龍門に登る   作:みーごれん

12 / 26
第十二話 黒白のカイコウ

 SIDE・D

 

 

 そっとその部屋を覗くと、中にはヒトがおらず閑散としていた。

 どうしたものかと立ち止まっていると、この部屋に近づいてくる知った気配の方を感じ、惣右介は体をそちらへ向けた。

 

「先日は失礼しました、大前田殿」

 

 ここは二番隊――執務室前の廊下だ。ここへ書類を届けるのを任されたついでに、立ち寄ったのだった。

 雨樋の上から降りてきた人影は、苦笑しながら惣右介の前に立った。

 

「気配も霊圧も完全に消してたと思ったんだがなあ……白打でも負けちまうし、隠居すべきかねえ?」

「意識して抑えても完全に消すなんてことは誰にもできませんよ。それに昨日の今日ですから、僕がちょっと敏感になってるだけです」

「“ちょっと”、なあ? ま、いいや。素直にそうかと言っておくぜ。そんで藍染十席、ウチの隊長に何か用か?」

 

 昨日とは打って変わって気さくに話しかけてきた大前田は歯を見せて笑った。笑うだけでこれ程印象が変わるヒトも珍しい。

 マソラの一件を思い出して惣右介は顔を暗めたが、俯きがちに首を横に振った。

 

「いえ、昨日お話を伺った方ならどなたでも良かったんです」

「ホウ? 昨日の続きか?」

「いいえ。過ぎた事をどうこう言う気は有りません。全くの別件です」

「話が見えねえな。いいだろう、中に入れよ。俺の茶は不味いぜ?」

 

 不敵に笑ったその顔は次の瞬間引き攣った。

 

「ちょっと待て、その部屋を覗いて()()()()()()()()()()()()()って事か?」

「はい。どなたもいらっしゃいませんでしたが……」

「……四楓院四席(あンのクソガキ)~ッ! 後で書類仕事倍にしてやる‼」

 

 大前田が拳を握りしめ、青筋を浮かべて震えている。

 ”本来ならここで彼女が仕事をしている筈だったのだな、僕は奔放な上司を持たなくて良かった”、と惣右介は竜太郎の隊長も思い出しながら思った。――そう、あくまで他人事である。

 

 

 

 

 

 

 

 惣右介は大前田に出された煎茶を一口飲んで、先程の言葉は嘘ではなかったと知った。

 茶をここまで不味く入れられるヒトは中々いないだろう。何がどうと具体的に言い表せない、独特な味がした。残すのも失礼なので、少しずつ喉に通す。

 

「見た目に寄らず、アンタ面の皮厚いんだな」

 

 湯呑みを摘まむ様に持った大前田は苦笑しながら言った。

 

「ええっと……」

「ああ、分かりにくいかもしれねえが一応褒めてんだぜ? 隠密機動や二番隊の業務は感情を押し殺して行うモンが多いからな。それでもお世辞にも旨いたァいえねえこの茶を、眉一つ動かさずに飲めるのなんてウチの隊じゃ隊長と喜助くらいなもんだ。アンタやっぱ、四楓院四席が言ってたみたいに隠密の才があるかもな」

「ありがとうございます……?」

 

 暗殺や偵察を主任務とするといわれる隠密機動は、正直なところあまり良い印象はない。どう反応して良いか分からず戸惑っていると、大前田は気前よく笑った。本当によく笑う人だ。

 

「あっはっは! おうよ! んで何の用だったんだ?」

「滅却師についての情報を、何でもいいので教えていただきたいんです」

「! ……何だと?」

 

 急に陰ったその表情に惣右介は少し怯んだが、それでもなお食い下がった。

 

「近々現世へ滅却師に協議を申し出に行くんですが、その予備知識を入れておきたいんです。ですが尸魂界の図書はあまりに少ない。古い情報は仕方が無いとして、滅却師との接触が多い今、彼らの現状については隠密機動ならなにがしかの情報を得ていると踏みました」

「むう……確かに最近滅却師の動向を探る任務は間々あるから他隊よりゃァ詳しいが、交渉材料になるようなもんはそうそう教えられねえぞ?」

「五席の権限で十席へ教えるには、ということですか」

「ま、そうなるな」

 

 機密事項が多いだろうということは最初から分かっていたことだ。それでも構わない旨を伝えると、難しい顔をした大前田は暫く唸った後、“仕方ねえなあ”と口を開いた。

 

