龍門に登る   作:みーごれん

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第二話 目指すバショ

SIDE・D

 

 

 食事を終えて惣右介が人心地着いたのを見て、竜太郎はセンセにニヤリと笑みを飛ばした。彼女の方はと言うと知らん顔ですましている。

 

――十五分前

 

「……デ、何で豆腐なんだね?」

「え、美味しいでしょう、豆腐。腹に溜まるし、胃もびっくりしない。何より美味しい!」

「お前の好物ッテだけだろう。モット何か、甘味でも買って行っておやりよ。ガキはそういうの好きだろう」

「経験則ですか? 彼はそういうの好きって印象ないですけど」

「チッ……アレは私にもよく分からんよ」

 

 センセには息子が一人いる。今は霊術院に通っていて、そのまま死神になるらしい。

 ちょっと変わった子供だとは思う。でもそれはセンセにも言えることで、実験大好き、解剖大好きの似た者親子だ。だからてっきり彼はセンセを継いで医者になるか、はたまた研究者になるかと思っていたのに、霊術院に行きたいと言い出した時には意外だった。

 まあその理由――死神の方がより膨大で詳細な様々な資料を閲覧できる――を聞いて納得したが。

 

「マユリ君、元気でやってますかねえ?」

「アレは自分に興味があること以外には興味が全くない。それでも今まで三年何とかなってるんだ、大丈夫って事なんだろうよ」

「いやいや、センセみたいにご飯抜いてるかもなあ…………」

「二日ほど抜いたところで死にはしないんだ。お前にトヤカク言われる筋合いないね」

「言いましたね? そんな食事に無頓着なヒトに惣右介の食事に関するあれこれを言われる筋合いありませ~ん!」

「フン、勝手にしたまえ。泣いてしまっても知らんよ」

 

――そして今に至る。

 惣右介は豆腐を見て一瞬きょとんとしていたが、すぐに一心不乱に食べ始めた。

 あっという間に食べ終わると、“ごちそうさまでした”と丁寧に頭を下げた。

 

 竜太郎の笑みは、“ほら、泣かなかったでしょう? 大正解だったじゃないですか”というものだったのだが、それは惣右介の知るところではない。

 “大”正解かは兎も角、惣右介が落ち着いたのは事実だった。

 

「サテ、小僧。お前今、どの程度の事は分かっているんだね?」

 

 口調はきついが、センセなりに優しく言っているつもりなのだろう。頑張って笑顔を作ろうとして表情が引き攣っている。

 

「ええと……その、自分の名前とかは分かるんですけど、あとは分かりません……ごめんなさい……」

 

 センセの表情を見て硬直しながら惣右介は言った。センセが詰問しているように見えたのだろう。こわごわと惣右介は答えた。でも、と彼は続けた。

 

「でも、ここが“流魂街”だって事は分かります。それも、結構治安がいいですよね?」

「ホウ、どうしてそう思うんだね?」

「だって、前暮らしていた家よりもずっとここは貧相ですから。私が貴族かどうかとかは分かりませんが、あそこに比べたら、此処はそういう所なのかなって思ったんです。それにマソラさん、私のことを見て“貴族か”とお聞きになったでしょう? 態々訊かれたって事はここにそういう人がいないという事で、それならここは流魂街なのかなと思いました。それに竜太郎さん、食べ物をすぐに手に入れて戻っていらっしゃいました。ここを出て行かれるとき“何か買ってくる”と仰っていたでしょう? こんなに短い時間で帰って来られるところに食べ物を売っているところがあるっていうことは、それなりに安定したところなのかな、と思ったんです」

 

 それを聞いてセンセは目を細めた。

 

「フム、お前、年のわりに頭が良いんだね。ココが貧相だと言ったことについては目を瞑ってやろう。ダガ、貴族の住まい――瀞霊廷には死神だっている。貴族か死神かって質問だったかもしれんがどうかね? 加えて、暮らしていないというだけで貴族に使える侍従だって瀞霊廷にはいる。モット言えば、立地だってここが偶々豆腐屋のすぐ近くだったという事は考えないのかね?」

 

 あ、と惣右介は目を見開いた。

 

「確かに、そういう事もありますね……ごめんなさい」

「惣右介、謝る必要ないぞ? センセは別に怒ってるわけじゃない。子供に対する接し方が分からないだけだ。センセも、意地悪しないでください」

「ソンナモノしてないよ。小僧、思考は甘いがお前の予想は合ってるよ。ここは西流魂街五地区、〈巫部(カンナギ)〉。流魂街の中でも最上位に位置するバショだね。付いておいで」

 

 そう言うとセンセはサッサと部屋を出た。惣右介が慌ててそれに付いて行く。

 竜太郎もそれに続いた。

 

「見えるかね?」

 

 器用に屋根の上に乗ったセンセと惣右介が、瀞霊廷の方を向いた。ここからだと、ギリギリその中央にある懺罪宮の端が見えるくらいだろう。だが、惣右介の身長ではどうだか……

 

「いいえ、見えません……」

「……オイ、ボーっとしてないで上がってこないか! 小僧を肩車してやるんだよ」

「オレですか? もう、センセがやればいいのに……」

 

