龍門に登る   作:みーごれん

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古い、古い話でございます。

『龍門』と呼ばれる河が在るのを御存知でしょうか。

其の河は酷く急だそうで、逆行など出来そうもなく見える程だそうです。

しかし或る鯉がそれを見事登ってみせたのでございます。

其の鯉はなんと龍となり、天翔ける存在になったのだとか。

結果を見れば其の鯉は、成程素晴らしいモノでございます。

されど鯉が登るとき、わたくしは何故と問うてしまうのです。

何故態々苦しい思いをしてまで龍門を登ろうなどと思ったのでしょうか?

登りきった先で龍に為れると分かっていたのでしょうか?

それがわたくしには()せぬのでございます。

――語り手として不適格?

ええ、ええ、存知ております。

わたくしの語りは相ここまで。

これから先は、思惑入り乱れるヒトビトの物語の、はじまり、はじまり――――


鱗に照る木漏れ日のように
第一話 生き残ったモノ


SIDE・D

 

 

「こっこが今日からオっレの(ウチ)ィ~♪ お庭を散策、してみよかァ~♪」

 

 俗に言う死覇装を身に纏い、いい大人が歌いながらスキップしている。短い黒髪は、彼自身が切ったのか適当に切られており、長さが揃っていない。目元は少々厳ついが、鼻歌を歌っていることも相まってそれ程怖い雰囲気ではなく、どちらかというと見ていて和む空気が漂う。

 

 因みに彼の様な装束を纏った、一般に死神と呼ばれる存在は瀞霊廷と呼ばれる霊王のお膝元で生活している。

 だが彼は、死神であるにも関わらず流魂街――瀞霊廷をぐるりと取り囲んだ貧民街――に居を構えた。

 理由は簡単だ。彼はここの出身だった。

 

「んっん~♪ ふんふふンッブフアッ⁉」

 

 …………こけた。

 足元に落ちていた何かに躓いて、彼は派手に転んだ。

 

「いっ()ェな~、も~! 何だよ? 石?」

 

 彼が視線を足元に向けると、立方体の木箱の様なモノが地面に埋まっていた。その角が丁度彼の足に引っ掛かったらしい。

 

 そこでふと彼は眉を顰めた。

 ――地面に木箱が埋まってるって、どう考えたっておかしいだろ。

 

 思い立ったが吉日だ。彼は早速それを掘り返した。

 それは三寸(約十cm)ほどの小さな木箱だった。一見するとただの箱。

 だが、僅かに……ほんの僅かに霊力の様なモノを感じた。

 

(う~ん……何だろう、これ? 明らかに自然物じゃないよな。相談……した方がいいよな?)

 

 彼はひとりで頷くと、引っ越し荷物の片付けもままならないままに、相談に乗ってくれそうな人物の所に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 大声で何事か喚きながら駆け込んできた男を一瞥すると、その家の女主人は迷惑そうに舌打ちした。長く青い髪を高いところで括り、細めの目を一層鋭くして眉を顰める。

 

「で、ナニコレ?」

「ですから、庭で拾ったんですよ! 埋まってたのを不審に思って掘り出してみたら、何か霊力籠ってるし。余計なことする前にセンセのとこに持ってきた方が良いかなって思いまして」

「フン、そうかね。霊力……確かに微かだが感じるね。お前の見立て通り自然物じゃない」

「はい。何だと思いますか」

 

 フム、と彼女は顎に手を当てた。人差し指は立っており、頬を一定のリズムで叩いている。

 

「コノ感じ……古い封印の術のように感じられるね。掛けられたのも大分前のようだよ。モウ殆ど消えかけてる。チョットお前の斬魄刀で斬ってごらんよ」

「ええっ⁉ 嫌ですよ! そんな得体の知れないモノ……大体センセ、”封印の術”って言いましたよね? そんな簡単に破って良いモンなんですか⁉ 中身とか、なんかヤバいモノが入ってるんじゃ……」

「膂力で破れるほど薄れた術も破れない内容物が危険なものかね」

「うぐ……オレの斬魄刀に何かあったらどうしてくれるんですか!」

「ドウもしないに決まってるだろう? どうせもう何十年も始解できてない浅打なんて、在って無いようなモンだろ」

「酷い! 流石にそれは酷過ぎるっ!」

 

