「さてっと、そろそろ引き渡してこないと」
正直、この場に長居はしたくない。真っ昼間の街中だからだんだんと野次馬が増えてきた。
とは言ってもこの惨劇の場所に近付く気は無いみたいで殆どが遠くから伺うように見ているだけだけど
でも、もうすぐ応援の警官隊が来るハズだからその前にここを離れた方がいいかな。
そう考え未だに喚き続けている男に近付く。
「アアッ〜〜・・・オレ・・ノメモリ〜〜・・・オレノッ!?―――ガッ・・アアアッ!?」
「――ッ!?なんだ、どうしたんだ?」
突然男の身体が激しく痙攣し出した。
見ると男の首元にメモリを挿した後、生体コネクタが浮かび上がった。コネクタは少しずつ大きくなっていきそれに比例するように男の痙攣も激しくなっていった。
「まさかっメモリの副作用か!?」
「あああああぁっぁぁぁぁぁあああぁぁあああぁぁあぁぁぁ!!!」
やがてコネクタは男の全身を覆いつくし1度大きく跳ね上がるとそのまま動かなくなった。
「・・・・・やはり彼ではメモリに耐えられませんでしたか」
向かいのビルの屋上からその様子を観察している者がいた。
蒼也が出会ったメモリの売人である。
売人は視線を動かなくなった男、呆然と立ち尽くすヴォルテックス、ビルの出入口で眼を見開いている詩乃そして、破壊された喫茶店の窓へと移していく。
「しかし十分に役割は果たしてもらえましたね。これで無事に運命は導かれた」
そのまま踵を返し去っていく。
生体コネクタが全身に周り動かなくなった男、死亡したとはいえこのまま放置しておくわけにもいかない。
死体を回収するため動こうとした時
「――ッ!?」
何かが高速で近付いて来るのがわかった。
―速い!―
音速に近い速度で移動できるもの。ドーパント以外で考えられるのは・・・・
「動くな怪物!」
ボクを囲むように空に4機のISが現れた。
それぞれがライフルの銃口をボクに向けながら周りの惨状を見て顔を歪ませる。
「よくもこんな惨いことを!」
どうやらボクとアノマノカリスを間違えているみたいだ。まあ、アノマノカリスはボクが倒してしまって今この場にいるのはボクだけだから間違えられても無理はないか。
「妙な動きはするなよ!大人しく投降しろ!」
とは言われてもこっちも大人しく捕まるわけにはいかない。何より・・・・
後ろを見ると詩乃がISの持つライフルを見てしまい再び震え出していた。付き添っている婦警が安心させるため抱き締めているが明らかに限界に近い。
ココで銃を使われたら詩乃の精神は持たなくなる。
ヴォルテックスメモリの挿さったままのヴォルアローを地面に向け弦を引く。
「―ッ!?止まれぇ――ッ!!」
ISの警告よりも早くヴォルアローの矢が地面に触れボクを中心に竜巻を起こす。
ただの竜巻とは違い周囲の建物や死体には影響がなく砕けたアスファルトの破片や微小な土のみを巻き上げIS部隊の視界を遮った。
向こうからしたら突然発生した竜巻にIS部隊は激しく動揺していた。
「――チィッ!落ち着くんだ!むやみに撃てば一般人に当たる。センサーで目標を捉えるんだ!!」
部隊の隊長と思われる叫びが聞こえるけどそうはいかない。
《バット!》
竜巻の中心部でバットショットを起動させる。
すると竜巻の向こう側からIS部隊の慌てる声が聞こえてきた。
「た、隊長!センサーが作動しません!!」
「何か、異様な電波により妨害されているようです!!」
IS部隊は酷く混乱しているようだけどあと数秒すれば竜巻は消えバットショットの妨害電波も止まる。
今のうちに竜巻を抜け出し壊れた窓から喫茶店へと戻る。
ドライバーを外し変身を解除したら壊れたテーブルの上に勢いよく倒れ込む。テーブルの破片で服が裂け汚れたのを確認する。これで怪物に襲われたって誤魔化せるかな?丁度外の竜巻がその勢いを弱らせ消えていった。
「居ないだと!センサーは!?」
「回復しましたが反応ありません!!」
「くっ!探すんだ!まだそんな遠くには行っていないはずだ!!」
四方に散っていくISを見送ってボクは身体を痛めたフリをしながら喫茶店から出て行く。
・・・・・・・気が付いたら私は病院のベットの上にいた。
「あっ気付いたんだね?良かったぁ~」
「・・・蒼也?」
ベットの横では蒼也が心配そうな顔で見ていた。その腕には包帯が巻かれているのが見えたのが少し違和感を覚えてつい見入ってしまった。すると蒼也もその視線に気づいたみたいで苦笑する。
「ははは・・・本当はもう治ってるんだけどね形だけでも取っておかないと怪しまれるからさ・・」
「・・・わたし・・なんでここに・・?」
「怪物が居なくなった後に倒れたらしいよ。まぁ犯人の銃だけじゃなくてIS部隊の装備も見ちゃったみたいだからね」
・・・そうだ、私はあの時怪物同士の戦いが終わった後にやって来たISの銃を見て・・・・また、私は・・・・
「悔しい・・・」
ついそんな言葉が口から出てしまった。
「あの時から・・私は・・・ずっと弱いまま・・・・つよく・・・強く・・なりたい・・・!」
思い出すのはあの2体の怪物。どっちもとても人間が対抗できると思えない強さだった。ほしい・・・あんな力が・・あの強さが・・っ!
