたのでホッと息を吐く。
「何見てんだ?」
「あっ、大和。これ、さっき見てたアニメのガチャガチャみたいだよ」
彼女が見ていたのは、先ほど俺たちが懐かしいと盛り上がっていたアニメのガチャガチャだった。
このアニメは今度リメイク版が放送されると書かれていたので、このガチャガチャもそのPRの一環なのだろう。
「ねぇ、こうして見つけたことだし、記念に一回だけまわしてみようよ!」
「記念って、だいぶ大げさだな」
「いいじゃん別に~」
「まぁいいけどな。それじゃあ俺から」
そう言って俺たちはガチャガチャをまわす。
結果は、
「……まさか二人して同じものが出るとは」
「ある意味レアだよね。こんな事、滅多にないんじゃない?」
家電量販店からの帰り道。傘を右手でさしつつ、俺は左手で先ほど引いたキャラクターのストラップを眺める。そして、全く同じキャラのストラップを心も眺めていた。
「だけど、あたしは満足かな。このキャラクター、主人公兼ヒロインみたいな存在だし、当時私の中で一番好きなキャラだったからね!」
ニコッと笑顔を浮かべる心を見ていると、記念に引いてよかったかなと思う。このストラップは家のどこかに飾ることにする。
流石に鞄のどこかにつけるのは恥ずかしいからやらないけど。まぁ、職場で使っている鞄につけていけば小学生くらいのアイドルたちに羨ましがられるかもしれないけどね。
「満足してくれたみたいで良かったよ。それで、この後はスーパーに寄っていってもいいか? 晩ご飯の食材でも買おうと思って」
「それなら、今日のお礼としてはぁとが大和の為に晩御飯を作ってあげるよ!」
「心が俺の為に晩御飯を作ってくれるなんて……明日は雪でも降るんじゃないのか?」
「バカにすんじゃねぇよ☆」
「冗談はこの辺にして、それじゃあお言葉に甘えることにするよ」
「よろしいっ!」
というわけで俺たちはスーパーへ。カゴを持った俺に心が訊ねてくる。
「ところで大和は何が食べたい? 基本的には何でも作れるけど」
「悩みどころだけど、カレーとハンバーグで」
「どこかの生徒会長の好みと一緒だな。それじゃあ材料を探しに行こう!」
カレーとハンバーグの材料をカゴの中に放り込み、後はサラダ用の野菜もついでに放り込んでおく。
お酒は明日、二人とも仕事だということもあってやめておいた。心はぶーぶーと文句を言ってきたけど……。
そんなわけで買い物を済ませた俺たちは部屋に戻ってきた。5時間ほどしか部屋をあけてないのに、なんだか久しぶりに帰ってきた気分になる。
「んじゃ、早速作ってくから。大和も手伝って!」
「野菜を切ったり、サラダを作るくらいでいいか?」
「それで十分! えっと、エプロンはどこだっけ?」
「確かこの棚の中に……あった。相変わらず派手なエプロンだよな」
「はぁとが気に入ってるんだからいいんだよ☆」
俺の手からエプロンを受け取った心は、手慣れた様子でそのエプロンを身に着ける。そのまま二人でキッチンに立ち、料理を始める。
「大和、これ切っといて」
「了解」
「それ、取ってもらってもいい?」
「これか?」
「うん、ありがと」
「……うわっ!? こぼしちゃった」
「拭いとくから、心はそのまま料理を進めといて」
こんな感じで手際よく料理を進めていき、大体一時間くらいたったところで晩御飯が完成した。
テーブルに完成した料理を並べ、俺と心は手を合わせる。
『いただきます』
まずはサラダを食べ終えてから、心の作ってくれたカレーをスプーンですくって口に含む。
「……ん、相変わらずうまいな」
「良かった。それじゃああたしも一口。ん~、やっぱりおいしい!」
「やっぱりって……気持ちは分からなくもないけど。心の作る料理は基本的に美味しいし」
そう言いながらハンバーグも口に含む。うん、こっちも文句なしに美味しい。
「あんまり褒めんなって☆ 褒めても何もでないぞ?」
「だけど一番おいしいのはサラダかな」
「それを本気で言ってたら、大和のカレーにタバスコを入れまくるからな☆」
「一番おいしいのは心の作ってくれたカレーとハンバーグです」
ニコニコしながらタバスコに手を伸ばす心。命の危機を感じたので全力で謝った。
その後は普通に雑談を交わしながら心の料理の食べ進めていき、
「ふぅ……ごちそう様。文句の言いようがないくらい美味しかったよ」
「満足してくれたみたいで良かったよ。余ったやつは冷蔵庫に入れておいてね」
「了解。それじゃあ皿洗いは俺がやっとくから」
「いいの? じゃあお願いします!」
心はそのままソファへと向かい、俺はサクッと皿洗いを済ませる。手を拭きながらリビングへ向かうと、心がソファにぐでーんと横になっていた。
「食べた後にすぐ横になると牛になるぞ?」
「なるわきゃないよ~」
「……お腹は誤魔化せないみたいだけど?」
「食べ終えたばかりだからだよ。というか、さりげなく腹を見んな☆」
この日は10時くらいまでダラダラと話した後、お開きとなった。
ちなみに、この日の事を心が早苗さんたちに言ったところ「なに、二人とも付き合ってるどころか結婚したの?」と言われ、赤面したのは別のお話。