 

 

 結局、彼はその立方体を斬ることになった。

 

 上段に構え、振り下ろす。

 何があっても良いように、警戒は怠らない。

 

 立方体に斬魄刀が当たる直前、見えない球体の様なモノに阻まれて刀が弾かれた。

 

「ホウ! あれ程霊力が薄れていても粘るかね! オイ、もうちょっとちゃんと斬るんだよ!」

「はいはい」

 

 きちんと霊力を練ってもう一度。

 こういうの苦手なんだけどなあ…………

 今度は割とあっさり斬れた、と思った次の瞬間――

 

 カッ

 

 閃光

 

 と共に漏れ出た新たな、しかしかなり揺れた霊圧。

 

 二人が立方体のあった方を見ると其処には……

 

「「――――‼」」

 

 一太刀負った幼児が横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 駆け寄って、頬を叩く。

 身体は揺らさぬように。

 

「おい、聞こえるか? おい!」

 

 反応がない。

 頬を触った感じではまだ温かかったから、死んではいない筈だ。

 胸に耳を当てると、弱くはあるが鼓動が聞こえた。呼吸もしている。

 

「センセ! まだ生きています!」

「一体ナニモノだろうね? 興味があるよ。死なせないさ」

「そんな言い方して……でもお願いします! 僕まだ回道とか使えないんで」

「鬼道サエ三十番台までしか使えないお前にソンナもの期待してないよ。下がってろ」

「酷い……」

 

 若干涙目になりながらも彼は退いた。

 回道で生じた緑色の光を浴びて顔を顰めた幼児を見て、彼はセンセの反対側に回るとその手をそっと握ってやった。

 

「頑張れ! 生きるんだ!」

 

 現世で言う所の五歳にも満たないような子供に一体何があったのか?

 これは明らかに故意にこの子を斬ろうとした傷だ。

 こんなことをしでかした下衆に会ったら、後悔してもしきれないくらいボコボコにしてやる、と彼は誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さま? なにかあったのですか?」

「――、急いでここから逃げるんだ! 私は遅れてちゃんと合流する。母様と一緒に走りなさい」

「父さま?」

男子(おのこ)なら、泣き言を言わず母様を護れるな? ちゃんと逃げるんだぞ」

 

 結局それが、父さまを見た最後だった。

 

 

 

 

「――、いいですか、これから行く先で名を名乗るよう言われたら、下の名前だけを答えるのです。決して姓を名乗ってはいけませんよ」

「なぜですか?」

「なんでもです。姓はここに捨てていきます」

 

 母さま、何でそんなに悲しそうなのですか?

 それ程お辛いなら、そんなことをなさらなければいいのに……

 

 

 

 

「とう、さま……か、あさま……」

 

 頬を伝う暖かいものを感じて目を覚ました。

 ここは……何処だろうか?

 

 首を横に捻ると、見知らぬ男が寝台らしき台に突っ伏していた。

 

「んん……むにゃ?」

 

 目が合った。

 その男の目が、驚愕のために覚醒していくのが分かる。

 

「……お、おぉおお起きたァ! やった! 良かった! なあお前さん、身体はまだ痛むか?」

 

 からだ?

 どこも痛くないし変なところもない。

 首を横に振る。

 

「そうかそうか! お前、自分の名前は分かるか?」

 

 母さまの顔が浮かんだ。

 

「…………惣右介」

「惣右介! い~い名前だ! 何でここにいるかとか、元々何処にいたのかとかは分かるか?」

「あなたは、だれですか?」

「あ、しまった! ごめんごめん、オレの方が先に名乗らないといけなかったな! オレの名前は――」

 

 彼はニカッとこちらに微笑んだ。

 

「竜太郎! 藍染竜太郎だ! しがない平死神をやってる。よろしく、惣右介!」

 

 

 

 

 

 

 

「センセセンセセンセ~!」

 

 ドタドタ竜太郎が向かいの戸に駆け込もうとすると、それがいきなり開いて拳骨が真っ直ぐ彼の顔面に向かってきた。

 彼はそれを持ち前の運動神経で躱した。彼女が不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「フン、マタ躱した。それくらい聞こえているよ、バカ者」

「すみません! 起きました!」

「――何だって⁉」

 

 センセは珍しく急ぎ足で惣右介の病室に向かった。

 

