龍門に登る   作:みーごれん

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大変、間が空きましてすみません!!!
みーごれんのBLEACH熱が再加熱していること。
最終話までの目途が立ったこと。
そして何より、このお話を未だに読んでくださる方がいること。
以上の理由から、投降を再開するに至りました。

非常に中途半端なところで止めてしまっていましたので、人物関係や現在の状況など軽く纏めたものも投稿しております。

ここまで読んでくださっていた皆様、これから読んでくださる皆様に最大の感謝を!


第二十四話 歪むキンコウ

 弾かれて舞い上がった京楽の斬魄刀が地面に刺さった。

 

 その霊圧を感じて佐伯はそっと右目の血を拭った。京楽は死んではいない筈だ。止めをささなければ。

 着地音が聞こえなかったから、身を隠す程度の力は残っている筈。

 

 佐伯が視界を取り戻した直後、悪寒がして一歩前に踏み出した。

 

 ヒュ

 

 振り向きながら風切り音を聞く。

 肩のあたりが熱い。

 斬られたか、と驚きながら視線をそちらにやると、斬られたのは肩などではなかった。

 

「あれはやばかったねえ」

 

 後ろから京楽の――攻撃を諸に食らったとは思えない程余裕のある声がする。

 自分の影からずるずると昇ってくる京楽へ弓を向け、右手に矢を作ったところで不意に左腕が軽くなった。京楽の背後に舞った佐伯の左手首は、散った霊子の中心で腹立たしいほど緩慢に回転している。躰を駆け抜ける電撃のような痛みに顔を顰める暇も無く、二撃目が佐伯を襲った。

 京楽の斬魄刀は二刀一対。右手に握った青龍刀を斬り上げる事で佐伯の左手を切り離した彼は、右腕の回転を腰に回して左腕をも斬り上げた。

 当然佐伯も見えてはいたから体を捻り、致命傷を避ける。だがこの動きが決定打となった。

 

 いや、勝敗は既に決していた。

 佐伯が視界を取り戻した直後に見せた一瞬の隙。

 狙いすましたあの瞬間、彼が本能に身を任せて一歩踏み出していなければ、既に彼の頭は物言わぬ彫像の如く其処らに転がっていただろう。だがそうであったなら、彼はこの時よりずっと安らかに、あっという間に逝けた筈だ。それが不運かどうかは佐伯にしか分かるものではない。

 兎も角京楽の一閃を躱したあの瞬間に、事は決していたのだ。

 

 何故なら、腕を伸ばせば触れられるような間合いに於いて、たった一歩動いただけで京楽の刃を()()()()ことなど不可能だからだ。

 あの時、佐伯の喉笛は、片側とはいえ完全に切り裂かれていた。

 そして、気管も悲鳴を上げていたのである。

 

 そんな状態で二刃を躱す為に無理をして体を反らせば、どうなるかは想像に難くない。

 

 圧に耐えかねた気管の壁は、滔々と溢れ出る血汐を受け入れるほどの穴をあけてしまった。

 そうなれば、肺が血の海に沈むのは道理。

 

 昇りくる京楽に対し、佐伯は地に伏した。

 

「ッ……!」

「御免よ。未来ある若者の、それも才気溢れる人間の命を奪うのは忍びないけど、これは戦争なんだ。悪く思わないでくれるかい」

 

 地面が(アカ)く染まっていく。

 それを冷徹な目で見た京楽は、佐伯に視線を戻した。

 佐伯の方は、怒りに目を燃やしながら歯を食いしばっている。片手で溢れ出る体液の元を押さえ、気道に溜まった血を吐き出し吐き出し起き上がろうとしているのか、腕が地面を何度も掴む。けれど支える力の生じぬそれは、生暖かい水たまりに幾度も大小の波を立てるのみ。

 京楽はいつの間にか拾いなおした女物の羽織をひらりと羽織り直すと、佐伯に背を向けて座った。

 

「僕は僕の戦い方が卑怯だ何だと言われようと、勝った者が――生き残った者が正しく、全てだと思ってる。でも君みたいな――負けて尚、敵ではなく己の無力にそうやって怒れる子は嫌いじゃないよ」

 

 八番隊隊長・京楽春水の斬魄刀〈花天狂骨〉の始解の能力は、“子供の遊びを現実のものにする”というもの。〈花天狂骨〉の霊圧領域内にいるものすべてが彼女たちの提示するルールに従わされ、遊びに負ければ死ぬ。

 

