「・・・・・・チィッ!」 ドカッ!
「ヒィッ!」 ビクッ!
忌々しそうに窓の外にいる警官隊や野次馬を見ながら男は近くの椅子を蹴る。
その音に人質の1人が悲鳴を上げるが男は鋭い眼光で黙らせる。
まさかこんな大事になるなんて!
男は今更ながら後悔していた。
以前勤めていた会社を些細な事で解雇され自暴自棄になっていて男はある日、路地裏でガイアメモリの取引を目撃した。
メモリを手にした購入者がさっそくメモリを挿すとまるで狼男の様な姿になり雄叫びを上げながらビルの外壁に巨大な爪跡を刻み付けそのまま何処かへと跳び去った。
その力に目を奪われた男は堪らずその場から去ろうとするセールスマンの前に出た。
「お、おい!何なんだ・・・今のは!?」
「おや、見られてしまいましたか」
見られてしまいましたか。と言うわりにはセールスマンに焦りの色はなかった。
寧ろ、ようやく話し掛けてきたかと言わんばかりだった。
男はセールスマンの持つケースに目が行く。あの中にさっき見た力の秘密があるのは明らかだった。セールスマンもその視線に気付いており笑みを浮かべながら男の前でケースを開ける。
男がケースを覗き込むと色とりどりのUSBメモリが敷き詰められていた。
「コレを使えば俺もあんな怪物の力が手に入るのか!?」
思わずメモリに手を伸ばすがセールスマンは素早くケースを閉じた。
「生憎と此方もビジネスでやっておりますのでね」
「いっ幾らだ?幾らで売ってもらえるんだ!?」
仕事を失ない収入など無いにも関わらず既に男はメモリの力に魅せられていた。
「わざわざ言わなくても分かる筈ですよ。アナタがメモリと【運命】で繋がられているのなら」
男に名刺を差し出しセールスマンは去っていった。
―――――――――――――――
それから数ヵ月の間、男は昼夜を問わず働いた。
全てはあのメモリを手に入れるために。
だが、今のご時世では男性のまともな働き口は少なく中々貯まらなかった。
日に日に強くなっていくメモリへの渇望が男の精神を蝕む。そして、この日とうとう男は強行手段に出た。
銀行を襲い金を強奪、そして事前に連絡を取っておいたセールスマンとの取引場所である廃車置き場へと行き念願のメモリを手に入れたのだった。メモリを購入後すぐにパトカーが近づいてきたため反射的に逃げ出してしまったが今の自分は超人的な力を持っている。
「そうだ!俺にはもうコレがあったんだ。逃げる必要なんかねぇ!!」
男はメモリを取り出すとニヤリと笑い外にいる警官隊を見た。
「はぁ・・・・・はぁ・・・はぁ・・・」
店の隅で詩乃は震える身体を必死に押さえようとしていた。
しかし、思い出すのは男が持つ拳銃。あの音が、あの匂いが、あの空気の震えが詩乃の脳裏にある記憶を呼び起こさせていた。
次の瞬間、詩乃は胃の中のモノが逆流してくるのを感じ両手で口を抑えた。
「ウウッ!!ガッ!・・・・ウゲッ!!」
しかし、抑えきれなかった汚物は詩乃の両手から溢れ出て床に散らばった。
「朝田さん!?しっかりして!!」
「ガアッ!グエッ・・・ウエェッ!」
隣にいた恭二が背中をさすり呼び掛けるが詩乃にはそれに答える余裕など無かった。
「ん?・・・・おいソコォ!!なに騒いでいやがる!?」
拳銃を向けながら迫ってくる男に詩乃は再び恐怖が襲い掛かる。
「イッ・・・・イヤッ・・イヤァァ・・・・!」
男からいや、拳銃から少しでも離れようとするが既に壁際にいるためこれ以上離れることは出来ない。むしろ男はどんどんその距離を縮めてくる。
男の視界に詩乃の嘔吐物が入る。せっかくの気分が害された男は怒りのままに詩乃の眉間に銃口を押し付けた。