 竜太郎がぼやくと、鋭い視線が刺さった。口を閉じ、彼もまた屋根に上る。成人男性も乗っちゃって、この屋根は保つのだろうか。怖すぎる。

 惣右介を肩車してやると、どうやらもう少し見えたらしい。

 

「わあっ!」

「見えたヨウだね。あそこが瀞霊廷、貴族と死神という選ばれた魂魄だけが住まう場所だよ。通行証なしに我々は入れない」

「そう……なんですか……竜太郎さんも?」

「オレは入れる。一応死神だからな」

 

 竜太郎が答えると、センセに拳骨で殴られた。

 痛い! というか危なっ‼ というような文句を言おうとしてセンセを見ると、センセの顔は激おこだった。

 その意味はすぐに分かった。

 

「じゃあ、私も中に連れて行って下さい!」

 

 惣右介の、あまりにも嬉しそうなその声に胸が痛む。

 

『――暫くは様子を見た方が良い』

 

 センセが言っていた。

 

『小僧を取り巻く状況が分からないままに一緒に瀞霊廷なぞに親探しに行ってみろ、下手をするとお前諸共消されるよ』

 

 必死に自身を瀞霊廷に連れて行くよう訴える惣右介を見て竜太郎はセンセに助けを求めたが、我関せずといった風にそっぽを向かれた。センセのいじわる……いや、自業自得だけども。

 

「…………駄目だ」

「何故ですか⁉ あそこに父さまたちがいらっしゃるかもしれないのです! 探しに行きたいです!」

「許可が下りているのがオレだけだからだ。弟代わりだからと言って許可が下りるわけじゃない」

 

 本当かと言われるとそうだとは言えない。暮らすことは出来ないにしても、一日だけ流魂街の家族を招く、というようなことは一部の死神なら可能ではあった。家族同然の、となると微妙なところだし、竜太郎はそもそも許可を降ろしてもらえるような立場ではなかったから、嘘ではないのだが。

 しかしそんなことは言い訳に過ぎないと、竜太郎だってわかっている。

 

 惣右介が苦し気に顔を歪めたのが、その顔を見なくても分かった。

 声にならない嗚咽が頭上から聞こえる。

 

「では、どう探せばいいのですか……」

 

 震える声に応えたのはセンセだった。

 

「死神にでもナレばいい」

「…………え?」「センセ⁉」

「小僧には多少なりとも霊力がある。霊術院に通って、死神になって、堂々と門扉をくぐるがいいよ。マダ大分先になるだろうがね」

 

 食って掛かろうとした竜太郎をセンセは目で制した。

 

「どうかね? 知らねばならぬことはコレが教えるだろうよ」

「ちょ、勉強は無理ですって! オレは身体能力だけが取り柄なんですから! 戦闘しか教えられませんから!」

「チッ。興が乗ったら座学は教えてやってもいい」

「「本当ですか⁉」」

「嘘を言うもんかね。興が乗ったらだよ。小僧は存外バカではないようだからね」

 

 一転して嬉しそうになった惣右介は、大きな声で言った。

 

「はい! マソラさん、竜太郎さん、お願いします!」

 

 頭を下げた惣右介のせいで肩車していた竜太郎が体勢を崩し、屋根の上から落ちかけたのは良い思い出だ。

 

 

 

 

 

 疲れが出たのか眠ってしまった惣右介を背負いながら、竜太郎は厳しい眼光でセンセに向き直った。

 

「センセ、どういうおつもりですか? あそこは――瀞霊廷は、惣右介を殺そうとした奴がいるかもしれない、というか十中八九いる所なんですよ?」

 

 それを聞いて彼女はやれやれと首を横に振った。

 

「バカ者、霊圧を抑えろと言っているだろう? まったく……ジャアお前はずっと小僧をそのままにしておくつもりかね?」

「それは……「ナラ」――!」

「いずれ通らねばならん道だよ。スグニ死神になるわけじゃないんだ。それまでに、ある程度の事は分かるだろうよ。少なくとも、成長した当人が歩いていても大丈夫か否かクライはね」

 

 センセの表情も暗い。まだ何も分からないのだから、当然と言えば当然だ。

 この懸念は惣右介の前で晒さぬようにしよう、と二人はそれぞれ思った。

 

 

 

 

 




センセは男性ほど筋肉も体力もないので惣右介を肩車なんて出来ません。
そこら辺が察せないのが竜太郎クオリティ。

ただ、屋根はちょっとギシギシいってたとかいわなかったとか。
後日点検した(させられた)のは勿論竜太郎です。

因みに、センセは最初男性の予定でした。
ただ、それだと登場人物全員男みたいな状況に本気でなりかねないので変えました。
台詞はほぼ全く変わってませんが。
まあ、女性にしたところで潤いが増えるキャラクターではn「(アカ)(ハナ)は好きかね?」――いえ、何でもないですごめんなさいセンセイそれは手術用の器具ですこっちに向けないで嫌あああッ!

――地面が紅い()で染まりましたとさ。





お目汚し失礼いたしました。
今回も楽しんでいただけていれば幸いです。
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