SSR ビギンズ0   作:真田丸

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メモリー 0.2

「・・・・・・・遅い」

 

時計を見ればもう九時を回っている。買い物を終えて部屋に戻ってみると蒼矢はまだ帰ってきていなかった。

 

どうせ何処かで道草でも食っているのだろう。

そう判断して先に夕食の準備を始めたのが一時間半前だ。

 

すでに夕食のエビフライも出来てご飯も炊けているのに蒼矢はいっこうに帰ってこない。

 

「まったく、どこほっつき歩いてるのよ」

 

幾ら連絡を取ろうとしても電話は繋がらないし・・・これだけ心配させるなんてコレはクレープ10個ぐらい奢ってもらいましょうかしらね。

そう考えながら改めて蒼矢の番号に連絡をいれた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・」

 

身体中が痛い・・・足が重い・・血の匂いが鼻に付く・・アパートへの近道として通った神社、その御神木の上から襲い掛かってきた巨大な狼の怪物。

ギリギリ躱して神社の本堂の中に逃げ込んだけどすぐに見つかるに決まっている。

「ハァ・・・ハァ・・」

 

腹部を見てみると大きく切り裂かれた制服から真っ赤な血が溢れ出ている。どうやら完全には躱せなかったみたいだ。

 

「コレ・・・は・・詩乃に・・・怒られるなぁ〜」

 

我ながら呑気な事を考えているとすぐ近くからあの怪物のうめき声が聴こえてくる。

 

「・・・・・・・・・」

 

『グルル・・・・グルルルル!』

 

だんだん近付いてくる足音に心臓の鼓動が強まる。

 

来るな・・・来るな・・・・必死に念じていると足音が遠ざかっていくのが聴こえた。

 

「ふぅ・・」

 

助かった。緊張の糸が解けて気を抜いた瞬間、

 

-ガシャッン!—

本堂の壁が破壊され怪物が入って来た。

 

「グウウァァァ!!」

 

雄たけびを上げ迫ってくる怪物に対し咄嗟に身構えるけどどう考えても勝てる訳がない。

(はぁ〜痛いだろうなぁ〜・・・)

 

内心諦め始めていると突如、本堂の丁度中心、ボクと怪物の間の床から緑色の光があふれ出た。

 

「えっ!?」

「グウウゥッ!?」

 

ボクだけでなく怪物も戸惑うように動きを止める。

光は少しずつ大きくなっていきやがて本堂全体を覆った。

 

 

《ヴォルテックス!》

 

光の中なにかが聞こえた。次の瞬間、ものすごい突風が僕の周りに吹いたような感覚がした。

 

「ギャウウンッ!!?」

 

怪物の悲鳴が聞こえるけどこの光のせいでナニが起こっているのか判らない。バキバキと周囲から打ち付けられた板の剥がれる音、瓦の砕ける音が響く。

 

 

どれだけ時間が経っただろうか?気付けば騒がしい音は止み光も徐々に収まってきた。

 

 

光が完全に収まり周囲の様子が見えるようになった。「えっ?な・・・なにコレ?」

本殿の中はまるで台風でも通りすぎたかのように荒れていた。

壁も屋根も剥がれ所々から外の景色が見え、足下には屋根から落ちただろう瓦の破片が散らばっている。

 

あの怪物の姿は無く代わりに血の付いた毛が散乱している。

 

「いったい・・・・何があったんだ・・・」

 

変わりゆく状況に思考が全く追い付かず座り込んでしまう。そこで右手に何かを握り締めていることに気が付いた。

 

「これは・・・USBメモリ?」

 

骨を表現するようなデザインの蒼色のUSBメモリがそこにはあった。もちろん見覚えは無いし神社の中に落ちているのも不自然だ。でも、なぜか解らないけどコレはボクの物だ、そう思えた。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

ガチャ

 

「ッ!?・・・やっと帰ってきた」

 

テーブルの前に座って少しウトウトしていたら玄関が開く音が聞こえた。

時計はもう九時半を指している。

幾ら電話しても出ないし何て言ってやろうか?

 

「た・・・ただいまぁ〜・・・」

「遅い!電話にも出ないで一体何してたの・・・よ!?」

最大限の不機嫌顔で睨み付けてやろうと振り向くと蒼矢が気まずそうな顔で笑っていた。

だけど私の視線は蒼矢の血だらけの制服に釘付けになった。

真っ赤に染まったその制服は血が固まって硬くなっていてとても動きにくそうだった。

 

「どっどうしたのよその血は!?」

 

文句をいうのも忘れて詰め寄る。

蒼矢は「アハハ」て笑いながら目を泳がせる。

 

「えっとぉ・・《パキンッ》・・野犬に襲われた?」

 

「・・・・・ウソね」

 

サッと目をそらす蒼矢の顔を無理矢理自分に向けさせる。

 

「アンタは昔から嘘つくときは右手を握り締めて骨が鳴るのよ」

 

「あ〜・・・・」

 

呑気に「そう言えばそうだったなぁ」と右手を見る蒼矢を見ていたら何だかんか心配したのが馬鹿らしくなってきたわ。

 

「ハァ、身体中も血だらけなんでしょ?さっさとシャワー浴びてきなさいよ」

「そうする」

 

浴室に向かう蒼矢を見送ってご飯の支度をする。

おかずのエビフライはとっくに出来ているから冷めた味噌汁を温めてご飯をよそうとパジャマ代わりのジャージを着た蒼矢が来た。

 

「お待たせ」

 

「ほら、速く食べるわよ。その後に勉強もするんだから」

 

「え〜やっぱりやるのかぁ〜オレ、結構な怪我人だし今日は無しにしないか?明日から頑張るってことでさ」

 

「バカ言わないの。期限に間に合わなかったらどんどん増えていくわよ。それに・・・・」

 

テーブルを挟んで向かい側に座る蒼矢のジャージのチャックを下ろす。

そこには傷ひとつない羨ましいくらい白い肌があった。

「怪我なんてとっくに治っているじゃない」

 

「あ〜・・・やっぱりばれてたか」

 

「はい言い訳が終わったなら速く食べなさい」

 

「は〜い」

 

 

まったく、蒼矢は昔からこうだからまだまだ私がいなくちゃダメね。

 

いつまでたっても世話の掛かる幼馴染みにあきれる反面この昔から変わらない関係に安心を感じている自分もいた。

 

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