デウスユニバース   作:四季永

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終末の王子

 その戦場で、一つの暗色の機体が、抗うかのように、暴れるかのように戦っている。

 

『何だコイツは・・・所属不明とはいえたった一機だぞ!? どうやったらあんな戦い方を・・・こんな損害を・・・・』

 

『隊長、こちらで動ける機体は後11機です・・・あの動きが健在なら全滅も免れません!! 増援の要請か撤退を・・・ああッ!?』

 

 

「部下共の方が物分かりが良いじゃあねーか。死なないレベルで壊してやってんだ、敵わないならトンズラした方が賢明だぜ」

 

 その機体は、彼等末端の兵士にも見覚えがある。強攻型試作パーソナルトルーパー(以下PTと略す)・アルトアイゼン。それはあまりにも尖った機体特性とはいえ、大きく戦果を挙げたエース機としては名高く知れ渡っている。

 

『これだけの大規模破壊を起こしておいてただで済むと思っているのか!? 所属を・・』

 

「言わねーよ、このエリアのCROWNを呼んで来いって言っとろーが。固ぇヤツらだな」

 

そして、今兵士達を蹂躙している機体はカラーリングの違いを除けばその姿はアルトアイゼンそのものだ。

 

『ひっ!』

 

「あんたが隊長のようだな。死にたくなけりゃ見逃せ。そしてCROWNの連中に伝えろ、殴りに行くから震えてろってな」

 

 

 

「おっと、随分と舐められた宣戦布告だね。言っておくが連邦軍の基地を4つ5つ、壊滅させた位で彼らは動かないさ」

 

 

「だがあんたはここに来たみたいだな、ダイターン3。・・・情報よりは大分小せえみてーだが」

 

 その現象は偶然だろうか。そこに立つ鋼人の背後に、まるでその登場を称賛するかのように太陽光が射す。

 

「で、世のため人の為と成敗しに来たか? 確かに機体性能だけとってみてもこっちは圧倒的不利だが、背を向けるつもりはねーぜ」

 

「君に名文句を捧げるつもりは無いよ。僕の推測が正しければ、君はその側の存在では無いだろうからね。ただ・・・どうも今の君には僕と戦う事が必要みたいだ、望むようであれば手合わせ、お受けしよう」

 

「へぇ、分かってるじゃねえか」

 

 

 対峙する二機は10秒程の静寂の後、互いに前進し真っ向勝負を挑む。

 

「ガチのつもりでやらせてもらうぜ!」

 

暗色の機体の肩のハッチが開き、雪崩の如く実弾が放たれる。

 

「武装はほぼ同じか・・・出ろ、ザンバー!」

 

 ダイターン3は大剣を取り出し、迫り来る弾を切り払う。幾つかは着弾を許してしまうが、装甲には大きく自信がある、ダメージの内には入らない。このまま間合いに入り無力化を狙う。

 

 

「実体剣!?」

 

「データに無い武装で悪かったな。オレのナハトの隠し玉だ」

 

「ナハト・・・成程、さしずめアルトアイゼン・ナハトと言った所か」

 

 鍔競り合い、本来のアルトアイゼンは斬撃武装を持たない、故にそれは有り得ない動作。

 

「そこらの海賊崩れでは無いみたいだ、安心したよ!」

 

 競り合いを解き、武器を持ち替える。

 

「やらせるかよっ!」

 

「同じ手は食わんさっ!」

 

 対応の速さ、武器の特性を利用した紙一重の攻防。

 

 それを制したのはダイターン3だった。

 

「伸縮式の槍、とはね・・・」

 

「肩の雪崩を叩き込まれていたら少し危なかった、かもね。さて、この勝負は僕の勝ちな訳だが殺すつもりは毛頭ない、むしろ君は世界を救う為に君は生きなければならない。・・・名前を聞こう」

 

「・・・オーザ・ユニスだ」

 

「オーザか。済まないが、少し眠っていてもらう」

 

 肩を貫かれたナハトは沈黙、そこに重い一撃が叩き込まれた。

 

*

 

「で、何だよこの仕打ちは。捕虜なんなら丁重に扱えよ天下のストームさんなんだろ?」

 

「黙れ。捕虜だからこの扱いなんだ、危険人物に優しい刑務所が何処にある? 手錠つきだけ、その程度の待遇で感謝しろ」

 

「おいジュリィ! これじゃあ尋問どころかただの睨み合いだ、もう少し大らかに聞き出せんのか!?」

 