 佐伯との戦闘で使ったものは三つ。最初と最後は“影鬼”――互いの影に攻撃を加えると、そこから影の主に攻撃を伝えるというもの。最初京楽が佐伯に距離を詰めた時、狙っていたのは佐伯本人ではなく彼の影だった。影に刃を突き立てることで、その鋒を佐伯に差し向けたのだ。最後は、佐伯の〈聖噬(ハイゼン)〉を躱しきれない事が分かった瞬間、京楽は碑石の様な術そのものに出来ていた影の中に潜った。そして佐伯が油断するタイミングで彼自身のから出て斬った。

 二つ目は“艶鬼”――互いに色を指定し合い、定めた色の身を斬ることが出来るルールだ。自身の適応箇所が広い場合、攻撃力が上乗せされるというオプションが伴う。戦闘時、京楽と佐伯は共に白い服であったため、先手の京楽は白を指定した。故にあの時、僅かに掠めた刃が大きく佐伯の肉を裂いたわけだ。

 三つ目は”不精独楽(ブショウゴマ)”――独楽のように大きく身体と刃を回転させ、生み出したつむじ風で相手を阻害するもの。

 

 最後は逆に利用されたが、残り二つに対応できなかったがために佐伯は敗けた。

 

 

 伏した青年から絶え間なく流れ出続ける紅い液体は、段々とその勢いを弱めながらも京楽の背に乗る羽織に這うように近づいている。

 それを一瞥しても、京楽はその場から動こうとはしなかった。

 

 時間にすればほんの数分の後。

 

 ――それは、蝋燭の様に。

 弱く細く続いていた光が突然消え、残るのは煙に似た独特の匂い。

 

 すぐそこまで来ていた紅は京楽に及ばず、薄く広がった其れは彼が立ち上がっても揺らぐことなくただそこにあった。虚ろな瞳と共に佐伯だった遺骸がその中心に坐しており、力尽きたように大の字を描いている。左腕が欠損しているがために、それは欠けた五芒星を連想させた。

 

 後味の悪さに思考を止めていた京楽は、甘さが抜けない自己分析に苦笑しつつ俯く。

 

「悪いね。僕はやっぱり、死に際に掛ける言葉って奴がわからないや。最期を看取る役が僕で本当に――御免よ。でも総大将である君が斃れた以上、この戦いはもう終わる。恨みっこなしさ」

「隊長!」

 

 感傷的になりつつあった雰囲気は、副官である松方凛の慌しい呼び声と共に完全におじゃんになった。戦闘が続いている以上、指揮に戻らねばならぬのは必至であったが、凛の取り乱し様に再度苦笑を漏らす。

 

「や、凛クン! お疲れさん。ダメダメ、副隊長は落ち着いて行動「止まらないんですッ!」……ヤレヤレ、何がだい?」

 

 咎められはしなかったが、上官の言葉を切ってしまった凛はバツが悪そうに顔を強張らせた後、二三息を整えて口を開いた。

 

「佐伯の霊圧が消えても、滅却師の攻防が止まらないんです!」

「弔い合戦かい? 嫌だねえ」

 

 ゆったりと余裕を持っていながら、大きく、確かな重みをもった足取りで京楽は戦場へと赴いた。佐伯と戦っていた広間から出て滅却師の残党たちを見渡し、彼にしては珍しく眉間に皺を寄せた。凛が何故あれ程動揺していたのかを理解したからである。戦況が芳しくないのだ。数も勢いも勝っており、且つ敵大将を討ち取った死神勢が押されだしているなど、どう考えても異常。凛が余程のしくじりをしたならまだ納得は出来る。十数年来の副官がした失態であればどれ程マシだったか。しかし数瞬で京楽が見極めた結論は、甘んじて受け入れられる想定とは大きく異なってしまった。

 

「何だい、これは……」

 

 京楽達が乗り込んだ時、彼らは集団で闘うことはせず各個撃破の戦い方を選んでいた。恐らく此処の主である佐伯がそれを好んでいたからだろう。此れと言ったチームワークは無く、味方を犠牲にしようが一人でも多く敵を殺す布陣だ。死を恐れぬ愚者は何よりも厄介。だからこそ京楽は理詰めでじわじわと敵戦力を削るよう凛に指示を出して佐伯と対峙した。

 それが今は軍隊の様にきちんと統制され、“個”ではなく“群”としての戦い方をしていた。刻一刻と変わる状況に、的確な攻撃を加えていく。凛が京楽に指示を仰がねばならぬその変容ぶりはまるで、()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「凛クン、この状態になったのっていつ?」

「佐伯の霊圧が極端に落ちてすぐは彼らも動揺してそれどころではなかったんですが、五分もすると現在の様になりました」

「……参ったね、どうも……」

 

