蝙蝠侯爵と死の支配者   作:澪加 江

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聖王国への道のり

 

 

「はあー。困ったなぁ」

「そうですね、ナインズ様」

「この後どうするんだろう」

「それはザナック殿下次第でしょう。指示を仰ぎに行きますか?」

「んー」

 

 モモンガは目の前に横たわる壊され、強奪され、隊列が乱れた使節団の馬車たちを見やる。

一目見ただけで惨状がわかる様子であり、二週間前に意気揚々と王都をでた面影はない。つい数時間前に大規模な盗賊が出てほとんど全ての物資を強奪されてしまったのだ。

 

「まあ、気は進まないけれどそうするか」

 

 服装はライトグレーのローブにダークグレーのジャケットとスラックスを合わせたもので手袋や靴を紺色でまとめている。顔は白い凹凸をつけた仮面をローブについているフードで隠しており、一目で魔法詠唱者であることがわかるだろう。宝玉がいくつかついた杖を手にしており、そのうちの黄色の宝玉が黒く沈んだ色をしている。

 黄色の宝玉には天使系モンスターを召喚する魔法が込められており、盗賊を追い払う為に使ったためしばらくは使えない。なんてことのない遺物級だが、こちらの人間にとっては伝説の武器になってしまう。そのため装飾品の一つを装備に対する認識阻害のあるものに替えている。

 ゆったりとした速度で先頭の方に向かうと、そこにはいく人かの騎士に囲まれた身なりのいい小柄な男と、少し質は劣るが同じく身なりのいい長身の男が話し合っていた。

 

「しかし、改めて見てもこれは酷いな。近くの集落までかなり距離があると聞いているがどのくらいだ?」

「本日宿泊を予定していた町までは馬車で5時間。その手前にある村までは歩いて3時間ほどでしょうか。馬も全部逃がされてしまいましたし、残された物資も共に運ぶのは無理です」

「ならば一旦足の速い者に村まで行ってもらって救援を頼むしか……。 先ほどは助かった、ナインズ殿」

 

 顔を上げてこちらに声をかけてきたのは小柄な男の方で、成人してまもない幼い顔つきを贅肉でパンパンに膨らませていた。王国から聖王国への使節団の団長であるザナック第二王子その人である。

 

「殿下。直答を許しては品位に傷が付きます。私をお通しください」

「レイモンド、この状況で品位もないだろう? ナインズ殿がいなかったら、今頃私達は生きていないしな」

「直答のお許しありがとうございます。ひとまず賊は完全に追い払えました。殿下のご命令があれば物資の積み替えと街道の片付けをしたいと思います」

「頼む。人員は──」

「人手がないのは分かっております。もしよければ私の召喚モンスターで対処しようと思うのですが、よろしいですか?」

 

 召喚モンスターと聞いて王子の顔が引き攣る。賊を追い払う時に隊列が長いため杖から召喚した天使だけでは手が足りなかったのだ。そのためアンデッドも召喚して使った。慣れない生者には刺激が強過ぎたのだろう。嫌悪感を隠せない顔を笑顔に歪める。

 

「なるべく人目につかないように頼みたい。その、アンデッドはあまり心証が良くないのでな。もし冒険者などが通りかかったら誤解されてしまう」

「心得ております。ちなみに、残った使節団の人数をお聞きしても? 彼らが使う馬車の数を知らねば無事な物資の積み込みがどのくらいできるのかわかりませんので」

「我々を合わせて20名ほどだ。殿下と貴方がたで3名、2名が騎士、6名が兵士、文官が私ともう1人。他が下働きになっている」

 

 出発時が100名を超える大所帯だったことを考えると4分の1以下だ。減ったのが死者ではなく逃走者だというのがせめてもの救いだろうか。

 

「承知しました。<下位アンデッド作成>」

 

 周囲に死体がないことを確認してからスケルトンを10体と骨のハゲワシを2体つくる。簡単な命令を出すと彼らは荒らされた馬車の方へと向かっていった。本日分の<下位アンデッド作成>スキルを使い切ってしまった為、召喚時間が過ぎてしまったら補充が利かない。代わりに戦闘で使う死の騎士などの中位と上位のスキルは温存できたのでいいだろう。

 

