龍門に登る   作:みーごれん

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大変長らくお待たせいたしました……
リアルが……まあ……はい。そんな感じでした。
みーごれんですら今何処だっけ状態ですので復習をば。

 静かに広がっていく滅却師と死神の戦闘。滅却師による奇襲で先手を打たれた死神たちは、早期決戦を選択する。惣右介の属する五番隊陣営は、周囲陣営を粗方片づけた後に本陣への突入を行う事となった。
 作戦当日、惣右介と竜太郎の不覚により竜太郎が死亡。それを契機に惣右介は自身の斬魄刀の始解に成功、そして己の過去を知ることになる。
 ――こんな世界が正しいとでもいうのか。
 炎を胸に宿したまま、彼は滅却師の本陣――黒崎邸へと向かうのだった。

と言いつつ今回の始まりは別陣営での戦闘からです。


第二十三話 加熱するセンカ

「参ったね、どうも……やっぱり引いちゃくれないかい」

「当り前です。滅却師の誇りを汚すような行為は出来ません」

 

 佐伯邸最深部。

 純粋な戦力と戦力をぶつけた戦いは、ゆっくりと、しかし確実に天秤を死神側へ傾けている。別段戦況に変化が無いことを確認した京楽は、部隊を副官に任せて滅却師・佐伯禅治郎の前へと躍り出た。口元に浮かんだ苦笑と共に佐伯を見遣った彼は、水面のように静かな瞳を湛えている。

 

「命あっての物種だと思わない? 死んじゃったら誇りも何もないでしょ。流儀に酔って死に急ぐのは三流のやることだよ」

「貴様ッ!」

 

 殺気を隠そうともしない矢が、桃色の羽織――京楽春水に躱された。その事実に――()()()()に自分の矢が躱されたことに佐伯は更なる怒りを増幅させる。

 彼の燃えるような激情が殺気を満たし、室温が下がったのを感じた京楽は苦笑した。

 

「あらら、余計に怒らせちゃったかな? 困ったね、ど――ッ!」

 

 咄嗟に京楽が避けると、先程まで彼の眼球が在った場所に先程の倍以上の力のこもった矢が高速で通過していった。予想以上の一手に、つうと冷や汗を流す。けれど京楽も歴戦の猛者。その胸のさざめきもほんの一瞬のうちに凪へと還し、浮かべた笑みを崩さない。

 

「しゃべってる途中に目を狙うなんて、陰湿なことしてくれるじゃないの」

「“陰湿”? 可笑しな事を仰る。“流儀に酔って戦いに臨むのは三流のすること”ではなかったのですか?」

「言うねえ」

 

 間合いを詰めようと京楽が死神の高速歩法、瞬歩を使うと、全く同じ間合いのまま佐伯も後ろに下がった。

 こう言うと簡単に聞こえるが、百年以上隊長を務めてきた死神である京楽が行う瞬歩は一級品だ。体術に長けた四楓院家の者ほど幾度も繰り返せるわけではない。最強の死神である山本元柳斎重國程一度に長距離を移動できるわけではない。けれどそれは”超一級”と比べた場合であって、一般の死神や、まして人間と比べた時に次元のレベルで速さが違う。当然小手調べの今は全力ではないが、手を抜いているわけでもない。それに平然と付いてくる佐伯に、京楽は静かに感心した。

 

「! ――驚いたね。人間にこんな速力が出せるもんなのかい」

「無知ですね。我々は滅却師。この程度造作もありません」

「謙遜しなさんな。ボクの瞬歩についてこられる飛廉脚なんて何百年ぶりかねえ」

 

 京楽の表情が真剣なものになった瞬間、二人の姿が一瞬消えた。

 

 バチン

 

 何かが弾ける音がして、再び二人が姿を現す。

 京楽は二本の斬魄刀を抜き、佐伯は先程と同じく弓を構えたまま立っていた。

 

「やるねえ。これにも付いて来られちゃうのかい」

 

