サクラ大戦 大いなる意志のもとに   作:公家麻呂

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03話 明治の元勲

 

料亭新喜楽の控室で、米田中将と藤枝中尉の3人で向こうの用意が済むのを待っていると花小路伯爵が入ってきた。

どうやら、我が忠誠を捧げる御方に呼び出されたようだ。

 

「若槻君。こういうことなら、もっと早く教えてくれればいいものを…。」

「申し訳ない、花小路伯爵。こちらも秘密厳守と念押されていましてね。正直、皆さんを御方々に紹介するのは私の独断なのです。手間を掛けさせるのはご理解いただきたい。」

 

 

廊下側の襖が空き、中居が御方々の到着を知らせる。

御方々の世話役もしくは護衛と思しき人物が、向かい側の部屋につながる襖の両側に控える。

彼らは襖を開ける係だ。

若槻はすでに頭を低くしている花小路伯爵は別として、こういった場の対応がわからないのであろう米田と藤枝の2人に頭を低くするように促す。2人が頭を低くしたのを確認して自分も低くする。

 

それを確認した襖の二人が、向こう側に確認して襖を開ける。

 

「この度は、私のようなものの願いをお聞き入れいただき恐悦にございます。この度は我々と志、同じくする者たちの目通りを願いたく思いお集まりいただきましたところ有り難う御座います。」

 

若槻が頭を下げたままに、御方々に礼を述べると、向こう側から返事が返ってきた。

 

「若槻よ。貴殿の忠勤は我が理解しているし、忠誠も理解しているつもりだ。そんな貴殿が選んだ人物に間違いがあるとは思わん。皆、面を上げて楽にするとよい。」

 

「っははー。」

 

若槻は万が一にも後ろの二人が頭を上げないように、手で制しておく。花小路伯爵も同様の事をしていた。

 

「面を上げなさい。」

 

若槻は少しだけ頭を上げる。

 

「貴殿の、堅苦しさは相変わらずか。……もそっとと言ってもほとんど動かないのだろうな。」

 

「恐れ多いこと、ご容赦ください。」

 

御方と若槻の会話に、御方の横に控えていた4人の人物の一人が声をかける。

 

「若槻、御方が良いと言ってる。我々もかの者たちを見ておきたい。後ろのもの顔を上げてよい。」

 

山縣有朋であった。山縣は手をくいっとやって面を上げるように促す。

花小路と若槻の合図もあって、米田と藤枝は面を上げる。

 

「ふ、伏見宮様…。」「!?」

 

米田と藤枝は御方のご尊顔を拝み思わず、再び頭を下げてしまった。

 

「山縣、この者たち、頭を低くしてしまったぞ。」

 

御方は不思議そうに二人を見る。

 

「殿下のご尊顔を拝謁したのです。市井の者たちなれば当然の反応でございます。」

 

御方の横に控える4人の元老の一人、大隈重信が答える。

また、大隈は元老としては新任であり、元老制度には批判的であったが、降魔や昨今現れる所属不明の人型蒸気の出現による情勢不安から、元老制度を持って国家の統制を図る方針に切り替えていた。

 

「ふむ、そのようなものか。」

 

御方はそう一言告げると口を閉ざした。

その代わりに、今度は4人の元老の一人西園寺公望が口を開いた。

 

「花小路頼恒、貴公の発案する帝国華撃団構想の書を見せよ。」

 

西園寺ら元老は用人を経由して、帝国華撃団計画書に目を通す。

暫しの間をおいて、御方が元老たちに意見を促す。

 

「して、山縣の、松方の、大隈の…どう判断す。」

 

「若槻が、我らを呼んだのもわかります。」

「帝国華撃団構想は、我々の危惧するところを押さえており、よくできている…。」

「霊子運用は軍でも検証されていますが、民間企業の参入も悪い手ではないかと…。」

 

御方の問いに元老たちは肯定の意を示す。

 

「左様であるか…。陛下も臣民の安寧を切に願っておられる。元老たちよ…この者たちに協力してあげなさい。」

 

「「「御意に…。」」」

 

「元老たち、そして若槻よ。後のことは任す故…よしなに。」

 

そういって、御方は退室される。

 

そして、残された元老の3人の一人松方正義が米田に質問する。

 

「して、神崎重工と結んでいるようだが独占はいかなものか?」

 

「げ、現状。霊子甲冑を動かせているのが、神崎財閥総裁神崎忠義の孫娘すみれ以外におりません故。」

 

「そうであったか。では仕方ないな…広くから知識を招集すべきと思ったが…。」

 

ここに来て、花小路がようやく口を開く。

 

「ですので、よろしくできるのでしたら…。」

 

花小路の言葉に、山縣が答える。

 

「わかった。我々の方でもできることはしよう。松方も財界には顔が利く。人材面に関しては大隈さんが各所に顔が利く。西園寺さんも政権にはうまく動いてもらうよう計らっていただこう。無論、軍にもだ。」

 

 

大正8年6月、明治の元勲たちの後援を受け帝国華撃団構想は急速に前進することになる。

 

 

 


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