「現在滅却師が二派に分かれているのは知っているな?」

「はい。佐伯家側と石田家・黒崎家側ですよね。実は先日、石田宗弦と接触したんです。その繋がりでそちらに協議を持ちかけるように命じられました」

「そりゃまた……珍しいこともあるもんだな。石田宗弦は協議に出ないどころか死神との接触自体避けているらしいんだ。どうやらそれもあって少数派の彼らは佐伯派と敵対できているんだと」

「? ……どういう意味ですか?」

「詳しいことは分からん。だが死神は相当滅却師から嫌われているんだろうよ。だからこそ俺らは石田宗弦と接触したいわけなんだが」

 

 ズズ、と音を立てて彼は茶を啜った。渋い顔になっているのは茶が不味いせいだけではないのだろう。

 

「――どうにも俺らへの態度が変なんだよ。“共存”派って割りに共存しようとしてねえ。話に行っても追い払われるし、虚を横取りされることも無いわけじゃねえ。ま、佐伯ンとこに比べりゃ温厚だし、死神を怪我させることもねえから敵対する気はねえらしいがな」

「そうなんですか……確かに石田さん、“死神は好かん”と仰ってました。でも僕個人に関しては好印象を持ってもらえたみたいです。個人で話す分には話の分かる人だと思います」

 

 惣右介の言葉に大前田は目を瞬かせながら嘆息した。

 

「マジで向いてるぜ、オメエ」

「隠密機動にですか? 御冗談を」

「いやいや、対象に取り入るってのは簡単じゃねえ。特に気難しい相手ってのはいるもんだ。石田宗弦なんてその中でも別格と言っても過言じゃねえ難易度だぜ」

「あれは偶々ですよ。そういう状況になっただけで」

 

 佐伯に射られ、石田に救われる――

 席官とは言え、一隊士の身の丈に余る出来事だったなと惣右介は顔を曇らせた。だがそんな事にはお構いなしで、真面目な顔になった大前田がバッサリ言い切った。

 

「運も実力の内だ。死線をくぐるときなんてのは大抵運だしな」

 

 ”運”なんて言葉を隠密機動も使うんだなと惣右介が内心で驚いていると、考えていたことが分かったのか大前田がバツの悪そうな表情になった。惣右介が何か言う前に、大前田が続ける。

 

「……それは兎も角だ。石田宗弦と交渉すんなら、ある程度ゴリ押しで行った方が良い。調査してる感じだと、石田はクソ真面目な優等生タイプだ。奴にとって、行動することで生じる利益か、しないことによる不利益を提示すれば臨機応変に判断してくるだろ。あとな、口論には持ち込まず、畳み掛けた方が良い。俺の印象だと、ゴリ押されてムキになるような性質(タチ)でもねえだろうから、グイグイ行ってみな。ああ、奴は俺らには居留守をよく使うが、顔見知りならそれもされねえだろ。下手に外で”偶々出くわした風”を装おうとするよりは、家に行った方が良いと思うぜ。多分そうしねえと躱される。――ま、俺らは一回も接触できてねえから参考程度に聞き流してくれ」

 

 ビシィッと親指を立て、ウインクしながら大前田が言った。頼りにして良いのかよく分からない感じになってしまったが、石田に関しては惣右介の印象に近かったため、彼の推察は正鵠を射ているのだろうと思う事にした。

 

 その後も、大前田は石田のみならず、滅却師に関する事実とそこからの推察を惣右介に話してくれた。特に、佐伯の手勢と接触しない範囲を教えて貰えたのは大きかった。

 

「気が変わったらいつでも二番隊(ウチ)転属しろ(来い)よな! 歓迎するぜ」

 

 再び豪快に笑った彼は惣右介を快く送り出してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 将来有望な死神の影が見えなくなってから、大前田は溜息を吐いた。

 

(……いや、やっぱ言わなくて良かったよな)

 

 手には一枚の報告書。

 調査対象の写真と名前、性別、簡易な家族構成以外の欄は悉く白い紙。

 

 名を、黒崎咲秋。

 

 石田宗弦と同じく、”共存派”として広く死神に名を知られる人物だ。

 しかし、その名を知る死神の中で、彼について名前以外で知っていることがある者は皆無と言って良かった。

 

 それは大前田にとっても同じことだ。

 彼が生きてきた中で、黒崎ほどやりにくい相手はいなかった。

 普段、何処で何をしているのか? 趣向は? 能力値は? 弱みは?