 順応が早すぎる。

 大将を失ってすぐに全く戦い方を変えられるほど此処にカリスマ性のある指導者がいるのか、もしくは――

 

「僕らはどうも、思い違いをしてたみたいだねえ」

 

 いつもの気の抜けたような雰囲気とは違う気配を纏った京楽に、副隊長が震えた。

 

「彼は、本当の大将じゃなかったらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――聡明なことだ。

 

 宗弦は撤退していく十三番隊士を見て、油断なく意識をそちらに向けながらそう思った。

 

 人間と侮ることなく、己の実力を冷静に見極め、部下の命と天秤にかけて判断する。

 あれが禅治郎ならこうできただろうかと思考が飛びかけ、彼は眉を顰めた。こういう時に気を抜いて返り討ちにでもあっては、笑い話も良いところだ。

 

 霊子の乱れを敏感に察知した宗弦はきびきびと陣を手でなぞり結界を補強する。

 この結界――聖止結界は、“見えざる帝国”にある霊力の発生を止める機構を彼なりに手を加えて使いやすくしたものだ。使いやすいとは言っても相当なセンスと霊子操作の技術が必要で、今ここで扱えるのは宗弦以外には咲秋と禅治郎くらいのものだろう。

 

 宗弦はこれを二人には教えていない。理由は二つ。

 一つ目はこの機構は扱いが難しい上に維持できる時間が短い。あまり実践的とは言えないシロモノであるという事。

 二つ目は、一人でも多く死者を減らすため。こんなものが禅治郎達の様な者に渡れば、彼らは嬉々としてそれを死神の虐殺のために使うだろう。敵となったとはいえ、彼らが傷つくのは……子供の様な言い回しをするなら、嫌だった。

 

 微かに紙が破れる音がして、宗弦はそっと懐中から二枚の紙を取り出した。

 長方形のその紙は真っ白で、一方には“黒崎咲秋”、もう一方には“佐伯禅治郎”と書いてある。

 その一枚の上から三分の一程の所が僅かに切れ、赤いインクを零したように滲んでいる。それが暫くすると切れ目から炎を出して燃えると、あっという間に紙を燃やし尽くした。

 “佐伯禅治郎”の名が黒ずみ、灰となってゆく。

 

「……馬鹿者がッ……」

 

 宗弦は燃える小さな炎を前に顔を伏せた。

 この紙は、氏名を書かれた者の霊圧と魂を再現するように作ってある。この反応は――

 脳内に湧き上がった一つの答えが文字となる前に、警鐘の如きけたたましい音が室内に響き渡った。音源である通信機の着信音は大して大きくしていない筈であったが、鋭敏になっていた聴覚故か、はたまた思考を止めたいと脳が情報を偏らせているのか、いつもより無駄に喧しかった。

 感傷に浸る暇は無いと己に言い聞かせ、四度目の呼び出し音が鳴る直前に回線を発信元に繋いだ。

 

『……そーちゃん』

 

 予想通り。聞こえてきたのは咲秋の声だった。無情な現実を共有せねばならぬ暗鬱さが首を擡げるが、それより今は生きているものと言葉を交わせることが僅かながらに有難かった。

 

「咲秋か」

『ウン。今、禅ちゃんの紙が燃えたよ。そっちは』

「こちらもだ。誤作動ではない。奴は――禅治郎は死んだ」

 

 後悔が無いと言えば嘘になる。警告やサポートが至らなかった点は数え上げればキリが無い。人騒がせで、短気で、話を聞かない奴だったが、それでも長い付き合いのある――ある種の友人、の様なモノであったのだろう。理解できないことが多かったからこそ、理解したかった。そんな事、今更考えたところでどうにも為らない事だが。

 動揺してこれ以上事態を悪くするのは愚の骨頂だ。大切なのはこれからどうするか。

 

「咲秋、指示を」

『ン。そっちは今どお?』

「一旦相手を退かせた。程なく二波が来るだろうが、勢いは大方削いだ筈だ。問題は双方殆ど全くと言っていいほど兵を摩耗していないという事だろうな」

『すごーい! どうやったらそんな風に勝てるの~?』

 

 努めて明るい口調。通常運転の、人の神経を逆撫でする様な言い回しの裏には、微かな侮蔑が含まれていることを宗弦は敏感に感じ取っていた。

 理由は簡単だ。この戦いに於ける滅却師側の目的――混血統滅却師の取捨。その達成という義務を放棄する戦い方を選んだせいだ。いい加減腹を括れと彼は言っているのだ。加えて、どうせ咲秋はその気になれば宗弦より損害の少ない戦法を十も二十も思いつくんだろう。皮肉が過ぎる。

