龍門に登る   作:みーごれん

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来る変化は波紋のように
第八話 交錯するセカイ・前編


 SIDE・D

 

 

 惣右介が一番隊員となってから十年。

 彼はその勤勉さと資質から異例の速さで昇進し、現在十席を冠する程になっていた。

 やっかみなどが無いとは言えなかったが、一度実戦で彼の姿を見ればそういう者達の口は閉じた。

 始解もしないままに虚を屠るその姿に、隊の内外を問わず先達は負けられないと鍛錬に励み、後進は彼に憧れる者も多かった。

 

 

 

 現在惣右介は執務室に呼びだされ、惣右介は七席の先輩と共に執務室に向かっている。

 執務室の中には総隊長兼一番隊隊長、山本元柳斎重國が待っていた。

 

「よう来た。今から五時間の後、二人には自身の班を率いて現世に虚討伐に行ってほしいのじゃ」

「「はっ!」――しかし、何故二班なのでしょうか」

 

 現世は通常、人間五万人に死神一人の割合で現世に配備されるのが常だ。それが二班の計十二名で同じ場所に向かえというのだ。何か厄介なことがあると勘ぐってしまうのは仕方のないことだった。

 それは総隊長も同感だったようで、眉一つ動かさずに惣右介の問いに答えた。

 

「ちと数が多いようでのう。加えてあそこには……いや、何でもない。少々危険が伴うようでのう、お主らを筆頭に発ってほしいのじゃ」

「……承知いたしました。任務地は何処でしょうか」

「――重霊地、空座町。恐らく(プラス)も多く居るじゃろう。魂葬も出来るだけ行ってほしい」

「「承知」」

 

 一礼して、二人は各々準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――場所は移って、重霊地・空座町

 

『藍染十席! ()肆拾陸(ヨンジュウロク)番にて虚の群れを発見いたしました!』

「ありがとう。そちらに急ぐよ。皆が集まるまで待機しておいてくれ」

 

 通信機から部下の声がして惣右介は答えた。

 思っていたよりもずっと虚の数が少なかったため少数ずつに分かれて警戒していたところ、群れていたらしい。道理で見かけないわけだ。瞬歩を行いながら、霊圧知覚を研ぎ澄ます。報告の通り群れた虚を感知して、惣右介はふと違和感を覚えた。

 

(――この距離でははっきりわからないが、少し虚が集まり過ぎじゃないか? 嫌な予感がする……)

 

 追従する二人を千切らぬよう加減しながら、それでも出来る限りの速力で惣右介は走った。

 

 

 

 

 

 惣右介の小班が駆け付けると、残りの部下どころか虚の姿形も見えない。

 霊圧の痕跡は有るが、随分薄いため移動しているようだ。

 

(移動したという連絡は無かった筈だ。……連絡が、無かった)

 

 最悪の展開が頭を過る。その動揺を他に気取られぬよう、彼はゆっくりと深呼吸をした。

 

「藍染十席、如何なさいますか」

「取り敢えず周囲を警戒しておいてくれ。僕はもう一度連絡を取ってみるよ。―――神崎君、応答できるかい? 現在地と状況の報告をしてくれ」

『ザザ……ぁぃ…………ザ…………』

「神崎君? 機器の故障なら予備を――」

 

 部下の声が聞こえて安心したのも束の間、虚の様な霊圧が膨れ上がった。

 限りなく虚に近いのに、何処かそれより濁ったような……

 今まで感じた事の無い霊圧だった。

 

 それに紛れて分かりにくいが、近くに彼の部下の――それもかなり弱った――霊圧を探知した。他にも複数の変わった霊圧を感じる。

 

「総員、戦闘態勢! 今現在増大中の霊圧を発している虚の下へ向かう!」

「「はい!」」

 

 後の二人も表情を引き締めると、再び最大速力で目的地へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

 残りの三名の班員は道の真ん中に固まって倒れていた。

 罠を警戒して周りの霊圧を探るが、何かがいる気配はない。先程の変わった霊圧はここから少し離れた位置にある。即座にそう判断して部下に駆け寄る。

 

「皆、無事か⁉」

「あい、ぜ……っせき……」

「神崎君! 酷い怪我じゃないか……これは虚によるものじゃないね? 一体誰に……」

 

 彼らの傷は殆どが斬り傷だったが、虚の持つ刃物より鋭く、されど死神の斬魄刀の切り口より鈍い。

 惣右介の問いに神崎は力なく首を横に振った。

 

「もぅし、っけ、ありま、ん」

「構わない。救護部隊を要請するから、もう安心するんだ。休んでいてくれ」

「十席! 四番隊は二十分後に到着の予定だそうです!」

「髙橋七席の班はもうじき合流できるそうです!」

 

