最下層…マスタールーム。
入口で様子をうかがうと、そこには、パッと見て二十歳位の人族に見える女性が、こちらに気づく事も無く一人でせっせと土の様な物ををこねていた。
そして、その土塊のような物に右手で魔力を注ぐと、小さな虫魔物が生まれた。
…しかし、上手くいかなかったようですぐに土に返ってしまった。
「失敗か…」
と呟いて、また同じ作業を始めた。
最結界が破られたのはわかってる筈なのに、迷宮主は特にこちらに干渉してくることは無かった。
AR表示上では魔族でレベルは50、ただしスキルは不明表示だった。
何かしらの阻害スキルかアイテム持ちなんだろう、俺がスキルを読めないとはかなりの物だ、注意しないとね。
「そこで何をしている」
少し離れた所から声をあげる。
隣のリザも魔槍を突き出し、威嚇の構えをしている。
俺の動きに瞬時に合わせ、油断しない所が実に頼もしい。
因みに、先程作った槍は妖精鞄へ収納済みだ。
俺の声に、魔族の女性はこちらを向いて立ち上がる。
髪は少し赤みがかった茶髪、頭には情報隠蔽用のアイテムなんだろうか?赤いバンダナを巻いており、顔立ちはわりとはっきりしていて、大きな瞳が印象的だ。
胸は…まあ平均位だろうが、俺の気を引くレベルでは無い。
「ようこそ勇者さん…と言いたい所だけどここはアナタ達レベルがたどり着ける場所では無いわ…。どこか抜け道でもあったかしら?それともチートコードでも流出してた?」
レベル詐称で20の俺達をみて彼女はそう言った。
チートコードなる言葉が出る所を見ると、転生した日本人の影響を受けているのだろう。
「お前がここの主か…?以前の者と違う様だが?」
「…主を知ってる?…そのレベルで?…どうやらただの探訪者では無いようね…残念ながら前の主は知らないわ…たまたまこの迷宮が空いてたから主になっただけよ…取り戻しに来たの?」
「それはお前次第だ、この場所は我卷族にとって神聖な場所である、それを荒らすようなら容赦はせぬ」
「…成る程…隣の部屋が結界で塞がれてたのはそういう理由か…」
そこまで言うと、女性魔族はふっと笑みを浮かべた。
「ここは既に私の物、指示は受けないと言ったら?」
「容赦はせぬ」
その言葉に緊張が走り、隣のリザの魔力をあげる。
俺は手でまだ制止するよう促す。
その様子を見た女魔族が、今度はリザの方をじっと見つめた。
「アナタがその卷族…?」
「答える義務は有りません!」
二人の間の緊張が更に強くなる。
にらみ合いが続いた次の瞬間…女魔族の右の拳が魔力を込めてリザを襲う。
…だが遅い…既にリザはその右手を魔槍で払い落とした後で、その勢いのままシッポで女魔族を倒し、起き上がろうとする前に、その首に槍を突き出した。
「まだ抵抗するつもりですか?」
そのリザの冷たい言葉に、女魔族は両手を広げそのまま力を抜いた。
「チートプレイヤーに力で対抗するほど無意味な事はしないわ」
どうやらかなりの看破のスキル持ちなのか、こちらの偽装に気づいたようだ。
…それにしても、この女魔族は動きが遅すぎる。
こっちがレベルを下方偽装してるのとは逆で、20位のレベルを50に上位偽装して見せてる感じだ。
だとしたら、レベルを上位偽装してる理由はなんだ?
その思考を巡らせてる時、俺の危険感知スキルが働いた。
…女魔族の右手は力を抜いたフリをして、また魔力を貯めていた。
見え見えの行動だ。
「リザ右手だ!」
「承知!」
リザも当然、油断はしておらず槍を突き立て、右腕を床へ突き刺した。
「ギャー!」
悲鳴を上げながら、必死に右腕を抜こうとするが、完全に地に打ち付けられた右腕はびくともしない。
「こんな所で…こんな所で…終われないわ!」
だがその叫び声もむなしく、その身体は足先から一瞬で土塊に変わって行った。
…固定された右腕を残して…
しまった!