 

 全てが分からない。

 何度探っても、一分の隙も無く捜査網からすり抜ける気味の悪い男。

 

(――藍染が会いに行くのは石田だ。よく分かんねー奴を下手に警戒させるよりは、何も知らねえままの方が良いだろう。……ま、今の状況でも”何も分からねえ”事に違いはねえがな……)

 

 結局進展しなかった報告書を握りつぶすと、彼は苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

「何じゃ、大前田? お主、しかめっ面が似合うのう」

 

 後ろからした声に、ほぼ反射的に掴みかかる。

 いや、掴みかかろうとして、今日もすり抜けられた。

 伸ばした手の先には、黒髪金目褐色肌の少女が、客が座るための長椅子に悠々と寝そべって挑発的な笑みを浮かべていた。

 

 四楓院夜一四席(仕事をサボっていたクソガキ)である。

 

「はっはっは! (のろ)いのう! まだまだお主()()()に捕まりはせんなァ!」

「このクソ上司……仕事しろってんだッ!」

「お主が儂を捕まえられればやってやらんでもないぞ? 出来るものならのォ!」

「助太刀するっスよ、大前田サン!」

 

 ノリノリな軽い声が再び背後から聞こえた。

 これは絶対、四席の幼馴染の浦原喜助だ。あいつがこういう感じの時は、碌なことにならない。

 今だって例外じゃない。嫌な予感しかしない。

 

「喜助、莫迦、やめ――」

 

 彼が振り返った直後、すげえ良い笑顔の喜助が大砲の様な物の引き金を引くのが見えた。

 

 は? それ打つの? やっぱ莫迦なの?

 

 ボンっ

 ビッチャァ……

 

 ロケットランチャー的な何かを喜助が発射→部屋に粘着質な何かが散乱→夜一ホイホイ――的な流れを想定してたのかしてなかったのかは最早どうでも良いことだ。

 喜助の姿を見た時点で夜一はこの部屋から脱走。

 それを見て喜助が追走。

 置き去りにされた大前田はべっちゃべちゃになった書類の山を見渡した。

 

 

 何かがキレる音がした。

 彼は後にそう語った。

 

 

 ”四楓院夜一が来て以来、二番隊から奇声が聞こえることが多くなった”

 ――唯でさえ謎が多い二番隊に増えた謎は、これだけではない。

 理由は、御想像の通りである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後

 

 ――現世・空座町――

 

 霊圧知覚を最大限解放して片桐がいないことと石田がいることを確認した惣右介は、極々小規模に縛道で石田と音声を繋いだ。

 

「石田さん、お久しぶりです。僕は藍染です。お話が在って伺いました」

『これは――死神の術か。久しぶりだな、藍染。だが話すことはない。帰れ』

「僕はあります。どうしても聞いていただけないなら、門から堂々と戸を叩かせてもらいます」

 

 大前田からに限らず、ここ数日で滅却師内部の小競り合いの話を間々耳にした。”死神と接触しないからこそ、対抗派と渡り合える”――その真意は結局分からなかったが、佐伯とも鉢合わせしていた惣右介が石田家の戸を叩いたら、嫌でも()()()目につくだろう。聡明な彼なら密会を選んでくれるはずだ。

 ――暴論なのは自覚しているが、ある程度強硬で行った方が良いだろうと大前田に言われたこともあるし、ここまでくれば押し通すしかない。

 

『……脅しのつもりか? 事前の連絡も無く……随分と礼を失する振る舞いだ。それともこれが死神流か?』

「家にいらっしゃる時に直接伺うのが良いと教えていただいたものですから、このような形になってしまいました。非礼はお詫びします。本当に申し訳ありません。されど貴方との接触は総隊長の勅命。どうしても為したかったとご理解いただきたいのです」

『…………五分待て』

 

 

 

 ――きっかり五分後、彼は惣右介の前に姿を現した。眉根を寄せて腕を組んでいる。

 邸宅の裏手に広がる雑木林の――傾いてきた木陰が、踊るように二人の上に降り注いだ。

 

「……要件は何だ?」

「護廷十三隊と、石田さん側の滅却師とで協議の場を開きたいと総隊長が仰っています」

「断る」

「即答ですか……理由をお伺いしたいです」

 