 先程の一瞬で、京楽は一太刀目に長い斬魄刀で斬りかかった。佐伯はそれに反応し、太い矢を放つ。反応しただけでも大したものだが、それでも京楽の予想通り。

 佐伯の手が次発を用意するより早く京楽が脇差を抜いて佐伯を狙ったその時、もう一方の手で弾いている最中だった矢が自ら分裂して脇差を持つ手に飛んできた。

 咄嗟に手を引っ込めて事無きを得たが、あのまま佐伯を狙ってれば二度と脇差を握れなくなっていただろう。命中こそしなかったが、掠めた霊矢が浅くはない傷を京楽の手に引いた。

 

 京楽の手から数滴(したた)った血を眺め、佐伯が眉を寄せた。手首を落とし損ねたとでも思っているのだろう。反応速度、技術、諸々を考えても、今現在背後で闘っている滅却師と佐伯禅治郎(目の前の青年)は別格だ。京楽の副官でも相手取るのは困難を極めるだろう。

 

「滅却師の弓矢は己の手足。そう扱えぬ半端者としか戦ってこなかったのでしょう。同情しますよ、八番隊の長」

 

 事も無げに佐伯は言うが、極々普通に会話を交わせる距離に二人がいるにも拘らず佐伯が距離を取ろうともしない――それだけで、彼の異常性に京楽は冷や汗を一筋垂らした。

 弓というのは、間合いが長距離の武器だ。それは性質上、殺傷能力を持つ矢が遠くに飛ぶからだとかいう単純な理由だけではない。それだけであれば、勢いをそのままに中、近距離の敵に対して矢を放てばいいだけの事だ。だが実戦に於いて、弓のリーチには決定的な弱点があった。

 矢の再装填(リロード)時間だ。

 一対一や一対多など戦い方に依らず、余程の実力差が無い限り”一撃決殺などということはあり得ない。初撃を躱された時、距離を取るのか、はたまた追撃するのかは人に依るのだろう。だが最もやってはいけないのは、攻撃直後の隙を敵に付け込まれることだ。

 

 弓は一撃打つごとに、次の矢を構えるための時間が必要となる武器だ。だからこそ敵との距離は余裕をもって空けなければならないし、一度の攻撃ごとに場所を変えるなり身を隠すなりせねばならない。城を護るときなど隠れても仕方のない時も無いことはないが、今の状況であれば()()して京楽の隙を伺うのが定石だ。

 流石にそれが分かっていないということはないのだろう。けれど敢えて中距離を保って京楽の正面に身を晒す佐伯には、絶対的な自信があるという事。

 

 則ち()()京楽の攻撃ならば全ていなせる、と。

 

「参ったね、どうも……山じいからは早急にこの戦いを畳めって言われてるんだ。だから禅治郎クン、ごめんね」

「今謝るとは……余程貴様は我らを侮辱したいらしいッ! これは我々の狩りですッ! 貴様ら死神を狩る戦いなのですよッ!」

「そお怒りなさんな」

 

 軽く返した京楽に反論しようとした佐伯だったが、一瞬間の後に顔色を変えると口を噤んだ。京楽の纏う霊圧が、雰囲気が、高まり昂まる。

 

「花風紊れて花神啼き 天風紊れて天魔嗤う――〈花天狂骨〉……遊んでおいきよ。時間はあまり取ってあげられないけどね」

 

 始解した斬魄刀を両手に持ち、自然体で立った京楽を見て佐伯の表情が微かに動いた。

 

「青龍刀……? と言っても、貴方と同じく面倒な刀なのでしょう」

 

 死神の斬魄刀が始解された時、その力は二つに大別される。

 殺傷能力に特化した直接攻撃系と、特殊な能力が付与される鬼道系だ。

 体現する力は死神(使い手)に依存する。

 さればこそ佐伯は、京楽の斬魄刀が殺傷能力が上がっただけではないという事を直感した。

 

「察しが良いねえ! にしても青龍刀を知ってるなんて、中華系の武術家の知り合いでもいるの、かいっ?」

「⁉」

 

