大正12年、この年は華撃団曳いては大日本帝国にとって多くの始まりと言ってもよい年であった。
大正12年3月下旬20時頃
「どういうことですの!!」
帝国劇場のサロンで、すみれの声がこだまする。
「そ、それが、わたしもさっき聞いたばかりで何が何だか…。」
彼女たちがもめているのは、新しい劇の出演者に関してであった。
帝劇に加入して1月経つか経たないかで、最近は失敗ばかりのさくらが舞台に立つことへの反対であった。
責め立てるすみれはヒートアップし手を上げそうになる。だが、寸前のところでマリアがすみれの手首を押さえて止めに入るが、さくらを起用したマリアはすみれとは逆に出るように促し、間に挟まれたさくらは困惑してしまう。
そこに、鳴り響く警報。
「ついに来たか。」
「「「「出動!?」」」」
同時期同時刻
内務省庁舎では、山本政権において内務大臣就任受諾を受けた、若槻が登庁していた。
その、若槻は警視庁の湯浅警視総監へ直通電話で指示を出していた。
「あの人型蒸気を佃島に入れてはなりません!!警視庁は帝国華撃団到着まで人型蒸気の侵攻を阻止してください!!」
若槻からの指示で警視庁は佃島方面に侵攻を開始した人型蒸気と交戦を開始。
幾重にも構築された防衛線であったが、拳銃や小銃程度の火力では食い止めることは敵わなかった。
警視庁による防衛線が突破される。
帝国陸軍関東戒厳司令部の山梨半造中将は陸軍第一師団及び近衛師団に対し出動を要請。
陸軍第一師団の西川虎次郎中将は隷下の都内部隊に出撃命令を下した。
関東戒厳司令部に対し陸軍省の田中義一大臣は、陸軍による対処が可能か電話を入れていた。
「石川島、佃島、月島とその周囲には2個歩兵連隊を、さらに月島には出撃可能な第一砲兵大隊の部隊を配して強固な防衛線を築き上げております。万が一の時に備えて近衛師団を宮城に集結させております。なんとしても、佃島で敵を食い止ます!」
「山梨君!華撃団の到着を待たず陸軍だけで抑えきれるのか!?」
「田中大臣。最悪、月島の砲兵大隊に佃島を砲撃させます!」
「できるのだな。山梨中将・・・。」
「っは!お任せください!!」
佃島上陸阻止のために、相生橋にて関東戒厳司令部の山梨半造中将は佃島に防衛陣地を構築。相生橋が架かる佃島に土嚢を主体としたバリケードを構築し歩兵連隊の兵士達が機関銃陣地の隙間から小銃を構え、隣の石川島に連隊付きの軽迫撃砲部隊が布陣した。
「この先には、我が国の重要省庁がある!そして、宮城(きゅうじょう)には陛下がおられる!この佃島で人型蒸気を食い止めるのだ!!迫撃砲!放て!!」
現場士官が軍刀を振り下ろしたのを合図に、石川島陣地から迫撃砲弾が相生橋の越中島町側へ降り注いだ。
越中島町の敵人型蒸気に対し砲撃を開始。
若槻はその様子を内務省庁舎から伺っていた。
窓が開けられた内務省庁舎からは砲撃の赤い炎が見え、小銃や機関銃の音が聞こえてくる。
「宮城の前で砲撃戦だと!?陸軍の連中正気か!?通常兵器では効率が悪いのだぞ!?降魔戦争で解っているはずだ。霊子を使える華撃団でなくては・・・市街地で火砲など撃ったら帝国臣民の生活に影響が出るというのに・・・なぜそれがわからんのだ!誰か!山本首相に繋いでくれ!」
若槻の訴えによって、山本首相は陸軍の砲撃を中止させ華撃団に対して出動命令を出した。
「車を出してくれ、華撃団の実戦を見てみたい。」
警察車両の先導を受け、陸軍輸送部隊によって華撃団の光武が相生橋まで運び込まれる。
若槻が到着した時にはすでに花組の面子が光武に乗り込み、マリア機を先頭に低速前進し始めていた。
若槻は、今回の行動で失脚が決定して肩を落としている山梨中将を無視して、すでに指揮権を委ねられた米田に話しかける。
「米田中将、状況は?」
「今始まったところですからなんとも・・・。」
「うぅむ。帝国華撃団に指揮権を委譲、ここはお手並み拝見と行こうか。」
陸軍第一師団の西川虎次郎中将から陸軍中将兼帝国華撃団の司令である米田一基中将へ指揮権が移譲される。