「ヤイ、小僧!」

「惣右介ですよ。起きたばっかりなんですから静かにしてあげてください」

「お前がソレを言うかね」

「返す言葉もない! アハハ! あ、惣右介、こちらはお前の傷の手当てをしてくださった(クロツチ)マソラ先生(センセ)! オレはセンセって呼んでる。ここいらの医者をやってくださってる凄い方だぞ!」

 

 矢継ぎ早な竜太郎の言葉に惣右介は目を丸くしていたが、すぐに彼は両手をついて丁寧にお辞儀をした。

 

「この度は、怪我の治療をしていただいたとの事。大変有り難きことに存じます」

「フン、要らんよそんなもの。あの身なりから分かっていたことだが、お前やはり貴族の出身かね。どういう状況でああなったのか教えてくれるかね?」

「どういう……?」

 

 首を傾げた惣右介を見て、センセは大人気もなく溜め息をついた。

 

「覚えていないのかね? つまらん」

「とか言いつつあまり残念そうではありませんね」

「……言っただろう? アレには相当古い術が長期間掛かっていた。中に入っていたモノに大なり小なり影響が有るのは当たり前だよ」

 

 それより、とセンセは竜太郎を睨んだ。

 

「コノ小僧をどうするつもりかね? ワタシは面倒ごとはゴメンだよ」

「ン~……惣右介、家がどこかとかも覚えていないのか?」

 

 コクリ、と惣右介。

 

「じゃあ、色々上手く回るまではウチに置いときますよ。親御さんが見つかったらお返しする方向でいいんじゃないですか?」

「ナンデ他人事なんだね? まあいい。誘拐犯に間違われても知らんよ?」

「ま、うまくやりますよ」

 

 竜太郎が不敵に微笑んだ直後、地鳴りのような音が響いた。

 音のした方――惣右介が座っている方を向くと、彼は顔を真っ赤にしてお腹を押さえていた。茹蛸の様な惣右介を見て、竜太郎が顔を綻ばせる。

 

「アハハハハハ! 忘れてた! そりゃあ腹減るよな! お前って下手するとオレより霊力有るみたいだし。ちょっと待ってろ、何か買ってくるよ」

 

 竜太郎が部屋を出るのと同時にセンセも部屋を出た。

 

「アノ傷……」

 

 センセが呟いた。

 真剣そのものだ。

 

「アレは確かに、斬魄刀で斬られた傷だった。つまり、アノ小僧を斬ったのは死神って事だね」

「……!」

「クレグレモ気を付けることだよ。アンナ小僧を殺そうとするなんて、只事じゃない。真面(マトモ)じゃないね」

 

 竜太郎の瞳に殺気が宿った。あんなに小さな子供に刃を向ける――向けられる者が自分の同族にいたという事実に怒りを隠せない。

 

「バカ者、落ち着かないか。お前程度の霊圧でも、普通の魂魄には圧に感じるんだよ。コノ辺りで暮らすならソウイウコトも考えろ」

「――ハイ、センセ」

 

 そう言いつつ微塵も小さくならない竜太郎の霊圧を感じて、センセは彼に拳骨をかました。

 

 

 

 

 

 見知らぬ部屋に一人残された惣右介は、そわそわと周りを見渡した。

 変なニオイがする。寝台は粗末だし、部屋も狭くて貧相だ。

 前暮らしていた家は、この何十倍もあった。あそこは一体何処にあったんだろう?

 

「父さま、母さま、何処にいらっしゃるのですか……?」

 

 うっかり涙が出そうになるのを、彼は健気に堪えた。

 

『男子たるもの、簡単に涙を流してはならん! 分かったな?』

 

 父さまの教えだ。

 こんなの、寂しくなんかない。

 

 俯いていたら、急に抱きしめられる感覚がした。

 

「な……」

 

 驚いて顔を上げると、頬にじょりッとした感触。鬚だろうか?