 京楽が今迄以上の速さで佐伯の前に屈んで現れた。

 同時に佐伯が弓を番える。

 振り上げて佐伯を狙うにしては随分と姿勢の低いことに彼が違和感を覚えた直後、右足に燃えるような痛みが奔った。

 

「クッ! ……何です、これは!」

 

 地面から唐突に生えた黒い刃は佐伯の右足を駆け抜ける。足を庇うように彼の態勢が崩れたのを見て、京楽は容赦なく間合いを詰めた。

 

艶鬼(イロオニ)――」

 

 京楽が桃色の羽織を脱ぎ、隊長羽織を露わにする。

 

「――白」

 

 体勢を崩しながらも京楽の突きを寸でのところで佐伯が躱す。避け切れず彼の肩の上が薄く斬られた――筈だった。

 

 ブシッ

 

 それは血が吹きだす音。

 佐伯の肩の上の肉が大きく削がれ、吹き出た血が彼の顔の半分を紅く染める。同時に視界の半分を一時的に失った。

 

 この一瞬が命取りになることが分からぬほど佐伯は阿呆ではない。

 彼は霊圧知覚を研ぎ澄ませ、一切の視覚情報を捨てて身構えた。

 勿論ただの無手で挑むようなことはしない。彼の身体は今、静血装(ブルート・ヴェーネ)――滅却師が自らの血管に霊子を送り込み防御する鎧――を纏っている。

 

 その硬度は、候補生(カンヅ)と言うだけあって一級品だ。

 禅治郎の様子に違和感を感じたのか、それを知らぬ京楽が一歩引いた。

 

「さっすが、若いのに的確な判断だ。何が起きているか分からない状況でこれだけ冷静なタイプには見えなかったんだけどねえ?」

「……何をしたのです?」

「教えると思う?」

「……教えないでしょう――黒崎なら決して手の内など明かさない。貴方と戦っていると奴を思い出して腹が立つんですよ!」

 

 そう言うと佐伯は京楽の周りを回りながら矢を放った。矢が弾かれる前に京楽の真上に新たなる矢が射られ、分裂すると霰の様に彼の上に降り注いだ。後退した佐伯を離さぬため追随すると、距離はそのまま、佐伯が幾度も幾度も矢を打ち込む。

 

 それを見て京楽は目を細めた。

 

 ――これは、様子見かな? さっきの二回ともボクが接近してから自分に攻撃が加わったから、一旦距離を取った……一回目の影鬼、二回目の艶鬼のルールまではまだ多分分かってない。この子は時間をかけるほどに厄介なことになりそうだねえ。彼には悪いけど……

 

 最接近してきた矢を弾いた流れのまま、身体を捩じる。二本の斬魄刀を回転させると、竜巻の様に風が佐伯を襲った。

 

 ――早々に命を貰っておくとしようか。

 

「不精独楽!」

 

 突然の風に佐伯の動きが一瞬止まった隙に、京楽が彼の真上に移動した。

 

嵩鬼(タカオニ)

 

 二振りの斬魄刀を閃かせ、重力を味方につけた京楽が刃を振り下ろす。渦を巻く風が一瞬鋭く光ったのが目の端に映った彼は、その正体を理解してサッと表情を強張らせた。

 

大気の戦陣を(レンゼ・フォルメル・)杯に受けよ(ヴェント・イ・グラール)――――聖噬(ハイゼン)!」

 

 滅却師が弓以外の武器を使うことはない。だがそれは武器に関してで、術はその限りではない。

 霊力を込めた銀筒は、古くから滅却師の術を発動させる媒体だ。使う術によって必要な銀筒の数が異なる上、一度使えば再度霊力を籠めない限り使えないというもので、死神の鬼道に比べると随分不便な仕様となっている。仕様時も、物理的に銀筒を相手に投げねばならないなど欠点が多いが、一度発動すると大虚(メノスグランデ)にも対抗しうるほど強力だ。

 佐伯はその銀筒を、自身の周囲に吹き荒れる風に乗せて巻き上げた。京楽は上から来るだろうという直感に従ったのだ。

 佐伯の詠唱によって頭上に突然現れた碑石のようなものが、彼の頭を叩き割ろうと斬魄刀を振り下ろしていた京楽に向かって加速してきた。喰らえば相当なダメージになると一目で分かる威力だ。