 男の名前は、オーザ・ユニス。ここ三か月、この太陽系圏で正規の軍事基地に単独襲撃事件を起こした犯人の名だ。今彼は木星圏にて遂に捕まり、正規軍管轄の拠点・衛星イオのトリニティシティにて尋問を受けていた。

 

「一向に口を割らないならそれでもいい。だがそれは一生ここから出るつもりは無いと同じ事だ」

 

 オーザに冷徹な視線と口調を浴びせている男はジュリィ野口と名乗った。ここのリーダーを務めており、若いが頭は良さそう、という印象は抱いた。隣に立ち同じく尋問に参加している大男はキラケンこと吉良謙作と名乗っている。

 

「映像は見せてもらった。やっている事は確かにテロそのものだ、褒められた手段じゃないし容認できる行為ではない。・・だがお前の戦闘行為において、今の所死者を一人も出していないと聞いた。生半可なテロリスト風情では出来ない腕だ」

 

「オレを雇うか? まぁ寝床が当分あるのはありがてぇが」

 

「話を進めるな、本心ではない癖に。それだけの力量を持ちながらこんな所で暴れている、何か目的があるんだろう?」

 

 

 

「とりあえず地球へ行く。お偉いさんと話がしたい」

 

「目的は?」

 

「行った所で聞き入れるかどうか分かんねぇが・・・もうじきこの太陽系でデケえ戦乱がおこりここいらの人間は殆ど死ぬ。で、オレはそれを止めたくて足掻いてる、ってトコだ」

 

「何でそれが暴走族紛いと繋がるんじゃ?」

 

「・・要するに目をつけられる為の手段、だろう。その様子だとお前は所謂宿無し、だ。そんな無名の者に体制が注目するには、力の誇示」

 

 何とも鋭いヤツだ。口がキツイだけではない。ならばどうやって信用させるか。

 

「そこまで分かるヤツなら見逃せよ、ここで座ってる時間も惜しい位だ」

 

「まあ待て。俺達はお前を閉じ込めておくでもなければ殺すつもりも無い。万丈さんの手引きでここに来たのであれば、協力をしても良い、としたら?」

 

 これを朗報と取るか、罠と取るか。今のオーザには疑いの感情がどうしても湧く。

 

「しかしジュリィ! 確か今日は・・・」

 

「解ってるさ。その代わり、今日だ。助力が欲しければ今日一日はこのシティに留まってもらう。耐えきれずに抜け出すならこの交渉は無し、お前を改めて指名手配させてもらう。まあ、自分にとってどっちが益になるか、考えるまでも無いだろうがな」

 

*

 

「ま、急がば回れっつー言葉もある位だしな。話の分かるヤツはいた方が良いってか」

 

 結論はあっさりと出た。助力を正規軍の中から求めるのは自らの言葉を広める上で必須の事だからだ。急遽充てられた暫定の自室は物置き場同然の部屋で掃除が必要だが、余所者への待遇などこんなものだろう、特に不満は無い。

 

「さて、一応オレは雇われ兼軟禁状態、になるワケか。幾つか意味深な空き部屋があった気がするが・・・」

 

 それはこの部屋に放り込まれる道中目にした一つの空き部屋の事だ。明らかに空き部屋なのに名札が挿してあるのだ。

 

「壇・・・何とか。まぁ他人事だわな、オレが気にする事じゃねぇ。寝て待つか、眠くねーけど」

 

 

 

「何だぁ!?」

 

 横たわり意識が混濁し始めたその瞬間、大きな振動と爆音により一気に正気に戻される。それは一度だけではなく幾度も続き、やがて慌ただしさが部屋の外からも伝わってくる。

 

「敵襲か? つっても誰が何の目的で攻めて来たのやら」

 

 駄目元で近づいてみたドアが、簡単に開く。

 

「ほーお、分かってんじゃん」

 

*

 

「警告は現実となった・・・か」

 

 司令室に立つジュリィは感慨深く、しかし苦々しく呟く。

 

「相手はヴェイガンのMSか! 何とも諦めの悪い奴等じゃのう!」

 

「キラケン、陸震王は出れるか?」

 

「おうよ、目に物見せてやる!」

 

 

「おっと待った。さぞ戦力が心細いだろうな、助太刀するぜ」

 

「む、その声はあの色男!」

 

 モニターにオーザの顔が表示される。彼が今いる場所、それは―――

 

*

 

