サクラ大戦 大いなる意志のもとに   作:公家麻呂

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05話 運用試験

 

大正10年11月5日 総理府

 

総理臨時代理となった高橋是清は、警保局局長湯浅を呼び立てた。

 

「今回のようなこともありまして、降魔や不明人型蒸気に対して、警察力での対処は非常に困難であると思われます。」

 

「湯浅局長は、陸軍が帝都で戦闘することに賛成かね。」

 

「いえ、決してそのようなことは…。ですが、先ほども言いましたように警察力での対処は不可能です。まさか警察に野戦砲などを装備するわけにはいきませんので…。陸軍さんは、秘密部隊を用意されているようですが…それは?」

 

急に話題を振られた、陸軍大臣山梨は淡々と答える。

 

「一応、総理府主導なんですがね。私の知る限りでは物自体は半年ですが、人員がものになるのは最も短く見繕って2年くらいですかね。…総理。」

 

「私は臨時代理です。さっき、若槻さんから連絡が来て元老より指名を受けたばかりなのだ。そのような重要案件は把握しておらんよ。とにかく、今は原亡き後の混乱を抑えねばならんよ。しかし、東京駅の化け物どもは陸軍を出動させて何とかなったとは言え…。東京駅は…内務大臣。」

 

高橋に呼ばれた内務大臣床次もこれに応じる。

 

「東京駅の再稼働には半年、急ぎに急いで5カ月を目指してみます。」

 

「頼む、やってくれ。しかし、このようなことがまた起きては困る。秘密部隊の件は、私としても急いでもらうべきか。」

 

首相暗殺と言う、事態は高橋の臨時政権を動かした。

華撃団構想に対して懐疑的であり、建前上従っていた原政権とは対照的に高橋政権は次期政権への繋ぎ的存在ではあったが、身をもって危険を感じたこともあり、繋ぎ政権としてではあるが華撃団構想に積極的に協力し、陸軍の強化に動いた。

 

そして、高橋政権は大正12年3月まで続いた。

 

 

 

大正11年8月 海軍軍令部

 

海軍軍令部の一室、海軍で行われた霊力試験の様子が流される。その部屋には報告を行う下士官たちのほかに、海軍軍令部総長山下源太郎と海軍元帥の東郷平八郎と井上良馨。そして、海軍長老山本権兵衛がいた。

 

「日本初、否、世界初の男性霊子甲冑適合者が我が海軍から現れたことは喜ばしい限りであるな。」

 

この中で、最も大きい発言権を有する山本が第一声を発する。

 

「確かに、艦隊戦力の充実はできているが…陸軍が優遇されていることは変わらん。」

「かの青年は、未だ華撃団計画中枢に人を送り込めない陸軍から一歩先んじることが出来るやもしれませんな。」

 

二人の元帥の言葉に、山本は黙って頷く。

 

「では、華撃団の米田には軍令部から…。」

 

山下の言葉を、山本はふさいだ。

「いや、元老の方々を介さねばならん。元老の方々にたいして海軍の存在を示さねばならんだろう。元老の方々に、海軍の覚えめでたくしておかねば今後に差し障るというものだ。若槻を介して元老の耳に入れていただくことにしよう。若槻も、中枢に食い込むものゆえな。」

 

山本権兵衛は元来もていた政治力に加え、海軍として世界初の男性霊子甲冑適合者を国家計画である華撃団計画へ提供した功績を持って、大正12年4月より第二次山本政権を樹立させるのであった。

 

 

 

 

大正12年3月 仙台真宮寺邸

 

「今日は、お願いがあって参りました。」

米田は用意されていた座布団から降りて、さくらの母と祖母にさくらを上京させるように頭を下げる米田に、さくらを上京させれない訳を話す。

 

「覚悟はできていました。当家は破邪の血統を継ぐ裏御三家の末裔…。いつかこの日が来ることを常日頃よりお母さまから聞かされておりました。」

「それでは…!?」

 

さくらの母若菜の言葉に米田は許可が出ると思い顔を上げる。

 

「ですが…、今はまだその時ではありません。」

 

米田はさくらの修行の場に案内される。

そこには、霊力の修行。

 