「私も、欲しいっ!―――――きゃっ!?」
その時、額に冷たいモノが当たって思わず悲鳴を上げた。横を見ると蒼也が微笑みながら水の入ったペットボトルを持っていた。
「・・・・詩乃、落ち着きなって。色々あり過ぎてちょっと疲れてるんだよ」
途端に頭に昇っていた血が引いて行ったのが分かった。私は何を考えていたのか・・・
「そうね、ごめんなさい。ちょっと混乱してたわ」
「じゃあ、ボクは先生を呼んで来るからもう少し寝てていいよ」
病室を出て行く蒼也の背を見ていると一瞬その背中が怪物の1体、私を守ってくれた青い方に見えた気がした。
「・・・疲れてるのね」
いくらなんでもそんなことは無い。蒼也が戻って来るまで少しだけ眠ることにして目を閉じた。
「全く、お前は私の後を継ぐのだから余計なことに首を突っ込むんじゃない」
・・・僕の目の前にいる白衣の男性はこの病院の医院長で同時に僕の父親でもある。
その顔は息子が怪我をしたことに対しての心配ではなく愚かな事をしたなという怒りの顔だった。
「お前は昌一のように落ちぶれるんじゃないぞ」
それだけ言うとワザとらしいため息を吐きながら部屋から出て行くその背中を僕はただ見ているしか出来なかった。
「・・・・兄さん」
僕の兄、新川昌一はかつてはこの病院の跡取りとしてエリート街道を進んでいた。でもある時、ほんの些細な事でその道を踏み外して今は自室に閉じこもりきりだ。
何があったのかは僕には教えてくれない。ただ1日中暗い部屋でうずくまっているだけ、そんな兄さんを早々に切り捨てた両親は代わりに僕にはこの病院を継がせようと考え出した。
両親の英才教育が始まって僕には自由な時間なんてほとんどなくなった。今日の朝田さんと出掛けることだって土下座をして無理に許可をもらったものだ。そんな中でアクシデントとは言え怪我をしたことがあの人にとっては納得が出来なかったんだろう。
「あっ恭二君、此処に居たのね」
病院内を歩いていると顔見知りの看護師さんに会った。
「恭二君のお友達の朝田さん、さっき目が覚めたみたいよ」
「本当ですか!?良かった・・・」
「身体に異常も無いから顔を出してあげてね」
「はい」
看護師さんに教えてもらった病室に向かっていると廊下の一角に蒼也の姿が見えた。
「そう―――っ「すみません。大事になっちゃいまして・・・はい、メモリの売人と接触しました」――ッ!?」
声を掛けようとした直前に蒼也の口から聞こえた【メモリ】という単語に思わず物陰に隠れた。
見てみると時代遅れな大きめのガラケイで誰かと話していた。
「はい、メモリは回収できたけど使用者の方は・・・後はお願いします」
電話を終えた蒼也が上着のポケットから取り出したもの。それはあの怪物が持っていたモノと同じメモリだった。
これで確信した。あのもう一体の怪物、その正体は蒼也だったんだ。蒼也は朝田さんを守れる力を持っている。でも僕は・・・
胸の中になんとも言えない感情が生まれたのを感じながら僕は病院を後にした。