サクラ大戦 大いなる意志のもとに   作:公家麻呂

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04話 流転

大正8年7月、欧州大戦から始まるごたごたを乗り越え、役目を終えたとして大隈内閣は総辞職をすることになる。

その次の内閣は、西園寺の推薦と政界力学が働き、原敬が指名された。

原内閣において、教育制度の改善、交通機関の整備、産業及び通商貿易の振興、国防の充実の4大政綱を重要な位置づけとしていた。特に国防の充実は、軍より華撃団構想への流れる金銭の補填と言う意味合いもあった。

また、原内閣は外交において国交関係の改善や協調路線をとることで、華撃団の人材確保を世界規模で行うための地ならしと言う側面も持っていた。

また、政権が華撃団構想に賛意を示したのは元老らの圧力があったとは言え、神崎重工において霊子甲冑桜武の起動実験成功の報が齎されたことも大きかった。

これらの後押しもあり同年秋には帝国劇場の建築が始まった。

 

 

 

 

大正9年春 台湾海峡

 

自分たちに絡んできた暴漢の哀れな犠牲を持って、藤枝あやめは、自身がスカウトした桐島カンナの腕前を、見せつけられることになった。

 

「桐島流継承者の腕前、しかと見せてもらったわ。」

「あたいが本気出したらこんなもんじゃないさ。東京にはあたいが本気になれる強ぇ相手がいるんだろ?」

「えぇ、とても強くて恐ろしい相手よ。あたしたちは、そんな奴らから帝都東京を守らなきゃならないの。」

 

いきり立った調子で話すあやめに対して、少し不思議そうにカンナは尋ねた。

 

「なんでそんなに、いきり立ってるんだよ?強い相手をぶっ倒すってだけじゃダメなのか?それとも、なんか特別な理由でもあんのか?」

 

「それは…。」

 

 

同時期 紐育

 

「我々にとって、帝都東京、否、我が大日本帝国、引いてはそこに住まう人々すべてが守るべく大切なものだからですよ。」

 

このスカウト活動には若槻自身も、限りある時間を割いて参加していた。

マリア・タチバナへの勧誘はよい例でもあった。

 

「…それだけなのですか?東京を守る理由は…?」

 

マリアは若槻の建前を見破り、本心を覗こうとしていた。

 

「東京には、わたしが特に守りたい者たちがいるからですよ。力になりたい人がいたと言うのではだめですか?」

 

「………」

 

マリアは、何も答えることなく空を見上げた。

その日は、回答をもらうことなくそのまま日本に帰ることとなったが、後日マリアより若槻の話を受けるという手紙が届いた。

 

 

 

大正10年 香港

 

香港の李紅蘭の元に日本の外交官がやってくる。

 

「李さん。お迎えに上がりました。」

「お迎え、おおきに。」

 

紅蘭の荷物から見える発明品を見た外交官は露骨に距離をとった。

 

「あんさん、うちの発明品が全部が全部、爆発するわけじゃないんやで…」

「そ、そうですよね。あ、あははははは…。」

 

カチっ(爆発)

 

「すまん、またやってもうた…。」

「ケホっ…(バタン)」

 

 

同時期 横浜港

 

「まもなく、横浜港に到着します!」

 

船員の一人が忙しそうに走りながら大声で叫ぶ。

 

「さっ、アイリス、ついたわよ。これからは貴女は一人じゃないわ。」

「うん。」

 

あやめに手を引かれ、アイリスは横浜港に降り立った。

 

 

 

11月4日 神崎重工

 

光武着工式典パーティーでは、政財界から多くの人たちが参加していた。

若槻も、その一人であった。

 

世間では、と言っても政財界内の話であるが、若槻は影の政府(仮称)の代弁者として認知され始めた。そう言ったおかげで、以前からでもあったが、少々目立つ存在となってしまった。

パーティーでも大勢に話しかけられ、少々疲れており、壁の方へと移動した。

光武着工の流れを示した写真が飾られている一角に目を移す。

 

「ふぁ~。」

 

手で隠してはいるが、紫色のドレスを着た少女が欠伸をしているのが見えた。

 

「おや、すみれ君もお疲れですか?」

「あ、あら、いやですわ。恥ずかしいところを…若槻さん。」

「まぁ、疲れるのも当然だよ。本来は軍人がやるようなことをやってのけたんだから。」

「褒めてくれたんでしょうけど…なんだか。軍人と同列に並べられたようで嬉しくないですわ。」

 

若槻とすみれは、ともに上流階級で壮年老年が多い社交界では比較的近い年齢と言うことで、特別親しいわけではないが、比較的見知った中ではあった。ため、他の人と比べれば私的な会話もできる方だった。

 

「女っ気のない独身男に、その手のセリフは期待しないでほしいな。」

「貴方、顔はいいんですから、その辺を直せばよろしいのに…。」

 

「あはは、善処させていただきます。」

「絵にかいたような政治家答弁でごまかさない。」

「ごめんごめん。」

 

軽くふざけた会話をした後で、すみれは若槻に話しかける。

 

「若槻さん、光武の件ですけど…。」

 

すみれが、深く話そうとした瞬間割込みが入る。

 

「若槻補佐っ!」

若槻の秘書である松尾が、若槻に耳打ちする。

松尾の報告を聞いた若槻はみるみる表情を硬くする。

 

「すまない、すみれ君。急用ができた失礼するよ。」

 

すみれが、答える前に足早に若槻はその場を立ち去ってしまう。

 

「あぁ、もう。なんだか、冷めてしまいましたわ。」

 

残された、すみれも周囲を少し見まわしてから、飾られている写真を一つ外してその場を去った。

 

 

 

若槻の公用車内

 

若槻は、社内で松尾から事の詳細の説明を受ける。

 

「東京駅にて、降魔が出現しまして破壊活動を行いました。その際に、帰宅のために偶然居合わせた原首相が降魔に襲われ、死亡されたとのことです。」

「な、なんということだ。」

 

日本国首相、降魔によって殺害される。

 

 

 

 

 

「号外!!号外!!原首相が魑魅魍魎に襲われて死亡!!」

 

 


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