 あまりにもバッサリと断られながらも、惣右介は食い下がった。

 死神側に改善すべき点があるなら、知らねばならない。

 

「先刻君がああやって話しかけてきたのは、聞いていたからじゃないのか? 対抗派と我々が対等に在るには死神と関わらぬことが最善だからだ」

「その理由が分かりません。何のための“共存”なのですか!」

「”共存派”とは君たち死神が勝手に言っているだけだ。我々は死神に()()()()()()()()()()()()()()()()。佐伯ら一派と敵対しているだけだ」

「! ――それは……どういう意味ですか」

「質問しかしないな、君は。少しは自身で調べたらどうだ」

「出来る限りのことはしてきたつもりです。しかし尸魂界にある書籍などでは情報が足りなさすぎる。何故対抗派が頑なに我々の――必要以上に虚を滅却すべきでないという言を拒絶するか分からないのです。仲間を討たれた憎しみを晴らすために虚を殲滅しているにしては、些か不自然だ。それに、活動が大規模になってから今までの期間が短すぎます」

 

 石田の眉間の皺が苛立たし気に一層深くなる。

 

(だから言ったのだ。馬鹿者が)

 

 視線を逸らして彼が呟いた。自分に言われたのかと訊き返そうとした惣右介が口を開く前に、石田が視線を戻す。

 

「…………私が協議に応じないのは、意味が無いからだ。死神に解決できる問題ではない。――話し合いで如何こうなる時勢など、とうに過ぎている」

「それは、い「だよねぇ~‼」――⁉」

 

 一人がこちらへ歩いてくる。声音から男性だと分かるが、雨でもないのに差された蛇の目傘に阻まれて顔が見えない。

 

「そーちゃんが死神といるなんてビックリだなぁ~! ナニナニ? 僕以外にできた友達? しょーかいしてよぉ!」

咲秋(サクシュウ)……訪問予定は明日だったはずだが」

「別にいーじゃん! 僕とそーちゃんの仲でしょ? で、其処の少年はだ~れ?」

 

 片目が傘の影から惣右介を覗いた。大きめの瞳が細く引き絞られる。

 下手な動きをすれば、ノーモーションで()りに来る雰囲気だ。”サクシュウ”と呼ばれた彼が石田の隣に並ぶ。同時に、くるくると回転させながら彼は傘を閉じた。

 大きく黒い瞳に長く後ろで緩く束ねた黒髪。身長は石田よりも少し低く、細身だが痩せ過ぎではない。ニコニコと人当たりの良い笑みを浮かべながらも、片時も惣右介から目を離さない。

 石田は溜息を一つ吐いて、彼を窘める様な声音になった。

 

「”藍染惣右介”。先日話した死神だ。サッサとその殺気を仕舞え」

「あ~あ! あの! うんうん、りょーかいだよ! 初めまして、そーすけくん! 僕、黒崎(クロサキ)咲秋(サクシュウ)! そーちゃんのマブダチです☆」

「死ね」

「ひど~! 冗談でもそんな事言っちゃい~けないんだぁ~!」

 

 緊張感が有るのか無いのか分からない会話を続けている二人とは裏腹に、惣右介は驚きを隠せずにいた。

 黒崎咲秋――共存派筆頭のもう一人だ。

 …………想像していた雰囲気とは大分違うが。

 

「改めまして、護廷十三隊一番隊第十席、藍染惣右介です。お初にお目にかかります、黒崎咲秋殿」

「へ~、一番隊の席官! 見えない~! 若いっていいねぇ! そんで……」

 

 黒崎の姿がブレた。

 高速歩法で惣右介の背後に回られる。

 持つ者が居なくなり、傘がとん、と音を立てて地面に倒れる。

 身体をずらし、黒崎から伸びてきた手を掴み返した。

 

 掴まれるとは思っていなかったのだろう。黒崎は大きく目を見開くと、すぐに笑顔になった。

 

「へえ~~! 良い動きだ! 見た目に依らずやるじゃん。“弱いね、ふっ……”ってやる予定だったのに、赤っ恥だな~!」

「ありがとうございます……?」

 

 迷いながらも惣右介が感謝の言葉を口にすると、黒崎は更に目を開いたかと思うと噴き出した。

 