「ナハトも鹵獲したんなら前もって言えよ。ある程度修理されてるのはありがと、だけどさ」

 

「いつの間にコクピットに! セキュリティに不備でもあったんかぁ!?」

 

「・・・俺があえて筒抜けにしたんだ。こうなる可能性も考慮してな」

 

 ジュリィは溜息交じりにそう語るが、その口元には笑みが浮かんでいた。

 

「つーワケで先に行くぜ! 雇われた以上しっかり戦ってやるから心配すんな!」

 

「あまり出しゃばるなよ、つまらん事で撃墜されたらデータにもならん!」

 

*

 

「ドラゴンみてーだが、確か分類はMS・・・まっ、所詮はザコ機体、一々分析する必要もねえ!」

 

 戦場へと飛び出したオーザのアルトアイゼン・ナハトは、複数で襲い掛かる敵機を次々と墜としていく。近づかんとした者は左腕の5連チェーンガンで風穴を開けられあっさりと墜ち、運良く間合いに入れても右腕のパイルバンカー『リボルビング・ブレイカー』で貫かれ倒れる。

 

「ひゃっほう!」

 

 重装甲な外見に反し、その動きは何とも軽やかだ。

 

「絶好調じゃのう、確かオーザと言ったか!」

 

 背後から殴打にも似た音が聞こえる。音の主は鉄槌を以て敵機を叩きのめす、黄色いロボットだ。

 

「キラケン、で良いのか、マジで!」

 

「分かってるのう! こいつは陸震王、ワシの相棒だ! この姿でもこの連中とは十分にやれる!」

 

「この姿・・・? なんか引っ掛かる言い方だが、まぁ今はいいか。そんじゃあ二人でぶちのめすか!」

 

 

 ナハトと陸震王の立ち回りは、少しずつだが確実に敵機の数を減らしていた。

 

「少々多いとは思ったが大した事無えな! もっと骨のある奴連れて来いや!」

 

 

「そうか。ならば来てやろう」

 

 

 突き出された右腕が突然、不自然に止まる。

 

 咄嗟に後退を選択したオーザの判断は正解だっただろう。前方にいた「敵」を討たんとそのまま突っ込んでいたら、ナハトは比喩でも無く滅茶苦茶に破壊されるのだから。

 

「その判断が出来るならば、狂戦士の類では無いか。王になる男はその思慮が無ければな」

 

「テメエ、知ってるクチだな・・・その形はOF(オービタルフレーム)だろ? 確かに嬉しいぜ、骨のある奴でよ!!」

 

*

 

『ジュリィ、あの機体は確か・・!』

 

「ああ間違いない、アヌビスだ! 幾ら奴の腕が立っていても、あれの前では歯が立たん、俺も出るぞ!」

 

『しかし!』

 

「先程暗号通信が入った、定刻通りここに来るとな!」

 

*

 

「無駄に気迫があるのは若さ故の感性か。だが性能の問題だな、掠りもしないぞ」

 

「確かにか! 耳が痛ぇしムカつくがその通りっぽいなっ」

 

 重装甲接近戦型が、高機動の機体に挑むには。

 

「未登録の個体とはいえ所詮は既存機体の複製品。アヌビスに対抗するにはその程度では遥かに役不足」

 

 アヌビス―――その名の通りの神を模したその機体は、瞬間移動にも等しいその機動で弄ぶかの様にナハトに攻撃を仕掛ける。

 

「王は一人では成り立たん。故に我々は実を結ぶ前に滅ぼす」

 

「ぬかせ!! オレはまだ諦めやしねえ! こっからが!」

 

 

「そう! こっからだ! 話は聞いてるぜ、義によって助太刀いたす、ってな!」

 

 

 天を突くとはこの事を言うのか。頭上の宙から一機の赤いロボットが、閃光と共に舞い降りる。

 

「カッコいい出方してもらって悪いけど! アンタ誰だ!?」

 

「俺の名は壇闘志也! そしてこのロボットは空雷王! 更にそして! 俺の送ったメッセージが正しければ・・・」

 

「見栄を張るのはもういいぞ、闘志也。言われた通り海鳴王と陸震王の修理は完了、そっちに不備が無ければ合体の準備は出来ている」

 

「久しぶりじゃのう、闘志也! 一緒に大暴れしてやるわい!!」

 

 赤、青、黄の三機のロボット、そしてそれに追随するかの様に一機の翼の如き戦闘機が集う。

 

「さあ、揃った皆で行くぜ! シグマ・フォーメィションッ!!」

 