「他にご用命がないならば下がらせてもらいます」

「いや、少し待ってほしい。今後のことを考えねばならない。知恵を貸してほしい」

「殿下、ナインズ殿は」

「分かっている。父の文官が裏切ったのだ、レエブン侯の魔法詠唱者が裏切らない保証はない。だがここまで協力してくれているのだ。残っている戦力としても無視はできない。……いいだろうか、ナインズ殿」

 

 無言で頭を下げる。

 侍従であるアランには他の生き残り達のところに向かってもらう。賊に襲われたのが昼前だったので皆空腹のはずだ。下働きに命じて全員分の食事の準備をさせるように頼む。仕事に取り掛かる前には食事が必要だとあまのまひとつさんも言っていた。

 

「ではまず現在地についてだが──」

 

 

 簡単に説明を受けたモモンガは頭を捻った。従軍に参加したことがあるわけでもないモモンガには意見を求められても何を言えばいいのかわからない。ユグドラシルでもこういった遠征は何度もしたが、現実世界なのだ、きっと勝手が違うだろう。

 

「当面の問題は今後どうするのか、だ。次の村か次の町で体面を整えて聖王国へ向かうべきなのか、それとも王都へ引き返すべきか」

「私は引き返すことを進言いたします。人手も物資も減った今、このまま向かったところで聖王国の支援になるとはとても思えません。無能を晒すことになろうとも引き返すべきです」

「と、私の文官は言って聞かんのだ。ナインズ殿はどう思われる?」

「え、私は向かうべきだと思います。その、このまま帰ってはエリアスも私も非難をされますし、殿下の立場をこれ以上悪くするわけにもいかないでしょう?」

 

 エリアスに事前に襲撃のことは聞いていた。その対処もどうすればいいか聞いていた。それだけにこう言うのは後ろめたいが、これも全てエリアスが立てた筋書きなのだ。なんとかこのまま聖王国に向かってもらわねば困る。

 

「しかし馬がいない今、先に進むのは難しい。村や町で徴収するにしても、な」

「まずこの場から動けん。ナインズ殿は馬型のアンデッドは召喚できるか?」

「もちろんできますよ。でも皆さんが怖がるかもしれません」

「そんなことを気にしている場合でもあるまい。私から言い聞かせる」

 

 顔を顰めながらそう唸る長身の男、第二王子付きの文官のレイモンドは文官に似合わない鋭い目つきで辺りを見回す。視線の先を追うと、どうやら昼食の準備が始まったらしく焚き火の煙がもくもくと上がっている。そういえば先ほどから生木を燃やす臭いがしていた。

 

「平民どもが勝手にっ!!」

「いえ、私が従者に昼食の準備をするように命じたのです。皆さん一度お腹を満たした方がいいですよ。お腹が減っていると変に気が立ってしまいます。その間私はモンスターと荷物の方を見てきますから」

 

 アランを呼びつけて後を任せ、モモンガはスケルトン達の方へと向かう。

 そうしながら、出発前にエリアスに聞いた今回の襲撃計画について思いを馳せる。

主犯は第一王子の義父であるボウロロープ侯爵。今回の使節団の派遣によって王太子に決まったバルブロを擁しているにも拘らず、より立場を盤石にするため、ザナック王子の失点を稼ぎ、支援した物資を間接的に取り戻す計画を立てたらしい。貴族派の内通者を通して知り得たその情報を、事態の回避ではなく第二王子により恩を得るために襲われたら適当なところで追い払えと言われた。

実行犯である盗賊は近隣の村の若者たちで、このあたりは貴族派の重税を課している領地が多く食うに困っているのだという。金品でなく食料を盗る分には、ザナック王子の命を狙わない限りは、派手な行動を取らないようにした。それに便乗して多くの貴族派閥の人材が逃げたのには流石に驚いたが、これがきっと政争に負けるということなのだろう。

 ザナックが乗っていた馬車は横転して派手に外装が禿げているが無事であり、モモンガが乗っていたレエブン侯の紋章が入った馬車は無傷だ。襲撃側も心得たもので、凄腕の魔法詠唱者が乗っているという最後尾の馬車は全く襲われなかった。ただ、御者の注意を逸らして馬をつなぐ馬具が切られてしまっているが。