「ぷっ、あははは! いーね、気に入ったよ! そーちゃんが何で君を気に入ったのかが分かった! 僕のこと、もっと気軽に呼んでいいよ♪」

「はい、黒崎さん」

「む~、固いな~……ま、追々でいーや。ねね、そーちゃん、そーすけくんにならヒントぐらい言ってみてもいーんじゃん?」

 

 互いに手を離すと、やや真剣みを帯びた笑みで黒崎は石田に向き直った。

 石田の顔が一層険しくなる。

 

「これは我々の問題だ」

「今月だけで何人死神が負傷した? そうも言ってられないじゃんか」

「否定はしない。だが、死神が積極的に介入すれば今までの様な小競り合いのレベルでは済まんぞ? 少なくとも、山本重国が総隊長である内は死神に介入させるべきではない」

「どういう意味ですか⁉」

 

 流石にこれは惣右介も口を挟んだ。

 沈黙した石田に代わって黒崎が不敵に笑う。

 

「そーすけくんは、八百年前の戦いでそっちの大将が誰だったか知ってるでしょ? 滅却師の多くは、彼に対して良い印象無いんだよねぇ。いや、この言い方だと語弊があるかな。滅却師なら、彼に対して大なり小なり敵意がある。彼が出張るとなると、殆どの子が黙ってないだろうなってこと!」

 

 納得して俯いた惣右介を見ながら、意地の悪い顔になった黒崎が早口に続けた。

 

「実は今、ここらの滅却師はある使命の下に動いてるんだけど、そのやり方をめぐって真っ二つに割れてるんだ。僕らと禅ちゃん――じゃ分かんないか、佐伯禅治郎って言った方が良いかな。兎に角僕らと彼をそれぞれ筆頭にしてね」

「咲秋!」

「もー、分かってるって。あんま言わないから! 問題は、”死神との関係をどーするか”? ――維持と変革のどちらが良いかって話さ。僕らは維持したほーがいいよねって思ってるんだよ。それがそーすけくん達死神には協力的だって映ったみたいだねぇ~」

 

 石田に睨みつけられても全く反省していない様子で黒崎が謝っている。そんな二人を呆っと見ながら、惣右介は思索に耽った。

 

 総隊長に介入させたくない

 死神に今後関わってくる

 噂

 確認

 佐伯

 滅却師

 維持と変革

 総隊長の苛つき

 盲信

 誇り

 逃走及び消失

 眷属

 

 情報から、隠された情報を――

 点を、線に。線を、面に。面を、立体に――

 

 マソラから教えて貰った思考法だ。

 

「…………始祖の、復活? いや、その後の死神との決戦……?」

「「!!?」」

 

 うっかり零した惣右介の思い付きに、二人の剣幕が変わった。

 

「そーすけくん、何でそう思った?」

「お二人のお話と、総隊長の様子を見てそうかなと思ったんです。思い付きだったんですが……」

「思い付き、かぁ……ねえ、総隊長の様子ってヤツを教えてくんない? どんな感じだった?」

「大分苛ついておられました。特に、滅却師という単語に過敏に反応していらっしゃって」

「ふむふむ、成程ねぇ。その認識はちょこっと宜しくないなあ…………そーちゃん、これは……」

「…………」

 

 緊迫した雰囲気を一層濃くしたその場は、耐えがたい沈黙に支配された。やがて、石田は大きく溜め息をつくと惣右介に向き直った。

 

「協議とやらに誘いに来た、と言ったな? その誘い、やはり受けよう」

「! ――ありがとうございます」

「ただし、公にはするな。この会談が漏れれば、大勢死ぬ事態に発展しかねん」

「分かりました」

「加えて――」

 

 石田は、切れ長の目を一層細めた。

 

「協議に参加するのは、私と咲秋、君と総隊長のみだ。それ以外の面子ではやらん」

「⁉ ……それは僕一人では答えかねます」

「構わん。後日結果を貰えればいい。…………恐らくこの要求は通る。それと藍染、今日話したことは、他言無用だ」

「あ、協議に関する報告は総隊長に話さないといけないと思いまーす!」

 

 片手を元気よく振って咲秋が言った。めんどくさそうに石田はそちらを見て、もう一度惣右介の方を向いた。

 

「それ以外に決まっているだろう。だが、総隊長以外には決して話すな。君の推測に至っては、総隊長にもだ。いいな?」

「はい」

 