 

「しまっ――」

「遅い」

 

 

 弾かれて舞い上がった京楽の斬魄刀が地面に刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が先陣を切る。続けッ!」

 

 突入したは良いものの、人っ子一人いない屋敷内に彼は警戒していた。

 広間のような位置に来ると、一人の青年が突っ立っている。

 

「滅却師かい」

「だったら何だ、死神」

「この屋敷の主人とお話させてほしいんだ。名は――」

「石田宗弦(そうけん)だ。私に用か、十三番隊隊長・浮竹十四郎」

 

 浮竹十四郎は驚いていた。

 総隊長から聞いてはいたが、なんと若い当主なのだろうか。しかしどこかで納得もしていた。彼の――宗弦と名乗る青年の纏う雰囲気は大家の当主の其れに相違なかった。

 彼の知る大家当主(志波乱鴉)の例に洩れず、家を背負う者から発せられるソレはそう簡単に得られるものではない。

 

「君が……初めまして石田宗弦殿。これは降伏勧告だ。門は俺たち十三番隊の手に落ちた。これ以降の無為な殺生は本意じゃない。話を聞いてくれないか」

「“門が落ちた”、か。それが何だ。“落ちた”のではなく“落とさせた”のだ」

 

 そういう割に彼の表情は晴れなかった。

 

「降伏勧告をすべきはこちらなのだが、生憎その選択肢は我々に無い。だが逃げるものは追わない。好きにするといい」

「何を――」

 

 浮竹が言い終わるより早く、宗弦が弓を引いた。それを瞬歩で躱し、顔を歪める。

 

「どうしても、駄目なのか?」

「滅却師の誇りに掛けて、ここを落とさせるわけにはいかない」

 

 弓を番えた宗弦を見て浮竹は苦しそうに呻くと、斬魄刀を解放した。

 

「波悉く我が盾となれ 雷悉く我が刃となれ――――〈双魚の理〉」

 

 放たれた矢を〈双魚の理〉で吸収し、威力や速さを変えて相手に返す。

 これが浮竹の斬魄刀〈双魚の理〉の能力。吸収限界はあるが、単純に敵の能力を反射するだけではないこの能力の本質は、そうそう相手に気取られることはない。自身と類似の能力を持っているのか、同じものを持っているのか、等と相手の一瞬の逡巡で雌雄が決することだってある。

 宗弦も同様で、迫りくる青い光に彼の瞳が眼鏡の奥で見開かれた。

 

 激しい爆発音がして、宗弦の立っていた位置が深く抉れ、土煙が上る。警告の為だったのかそれ程強くはない威力の矢であったから、幾ら威力を上げて返したとはいってもそこまでのダメージにはなっていないだろう。

 浮竹は油断なく目を細め、煙の奥に視線を投げ掛けた。

 

 彼の警戒とは裏腹に、隊員の一人が駆け寄る。

 

「隊長!」

「まだだっ! ここは俺に任せて――」

 

 指示を出そうと僅かに顔を逸らした一瞬の隙。

 完璧なタイミングで隊員の心臓に青い光が突き立てられた。

 

「加宮! ……くっ……」

 

 既に虹彩の緩んだ隊員を見てその死を悟った浮竹は土煙の方を睨んだ。

 段々と晴れていく煙は、次の瞬間揺らいだと思ったら光の雨を降らせる。

 

「総員、俺の後ろに下がれ! 早く!」

 

 自身の方に飛んできた僅かな矢を返しながら、彼はその矢の正確な狙いに再び顔を歪めた。浮竹が矢を拾えぬように浮竹の周りのみ狙いを外し、正確に隊員の位置を狙ってくる。

 

 煙が晴れ、宗弦の姿が見えると同時に正面から瞬歩で攻撃を仕掛ける。矢が隊員たちを狙わぬように……

 距離を詰めれば弓での攻撃はし難くなる筈だ。

 そう読んで接近すると、宗弦の手が腰のあたりに伸び、何かを掴んだ。

 ――と思った次の瞬間、青い光が見え、彼と()()()()()