「す、すごい力だ。」

 

さくらの放った霊力が木にぶつかる。その気が大きく削られる。

 

「まだ、だめだわ…。」

 

さくらがその場にへたり込む。

 

「では、木の代わりにこのわしを撃ちなされ、桜花放神には強い心の力が必要とのことじゃった。そのためだというのなら、この権じい命など惜しくはないですじゃ。」

「権じい・・・」

 

さくらと守役の権じいとの会話に米田は割って入る。

 

「その役、私が引き受けよう。」

 

「米田のおじ様、どうしてここに。」

「それは、今はいいんだ。それはそうと、その役、私を使ってやってくれませんか。」

 

米田の言葉に、若菜は一度は拒否したが、米田はひかなかったので受け入れることに。

 

「大丈夫だ。君は真宮寺一馬の娘だ。」

 

その言葉に、さくらは決意を固め刀を構える。

 

「私は真宮寺一馬の娘…………………………。破邪剣征・桜花放神!はぁああああ!!」

 

刀を振り下ろし、発せられる衝撃波で一直線上の木々を薙ぎ払い、岩が砕けた。

こうして、さくらは一子相伝の技を身に着け、上京することが許された。

 

「こ、腰が抜けちまった。」

 

 

 

大正12年3月 御殿場演習場

 

陸軍の輸送部隊が、指揮所が仮設されている陣幕群に到着する。

 

「帝国陸軍富士宮駐屯基地陸送部隊!!到着いたしました!!」

「ごくろう!!これより同部隊は本作戦に移行する。」

 

これら先行していた。陸軍部隊が実験の準備を終え、日が昇ったころに若槻たちは到着した。

陸軍技術本部筑紫熊七本部長、陸軍教育総監部秋山好古教育総監、陸軍参謀府上原勇作参謀総長と錚々たる面々であった。

 

彼ら陸軍の重鎮が列席するこの実験であるが、華撃団計画だけの試験ではない。

今回の試験は華撃団計画と並行して行われていた。陸軍の降魔に対抗しうる兵器群の検証と言う大規模試験であり、華撃団計画はその一環であった。その中でも華撃団計画は最有力なものであった。

 

若槻は、米田の隣の席に移動し話かける。

 

「光武の方はどうです?」

「あぁ、少なくても兵器としては問題ない。ある種の決戦兵力にもなってくれるだろうさ。しかし、あれはどういうことだ?」

 

米田は、奥の席にいる陸軍のお歴々に対して視線を向ける。

 

「原前首相の件は陸軍としても、だいぶ堪えたようです。」

 

純国産の戦車が、演習場を走り回り目標に向けて砲撃を行っている。

その様子をお歴々は満足そうに見守っていた。

 

「なるほどな。」

「もともと、そこの秋山教育総監は人型蒸気の導入には積極的でしたからね。」

 

陸軍の純国産人型蒸気である藤武が披露される。

 

「あれは、菖武か?」

 

光武を中心とする霊子甲冑の走りともいえる存在で、米田たちが対降魔部隊に現役だった頃に、実戦試験が実施されたということもあり、知りえた存在であった。

 

陸軍の技術士官が解説を行う。

 

「こちらの藤武は、かつて陸軍で実戦試験が実施されたという霊子甲冑菖武をもとに、開発された人型蒸気であります。」

 

技官が解説をするのをよそに、米田と若槻はひそひそと話を続ける。

 

「陸軍の軍人に霊子甲冑を動かせる連中はいないんじゃなかったのか?」

「えぇ、その通りです。ですから、あれは霊子甲冑ではありません。ただの人型蒸気です。」

 

「だが、それじゃあ降魔や降魔の相の子みたいな不審蒸人型蒸気とやりあうには物足りないだろう?」

「ですから、ほら。」

 

藤武が巨大な小銃を抱える。ちょうど、技官の解説がこの銃の説明の項目に移っていた。

 

「この藤武専用75mm加農銃は、軍の方々ならお察しした方もいらっしゃるでしょうが十一年式七糎加農を改造したものです!。」

 

藤武の射撃試験が行われるが、命中率は光武に比べて粗末なものだ。

移動目標はおろか固定目標も半分近く外してる。

 