他の馬車は車輪が外れていたり魔法で吹き飛ばされていたりしてなかなかすぐに使えそうなものがない。車輪が無事なものと被害が少なかったものを優先して綺麗にさせているとザナックとレイモンドがアランを連れて後に立っていた。

 

「使えるものはどのくらいあった?」

「人が乗る用の馬車が7台として、物資を運べる馬車が5台分ありますね。奪われなかった物資の方が若干多いですけど、私や殿下の馬車にも積めば十分載る量です」

「まるで計算されていたかのようだな」

「襲撃の鮮やかさ、離反者の多さから言ってバルブロ殿下の横槍でしょう。 ザナック殿下は随分と恨まれているのですね」

「兄上にこんな周到な指示は無理だろう。ボウロロープ侯が一枚噛んでるんだろうさ。政敵であるレエブン侯にも一泡吹かせられる機会だっただろうしな」

「全く嫌になりますね」

 

 探りを入れる視線から肩をすくめて逃れると距離をとって<中位アンデッド作成>で魂喰らいを12体召喚する。スキルを使い切らされていく状況にモモンガの中でかなり警戒心が上がっていく。

 

(これ、実はプレイヤーがいてこちらのスキルを削ってきてるんじゃないだろうな)

 

 今のところ本日の使用限界になったのは大したことのないものばかりだが、今後<上位アンデッド作成>が必要な事態になったら本格的に警戒しなければならない。すでに監視対策に攻性防御を張ったしこれから馬車に戻ったらもっとマシな装備に着替え直さなければ。

 考え事をしてるうちに召喚を終えていた。ユグドラシル時代から一人で金策するために召喚獣は多用していたので慣れたものだ。

 

「ナインズ様、随分と禍々しいモンスターですね」

 

 食事を終え近づいてきていたのはモモンガの従者であるアラン。彼は新たに召喚されたモンスターに驚きが隠せない様子だ。普段からモモンガの召喚モンスターを見慣れている彼がこの反応ならば、他の人間は大丈夫だろうかと振り返る。そこに居た食事を終え、馬車の様子を見にきていたらしい人々は皆一様に顔色が悪く表情を引き攣らせている。中には夏なのにガタガタと震えている者もいる。

 魂喰らいのレベルとこの世界の人間のレベルを考えると当たり前だ。中位アンデッド作成で制作できるモンスターはユグドラシル基準だと大したことはない。よく使っていた死の騎士はスキルが優秀だっただけで、モモンガのレベル帯だと瞬殺だ。その死の騎士がレベル35程度、魂喰らいも同じ程度。モモンガ自身のスキルで多少強化されているとはいえ、本当に大したことがないアンデッドだ。

しかし、この世界の人間にとっては違う。御前試合で決勝戦に残っていた者達ですらレベル20を少し越えたくらいだろう。モモンガの弟子のアルシェだってこの間やっと第三位階を使えるようになったため、おそらくレベルは14を越えたくらいだろう。同じ職構成ならレベルが10ほど離れると勝負にならないのだから、彼らにとって魂喰らいは一体いるだけで生命を脅かし得る存在なのだ。なのだが、だからと言ってこれ以下のモンスターは召喚できない。ここは怖いのを我慢してもらうしかないのだ。

 

「もうすぐ荷物の積み込みが終わりますから、食べたものを片付けたら出発しましょうか。御者の経験がある方がいたらこのアンデッド達を馬車に繋いでください。流石に私の御者だけでは何時間もかかってしまう」

「これに、馬車を、引かせるのか?」

 

 威勢の良かったレイモンドが青ざめた顔でそう呟くのを不思議そうにモモンガは首を傾げる。

 

「それはそうですよ。スケルトン達では馬車を牽引できないでしょうし、人間が引いて動かすわけにはいかないでしょう?」

 

 首を傾げつつ、魂喰らいとアラン達の顔を交互に眺めて納得する。

 

「安心してください。皆さんを襲わないようにちゃんと命令するので!」

「当たり前だっ!」

 

 表情を読ませないのが貴族だと聞いていたのに表情豊かな人だなぁ。モモンガは呑気に怒りで顔を赤くするレイモンドを見ながら思った。

 

 