 連絡を取ってくれていた二人に頷いた直後、髙橋七席他五名が合流した。

 

「藍染! これは一体どういうことだ⁉」

「不明です。虚が確認できなかったため少数で索敵中、その内の一班がその群れを発見。合流した時には既にこの状態でした。襲撃者は不明です」

「うむぅ……奥にあるあの霊圧は?」

「不明です。確認しようにも動けませんでした」

「不明ばかりではないか! …………ま、今言っても仕方あるまい。ならば藍染、無事な班員二名を連れてあの虚の方を頼めるか。索敵優先で無理をせず、人手がいるなら呼ぶんじゃ」

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不思議な気配の近くまで来る。連れてきた後の二名も緊張した面持ちで後ろに控えていた。

 そっと惣右介が覗くと、虚と思しき化け物が道の真ん中に立っていた。その放射状に人間が倒れている。この人数を保護しながら戦闘を行うには、人手が足りないかもしれない。断じた惣右介が後ろの二人に振り向くことなく指示を出した。

 

「――田中君は髙橋七席に状況説明と応援要請、四宮君は僕に続いて周りに倒れている人間の安否確認及び安全確保! いいね?」

「「はい!」」

 

 牛の様な仮面をかぶった化け物が片腕を掲げた。

 倒れている人間を襲うつもりらしい。咄嗟に飛び出しそれを斬魄刀で受ける。

 

「くッ!」

 

 重い一撃。

 先程から感じていた違和感がここに来て一層明白になる。

 

「はああっ!」

 

 腕を撥ね退け、敵を正面から見据える。

 その顔を見て惣右介は目を見開いた。

 

『アアン? 何だ、テメエ……死神! はっはあ、オレァついてるぜえ! ちょっと力が有ってもコイツらはたかが人間。死神の魂の旨さには敵わねえ!』

「お前は一体……(ホロウ)、なのか……?」

 

 後方から牛のように見えていた仮面は三分の一ほどしか在らず、面の無い部分からはその卑しい笑みが惣右介に向けられていた。

 

『ククク……さあ、何だろうなあ? 少なくとも、オメエみたいな若え奴が見てきたような雑魚共とは比較になんねえ、よっ!』

 

 再び振り下ろされた腕は先程の威力を遥かに凌駕していた。咄嗟に後ろで倒れている人間を抱えて飛び上がる。

 

『他人の心配たァ余裕だなあ、オイ?』

「――縛道の三十、嘴突三閃!」

『“キドウ”って奴か? しかも三十? 効かねえよ、ンなもんはよお!』

 

 惣右介から放たれた金色の鳥嘴を虚もどきが腕で払おうとした。しかし鬼道はその腕に打ち砕かれること無くそれを地面に磔にした。

 

『何だと⁉ 前喰らった死神は六十とかでも飴みてえに(やわ)かったぞ‼』

「僕の霊力は他の死神より()()多いみたいなんだ」

 

 気絶していた人を遠くで降ろした惣右介は瞬歩で化け物の首元に立ちなおした。斬魄刀をそっとその首筋に当てると、化け物がゴクリとつばを飲み込む音が妙に大きく聞こえる。

 

「答えてくれ。お前は一体ナニモノだ?」

『答えれば見逃すのか?』

「……僕は死神だ。人間や死神を喰らうモノを見逃すことは出来ない。でも――どうせ斬られるなら、苦痛の無い方が良いだろう?」

 

 眉間に皺を寄せながら惣右介が言うと、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした化け物は数秒の後、さも愉快そうに笑った。

 

『あっはっはァ! ンダよ、中身は鼈甲飴みてえな奴だなァ? 自分を襲った奴に同情するたァ甘え。でもいいぜ、教えてやるよ。オレは“破面(アランカル)”――虚の仮面を捨て、死神の領域へ足を踏み入れたモノ。虚から進化した存在だ‼』

「虚から進化⁉ 大虚(メノス)の様なモノか?」

『いんや。あれは何処まで行っても虚の一種でしかねえ。あんなのと一緒にすんなよ』

 

 嘲笑した破面は体の力を抜いた。

 

『オラ、信じる信じないはオメエの自由だが、やるならさっさとしろよ』

「! ――ああ。“白伏”」

 

 白伏によって意識を失った破面の喉元を掻き切る。

 苦痛は無い筈だ。

 だが無抵抗になった相手の命を刈り取るこのやり方は、惣右介は好きではなかった。

 

 

「藍染十席!」

 

 斬魄刀を直し、昇華していく破面を見つめて突っ立っていた惣右介に向かって、四宮が駆け寄った。倒れていた人たちの安否確認が終わったのだろう。

 