 

 青き海鳴王は右脚を。

 

 黄の陸震王は左脚を。

 

 大いなる翼・ビッグウイングが鎧と翼を。

 

 そして空雷王が中心を形作る。

 

 

「宇宙大帝! ゴッドシグマ!!」

 

 

「ふ、CROWN05の再臨といった所か。面白くなりそうだな」

 

「どこか傍観者面なのはこの世界線でも変わらないな、ノウマン! 癪に障る奴だぜ!」

 

「試してみるか? 私がその力を浴びるに足るか」

 

「すぐに後悔させてやる!!」

 

 顕現した機械の巨帝・ゴッドシグマが、敵を討つべく動き出す。

 

「よくついて来られるものだ、その巨体で」

 

 アヌビスの機動力はゴッドシグマを明らかに上回っている。ゴッドシグマが数倍の大きさを持っている分小回りが利くのは明らかではある。

 

「外見で決めつけるな! こちとらトリニティエネルギーとワシら三人分のガッツが詰まっとるんじゃあ!!」

 

「キラケンの精神論は置いておくとして・・・トリニティエネルギーの推進力を過小評価しない事だ、圧倒こそ難しいがタメは張れる!」

 

 ゴッドシグマの主武器・無双剣がアヌビスを捉える。だが、装甲を傷付けるには及ばない。

 

「OFの根本を、MSやPTと混同しない事だ」

 

「確かに・・・! 規格外の性能を持つ『王』の候補、バケモノだなっ」

 

「不正確だな、神の領域だよ」

 

「勝手に盛り上がってんじゃねーぞ!!」

 

 

「んっ・・!?」

 

 アヌビスの展開する障壁に、僅かながら歪みが生じる。

 

「ほうっ・・・まだ楯突くだけの意思が残っていたか。傍観者に徹していれば延命出来たものを」

 

「生憎そうできる程気が長くも、ビビりでも無いんでなあッ!!」

 

 ナハトの突如の介入により、無双剣に集中していた障壁が弱まる。

 

「助太刀どうも! このまま突き破るぞ!!」

 

「オレ達なら出来る、ってか!?」

 

「少々無理矢理だけどな!」

 

「無理矢理結構! 好きな展開だぜ!」

 

「うおおおおおおおッ!!」

 

 

 

「悪くない、良い展開だこれは! 私が望む破壊には程遠い過程だが、やがてこれは実を結ぶ種子となろう! 今貴様等に齎すのは慈悲でも、試練でも無い。我々の望む終末、それを育む為の養分なのだと!」

 

*

 

「アイツの言い分、聞いたかよ・・・クソッ、何が養分だ! そんな気色悪ぃ理由で見逃されるとか!」

 

「悔しいのは分かるがオーザ、イラついてても変わらん物は変わらないぜ。まずはこれからの事を考えようや」

 

 アヌビス及びそれの指揮下と思しきMS部隊が撤退してから、12時間が経過した。幸いにもナハトとゴッドシグマには深刻な損傷は無く、修理にも時間は掛からないようである。

 

「・・・と。そういう訳で闘志也、先ずはこの時代に戻って来た、その訳を説明して貰おうか。何故俺達の時代に先立って海鳴王と陸震王が、あんなにボロボロの姿になって戻って来たのか。一体お前の行った未来で何が起こったんだ?」

 

「それはお前でも察せた筈だぜ、ジュリィ。あれは一種の警告やSOSのつもりだ」

 

「どういう事じゃ? 確かお前はエルダー星と地球の戦争を止める為に向かったはず。・・・もしかして、戦争は止められなかったのか?」

 

「それ以上の事が起きたんだ。・・・250年後、俺は見た。滅びる寸前の宇宙、その様を」

 

 一同に戦慄が走る。

 

「誰だってそうなるわな。・・駄目押しで言うと、調査の上で判ったのはその時代の時点でエルダー星人は滅亡、地球人類は総数僅か五十万で滅びを待つのみ。そしてその終末戦争の戦犯とされた人物は――――」

 

 闘志也は虚しさを含んだ視線で、一人の男に目を向ける。

 

 

「オーザ・ユニス。そう記録映像にあったよ」

 

 

 一人の男の戦いと旅が、始まろうとしていた。悠久に近い、贖罪のような、宿命のような、英雄譚のような道が。

 

 

 

デウスユニバース

第1話

『終末の王子』

 

 

 

 To be continued・・・・

 


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