そう気づいた時には既に遅く、右手の人差し指から璋気のような黒い光が放たれる。
リザの足下を的確に撃ち抜くと、そこから空間が歪み複数の触手のような物にリザの身体が抵抗する間もなく引き込まれ…一瞬で落ちて行った。
そしてその後に続くように、土塊に残されていたバンダナが風に舞うように一緒に吸い込まれて行った。
早い!…明らかに以前、ゼンにミーアが捕らえた時とは比べ物にならない。
色々な思考からの魔術じゃ間に合わない。
あわてた俺は、本能で飛び込んだ。
…暗闇のなかをひたすらリザを追う。
余計なジャミングで魔力がコントロール出来ない。
だが、飛び込んだ判断は間違っていなかったらしく、すぐにリザを捉える。
咄嗟に伸ばした手がリザの手を掴む…
…しかし、俺が差し出した手は弾き飛ばされる。
…彼女の意思によって。
やはりか…
リザのAR表示に憑依状態が追加された。
そして数秒後、俺達は魔族の用意した闘技場にて向かい合う事になる。
「ようこそ、我が迷宮ジムへ」
俺の前に現れたのは捕らわれたリザ、頭には先程のバンダナを巻いている、恐らくこれが魔族本体。
そしてその手には、先程作ってやった槍を携えている。
「…この身体は良いわね…体力、魔力、スタミナ申し分無し、土塊で作った身体とは大違い、各攻撃に対しての防御も高いし、防具や補助アイテムもチートレベルと言っても良いくらい」
そう言うと、リザでは絶対に見せない冷たい表情で、笑みを浮かべた。
リザとしての精神はすっかり抑えつけられたようだ。
なるほど、身体が馴染まないので動きが遅かったのか。
…それにしても、精神魔法なども弾き返す俺のお手製鎧や、各種アイテムまで干渉させないとは大した魔力だ。
「リザの精神を抑えるとは大したものだな」
「…アナタが本気でそう思ってるなら、彼女の事を一番理解してないのはアナタって事ね…」
「女性の心など無理に知ろうとするは不粋、男として出来ん!」
「…アナタのそういう態度がいつも彼女を不安にさせている事もわからないようね…可愛そうに…構えなさい!彼女に変わって叩きのめして上げる」
不安にさせている?
俺が?
その理解不能の言葉に少し苛立ちを感じた。
「ならばそうさせてもらう」
瞬時に手を伸ばし、バンダナを剥ぎ取ろうとする。
しかし、がっちりはまり込んだそれは簡単には取れない。
無理矢理剥がすことも考えたが、リザへの影響を考えれば難しい。
さてどうしようか?…と思案しているときリザ側から動きがあった。
槍を持つ手を下げ、必死に抵抗しているのか身体が震えている。
「…ご主人様…私のことは構いません…この魔物を滅して下さい…」
「何、我がコントロールから逃れるとは…大した精神力だ…」
まるで一人芝居のように、お互いの声が会話する。
二人の精神がせめぎあってるのか、身体はだんだん震えが大きくなる。
「うっ…ぐ…ご主人様…さあ早く…」
「無茶をする…お前身体にはかなりの苦痛が伴ってるはずなのに…」
恐らく、リザの身体には言葉通り、相当な負荷が掛かっているはずだ。
「リザ、無理をするな…後は俺がなんとかするから」
「…しかし…それでは…」
なおも抵抗を続けるリザにあまり使いたく無い言葉だが
「これは命令だ」
と伝える。
「…わかりました…」
既に奴隷ではないので効力は無いが、リザは俺の命令を受け入れてくれた。
そして、身体の震えも止まり、魔族は槍を一振りした後、再び冷酷な笑みを浮かべる。
「くく…良く仕込んだもんだね」
これで彼女が完全にリザを支配したと見て良いだろう。
さーてどうしたものか…
…うん、頭ではわかってる。
どんな方法をとってもリザを救える…
…例えキズつけても元に戻せる事も…
…だけど…心が動かない…
仲間を攻撃するって行為が嫌だ。
訓練とかならともかくね。
それに、割り切ってぶつかって行っても、相手の能力がわからない現状では、俺の力でむやみに攻撃もしずらい。
しかし、このままだと不味い…内面から崩壊してリザの意志が消え、魔族に完全に身体を奪われる。
もしくは肉体的な崩壊の可能性もある。
(ここは譲るべきか…?)
少し弱気になった俺の元へ、思わぬ救援隊がやって来た。
少し短いけどキリの良いとこで。
ちょっと想像したとこと話がずれ始めています。(笑)
矛盾点…沢山あり…
クロは一人で行動するとか会話がサトゥーだとかスキルが不明確だとか…その他多数…
考えると頭が痛い。