 

「臭い芝居は止めろ。そちらはどうだ」

『奴さん卍解してきちゃってさ。壊滅状態だよ~(´;ω;`)禅ちゃんの部隊に指示出しながらってなると結構きついな~』

 

 禅治郎が殺られたとなると、佐伯家の軍も壊滅状態と見るべきだろう。となると、残るは降伏か集結の後の最後の抵抗か。咲秋の選択を半ば予想しつつ、宗弦は通信機へと問う。

 

「そろそろ幕か?」

『ううん、もちっと粘ろっか。禅ちゃん死なせちゃったからね……そーちゃんは禅ちゃんの部隊を拾ってなるたけ早く僕らのとこに集結して。派手にやろうじゃないの』

「……分かった」

『“混血滅却師を減らす”ことも今回の使命なんだ。そーちゃんには悪いけど、実行させてもらうよ』

「分かっている。……お前に言われる迄も無い」

『だよねえ♪ じゃあ、待ってるから』

 

 宗弦は顔を伏せると、頬を軽く叩いた。

 数瞬でも時間が惜しい。

 

「片桐はいるか。部隊を動かすぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 滅却師の残党を狩りながら、平子真子は近くにいる藍染惣右介を盗み見た。

 

 ――なんや、気に障るやっちゃのう。

 

 先程会ってすぐに感じた違和感。

 眉一つ動かさず敵を斬り捨てていくその姿に合点が行った。

 

 ――竜太郎が居らんかった。……アイツ、まさか死……

 

 グッと眉に力が籠る。

 藍染は確か竜太郎に拾われ、育てられたのではなかっただろうか。

 にしては随分と藍染が静かだ。

 

 ――他の班と合流しよったて可能性もある。今のままじゃ何とも言えん。……のやけど、何や? この違和感……

 

 平子が眉を寄せた直後、隊長が急に歩みを止めた。

 

「! ……隊長? 何かあったんで――」

「伏せろッ!」

 

 その声に反射的に反応して伏せると、自分達の頭が在った辺りに高速の青い光が通り過ぎて行った。

 

「その動き……隊長格かな。……あ~、その白い羽織、もしかして隊長さん?」

 

 飄々とした声の方を見ると一人の青年がゆっくりと歩いてきた。手には真っ白な弓を持っている。彼を見て、藍染が一瞬動揺した。

 

「……黒崎さん」

「あ、そーすけくん! やっほー! 先日ぶりだねえ~☆」

「何故貴方がここに?」

「可笑しなこと訊くねぇ? 僕は滅却師、君は死神。この立ち位置に何の不思議が有る?」

 

 霊力がどんどん奪われていくこの空間内において呑気に会話している二人の異常性に平子は剣幕を厳しくした。それに気付いてか、隊長が右手を遠慮気味に上げた。

 

「藍染、知り合いか?」

「はい。私も先日の滅却師との協議に参加させていただいていたんです。その時に。彼の名は黒崎咲秋、共存派とされていた派閥の頭目の一人です」

「あ、そーすけくん! 僕にもそちらさんをしょーかいしてよお! 隊長格なんてそうそう見る機会無いからさあ」

 

 ニコニコしながらそう言う彼に藍染が鋭い視線を投げ掛ける。

 

「それは質問に答えてもらってからです。佐伯は既に死にました。もう貴方に戦う理由は無い筈だ」

 

 藍染の視線を受けて黒崎が驚いた顔になる。だがそれもすぐに消え、その顔には満面の笑みが浮かぶ。

 

「良い目になったね、そーすけくん! 滅却師が憎くて憎くて仕方ないって顔だ。誰か大事なヒトがこの戦いで傷ついたか、もしかして死んじゃった?」

「話を逸らさないでください。何故まだ貴方は戦ってるんですか」

「……禅ちゃんの死は()()だったけれど、この戦いを終える理由にはならないからだよ」

 

 藍染の殺気が膨らんだ。

 黒崎の笑みが深まる。

 

「ふふ、やっぱり聡明だね。さあ、始めようか」

 

 無邪気に笑う黒崎が矢を番えた。

 

 

 

 

 

光の雨(リヒト・レーゲン)

 

 もう何度目になるとも知れない、文字通り雨のごとく降り注ぐ光の矢を、平子は始解も出来ぬままただ払う事しかできなかった。そろそろ身体も重い。

 