「あれじゃあ、帝都防衛はできないだろう。帝都の建物に当たっちまう。」

「まぁ、そこは…。」

 

藤武が武器を持ち変える。さくら機の装備品である太刀を陳腐化させたような軍刀を装備している。

 

「あれか?」

 

米田が胡散臭げにその様子を見るが、それもそのはずで軍刀の切れ味はあまり良くなく。

標的機として使われたスタァは2・3撃加えたところで腕が切れるなどの、工場生産軍刀の問題点を浮き彫りにしてしまった。

 

「でも、ないよりはまし…。高橋首相はそう考えたようで、山梨陸相の提案を受け入れ陸軍で採用する動きがあります。山縣さんも賛意を示していますので、原前首相の死は大きかったと言うことでしょう。」

 

 

陸軍は機械化師団の編成を進めており、大隈内閣時代に通した陸軍二個師団増強計画は戦車や人型蒸気を軸にした機械化師団を目指したものとなり、すでに輸入しているフランスから輸入したルノー戦車やドイツから輸入した人型蒸気アイゼンゾルダートIIにイギリスから輸入したセイバーが配備されていた。ただし、兵器の国産化が軍内で大きく叫ばれていたため、機械化は国産化が完了するのを待つこととなり遅れている。

 

 

「若槻さん、始まりますよ。うちの光武虎型の試験が…。」

 

マリア機が移動する標的を拳銃で撃ち抜き、すみれ機がマーク A ホイペット中戦車を一刀両断する。

 

「おお。」「すごい。」「これは…。」

 

陸軍お歴々も、感嘆の声を上げる。

 

そしてその後ろにいるさくら機であったが…

 

「きゃあああ!?み、みなさ~ん!!よけてくださーい!!」

 

我々の居る天幕へ向かってくる。さくらの光武。

 

 

 

 

大正12年3月帝国劇場の貴賓室

 

包帯で患部を隠した米田と若槻。

成果報告を受けるためにお忍びで入った元老山縣と西園寺、そして花小路伯爵。

 

「いったいどうしたね。二人とも…」

 

「まぁ、見ればわかりますよ。」

 

若槻は半笑いになるだけで、代わりに米田が答える。

 

映像が流れる。

 

「特に問題はないようだが?」

「そう思っていただけるのも、ここまでです。」

 

映像が進む。

各種検証実験が進み、演習も行われる。

 

「これは…。」

 

西園寺のつぶやきから映像の雰囲気が変わっていく。

 

「さくらですよ。あの子が操縦を途中でしくじっちまった。」

 

さくら機を抑えようとした陸軍の藤武とアイゼンゾルダートが押し負けて、陣幕を突破していくところで映像が途切れる。

 

「霊力も十分、剣の腕も一流、才能も申し分ないのですが…。」

 

「米田君、わたしが花組に芝居をやらせたのは…。」

「帝都に仇名なす存在への目くらまし、かの音曲の持つ霊的意味合いですよね。」

 

「無論それもある。だがそれだけではないよ?」

 

米田と花小路伯の話に、しびれを切らせた山縣が割り込む。

 

「そういう話をしに来たのではない。当初の予定に比べて進捗が遅れているのではないかと言うことだ。伏見宮様の働き掛けもあって現状、大きなものはないが…。陸軍内部に華撃団ではなく、陸軍の実働部隊で対処すべきと考えている者たちもいることは考慮してくれ。君らの事を支援している我々としては…。」

 

若槻が山縣をなだめるように話し始める。

 

「まあ、霊子甲冑が陸軍の人型蒸気よりも強いということが示せたのがせめてもの救いですか。操縦差の未熟さを露呈した我々と、兵器全体の力不足を露呈させた陸軍の痛み分けと言うことでお互いになかったことにと言うことになりましたが…。」

 

若槻は「あちゃー」と言わんばかりに頭を押さえる。

 

「とは言え、兵器の改良よりは搭乗員の習熟の方が容易なはず。少なくても戦力としては華撃団は上、取り返すことは難しくないはずです。」

 

若槻のこの発言で、華撃団への元老他の重鎮たちによる支援は継続されることとなった。

 

 

 

 


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