 一度襲撃があってからは不気味なほど順調な旅になった。ギリギリ召喚時間内に宿泊予定の町に着いた後は、引退予定だったという老馬を何頭か譲ってもらい体面を整えた。追加の食料を買い付けてそのまま南下。たまに貴族の領主館で接待を受けながら、いよいよ聖王国との国境近くというところでトラブルが起きた。

 なんと、リ・ロベルを過ぎたところにある砦で足止めをくらい、のらりくらりと理屈を捏ねてはその先へ通そうとしない。おそらく二度目の貴族派の妨害だろうということで、一行は少し街道を戻り、亜人の領域を掠めるようにある山へ迂回することにした。初めての山に一行は頭を抱えたが、そこは下働きの一人が山の中の村の出身ということで色々と助言をした。その助言を取り入れつつ、山を登る。

 季節はすっかり夏の盛りを過ぎていた。

夏の盛りを過ぎてもなお暑い日々が続く。馬車の中は更に締め切られているため、座っているだけなのに汗が滴るほどだ。そんな中での移動に皆体力を削られていたが、モモンガには関係ない。

馬車の窓から色とりどりの花を咲かせながら青々としげる草原を楽しみ、燦々と照りつける太陽を見上げながら自然を楽しんでいた。

 一時期はかなり警戒をしていたのが嘘のように、休憩時間には身軽な装備で草原に駆け出しては侍従のアランに嗜められている。そんな苦労性な従者を宥めつつ、今日もモモンガは山岳地帯特有の植生を楽しんでいた。眼下に広がる森と岩面に溜まった土砂に生えた草ぐさ。もしブルー・プラネットさんが居たら生き生きと気候や植生について雑学を教えてくれただろうし、ひょっとしたら年単位で「ここに住む」だなんて言い出したかもしれない。

 そんなのびのびとしたモモンガの様子につられるのか、共に旅をする残りの人々も見張りを残して道脇の岩に腰掛けて眺めを楽しんだり、布を敷いて寝転んだりして過ごしている。

 

「少し隣に座ってもいいか?」

 

 寝転んで雲の近さに両手を伸ばしている頭上。少し皮肉っぽい声の男は返事も聞かずに寝転ぶ。

 

「王子様が草の上に座るなんて、レイモンドさんが見たらまた頭の血管切れちゃいますよ」

「あいつは少し頭が固すぎるのだ。こんな機会、王子だからこそ滅多に無いのだから少しぐらい羽を伸ばしてもいいだろう。ナインズもそう思うから強くは諌めないのだろう?」

「私は……まあ、そんなところです」

 

 最初はモモンガの不気味な風体に遠巻きにされていたが、今ではすっかり使節団の一行に馴染んだ。今朝も皆と朝の挨拶を交わしたし、朝食のための水も魔法道具で用意した。現在のメンバーの過半数が平民で、貴族と平民の生活を分ける余裕がないため皆ほぼ同じ生活をしている。モモンガはその中で、所持している魔法道具の関係で食事中や着替えで距離を置かねばならない──ということにしているが、それでもすっかり共同生活が板についた。

 その中でも最初と距離感がかなり変わったうちの一人が第二王子にして使節団団長であるザナックだ。

レエブン侯ゆかりの者ということで遠慮がちに接されていたが、今では名前で呼び合っている。

 隣に寝転ぶ男を改めて見ると、ここ数ヶ月の変化を改めて思い知る。毎日見ていたせいで気づかなかったが、ザナックはこの旅の間に随分と痩せた。ちゃんとした針子もいないのでベルトをキツくしてもストンと落ちてしまいそうなズボンは吊り紐で吊られている。肉が落ちてブカブカになったシャツは高原を抜ける風を受けて大きく膨らんでかつての姿を思い起こさせる。シャツから覗くすっきりとした首筋と、その上の顔についていた肉は綺麗にそげ、吹き出物があった肌は年相応の張りを持ちながらも健康的に陽に焼けている。

 きっと王都にいる誰も──ひょっとしたら父親である王様すら──今のザナックを見て誰であるか気付けないかもしれないほどの変貌だ。

 

「はあ。地図を見ただけではこんなに山が連なっているとは思わなかった。それもこの最後の山を越えれば目の前は聖王国だ」

「砦での件は本当に厄介でしたね。よっぽどザナック殿下の邪魔をしたいんだなって思いました」

「海上も塞がれては亜人達の領土を掠めるように高い山脈を抜けるしかありませんでしたが、だからと言って殿下がここまで下々の者と交流を持つとは思いませんでした」

「げ、レイモンド」

 