 

 

 

 

 SIDE・Q

 

 一礼して去っていった惣右介が居た場所を見たまま、二人は暫く動かなかった。

 

「山本元柳斎重國――流石は死神の長ってところだね。現世にもしっかり警戒を怠らない」

「余計なお世話だ。尸魂界にのみ(かかずら)っておけばよいものを」

「そーゆーわけにもいかないでしょ。彼らは自称“調整者(バランサー)”なんだからさ。それに、禅ちゃんはちょっと(はしゃ)ぎ過ぎ、目立ちすぎ! 死神が本腰を入れてくるのは時間の問題だったさ。今の所は死者が出てないから表面化してないだけでね。だからそーちゃんがこの前禅ちゃん止めてくれたの本当にファインプレーだったよ! ぐっじょぶ!」

 

 咲秋が親指を立てて決め顔をしているのを無視して、宗弦は声を更に低めた。

 

「…………それで咲秋、どう思う」

「…………かなりマズイ。それなりに覚悟して臨むべきだろうね」

 

 普段とは打って変わって真剣な咲秋の表情を見て、宗弦が苦し気に瞳を閉じた。

 

「分かった。――やるだけやってみるしかないな」

「ン。あぁ~もぉ~、参っちゃうよねぇ。さっさと引退して隠居した~い!」

「我々にそのようなモノは存在しないだろう? まったく……」

「いやいや、うっかり追放にでもなったらあるじゃん☆」

「縁起の悪いことを。余程のことが無ければそんな事にはなるまい」

「まーね!」

 

 明るく振舞う咲秋の眉根が寄る。

 珍しく苦しげな表情に、宗弦が目を見開いた。

 

「咲秋?」

「…………ねえ、そーちゃん」

「何だ」

 

 次の瞬間、咲秋の表情筋が完全に()()()

 

「今朝ね――――真咲が、僕のこと”おとーしゃま”って呼んでくれたんだ~‼ 天使は……天使は地上に居たんだッ!」

「まさかそれを語るために来たんじゃないだろうな……」

 

 片手で頭を覆いながら溜息を吐いた宗弦は、咲秋に聞こえるか聞こえないかの声で、”言う気が無いなら構わんが……”と呟いて首を軽く横に振ると、咲秋に背を向けた。

 

 尚も話し続けようとする咲秋に、興味無さげに宗弦が歩き出した。彼を追おうと咲秋が駆けだしたのを、宗弦が手で制止する。

 

「来るのは明日にしておけ。私は今、抜け出して此処に来ている。報告前に他人の口からこの件が漏れるのは不味い」

「真咲が天使なのは周知の事実だよ☆ 真咲に手を出す奴は、僕が全霊を以てブチ殺すし♪」

「茶化すな。そっちじゃない」

「むう……残念だけど、その通りだねぇ……おけ! また明日ねぇ~!」

 

 軽く手を振った咲秋の姿が飛簾脚で消えた。

 

 

 

 空は生憎の曇り空で、夕日は見えない。

 

 

 

 

 

 




人物紹介(仮)
・黒崎咲秋
 滅却師の家系、黒崎家の当主。
 黒髪長髪。肩下くらいで緩く髪を結んでいる。宗弦より背は低いが長身の部類。童顔かつ口調が軽いので若く見えるが、時折見せる爺臭い発言でどっちなのか分からない。
 大前田曰く、”よく分からない気味の悪い人物”。洗っても情報が出てこない。



咲秋の名前は、一字ずつ違う人から取っています。
一文字は言わずもがもな。二文字目は誰かの対です。そういうイメージで作ったキャラクターです。


ところでこの時代の滅却師って何を着てるんでしょうね。
私服は和装なんでしょうが、戦闘服も白い和装なんでしょうか? それって思いっきり死に装束ですよね……
戦闘時はやっぱりマントにスーツっぽいあの正装でしょうか。だとしたら浮き様が半端じゃない……夜活動するにしても白くて目立ちますし。
各地で見られる幽霊伝説って、正装した滅却師だったりして(笑)



そして、ここ一週間のUA数とお気に入り数が凄まじい事になっていました。
前話投稿した時は、「お気に入り数もうちょっとで40だ、頑張ろう!」ってなってたはずなんですが……
本当にありがとうございます!
一層精進します!

今回も最後までお読みいただきありがとうございました!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。