 きつく、けれど決して苦しくないように、竜太郎が惣右介の体を包んでいた。

 

「こんなに震えて……一人にしてごめんな。いきなり独りぼっちじゃあ不安だよな。もう大丈夫だ、惣右介」

「そんな……ことは、あり、ませ……ぅ、うぅっ……うわああん!」

 

 ああ、父さま、ごめんなさい。

 どうしても、涙が止まらないのです。

 どうしようもなく、溢れてしまうのです――――

 

「心配すんな。お前がとーちゃんかーちゃんに会えるまで、オレが一緒に居てやるからさ」

 

 竜太郎は“泣くな”とは言わなかった。

 込み上げてきたこの気持ちを知っているほど、惣右介はまだ大人ではなかった。

 余りに幼く、余りに無力な少年だった。

 

「今日からお前が本当の家に帰るまで、お前の名前は――」

 

 惣右介の感情の高ぶりが収まってきたころ、竜太郎はそっと言った。

 

「――()()()()()だ。苗字はオレとお揃いだぞ。オレのことはにーちゃんみたいに思ってくれていい。言いたいことは何でも言えよ?」

 

 “ま、平隊員の死神に出来ることってそんなにねえけど!”と言って竜太郎は豪快に笑った。

 その時、竜太郎が食事にと何故か持って帰ってきて食べさせてくれた豆腐の味に勝るものを、惣右介はこの先知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ええ、ええ、もうお気付きでしょう。

これは、全ての始まりの物語。

 

鯉たちが、龍門を目指すまでの物語――――

 

 

 

 

 

 

 




はじめましての方も、お久しぶりですの方も、こんばんは!
みーごれんと申します。

期せずして前作と似たようなネーミングになってしまいましたが、深い意味は有りません。

今回は原作のキャラクターを中心に回してみるという試みに挑戦します。
勢いで書いたので、二・三話投稿したらスピードがガンガン遅れていくと思います。大筋は出来ているんですが、細かいところがアレなんです。はい。

原作でほぼ全く触れられていない領域ですので、今作はほぼ百パーセント作者の大きな仮説……というか空想でできています。耐えられない方はそっとブラウザバックの方向で宜しくお願い致します。

タグは、まあ、追々増やしていくかなと……
未定ですが。

加えて、各話最初に付く”SIDE・D”は今の所ほぼ毎回付く予定ですので、あまりお気になさらず。


人物紹介をば……
・惣右介
 現在の見た目は五歳児くらい。流石に眼鏡は掛けていない。
 そうです。彼です。

・藍染竜太郎
 見た目二十代前半くらい。肉付きは程々で、体躯は大きめ。髪の色は黒く、短い。理髪店は肌に合わないらしく自分で髪を切っているが、上司(金髪ロン毛)からはみっともないからちゃんと切れと言われている。センセより十五センチくらい背が高い。
 護廷十三隊所属。席官ではないが、飾らない人柄で人望も厚い。バカなのが玉に瑕。彼の知り合い曰く”それも彼の良さ”らしい。テンションの上下が激しいが、あまり物事を引きずらないタイプ。”よく考えていないダケだよ”――byセンセ
 少年時代、行き倒れていたところを涅夫妻に助けられた。彼のお人好しの性格は涅(夫)の影響。

・涅マソラ
 見た目三十代後半くらい。髪は青く、長い。以前は邪魔だと切ったこともあるが、中途半端に長くも短くもない期間が耐えられなかったらしい。きつめの美人だが、眼光が鋭い。慣れると笑っている時も有るのが分かる。基本不機嫌そうな顔。
 西流魂街第五地区・饗庭にて開業医を営む。
 息子が一人いる。名前はお察しの通り。夫は四番隊に勤める死神だったが殉職。彼女の回道や治療の知識は彼から教わったり見て学んだ。その為霊術院には通っていない。
 非常に分かりにくいが割と世話焼き。地区内でも、”気難しいヒトだが腕は一級で、心優しい”と受け入れられている。怪我などはすぐに治してしまうので、人が足繁く通うわけではない。
 医術をほぼ独学で習得できるほどの才女だったため、夫から四番隊にスカウトされていた。面倒くさいと一蹴したそう。



原作知識だけで書いてます。
小説やゲームの新設定とかは把握しきれていないので、スルーしています。原作にあることで”あっ……”という所がありましたら、指摘していただけると助かります。(修正できるかは分かりませんが……努力します!)
小説は、読めれば読みたいのですが……今はWiki先生からのみ情報を得ています。
ゲームは知りません。数が多すぎます。


前作とは打って変わって、のんびりやろうと思ってます。
一人でも多くの方に楽しんでいただけますように!
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