 草を踏む音と共に現れたのは第二王子付きの文官であるレイモンドで、名目上は使節団副団長代理となっている。先ほどまで今後の打ち合わせを騎士やもう一人の文官としていたはずだが、終わったようだ。その彼がザナックと平民である使節団の残りのメンバーとの交流について指折り数えている。共に同じ食卓を囲んだり、共に水浴びをしたり。夕飯を共に食べた後に焚き火を囲んで御伽話を語る光景は王都では信じられなかったし、着ている服すら足りないので平民の服をたまに着ている姿に涙が止まらないと頭をふる。

 

「そんな生活もそろそろ終わりにしましょう。ナインズ殿もそろそろ殿下を甘やかすのはおやめください。使節団団長として、一国の代表として相応しい所作を取り戻すお時間です」

 

 真剣な話題に寝転んでいたナインズが体を起こせば、ザナックも起き上がってモモンガの肩に手を置く。

 

「そう言うな。もし仲の良い兄が居たらと私がナインズに甘えすぎていた。これからは節度を守った距離を心がけるさ」

「えっ! 兄、ですか? 私が?」

 

 置かれた手を外しながら立ち上がる。少し懐かれていた気はしていたが、そこまで慕われているとは思っていなかった。

 

「『支援物資のことを考えると平民と同じ食事を摂って贅沢品を控えるべきだ』と、最初にそう助言を受けた時に思ったのだ。王子である自分にそこまで直接的に意見するものは居ない。ナインズこそ血のつながらない兄にして生涯の友ではないかとな。私に注意をするときはレイモンドでももっと遠回しだ。全くもってこの生活を共にしているとは思えないほど貴族らしい男だ」

「残念ながら今回の旅で随分と貴族らしさを減じたと自省しておりますが?」

「あ、すみません、その、なにぶん研究一筋だったもので立ち居振る舞いが未熟で……」

「それが貴方の美徳であると、思えるようになったので謝罪は結構」

 

 レイモンドの眉間の皺に反射的に謝っていた。立ち居振る舞いが未熟だという指摘にモモンガは小さくなる。注意するものも反省会もなかったため随分と疎かにしていた自覚はある。それを流したのはレイモンド自身だ。

 

「休憩後、山のこちら側最後の村に馬車を預けます。先行させている騎士と兵士に聖王女様への親書を渡しておりますので、我々が山を越える頃には向こうで迎えの馬車が待っていることでしょう。支援物資は馬に載せ替え、乗り切らない分はナインズ殿の召喚モンスターに運ぶようにお願いしたいのですがよろしいですか?」

「何日も前から聞いていたのでもちろん大丈夫です。半永久的に使役できるアンデッドの準備は整えていますよ」

 

 ここ数日モモンガは<転移門>で少し離れた亜人の集落を襲い死体を用意していた。そしてスキルによって死体を使い召喚モンスターを作ることで、召喚時間を無視した魂喰らいを20体ほど準備している。

 

「それは心強い。流石はナインズ」

 

 そんな内情を知らないザナックは無邪気にモモンガを称賛する。

もし彼がこのことを知ってもまだこの笑顔を見せてくれるのだろうか?

 曇った表情は見たくないな。

 そう自然に思えた。これがきっと絆されるってことなんだろう。この旅に送り出す前にイエレミアスに言われた事を思い出す。「モモンガ君は沢山の人に会って、沢山の人と仲良くなってね。そしてその思い出話を沢山聞かせて。それ以外のお土産は受け取らないからそのつもりで!」と、強い口調で言われたのだ。

 

「まあ、凄腕魔法詠唱者ですから!」

 

 胸を張って、ちょっと調子に乗ってそう言うと、レイモンドまで吹き出す。

イエレミアスに沢山お土産を持って帰れそうで機嫌よく話を続ける。少しだけ精神の安定化が働いたりしたが、このじんわりと嬉しい気持ちは抑え切ることはできないだろう。

 

 カーン、カーンと馬車の方から鐘が鳴る。休憩の終わりを知らせるそれに、三人は連れ立って歩き出した。

 

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