「なに吐いていやがるんだ!ぶち殺されたいのかぁ!!」
「イヤャャャャッ!!」
「辞めてください!!」
詩乃を護るため恭二が2人の間に入るが男の裏拳を受けた。
「ガキが!女の前でカッコつけてんじゃねーよ!」
気が削がれた男は倒れ込む恭二と詩乃を尻目に窓際へと戻っていく。
「し、新川くん・・・!」
「大丈夫・・・・朝田さんは絶対に守るから・・・」
口から血を出しながらも気丈に振る舞う恭二だったが内心ではかなりまいっていた。
元々、喧嘩もしたことも無く性格的にも荒事は苦手な恭二がこんな暴力的な行為に耐えられるはずが無かった。それでも憧れの人(詩乃)を護るために・・・・
・・・・・・・・隣のビルから飛び込んで数分、立て籠り現場の喫茶店に着いた。
気付かれない様に中の様子を見てみると詩乃が犯人と思われる男に拳銃を突き付けられていた。
それを見た瞬間、無意識の内に犯人に対し殺意が沸いた。
一瞬の内に頭の中であの犯人を殺すシュミレーションが10パターンぐらい思い付く。多分あと数秒の内に他の人質の安全なんか考えずに犯人を殺していたかもしれない。
殺意が爆発する直前、詩乃を守るように恭二が間に入った。結果的には犯人に殴り倒されてしまったけれどもそれで犯人も気が削がれたのかそのまま詩乃たちから離れていった。
スグに詩乃が恭二に駆け寄る。恭二も心配だけど詩乃が大丈夫みたいでとりあえずひと安心かな。
とは言え、あまり時間を掛けるわけにはいかない。
《スタッグ!》
スタッグフォンを取り出して疑似メモリを挿す。携帯の形からクワガタの形へと変形したスタッグフォンを喫茶店の奥へと飛ばす。
いつでも飛び出せるように構えてスタッグフォンの動向をみる。
見付からないように天井に張り付くように飛ぶスタッグフォンは店内の角に置かれた消火器に近づきその鋭いハサミで消火器を切り裂いた。
「なっ何だぁ!!」「キャァー!」
消火器の炸裂音と店内に充満する消火液に店内はパニック状態になった。
次々とスタッグフォンは店中の消火器を破壊していく。そして店内が真っ白になった瞬間ボクはゴーグルを装着し中に飛び込んだ。
目標は突然のことに困惑している立て籠り犯。
「何なんだッ!?一体何が起こったんだ!?」
右も左も分からず拳銃を持つ腕を振り回すだけの犯人に接近する。
「なんだオマッ!?」
さすがに近づけば気付かれるけどもう遅い。犯人の持った拳銃を叩き落としそのまま背負い投げで床に叩き付けた。
「グアッ!?」
《スパイダー!》
すぐに右腕に付けた黄色い腕時計【スパイダーショック】に疑似メモリを挿す。蜘蛛の形へと変形したスパイダーショックはワイヤーを射出し犯人を拘束した。
「・・・・ふぅ〜」
メモリを使われる前に拘束できたことに思わず安堵に息を吐いた。こんな室内で万が一ドーパントになられたら人質に被害が出ていたかもしれない。何よりも詩乃にメモリの事を知られてしまう事になる。
ソレが阻止できただけ良かったかな?
まだ店内は消火液で真っ白で人質の人達の叫び声が響いているけどゴーグルを使えば詩乃の位置は分かるからとりあえず詩乃だけは店内から連れ出してあとは警察に任せるかな。
周りを見渡すと店の片隅に詩乃と恭二がいた。
近付いて話し掛けようとした。
その時だった。
《アノマノカリス!》
背後からメモリの音声と共にワイヤーを切れる音、そしてガラスの割れる音が聞こえた。
店内の消火液が割れた窓ガラスから外へと流れ真っ白だった視界が開けていく。
まずい!!そう思っても遅かった。
詩乃や恭二、店内にいた人たちは見てしまった。エビの様な怪物がクモの玩具を踏みつぶしている姿を・・・・