SSR ビギンズ0   作:真田丸

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メモリー0.10

恭二から詩乃の事が好きだと告げられて1ヶ月が過ぎた。

その間2人の関係にはコレといった変化はなかった。強いて言うなら恭二が詩乃に話しかける回数が少し増えたぐらいだろうか?

とにもかくにも

 

「このままじゃ付き合うどころか友達の友達からも抜け出せないよ」

 

「ウグッ!」

 

目の前でうなだれる恭二に呆れた視線を送りながらコーラを飲む。

 

場所はこの前と同じ喫茶店、何度か一緒に出掛けないかと誘おうとはしたらしいがいざ誘おうとすると緊張して頭が真っ白になってしまうらしい。

 

「まったく、ウブだねぇ〜」

 

「・・・・その生暖かくて優しい目線は止めてくれないかな?」

 

不貞腐れる恭二を苦笑交じりに宥めてポケットから2枚の紙を取り出して恭二に見せる。

 

「しょうがない、そんなウブな親友のためにここはボクが一肌脱ぐよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、映画って新川君と?」

 

その日の夕食の時、詩乃に1枚のチケットを差し出した。それはとある映画の試写会のチケットだ。

 

「うん、本当はボクが一緒に行くつもりだったんだけどちょっと用事が出来ちゃってさ。折角のチケットが無駄になるのも勿体ないし、詩乃もその映画観たがってたよね?」

 

「え、ええそうね・・・」

以前、詩乃が興味深そうにこの映画のCMを見ていたから手に入れたチケットだったけどまさかこんな形で役に立つとは思わなかったな。

 

「でもっ本当に良いの?これ結構なプレミアが付いていたはずよ」

 

そう、この映画原作が超大人気漫画でファンが多くこのチケットも販売と同時に売り切れネットオークションで中々の価格が付いたほどだ。

家からの仕送りで生活しているボクたちでは本来ならとてもじゃないけど気楽に買えるものではない。

 

そこで出番となったのが仮面ライダーとしての収入だった。

ギルドに所属してから詩乃には内緒で作った口座には仮面ライダーとしての月収がたんまりと貯えられているから実はそこまでキツイ買い物ではなかったりする。

「そんなこと気にしなくて良いよ。誰も行かないで無駄になる方がイヤだしね。その代わりに後で感想聞かせてね」

 

 

とりあえずコレで舞台は整えられたね。

恭二にメールでその事を伝えるとやけにテンションの高い文面が返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあボクは先に出るから詩乃も遅れないで行ってね」

 

「分かってるわよ。行ってらっしゃい」

 

 

映画の当日、その日予定がある事になっているボクは朝早くに少し大きめのバックを背負って部屋を出た。

もちろん用事かあるって言ったのは詩乃にチケットを渡すための方便だったけど何もすることがない訳じゃない。寧ろ今日は一日一杯忙しくなりそうだ。

何故ならこれから2人の初デートを終始見届けないといけないからだ。これは恭二からお願いされた事であり二人っきりになるとまた頭が真っ白になるかもしれないから所々で密かにアドバイスして欲しとのことだ。

 

マンションからしばらく歩いたところにある公園のトイレに入りバックに入れた服に着替える。

 

因みに部屋にある服だと詩乃にバレる可能性があるから昨日わざわざユ〇クロで買ってきた物だ。

何て書いてあるのか解らない英語のシャツを来てその上に上着を羽織る。目立ちやすい白髪頭はニット帽で隠して伊達眼鏡も掛けておく

 

「よし、コレなら詩乃にもバレないはず」

 

トイレに備え付けられている鏡で自分の姿を確認すればパッと見では渦木蒼也とは別人が写っていた。

じゃあちょっと早いけど待ち合わせ場所で待機しておこうかな。

 

 

 

 

「8時42分20秒・・・8時42分30秒・・・8時42分40秒・・・」

 

「・・・・・・・・・ええ〜〜とぉ〜〜」

 

2人の待ち合わせ時間にはまだあるけど早めに待機しておくために駅前までやって来るとそこには血走った眼で腕時計を凝視しながらカウントをする恭二が周りから引かれた眼で見られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でこんなに早くから居るの?しかもあんなに目立ってさ」

 

駅前で奇怪な行動を続ける親友を引っ張り駅前のハンバーガーショップに駆け込んた。

「ウッ!えっ・・・と・・家に居ても落ち着かなくて・・それに目立ってたつもりはなんだけど・・・」

「イヤイヤイヤ、これ見てもそんなことが言える?」

先程思わずスマホで撮影した映像を見せると恭二はウッ!とそこに写る自らの姿に引いた。

 

「コレは・・・確かに怪しいね」

 

