龍門に登る   作:みーごれん

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ケンタウロス様、誤字報告ありがとうございました!


第十三話 動き出すハグルマ

 SIDE・D

 

 

 ひざ丈ほどの机を挟んで、二人ずつが互いに向かい合って座っていた。

 

「よう来てくれた、石田宗弦、黒崎咲秋」

「こちらこそ、山本重国総隊長。こちらの要望を通してくれたこと、感謝する」

 

 石田と総隊長が挨拶を交わした。それだけのことなのに、何故か互いの緊張感が触れられそうなほどに伝わってくる。

 

 山本元柳斎重國総隊長、藍染惣右介一番隊第十席、石田宗弦、そして黒崎咲秋のみがこの空間に存在しており、回りには人影一つない。人影が動けばすぐに察せる現世の小高い丘の上に、薄布で天幕が張られたこの場所が対談の場だった。

 滅却師の当主二人のみならず、総隊長とも相席する羽目になってしまった惣右介は、胃が痛い思いでその場にただ坐していた。変な汗が止まらなかったのは仕方のないことである。

 

 形式的な挨拶が住んだところで、総隊長が重々しく口火を切った。

 

「さて、早速で悪いのじゃが、お主ら二人が協議に応じたのは共存やらなにやらの話の為では無いのう?」

「ええ。そちらがどの程度知っていて、どの程度干渉してくるつもりなのかが知りたい」

「随分一方的な物言いじゃな。そのようなこと、易々と開示できるわけあるまい」

 

 石田がさらりと要求した。なんだか、()()()()()気がする。

 兎も角、わざわざそんな風に言わなくても良いのに、と惣右介は冷や冷やしながら思った。黒崎の方を見ると、ヤレヤレという風に石田の肩に手を置いた。

 

「そーちゃん、その言い方は火に油だって。相手が総隊長なだけに。あ、これ上手くない? どうよ、そーすけくん!」

 

 総隊長の斬魄刀が炎熱系なことを言っているのだろうか? 分かりにくい……

 というかこのタイミングで振って来ないでほしかった。どう答えてもこの場を納められる気がしない。

 

 惣右介は若干引き攣った笑みを浮かべながら頷いた。

 

「そう、ですね……」

「藍染、駄目なら駄目と言うべきだ。咲秋、ここはふざける場じゃないぞ」

「分~かってるって☆ でもそーちゃんってば余裕無さすぎ! そんな言い方じゃァ協議にならないよォ」

 

 石田の警告を軽く躱した咲秋は、ふと真剣な表情になって総隊長に向き直った。

 

「総隊長、我々が持っている情報は不確かなものばかりなんです。だからこそ我々と禅ち……じゃなくて佐伯は対立している。そういう意味なんですよ。我々としては、下手にそちらに介入してほしくない。余計な血を流したくない。そういう事が言いたいのです」

「不確かでも構わぬ。情報を開示してはくれんか」

「流石に全ては把握しかねています。それに、変な誤解を招く可能性が有るものもある。先んじてこちらが話すよりは、そちらの情報を訂正していく方が正確かつ迅速かと思います」

「…………ふむ、ならばこちらが掴んでいる情報を話そうかのう」

 

 渋々、といった感じで総隊長は口を開いた。

 

「ここ数年で一気に滅却師の活動が活発になってきておる。大量の虚を狩り、新たな術や技を開発し、(あまつさ)え死神に危害を加えるようになった。そこで調べてみると、曰く“祖の復活が近い”、曰く“彼の軍に従え”、というようなことが囁かれているそうじゃ。これが本当なら、死神として止めぬわけにはいかぬ」

 

 一抹の不安が惣右介の胸に湧き上がっていく。この流れは、マズいのではないか?

 黒崎と石田の表情も曇ったままだ。

 

「…………後者は兎も角、前者は確かに噂になっています。だが余りに現実離れしている。特に一つ目は“祖の力を継ぐ者の生誕”だというものもあります。こちらの方が余程信憑性が高い。しかし、そういう力を我々の陣営は探知できずにいます。加えて噂の出所が全く掴めない。正直に申しますと、ただの噂だろうというのが我々の見解です」

「それにしては、活動している滅却師の数が多すぎるのう?」

「…………それが、後者の噂というか最早スローガンですが、それを出している人物は割れているのです」

 

 そして黒崎は黙り込んだ。だがこれは、殆ど名指ししたにも等しい行為だった。

 

「成程のう。佐伯禅治郎じゃな?」

「「…………」」

 

 沈黙は金というが、今回に限ってはそれに意味はなかった。二人にもそれは分かっているようで、今度は石田が口を開いた。

 

「禅治郎に関しては我々が話をつける。死神の手出しは不要だ」

「話し合いでどうにかなる問題かの?」

「……奴は確かに熱狂的なまでに今回の件に執着している。だが奴とて大家の当主。それくらいの分別はある」

 

 ”それくらいの”、という言葉が引っ掛かる。

 それはつまり、死神と真っ向から事を構えることが得策かどうかという事だろうか?