 

「距離を詰めれば勝機があると思ったか? 短慮だ」

「何だい、これは……」

 

 宗弦が持っていたのは矢でも、ましてや弓でもなかった。

 

 “槍”

 そう表現するより他無いモノだった。

 

 白く長い柄には、空色の筋が一つ刻まれている。刃であろう部分は蒼く発光し、霊力を宿していた。滅却師の使う武器である矢を巨大にし、扱いやすくしたような格好だ。

 間合いは弓と大きく異なるが、槍のそれと浮竹の〈双魚の理〉で比べても浮竹の間合いが短く、そして今の状況に――宗弦の懐に潜り込みつつある現状に有利だった。普段宗弦が使っている得物とも大分違うはず。にも拘らず、彼に焦りはない。

 

「”魂を穿つもの(ゼールボーレン)”――滅却師の技術は進歩し続けている。気を付けろ、掠りでもすれば……」

 

 斬魄刀をずらして均衡を破った浮竹が一歩踏み出した直後、宗弦の槍が幾つもに分裂した。その一つを掴んだ彼は、流れるようにそこから生やした刃を浮竹に突き出す。殺すためでは無く()()()()()()()に動いたような違和感を浮竹が感じたが、咄嗟の事で躱しきれず頬を翳めた。

 すると思っていた以上に深く抉られ、太い血の筋を作る。

 

「後は詰めだ」

 

 違和感を感じて浮竹は後ろに飛びのいた。脇差ほどのサイズになった宗弦の刃では届かないリーチ。だが宗弦は最早、一歩たりとも動く気配が無い。

 集中すると、頬を中心に細い筋のようになった自身の霊力が宗弦の持つ短刀に繋がっているのが分かる。

 

 ――この感じ……霊力を吸い取られている⁉

 

 ”魂を穿つもの”は、”魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)”の前身だ。その本質は高速振動する霊子で相手の霊子結合を弛緩させ、霊子及び霊力を奪うというもの。斬った相手から奪った霊力を一時的に蓄え、それを用いて刃を形成したり術を発動できる。鏃から得た着想である為刃が短いが、槍、短刀と姿を変えることで近距離攻撃も可能にした。(弓矢で闘う事しか考えていない禅治郎の様な者も多いのでまだ公表してはいないのだが……)ただしこの時点ではエネルギー効率が良くないため、扱えるものが少なく短時間しか保たないという欠点もあった。

 

 しかし初見であれば、動揺を誘うには十分だ。浮竹の表情が動いたのを見た宗弦が地面に刃を突き立てた。それに続くように、分裂後捨て置かれていた残りの四本の短刀も自ら地面に突き刺さる。そして宗弦は懐から銀筒を取り出し、その中身である液状の霊子を床に落とした。

 液体が落ちた位置を中心に、短刀、そしてその延長へ五方向に青い光が走っていく。それはあっという間に広間の外まで広がった。

 

「何だ、これは……⁉」

短針よ、頭を垂れよ(クルツァ・ハンヅ・シュラ―ヴン)――“聖止結界(ブルート・バイエル)”!」

 

 先程の五筋の青い光が時計回りに回転し、地面が全体的に仄暗くなったところで大きな動きは消えた。同時に――

 

「なん……だと……⁉」

 

 浮竹十四郎は尸魂界の隊長格の中でもかなりの古株だ。曲者ぞろいの護廷十三隊隊長格の中、霊術院で正規に教育を受けてその座に就いた初めての隊長の一人。幾百年の長きにわたり死神として戦い続けた彼が、その生涯の中で一度として味わった事の無かった衝撃を味わった。

 

「〈双魚の理〉……? ――返事をしてくれ‼」

 

 それは突然の出来事だった。光が消えたのと同時に彼の斬魄刀は始解を解かれ、本体と彼との意思の疎通が出来なくなってしまった。加えて、全身に違和感を感じた。

 

 膝の力が抜ける。

 肺から血が溢れる。

 