「もう終わったんですか」

「うん。四宮君、彼らの様子はどうだい?」

「はい。全員酷く消耗していますが、命に別状は有りません。ですが…………」

 

 戸惑った様子の四宮に惣右介は首を傾げた。

 

「どうしたんだい?」

「いえ、なんと言いますか、状況だけ見ると、恐らく彼らは虚に襲われたのではなく()()()()()()()のではないかと思われます」

 

 咄嗟に周囲を見渡して状況を頭に入れ直す。

 それを見ると、確かに一方的に人間たちが襲われていたわけではないのが分かった。

 

 破面を中心に放射状に入っている抉られたような跡が、破面からの打撃にしては深く・鋭いものが多い。しかもそれらは破面に近づくほど深く抉られていた。つまり、何か鬼道の様なモノで四方から破面を狙ったかのような状況になっているのだ。

 

「人間が、虚に立ち向かっていた……? ――そんなモノ、教本くらいでしか見たことが無い。確か、名は…………」

 

 惣右介が顎に手を添えて考えを巡らそうとした時、伝令心機が高らかに鳴り響いた。

 

「はい。こちら藍染。どなたですか」

『十席! こちら田中です。髙橋七席と合流できたは良いのですが、こちらにも虚が多数発生いたしまして応援どころではなくなってしまいました。申し訳ありません』

「大丈夫、こちらは片付いたから。僕らもすぐにそちらへ向かうよ」

『承知しました。宜しくお願いします!』

 

 通話を切るなり四宮と駆け出した惣右介は地面に残った痕を見た。それは神崎たちの傷跡によく似ていた。

 

 

 

 

 

 

 合流する頃には虚は大分片付いていた。

 戦闘の中心から少し離れた位置で、虚に人間が襲われかけているのが目に入る。四宮をそのまま応援に行かせると、惣右介は一人そちらに刀を振り上げた。

 

 『グオオオォォ……』

 

 惣右介に斬られた虚が昇華していく。

 襲われかけていた人の方を向くと、その人は惣右介に反応した。

 因果の鎖の痕跡はない。霊圧もあるようだし、視える人間だったらしい。

 

「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

 

 惣右介が手を差し出すと、その人は躊躇いながら手を出しかけた。すると―――

 

「ッ⁉」

 

 その人の顔が横に殴られた。

 

「なっ!」

 

 驚いて顔を上げると、一人の男性がさっきの女性を足蹴にしていた。

 

「この役立たずが! 撒き餌程度で集まって来た雑魚虚に後れを取ったばかりか、よりにもよって死神に横槍を入れられるとは…………」

「もうし、わけ、ありません…………」

「謝ってすむものですか! この恥知らずが‼」

 

 その男が足を大きく振り下ろそうとしたのに咄嗟に割って入り、惣右介が女性を担いで瞬歩で遠のく。男の眉が引き攣った。

 

「死神ですか……我々のことに首を突っ込まないでいただきたい」

「”我々”? 無抵抗な女性に暴力を振るっていい集団が現世にあったとは知らなかったな」

「その反応、どうやら本当にご存知無い様だ。万死に値する無知ですよ」

 

 吐いて捨てる様に言ったその言葉と共に、男が手首の装飾品を出した。

 それが光ったと思った瞬間、青く光る弓の形になった。

 教本でしか見た事の無いソレは――

 

滅却師(クインシー)!」

「おや、多少はモノを知っていたようですね。今更意味のないことですが」

 

 男は冷たく、しかし奥底ではギラギラと輝いた瞳で矢を番えると、放った。

 こちらには先程の女性もまだいるというのに!

 

 防御系の鬼道を唱える時間はない。

 

(――間に合うか⁉)

 

 手が斬魄刀へ延びる。

 青い光が迫る。

 

 威力

 速度

 距離

 

 駄目だ、間に合わない!

 せめて、彼女だけでも――――――

 

 

 

 

 バチィンッ…………

 

 

 

 

 




今更ながら時間軸を明示してなかったことに気付く作者。
ポンコツでスミマセン……

四話で兕丹坊が”この任に就いてから負けたことが無い”と言っているので、原作開始時に三百年門番を務めて過去二回止められたうちの一回が竜太郎(という設定)です。ということで、この作品のスタートが大体二百八十年前くらいのイメージです。そこから霊術院へ行ったり護廷十三隊に入って過ごしたりで、現在原作開始から二百六十から五十年前くらいの気持ちで読んでいただければと思います。

ややこしい。

現在惣右介君は見た目十七、八くらいの青年です。
まだまだ一番隊では最年少なので、最近の悩みは”年上の新入隊員にどう接するか?”
今の所は”十席の名に羞じぬ振舞い”を出来る様に邁進中です。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
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