 しかし石田は、“話し合いに意味のない所まで事態は進んでしまっている”というようなことを言ってはいなかっただろうか? だとしたら……

 

「戦うつもりですか……? ――佐伯たちと……」

「!」

 

 惣右介の言に石田が目を見開いた。

 

「……聡いな。身内の問題は身内で片を付ける。常識だ」

「お主らでは相手にならんことくらい、重々承知の上なのかの?」

「…………無論だ」

 

 淡々と言ってのけた石田と同様に、黒崎もまた静かに沈黙している。二人の様子を見て、尚も総隊長は口を閉ざさない。

 

「正直に言うと、お主らの手勢では足止めにもならんぞ」

「分かっていると言っている。だが、止めねばならない。滅却師の血を絶やすような事態だけは避けねばならない。我々が抵抗することで流れを変えられる可能性が有るのなら、行動すべきだ」

 

 石田は覚悟を決めた目をしていた。言葉が続く。

 

「だから――」

「”だから死神は手を出すな”、かのう? それは了承できぬ」

「何故!」

 

 総隊長は重々しく口を開いた。

 協議の場の長机を叩いた石田に対して、黒崎の方は既に諦めの表情を浮かべていた。

 

「言うたじゃろう? そなたらでは足止めにもならぬと。避けられぬ戦禍なら、相手の準備が整うまで待つ必要も無し」

「――ッ!」

「そーちゃん、もう仕方ないよ」

 

 黒崎が勢いづいた石田を止めた。

 

「総隊長サンは、僕らと協議するずっと前からこうするつもりだったみたいだ。――そうでしょう?」

「応。佐伯禅治郎を筆頭に、死神に対して宣戦布告がいつ為されてもおかしくないという情報は既にあった。今まではお主らの様な希望の芽が有ると手を出せなんだが、ここまでのようじゃ」

「総隊長、しかしそれは……あんまりです! このような……」

「あちらとも既に何度も協議しておる。それでも応じなんだ。潮時じゃよ」

 

 惣右介も口を挟んだが、一蹴されてしまった。

 黒崎が眉間に皺を寄せながらも言う。

 

「残念ながら佐伯たちは滅却師の大多数です。それを相手になさるということは、滅却師そのものを相手になさるという事。我々はあなた方と敵対することになります」

「応。分かっておる」

「ちょっと待ってください!」

 

 今度は惣右介が立ち上がった。視線が一気に自分に集まるが、興奮しているせいかあまり気にならなかった。

 

「黒崎殿方は戦う必要など無い筈でしょう? 何故我らが刃を交えねばならないのですか⁉」

「”刃を交える”、か。ふふ、弓兵(滅却師)に対して面白い言葉を使うね。それはまァいいとして、さっきそーちゃんが言ってたでしょ? 僕ら滅却師は皆が身内みたいなものなのさ。禅ちゃん一人で闘わせるわけにはいかないよ。身内を、よそ様の手に掛けさせるわけにはいかないんだ」

 

 黒崎の深淵のように黒く深い瞳を除いた惣右介は、身震いしそうになった。底知れぬ違和感――そうとしか言いようのない不安が彼の胸の内を席巻していた。

 

 自分の理解の及ばぬ何かが黒崎の中にある。そんな気がした。

 

「意見はもう無いね?」

 

 黒崎が立ち上がり、石田を一緒に立たせた。

 

「僕らはこれで失礼します。もうお会いすることも無いでしょう」

「――咲秋」

「仕方ないよ、そーちゃん。もう誰にも止められない。滅却師を絶やさないために、戦う相手が変わっただけさ。諦めよう。そーちゃんのせいじゃないよ」

「しかし――」

 

 何か言い掛けて石田は止めた。

 咲秋が発する気配を察して諦めた様だった。

 

 

 

 

 

 

 二人が天幕から出たのに惣右介は続いた。

 総隊長は止めなかった。

 

「石田さん! 黒崎さん!」

「そーすけくん……ごめんね、こんな結果になっちゃってさ~」

 

 愁いを帯びた咲秋の微笑は見るに堪えなかった。

 