マリア機を先頭にすみれ機アイリス機が左右に並び進んでいく。
「双眼鏡を貸してください。」
兵士から双眼鏡を受け取った若槻は、米田の横に並びその様子を見届ける。
流れ弾が若槻達の至近に着弾するという事態も発生したが、戦闘はこちらに有利に進んでいた。ただ、彼女たちの会話こそ聞こえなかったが何かしらの問題もある様に若槻は感じていた。
すみれ機を一番槍に光武が敵人型蒸気の集団に突っ込んでいくのを皮切りに、アイリス機マリア機も戦闘を開始する。
『スネグーラチカ!』
マリア機から放たれた銃弾をすみれ機が華麗に躱し、その先の敵集団を吹き飛ばした。
「「「おぉ・・・。」」」
陸軍兵士達の驚く声が聞こえた。
『神崎風塵流・胡蝶の舞っ!』
相生橋を崩落させる程の勢いで敵を丸ごと倒して見せるすみれ機。
「「「「「おぉ・・・。」」」」」
さらに、陸軍兵士達の驚く声が聞こえた。
だが、米田は興奮気味に見つめる陸軍兵士達とは対照的に不満げに声を出していた。
「あぁ・・・てんでダメじゃねぇか。バラバラに戦ってたら勝てる戦も負けちまうぜ。」
「米田中将、素人目には優勢に戦っているように見えるのだが?」
「若槻大臣、あれじゃあダメなんです。複数で戦うのなら陣形は基礎中の基礎、機体性能や個々人の能力ありきで現状です。本来ならあの程度の敵ならもっと優位に立てるはずなんですよ。・・・あぁ、だから陣形をもっと大切に・・・!しまったっ!奴ら蒸気火箭を用意してたか!」
米田の視線の方に目を向けると巨大な蒸気火箭の姿が見えた。
「石川島陣地の砲兵にあれの対処をさせろ!!」
「石川島陣地に敵人型蒸気出現!現在対処中!こちらに手を廻せる状況にないとの事!」
「なんだと!!」
西川中将が大声で部下に指示を出すが、その返事は絶望的な物であった。
「行くんださくら!」
『で、でもまた失敗したら・・・。』
「バカヤロー!いつまでウジウジしてるんだ!芝居も任務も同じだ!しくじることを恐れたら何にもはじまりゃしないんだよ!帝都の平和も芝居の役も自分で勝ち取るもんなんだ!前へ進め!留まるな!行って勝ってこい!さくら!」
『帝国華撃団花組真宮寺さくら!行きますっ!』
米田の言葉に励まさられたさくらは、気合の入った返事で返す。
さくら機が単身走り出す。
敵の蒸気火箭も発射のエネルギー溜め始める。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
『破邪剣征・桜花放神!』
さくら機から放たれた剣気の塊とでも言ったらよいのか桜色の光が、蒸気火箭のエネルギー弾と衝突し飲み込み押し込んでいく。
「す、すごい・・・。」
これが、光武の帝国華撃団の力か。
相生橋が崩落する結果になってしまったが些末なことだ。
帝都の、日本の平和は帝国華撃団なくしてありえない。
「今回の相生橋の崩落。被害は大きいものとなりましたが、それと引き換えに霊子甲冑光武の秘められた力の一端を垣間見えたことでしょう。かの力があれば必ずや日本から降魔を排除することが出来るでしょう。元老の皆々様に於かれましては今後ともご支援の方を賜りたく。」
「うむ。」
山縣、西園寺、松方、大隈らの了承を得ることに成功した。
そして若槻はもう一押しすることにする。
「華撃団より、隊長役を派遣して欲しいとの打診がありまして・・・。」
若槻の言葉に山縣と大隈が反応する。
「軍も警察も光武の適合者はいないはずではなかったのか?民間からの採用か?」
「部隊指揮など一般人ができるのか」
若槻は、自分と一緒に元老の下に参じた山本首相の方に視線を送る。
それを合図に、山本が歩み出る。
「皆さま、この度海軍より適合者・・・それも男性が現れたことをご報告申し上げます。同時に、この度の人事内閣総理大臣として、海軍の大神一郎少尉を推薦します。」
現職首相であり、海軍長老である山本権兵衛は華撃団計画へ海軍士官を推挙したのであった。