「チッ……敵さん元気やなあ。霊力どんだけ有んねん⁉」

「僕? ふふ、僕は大して霊力が高い方じゃないよ」

「アホぬかせ。こんだけガンガン霊力奪われる中ですっずしそうな顔しよって……くそっ」

 

 寒鴉が卍解時に副官を連れて入るのには理由がある。

 寒鴉自身の護衛という意味も有るには有るが、最も大きな理由はそこではない。

 

 卍解〈幽玄回廊蔵屋敷〉は中に居る者の霊力を少しずつ喰らって大きくなる。その速度配分は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。霊力は生きている限り湧き出続ける為枯渇させるという表現はあまり適切ではないかもしれないから、まともな戦闘が出来なくなるまでの量と言った方が良いかもしれない。兎も角敵をより早く殲滅しようと思ったら、少しでも霊力の高い者を連れて行くのが手っ取り早いのだ。

 

 今までに数度寒鴉に付いてこの卍解に入ったが、毎回その中で霊力が最も多いのが平子だったためそこまで霊力を持っていかれずに戦闘が終わっていた。

 だが今は、戦闘が長引いているにしても霊力を奪われ過ぎていた。

 これが意味することは一つ。

 

 藍染か黒崎かの霊力量が遥かに平子を上回っている。

 

「霊力がギリギリの状態に慣れているだけだよ♪ まあでもここまで調子が良いのはコレのお陰なのかな」

 

 ス、と黒崎が自身の弓の中央部分をなぞった。そこだけ僅かに厚みが増している。平子と同じようにその部分に視線を向けていた藍染が視線を鋭くした。

 

「その部分……霊子の収束量が違いますね」

「あ、わかる? そーちゃん印の装身具はやっぱり性能が桁違いだよね~☆」

「隊長が僕らから奪った霊力を更に奪ってます」

「何やて⁉」

「流石は滅却師ってことかなっとォ」

 

 棒立ち状態だった黒崎の後ろに回り込んだ寒鴉が斬魄刀を振り下ろした。ノーモーションでそれを黒崎が躱すと、彼が立っていた場所に寒鴉は斬魄刀を突き立てた。

 

「おい、〈ゆー〉よォ、この前聞かせた“かちかち山”、どォだった?」

 

 そう言ってじっとしていた寒鴉は顔を上げると笑った。

 

「笑った! なあ滅却師の黒崎さんよお、“かちかち山”ってのは知ってるか?」

「……勿論☆」

「そりゃ良かった」

 

 寒鴉は斬魄刀を引き抜くと、惣右介たちの側に戻って身構えた。

 

「気を付けろ。オレの斬魄刀の〈ゆー〉は、狸が血祭りにあげられる様が好きらしいんだ。巻き添えくわねえようにな」

 

 違和感を感じて平子は自身の唇に触れた。その指は乾燥しきった唇に触れる。いや、乾燥しているのは唇だけではなく、この空間全体が異様なまでに水分を失っていた。

 

 カーン……

 カーン……

 

 硬い者同士がぶつかる音と共に何かが降ってくる。

 それは先程の青い雨を想い起こさせるような真っ赤な火花の雨だった。

 

「そうきたか! 真子、惣右介、この火種に絶対に触れるなよ! 一瞬で火達磨ンなる!」

 

 黒崎の方も、触れると不味いということが分かったのだろう。火花を矢で弾いて軌道を逸らしていく。

 

「チッ、刀で払ってちゃキリがねえ。縛道の八十一、断空!」

 

 透明な壁が三人の上空に現れた直後、黒崎が弾いた火種が真っ直ぐ隊長の袖に飛んできた。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に袖を破り捨てると、瞬く間に火種が袖の切れ端を焼き尽くした。

 それを横目で見ていた黒崎がこちらにウインクする。

 

「残念♪ 惜しかった!」

「やってくれるじゃねえか……」

 

 寒鴉が冷や汗を拭った直後、火花の雨が止み何処からか地鳴りのような音が聞こえてくる。

 

「⁉ ――〈ゆー〉、お前、俺まで殺す気か⁉」

銀鞭下りて五手(ツィエルトクリーク・フォン・)石床に堕つ(キーツ・ハルト・フィエルト)――五架縛(グリッツ)

 

 思わずと言った風に寒鴉が叫んだ一瞬の隙に、黒崎が口上を述べて銀色の何かを寒鴉に当てた。途端、出現した帯に寒鴉が拘束される。

 

「しまっ――」「隊長!」

 

 明確になった音の正体は泥を含んだ水の濁流だった。

 拘束された寒鴉とそれを外そうとした平子が反応に遅れてそれに飲み込まれた――

 

 

 

 

 

 

 

 

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