「何で黒崎さんが謝るんですか⁉ お辛いのは貴方の方だ!」

「一番重い会に巻き込んじゃったからねェ。結局僕らは何もできなかった。どんな奴だって、死なないに越したことない方が多いのに……あのさ、そーすけくん」

「……何ですか」

 

 ふと真剣な顔になって彼は惣右介に鋭い視線を向けた。

 

「――気を付けておいて。きっと君は僕らよりず~ッと長生きするだろうから……今回の一件、僕らは何か裏があるんじゃないかなって思ってるんだ」

「裏、ですか」

 

 黒崎は頷いて、声を潜めた。

 

「さっき言ったでしょ? “噂の出所が掴めない”、って。その一方で、禅ちゃんはとっても積極的なんだよねぇ。彼はまだ若いけど、出所のよく分からない噂に傾倒する程軽薄じゃないことは僕らがよく知っているんだ。これは多分ねぇ、禅ちゃんを唆した何かが有ると思うんだ」

「⁉ ……まさか、それが死神であると?」

「それはどうかな? ううん、そうだったらまだマシってやつだね~」

「ということは、滅却師の可能性を考えているのですか? そんなこと……」

 

 それはつまり、同族を(けしか)けて陥れたということだ。佐伯禅治郎という隠れ蓑を体よくスケープゴートに仕立て上げ、裏で何かを行って――

 

「禅ちゃんは死神の……特に隊長格の恐ろしさを知らない。死神は精々こんなものだと侮っているんだ。そんな覚悟じゃ、いくら彼でも死ぬ。恐らく総隊長が本気になって護廷十三隊を動かせばあっという間に禅ちゃんたちは全滅だ。そんな混乱状態っていうのは、コソコソ動くにはもってこいって事だね」

 

 咲秋は苦虫を噛み潰したように言った。

 

「もし、噂が本当なんだとしたら…………滅却師の始祖が復活し、軍を為し、死神と戦う力をつけようとしているのなら、今回の一件は目くらましには都合がいいと思わないか、そーすけくん」

 

 惣右介は答えられなかった。

 その仮定が事実だとしたら、狂っているとしか思えない。

 自身の眷属を売り、その死山血河をもって死神を倒そうとしている?

 そんな暴挙が許されていいのか……?

 

「同情を求めているのではない。勘違いするな。これは警告だ、藍染」

 

 思わず顔を上げて石田の顔を見る。沈黙を貫いていた彼は一瞬黒崎を睨み、それを逸らすと普段から鋭い眼光が一層鋭く惣右介を射抜いた。

 

「全てでなくともこの仮定が正しかった場合、これから始まる禅治郎たちとの戦いは前座でしかなくなるということだ。その覚悟を持って臨むことを薦める」

 

 そう言うと石田は惣右介の耳元に顔を近づけた。黒崎には聞こえないだろう囁き声が、惣右介の鼓膜を揺らす。

 

(手の届く範囲、耳の聞こえる範囲、目に見える範囲にあるモノなどたかが知れている。気をつけろ、藍染。お前が()()に辿り着いた時、その事実を知っておくに越したことはないだろうからな)

(”真実”……? ――これ以上に、何があるって言うんですか⁉)

 

 石田は言うだけ言ってその返事もせずにサッサと引き返していった。黒崎もそれに続いて小走りになりながら、一度だけ振り返って“じゃーねー!”と手を振った。

 惣右介がそれに深々と礼をして返したのを見て彼は悲し気に頷くと、身を翻して石田を追って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE・Q

 

 

「――――茶番だ」

「まーまー、そう言わず。()()()()()()、これは必要な過程だったんだからさ――――」

 

 先程とは打って変わって足取りの軽そうな隣の男を、批難を込めた目でもう一方が見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――戦火は、すぐそこに――――――

 

 

 

 

 

 




キナ臭くなってまいりました。
既にお気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、作者は大変苦悩しております。

何故?
――――作者は戦闘描写書けないんですよッ!

最近は、「朝起きたら妖精さんが書いててくれたらいいのに」とかアホみたいなことを考えてます。しかし書いておいて思いましたが、戦闘描写書ける妖精ってどうなんでしょう? ……夢がありませんね。やめましょう。

前作はちょこちょこっと書けばいいように回避してた(つもりだった)んですが、今回はどう考えてもがっつり戦闘。いきなりボス戦は駄目ですよね。普通はそうですよね。はい。すみません。

というわけで遅筆に遅筆が重なる予定です。
あと数話は大丈夫なはずなんですが。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
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