――それは小学校に入学する少し前の頃やった。おとんとおかんと一緒に初めて東京の渋谷に来たその日、ただただ無邪気にはしゃいで居たその時、その事件は起こった。
――突如として発生した地震に目の前の大型ビルや建物が一気に倒壊し、回りがすべて廃墟と化した。ボロボロの瓦礫が辺りに散乱し、目の前に両親だった肉塊が無惨に血を流して潰れていた。
――怖かった以上に、何が起こったかその時の私には全く理解できなかった。いや、したくなかった。
――私は走った。あらんかぎりの体力を振り絞って走った。だが子供だった私は瓦礫のせいで転び、痛みで泣きそうになった。
――その時に私は確かに見た。目の前で浮かぶ一つの大きな本と、十字の柄を持つ流麗な剣を。
「――ん」
ベッドから起きた私は、久しぶりに見るその夢に何となく感慨深く感じた。
「……もう、五年も経つんやな」
両親を失い、事故のショックか脚が良く動かなくなってもうそんなに経ったことに、私は隣で眠っとる大事な新しい家族のオレンジの髪を撫でながら一人呟いた。
「……ん、はやて」
「ふふ……」
可愛らしく寝言を呟く姿に微笑し、私は腰を動かして一人車イスに乗り込り部屋を静かに出る。
やって来たのはリビング……というよりはキッチンで、ソファーに座りながら寝とる家族二人を起こさないように料理を始める。
慣れた手付きで包丁を使い、お味噌汁に入れる葱を刻んでいく。
「……む」
「あ、起こしてもうた?」
と、どうやら音に気付いた家族……シグナムが静かに呟く。
「……おはようございます、主はやて」
「シグナム、頑張るのはええけど、ちゃんとベッドで寝なきゃあかんよ。ザフィーラが床で寝ることになるで」
「……申し訳ありません」
だいぶ堅物な言葉やけど、ここ最近ではこれがシグナムの普通やいうことで慣れてしまった私は、続けて冷蔵庫から卵とベーコンを取り出す。
「すみませーん!!寝坊しちゃいました!!」
上の部屋からドタバタと走ってきたもう一人の家族……シャマルが上着を片手にキッチンに入ってきた。
「シャマル、既に主が料理を始めている。埃が飛んでしまうぞ」
これまた古風なしゃべり方をする我が家唯一の男性……というかペット?……のザフィーラの言葉に、シャマルはさらにはうっ、と言って項垂れとる。
「せやけど珍しいな~、ヴィータは兎も角シグナムやシャマルまで起きるの遅いんも」
「……すみません、主はやて」
「ううん、謝らんでええよ。さ、朝ごはんできたからシャマルはヴィータを起こしてきてな」
「はーい、はやてちゃん」
元気良く返事をしてヴィータを起こしに行くシャマルを見て、一瞬だけあの日のことを思い出す。
「……」
「主はやて?」
「ううん、なんでもないよ」
配膳していたシグナムに心配されたけど、私はすぐに頭を振って安心させる。そしてヴィータが眠たそうな目を擦り、欠伸をしながらやって来た。
「おはようはやて……」
「おはよう、ヴィータ。さ、朝ごはんできとるから食べよ」
笑顔でヴィータを席に付かせ、全員がそれぞれテーブルに座る。
「それじゃ、いただきます」
「「「「いただきます」」」」
――これは一人の少女の物語。本来とは少し違う軌跡を辿った、一人の優しく、そして闇と混沌を従えた少女の物語