 弓を作り直した宗弦は無感情な目を浮竹に向けた。

 

「自身の霊圧が感じられなくなっただろう? この結界内では中に居るものの内部霊圧を完全に遮断する。貴様ら死神に戦う術はない」

 

 宗弦がそう言うや否や、広場を取り囲む様に滅却師が現れて矢を番えた。

 

「掛かれ」

 

 宗弦の静かな合図の後降り注いだ雨の様な青い矢の群れに、浮竹たちは撤退せざるを得なかった。元々痛み切った身体を自身の霊力で持たせている浮竹は、立つことすらままならなくなってしまったのだ。

 加えて斬魄刀の始解も、鬼道も、瞬歩すら使えない中で闘うことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーし! そんじゃァ突入と行こうか。予定通り少数精鋭で行く。真子、それに惣右介、俺に続け。後は待機だ」

 

 五番隊と一番隊の合同部隊。

 黒崎邸前で集合した各班は、途中の戦闘で欠けているものも何名かいた。しかしそれに敢えて触れることなく五番隊隊長・志波寒鴉は目の前の屋敷に向けて斬魄刀を構えた。

 

「いいか、霊圧が隊長格に匹敵していない者は決して中に入るなよ。死ぬぞ」

 

 寒鴉はそう言いつけると平子と惣右介の隣に立った。各面々から多少なりとも好奇の目を向けられている惣右介が、バツの悪そうに小声で尋ねる。

 

「僕で良いのですか」

「お前さん、結構霊圧隠してるだろ? ()()()()にあるなら大丈夫だ。もし無理そうなら俺から絶対離れるな」

「……はい」

 

 惣右介の質問に答えた寒鴉は一瞬笑ってすぐに真剣な表情に戻った。

 

「卍解――」

 

 彼の霊圧が爆発的に高まる。最大十倍ほどにもなると言われる、斬魄刀の最終奥義・卍解。その一つが今、解放された。

 

「――〈幽玄回廊藏屋敷(ユウゲンカイロウクラヤシキ)〉」

 

 目の前に真っ黒な屋敷が現れる。

 真子と寒鴉がそれに向かって歩いていく。

 惣右介もそれに続いた。

 

 戸の無い壁に触れると、三人はその黒いものに飲み込まれて消えた。

 

 

 

 

 中に入ると、其処は意外にも明るかった。

 居間のような部屋だが、照明から畳に至るまで全てが真っ黒だ。

 

「惣右介、この卍解の説明をしておくぞ」

 

 志波寒鴉の卍解、〈幽玄回廊蔵屋敷〉は、基本的には始解の時と変わらない。

 指定された空間を斬魄刀が支配し、何らかの形で影響を及ぼしてくる。

 

 その相違点は、

一つ・指定される空間は一つではない。

二つ・その空間ごとにこの屋敷を模したモノの部屋になっており、部屋ごとに仕掛けが違う。

三つ・この屋敷は中に入ったモノの霊圧を奪いながら少しずつ巨大化、複雑化していく。

四つ・ここから出るためには寒鴉を殺すか寒鴉に許可を得なければならない。

 

「これに捕まったら実質俺を倒して外に出るか、霊力切れになるまたは部屋のトラップに引っ掛かって死ぬかのどっちかしかないんだ。んで、霊力の減り具合はどうだ?」

「特に問題ありません」

「ほお! 無理はしてないみたいだな。おしおし、お前を連れてきて正解だった! んじゃ、このまま押し通すぞ」

 

 寒鴉の言に頷いた二人を確認した彼は、纏う隊長羽織を翻して一歩大きく踏み出した。

 

 

 




明けましておめでとうございます!(遅い)

いつの話だって感じですが小説版出ましたね!
……多分矛盾は無い……ハズ。この話はきっかけを妄想したやつですから! はい!

一時期は前話で御愛読になるかと冷や冷やしました。
もう殆ど構成は終わってるんですが、描写が……思うように行かないもので。


嗚呼、一日の時間が今の三倍あればいいのになァ……


今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
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