「でしょ?まぁ、相手より速く来ていようっていう心掛けはいいと思うけどさ」

 

コーラを飲みながらチラリ時計を見てみるといつの間にか時間がたっていて2人の約束の10分前だ。

 

「ほら、詩乃の事だからもうコッチに向かっていると思うよ」

 

「えっ?うわっ!いつの間に!?じゃ、じゃあアドバイス頼むよ!」

慌てて店を出る恭二に苦笑混じりに見送ってボクも店を出た。

 

 

 

 

 

 

「お待たせ新川くん」

 

「あっ朝田さん!おっおはよう!」

 

待ち合わせ場所に着くと丁度詩乃がやって来た所だった。

詩乃を見るなり分かりやすくテンパる恭二に詩乃が優しく微笑む。

 

「今日はよろしくね」

 

「う、うん!じゃあ行こうか!?」

 

並んで歩き出した2人の後ろを一定の距離を保ちながら追う。

 

 

電車に揺られること十数分、2人は目的の映画館の最寄り駅で降りボクもあとに続く。

 

映画まではまだ時間があるため2人は映画館近くの店を回ることにしたらしく本屋に入っていった。

元々詩乃は文系だし恭二も教室でよく本を読んでいる。そう考えると中々話は会うと思うな。

因みにボクは文字だらけの本を読むと1分で寝ちゃう。

 

 

「あっこの作者の新作、もう出ていたんだ!」

「あら、新川くんもこの人の作品読むの?」

 

「うん!結構好きなんだ。もしかして朝田さんも?」

「ええ、前半の伏線がしっかり回収されていて良い話が多いいのよね。一度蒼也にも勧めてみたんだけどアイツったらすぐに寝ちゃうのよね」

 

「ははは、蒼也らしいね。こんなに面白いのに」

 

「フフ、そうよね。人生の何割かは無駄にしてるわよね」

 

 

・・・・・何だろう?2人は楽しそうに会話しているのに何だかバカにされている気がする。

 

 

 

それぞれ数冊の本を購入した2人はそのまま次の店に向かっていった。

ボクもその後を追うように店を出ようとしたその時、胸元のポケットから軽快な音楽が鳴った。

 

「ッ!こんな時に!?」

 

音楽の発信源はポケットに入れてあった大型の携帯【スタッグフォン】からだった。

ギルドに所属してから支給されたモノでコレが鳴ったということはそのままボクの近くでドーパントが現れたということだ。

流石に『友達のデートを見守らないといけないので今回はパスで』というわけにはいかないしな。

仕方なく恭二に謝罪のメールを送って後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「ええッ!?」

 

映画までの時間、新川くんと色々と近くのお店を見ていたら新川くんのスマホが鳴って画面を見た新川くんが叫んだ。

 

「どうかしたの?」

 

「う、ウウン!何でもないよ!!・・・ちょっとゴメン」

私から少し距離を取った新川くんはスマホで誰かと話はじめた。

口元を隠して声も押さえているため何を話しているのかは分からないけど大分切羽詰まっている感じね。

 

新川くんが電話をしている間適当に周りの店を覗いていると1つのセレクトショップの奥に立つ2体のマネキンが目に入った。

正確に言えばマネキンに巻かれているマフラーにだった。

2体のマネキンは色違いのマフラーを巻いていた。男性型は青いの生地に2本の白の線が走る柄で女性型は白い生地に青い1本線が引かれている。

 

・・・・最近寒くなってきたし今日のお礼に良いかもしれないわね。

 

そう決めた私は近くにいた店員に声をかけた。

 

「スミマセン。あのマフラー幾らですか?」

 

「あ、あのマフラーですね。え〜っとそれぞれで2300円ですね。彼氏さんにプレゼントですか?」

「彼氏じゃなくてただの腐れ縁です///」

 

「フフフ、そうですか」

 

ちゃんと分かっているのか店員は終始笑顔でマフラーをラッピングしていった。

 

「ありがとうございました!」

 

ラッピングされたマフラーを受け取り会計を済まし店を出ると丁度新川くんも電話を終えたみたいだった。

 

「ゴメン、待たせちゃたよね?」

 

「別に大丈夫よ。私も少し買い物できたし」

 

そう言って私はたった今買ったばかりのマフラーの入った紙袋を見せる。

「そっか・・・・ゴメン!もう少しだけ待っていて貰えるかな!?」

 

新川くんは紙袋を見たあとセレクトショップを見たと思ったらそのままお店に入っていった。

 

もう一度同じお店に入るのも気が引けるから近くのベンチに座ってさっき買った本を読んでることにした。

 

「・・・・喜んでくれるわよね」

 

紙袋を横に置きながら何となくマフラーを巻いたアイツの姿を想像した。


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